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第8話
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「ああ、この方は……」
「初めまして、メイジー嬢。僕はオスカー。オスカー・ルネ・ロペスです」
銀髪の男性はヒューバートが紹介するよりも早くそう名乗った。
ルビーのように輝く美しい真紅の瞳は、真っ直ぐとメイジーを見据えている。
「オスカー・ルネ・ロペス……もしかして、ロペス公爵家の……?」
「その通り。偶然、そこで一緒になったんだよ」
「メイジー嬢に求婚した手前、この村の年中行事に参加しないのもどうかと思ってね。ちょうど休みも取れたことだし、来てみたんだよ」
「そうだったんですか……」
「突然押しかけて迷惑だったかな……?」
「あ……いえ! 決してそんなことは……! 寧ろ、有り難いくらいです!」
メイジーは狼狽しつつも首を横に振る。
(オスカー様のようなお方が、こんな小さい村の収穫祭に興味を持って下さるなんて……)
急な縁談に驚いて後込みしていたけれど、思ったよりも気さくな人なのかもしれない。
オスカーに対して一気に親近感が湧いたメイジーは、出来る限りの笑顔を返してみせた。
「ああ、そうだ。メイジー、せっかくだからオスカー様と一緒に屋台を見て回ってきたらどうかな? 村の案内にもなるし」
「え……?」
ヒューバートの突然の提案に、メイジーは戸惑ってしまう。
「メイジー嬢、もしよかったら村の中を案内してくれないかな?」
オスカーにそう頼み込まれ、さらに困惑する。
(初対面の殿方──しかも、あのロペス公爵に村を案内するなんてすごく緊張するけど……よく考えたら、オスカー様のことを知る絶好の機会かもしれないわね)
そう思ったメイジーは兄の提案に乗ることにした。
「ええ、そうですね。それじゃあ……」
「申し訳ありません。せっかくのお誘いですが、姉はこれから領民たちに挨拶をして回らなければなりませんので……」
メイジーが返事をしようとすると、突然カイルに話を遮られた。
「その後は村の集会場で催される演劇を鑑賞する予定になっていますし、あまりゆっくりしている暇はないかと……」
「え……? でも、少しくらいなら……」
「今日は年に一度の収穫祭です。領民たちと触れ合うのも仕事の一環でしょう? 姉上だって一応はロードナイト男爵家の一員なんですからね」
「えっと……」
カイルの気迫に押され、メイジーは押し黙ってしまう。
せっかく、このような田舎に遠路はるばるやって来てくれたのだ。客人をもてなすために村を案内するくらいは別に構わないと思うのだが、弟はそれを許してくれそうにない。
カイルはきょとんと目を瞬かせるヒューバートとオスカーに一礼すると、メイジーの手を引いてその場から立ち去ろうとした。
(どうしよう……オスカー様、気を悪くしないといいけど……。だ、大丈夫……きっとお兄様が何とかしてくれるはずだわ……)
ずんずんと進んでいくカイルに困惑しつつも、メイジーは仕方なしに彼の後についていくことにした。
「初めまして、メイジー嬢。僕はオスカー。オスカー・ルネ・ロペスです」
銀髪の男性はヒューバートが紹介するよりも早くそう名乗った。
ルビーのように輝く美しい真紅の瞳は、真っ直ぐとメイジーを見据えている。
「オスカー・ルネ・ロペス……もしかして、ロペス公爵家の……?」
「その通り。偶然、そこで一緒になったんだよ」
「メイジー嬢に求婚した手前、この村の年中行事に参加しないのもどうかと思ってね。ちょうど休みも取れたことだし、来てみたんだよ」
「そうだったんですか……」
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「ああ、そうだ。メイジー、せっかくだからオスカー様と一緒に屋台を見て回ってきたらどうかな? 村の案内にもなるし」
「え……?」
ヒューバートの突然の提案に、メイジーは戸惑ってしまう。
「メイジー嬢、もしよかったら村の中を案内してくれないかな?」
オスカーにそう頼み込まれ、さらに困惑する。
(初対面の殿方──しかも、あのロペス公爵に村を案内するなんてすごく緊張するけど……よく考えたら、オスカー様のことを知る絶好の機会かもしれないわね)
そう思ったメイジーは兄の提案に乗ることにした。
「ええ、そうですね。それじゃあ……」
「申し訳ありません。せっかくのお誘いですが、姉はこれから領民たちに挨拶をして回らなければなりませんので……」
メイジーが返事をしようとすると、突然カイルに話を遮られた。
「その後は村の集会場で催される演劇を鑑賞する予定になっていますし、あまりゆっくりしている暇はないかと……」
「え……? でも、少しくらいなら……」
「今日は年に一度の収穫祭です。領民たちと触れ合うのも仕事の一環でしょう? 姉上だって一応はロードナイト男爵家の一員なんですからね」
「えっと……」
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カイルはきょとんと目を瞬かせるヒューバートとオスカーに一礼すると、メイジーの手を引いてその場から立ち去ろうとした。
(どうしよう……オスカー様、気を悪くしないといいけど……。だ、大丈夫……きっとお兄様が何とかしてくれるはずだわ……)
ずんずんと進んでいくカイルに困惑しつつも、メイジーは仕方なしに彼の後についていくことにした。
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