義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日

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義姉妹の夏休み

その時は既に待っていて

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「ふーん。てんちゃん。私とキスしたいんだー」
「んーー! んーー!」

 未だに顔を覆ったままゴロゴロしている私は、お姉ちゃんに言葉責めされている。
 否定をしたい。
 私はただ、気になって調べてしまっただけだと。
 そう言っても、お姉ちゃんは信じてくれなさそうではあるけど。

 さっきのが恥ずかしすぎて、もう。私は死にそうだ。

「やっぱり。てんちゃんも私とそういうこと──」
「あぁぁ! あぁぁ!」

「てんちゃんは私と付き合いたいってことだよね? ね?」
「んぁぁ! んぁぁ!」

「……私。もうてんちゃんは付き合いたいとは思ってないと思っていたのに」

 と、急に声のトーンが落ちる。
 その声の様子が気になり、喚き回っていた私は動きをピタリと止め、ムクリと体を起こした。

 顔はまだ熱いままだ。

「お姉ちゃんどうしたの?」

 なるだけ、平静を装って問う。

「おぉ。急に起きたね。……えっと、まぁ、私てんちゃんに振られたじゃない? なのに、そういう、キスとかって調べるんだって」

 言われて見れば本当にそうだ。
 手のひらをくるくる回転させている。
 でも。それには私にもちゃんと考えがあってのこというか。なんというか。

「あー。いやー。振ったと言っても、お姉ちゃんのことはずっと好きだし」
「てんちゃん、めっちゃヤキモチ焼きだもんね」
「うっ……。き、キスってどういうのか気になっただけというか」

 そこまで言って、果たして本当にそうだろうかと思った。
 実際、お姉ちゃんとはキスはしたい。
 したい。し、その気持ちを隠す必要もおそらくない。
 だから。

「……うん。してみたいのかな」

 そう答える。

「へ、へー。てんちゃん、なんか変わったね」
「ま、まぁね」
「何かあったとか?」
「えっと。考え方が変わったっていうのかな?」

 その考えを、準備もせずにお姉ちゃんに告げる。

「そ、そのさ。家族同士でも、血繋がってないわけじゃん。だから、好きになれるというか。それなら、私がお姉ちゃんに対する好意を隠す必要はないのかなって」

 言っててよく分からない。
 もうちょっと考えてから、ものは言うべきかもしれない。

「ふーん? どうして?」

「……えっと。……『普通』を履き違えていたというか、なんというか」
「つまり?」

「えっとね。あ。これはあくまで私なりの意見だからね! ……えーっと。『普通』っていうのは、なんというか多数派の人たち。みたいな? えっと、それで……」

 これだけじゃ説明になっていない気がする。
 けど、次の言葉が見つからない。
 心のどこかでは、次に続く言葉は分かるはずなのに。
 焦ってしまってる。
 迷走してしまっている。

 耳まで熱くなって私は固まる。

「なんか難しいこと言うね」
「……えっと。あはは。何言ってるんだろ」

「うん。……あ。舞台の方みてよ、てんちゃん。抽選会だって」
「あ。うん」

 お姉ちゃんはふと、嬉しそうな顔で、前の方を指した。
 いきなり話題変えたな、と思ったけど、何も言えなかったこの際ありがたい。

 そういえば、焼きそばとかを買った時に、抽選券がついてきたんだっけ。
 お姉ちゃんは、こういうのあまり経験ないのかもしれない。

 舞台に注意を向けていると、
 この辺りでは割と有名な芸能人が舞台にでてきた。
 マイクを手に握り、荒々しい声で抽選番号を音読しだした。

 その人が読み上げる番号に、完全に夢中になっているお姉ちゃんだけど、

 前の舞台すら見ずに、私は考えた。
 そして思い出した。
 さっきの言葉の続き。

 『普通』のことについての、私の意見。
 多数派。言い換えれば同調かな。

 まぁ。あの時は、多分こう言おうとしていたんだと思う。

「『普通』は多数派だから、私たちは少数派でもいいよね」

 みたいな意味合いのこと。
 多数派が男女と付き合って、少数派の私たちは──。
 ……こんなの、ほぼ告白じゃないか。
 あの時、その言葉が出なくてよかったと、ちょっとだけ安心を覚える。

 だけど。ふと思う。
 気づけば、毎日お姉ちゃんのことが頭の中にある。
 普通なことかもしれないけど、文字通りそれは四六時中だった。
 ずっとずっと考えているというのは。
 もう。言い訳ができないくらいに私はお姉ちゃんのこと──。

 とっくにその時が来ていたということに、今、気がついた。
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