3 / 22
プロローグ 私が引きこもりになったワケ
第3話 警鐘と不穏
しおりを挟む
私をこの世界に送り出してくれた神様に、私は心から感謝をしたい。
だって、私の第二の人生は、求めていた以上に素晴らしいものだったから。
毎日が本当に幸せだった。前世での私の願いが、この世界で叶ったのだと思った。
なのに。その幸せは、突如として崩壊を迎えることとなる。
そこで私は初めて思い知らされたのだ。
ここは日本とは違う、剣と魔法の異世界なのだと。
それは、雷雨が襲う梅雨の頃。
父さんが王都への出張で、町にいなかった日のことだった。
──ゴーン! ゴーン!
その音は、部屋で魔導書を眺めていた時、突如として外から聞こえた。
町のありとあらゆる警鐘が鳴ったということを、私は少し遅れて理解する。
警鐘はその速度で危険度を表しているらしいが、今回の速度は早い。
それどころか無造作と言ってもいい速度だ。
「……?」
こんなこと生まれて以来、初めてだった。
最初はこの雷雨による被害が起こったかと思ったが、どうやら違う。
部屋の窓から外を見れば、雨の中、たくさんの兵士が足早にどこかへ向かっていた。
この町に何が起きようとしているのか、それを理解しかけた瞬間、思考を阻止するように部屋のドアがゆっくりと開かれ、母さんが顔を覗かせた。
「アリエ」
母さんは少しだけ息を切らしながら、いつもの穏やかな笑顔を私に向けていた。
「あら、アリエは今日も魔導書を読んでるのね! 今日はどこまで読み進めた?」
何か、妙だった。
いつもと違うのは、不自然に明るい声だったこと。
思い返せば、ここで私は気付くべきだったんだ。
「えっと今日はね、この剣を使った防御魔法のページを──ってそれより、町は大丈夫なの? この鐘の音ってたしか、町の危険を知らせてくれてるんだよね?」
「えぇ、そうよ。だけど、町の兵士たちが解決してくれるわ!」
「えっと。じゃあ大丈夫……なんだよね?」
「もちろん! アリエが大人しくしてれば、何も嫌なことは起きないわ!」
「う、うん。じゃあ母さんも、一緒に部屋にいてくれる?」
胸騒ぎがして、私は母さんにそんな提案をした。
だけど母さんは「んー」と首を傾げ、はぐらかすように告げる。
「私は少し外の様子を見に行かないといけないみたい。その後でなら、一緒にいられるわ」
「ほんとに? ……いま、町にはどんな危険が迫っているの?」
「うーん。少し、魔物が攻めてきているみたい。だけど大丈夫よ」
「……うん。わかった。そう、だよね」
私が渋々で納得すると、母さんは安堵したように首を縦に振る。
そのまま「行ってくるね」と部屋のドアへ向かったが、何かを忘れ物でもしたのか、くるりと踵を返して再び私の元へやってきた。
「一応、護身用に持ってて」
すると母さんは、ポケットから魔法石を二つ取り出し、私に握らせた。
魔法石とは、魔力が込められた石のことだ。
炎の魔法石なら、炎の魔法が使え、水ならば同様に水魔法を放つことができる。
比較的安価な商品であるため、常日頃から携帯している人が多いらしい。
だけど、わざわざ私に持たせるなんて。
だって私の住む家は兵士が何人もいる。
だから、私の部屋に危険が迫ることなんて、考えられない。
「母さん」
私は部屋を出ていこうとした母さんに、もう一度言葉を投げた。
「きっと戻ってくるよね?」
私の言葉に、顔だけを向けた母さんはにこりと微笑んだ。
「えぇもちろん。母さんは、とっても強い魔法使いだから」
そのまま母さんは、足早に部屋を出ていった。
母さんがいなくなった部屋は、やけに静かになったように感じた。
だけど窓の外を見れば、未だ騒がしく兵士が動いている。
相当な脅威が町に近づいているに違いない。
「……母さんなら、きっと大丈夫」
私は自身に言い聞かせるように呟く。
けれど、私の中の不安は次第に膨らむばかり。
もしかしたら……なんて、考えてしまう。
父さんがいたら、こんな心配する必要もなかったのに。
「ごめんなさい。母さん」
だから、私は部屋のドアに向かった。
後悔してからでは遅いということ、それを私は前世の経験から知っていた。
私がここで行動を起こすことで、母さんが危険な目に遭うのを止められたら。
私はただ母さんに危険な目に遭って欲しくない。
ならば、ここで動かないという選択肢はあり得なかった。
けれど──。
「あかない……」
ドアが開かない。
鍵はかかっていないはずなのに、まるで何かに押さえつけられているかのようだ。
それどころか、窓も同様にぴくりともしない。
「…………」
これは……魔法だ。
母さんがかけた魔法。
私を守るための魔法。
心臓の音が早くなる。
猛烈に嫌な予感がした。
ドアノブを回す。回す。回し続ける。
開かなくても、私はそれを繰り返す。
何分経ったかも分からない。そんな時──。
「────!」
不意にドアが開いた。
なぜ急に開いたのか、考える余裕も今はない。
今はただ走った。ただひたすらに、走り続けた。
だって、私の第二の人生は、求めていた以上に素晴らしいものだったから。
毎日が本当に幸せだった。前世での私の願いが、この世界で叶ったのだと思った。
なのに。その幸せは、突如として崩壊を迎えることとなる。
そこで私は初めて思い知らされたのだ。
ここは日本とは違う、剣と魔法の異世界なのだと。
それは、雷雨が襲う梅雨の頃。
父さんが王都への出張で、町にいなかった日のことだった。
──ゴーン! ゴーン!
その音は、部屋で魔導書を眺めていた時、突如として外から聞こえた。
町のありとあらゆる警鐘が鳴ったということを、私は少し遅れて理解する。
警鐘はその速度で危険度を表しているらしいが、今回の速度は早い。
それどころか無造作と言ってもいい速度だ。
「……?」
こんなこと生まれて以来、初めてだった。
最初はこの雷雨による被害が起こったかと思ったが、どうやら違う。
部屋の窓から外を見れば、雨の中、たくさんの兵士が足早にどこかへ向かっていた。
この町に何が起きようとしているのか、それを理解しかけた瞬間、思考を阻止するように部屋のドアがゆっくりと開かれ、母さんが顔を覗かせた。
「アリエ」
母さんは少しだけ息を切らしながら、いつもの穏やかな笑顔を私に向けていた。
「あら、アリエは今日も魔導書を読んでるのね! 今日はどこまで読み進めた?」
何か、妙だった。
いつもと違うのは、不自然に明るい声だったこと。
思い返せば、ここで私は気付くべきだったんだ。
「えっと今日はね、この剣を使った防御魔法のページを──ってそれより、町は大丈夫なの? この鐘の音ってたしか、町の危険を知らせてくれてるんだよね?」
「えぇ、そうよ。だけど、町の兵士たちが解決してくれるわ!」
「えっと。じゃあ大丈夫……なんだよね?」
「もちろん! アリエが大人しくしてれば、何も嫌なことは起きないわ!」
「う、うん。じゃあ母さんも、一緒に部屋にいてくれる?」
胸騒ぎがして、私は母さんにそんな提案をした。
だけど母さんは「んー」と首を傾げ、はぐらかすように告げる。
「私は少し外の様子を見に行かないといけないみたい。その後でなら、一緒にいられるわ」
「ほんとに? ……いま、町にはどんな危険が迫っているの?」
「うーん。少し、魔物が攻めてきているみたい。だけど大丈夫よ」
「……うん。わかった。そう、だよね」
私が渋々で納得すると、母さんは安堵したように首を縦に振る。
そのまま「行ってくるね」と部屋のドアへ向かったが、何かを忘れ物でもしたのか、くるりと踵を返して再び私の元へやってきた。
「一応、護身用に持ってて」
すると母さんは、ポケットから魔法石を二つ取り出し、私に握らせた。
魔法石とは、魔力が込められた石のことだ。
炎の魔法石なら、炎の魔法が使え、水ならば同様に水魔法を放つことができる。
比較的安価な商品であるため、常日頃から携帯している人が多いらしい。
だけど、わざわざ私に持たせるなんて。
だって私の住む家は兵士が何人もいる。
だから、私の部屋に危険が迫ることなんて、考えられない。
「母さん」
私は部屋を出ていこうとした母さんに、もう一度言葉を投げた。
「きっと戻ってくるよね?」
私の言葉に、顔だけを向けた母さんはにこりと微笑んだ。
「えぇもちろん。母さんは、とっても強い魔法使いだから」
そのまま母さんは、足早に部屋を出ていった。
母さんがいなくなった部屋は、やけに静かになったように感じた。
だけど窓の外を見れば、未だ騒がしく兵士が動いている。
相当な脅威が町に近づいているに違いない。
「……母さんなら、きっと大丈夫」
私は自身に言い聞かせるように呟く。
けれど、私の中の不安は次第に膨らむばかり。
もしかしたら……なんて、考えてしまう。
父さんがいたら、こんな心配する必要もなかったのに。
「ごめんなさい。母さん」
だから、私は部屋のドアに向かった。
後悔してからでは遅いということ、それを私は前世の経験から知っていた。
私がここで行動を起こすことで、母さんが危険な目に遭うのを止められたら。
私はただ母さんに危険な目に遭って欲しくない。
ならば、ここで動かないという選択肢はあり得なかった。
けれど──。
「あかない……」
ドアが開かない。
鍵はかかっていないはずなのに、まるで何かに押さえつけられているかのようだ。
それどころか、窓も同様にぴくりともしない。
「…………」
これは……魔法だ。
母さんがかけた魔法。
私を守るための魔法。
心臓の音が早くなる。
猛烈に嫌な予感がした。
ドアノブを回す。回す。回し続ける。
開かなくても、私はそれを繰り返す。
何分経ったかも分からない。そんな時──。
「────!」
不意にドアが開いた。
なぜ急に開いたのか、考える余裕も今はない。
今はただ走った。ただひたすらに、走り続けた。
11
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
私のスローライフはどこに消えた?? 神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!
魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。
なんか旅のお供が増え・・・。
一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。
どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。
R県R市のR大学病院の個室
ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。
ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声
私:[苦しい・・・息が出来ない・・・]
息子A「おふくろ頑張れ・・・」
息子B「おばあちゃん・・・」
息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」
孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」
ピーーーーー
医師「午後14時23分ご臨終です。」
私:[これでやっと楽になれる・・・。]
私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!!
なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、
なぜか攫われて・・・
色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり
事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!!
R15は保険です。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
かわいいは正義(チート)でした!
孤子
ファンタジー
ある日、親友と浜辺で遊んでからの帰り道。ついていない一日が終わりを告げようとしていたその時に、親友が海へ転落。
手を掴んで助けようとした私も一緒に溺れ、意識を失った私たち。気が付くと、そこは全く見知らぬ浜辺だった。あたりを見渡せど親友は見つからず、不意に自分の姿を見ると、それはまごうことなきスライムだった!
親友とともにスライムとなった私が異世界で生きる物語。ここに開幕!(なんつって)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる