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第3章 そこにいるのは不穏な影
第31話 第1王子、セレン・フォン=アレクシス
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南門近くに駆け付ける──と、思わぬ光景が飛び込んだ。
防壁がボロボロに崩され、街に乗り込む多数の魔物。
加えて奥の空からは、ワイバーンが向かってきている。
それに対し絶望する者、立ち向かう者、多種多様な叫び声を上げていた。
だが、戦える冒険者が現れ始めたらしく、先と比べて戦う人は多い。
そんな中、ドロシーは右手に視線を落としてポツリ、
「しばらく魔力は回復しそうにないな……」
「使ったばかりだもんね……」
見る限りの冒険者の戦闘の形態といえば。
近接職が戦い、魔法使い職が隙を突いて攻撃をする、といった形態だった。
だから魔法を使える私たちは、援護が主となる場面だろう。
けれど私が魔法を放てば、それは明後日の方へと向かっていく。
今、私にできるのは、ドロシーの魔法の援護だ。
「ドロシー。私と手を繋いでくれる?」
「え? き、急だね? いやもちろんいいよ? けど、こんな状況で……」
「今だからこそ、だよ。……あ、ドロシーは本当によかった?」
「えぇ……! まぁ、しょうがないな。いいよ」
と。差し出された左手を、私は迷いなく掴み取る。
「よし。じゃあ魔力を注ぐね。もう少し近付いた方がいいかな?」
「…………え? ……あ、そういう。魔法ね、そりゃ魔法だ」
なぜか肩を落とした様子で、何回か頷くドロシー。
どうしたのだろう、と思う私に彼女は、
「ここからでも、当たるよ」
と。右の手を、混戦する前方へと向けた。
そこには一際大きなオークに挑む戦士がいる。
隙を見て魔法が放たれていたが、どうやらあまり効いていない様子だった。
ドロシーは狙いを定めるように、その場所を見つめると──。
「『アイスランス』」
氷の槍を放った。
オークの頭を目がけて飛んだそれは、問答無用で脳天をかち割る。
当然のように絶命するオークに、そこにいた冒険者は一斉にこちらを振り返りった。
「助かった! また頼む!」
剣士の言葉に、ドロシーは照れ臭げに頭を下げた。
やっぱりドロシーは強い。距離はかなりあるのに、悠々と命中させる。
私も負けてられない──けど、今は……。
「クロエ、魔力お願いできる?」
「あ、うん!」
ドロシーの呼びかけに魔力を注ぐ。
そして間髪入れずに次のターゲットに魔法を放った。
また次。次、次と、ドロシーはとめどなく魔法を放っては魔物を倒してゆく。
可愛いドロシーの真剣な横顔を見ながら、羨ましいなと思った。
が、そんな悠長なことも考えている場合でもないようで──。
「おい! やべーぞ、これ!」
誰かが言った。
ついにワイバーンが乗り込んできていた。
しかも一体や二体じゃない。すぐに後ろには十体以上のワイバーンがいる。
「…………」
ゴクリと唾を飲み込んだ。
魔法が次々に放たれるが、落とせる様子は無い。
ドロシーが放った魔法もあっさりと弾かれてしまう。
口から吐かれた炎が、街を焼き払い、冒険者までもそれに巻き込まれていた。
治癒職が駆け寄っていたが、このままじゃ防戦一方どころか、全滅も見えてきている。
どうする? さっきのように私がドロシーの力を借りて倒す?
けど。それだと他の冒険者の魔法が私に当たりかねない。
他に強力な魔法を放てる魔法使いはいないのか?
しかし、その時だった。
「セレン様だ! セレン様がきたぞ!」
後方から耳をつん裂くような声が聞こえた。
皆その場に振り返り、ぞろぞろと現れた人影を見やる。
分厚い甲冑を身に纏った集団だ。恐らく、王国の騎士団とやらだろう。
その先頭を金髪の好青年が率いている。
「第1王子様だ……」
ドロシーがポツリと呟く。
なるほど。つまりリリアンの兄という訳だ。
言われてみると確かに面影があるかもしれない。
ただ、なんとなく王子の方が、髪の金色が濃く見えた。
「強い人なの?」
「うん、私も話にしか聞いたことがないけどね。強いらしい」
なんて話していると、王子はワイバーンに火属性の魔法を放っていた。
初級魔法の『ファイヤボール』と思われる魔法は、対象に命中し弾ける。
しかし倒せるところまでは至っていない。だが王子は余裕そうだった。
向けた手を下げると、王子は周りの冒険者に向け、声高々に言い放つ。
「みんな、ここまで耐えてくれてありがとう! 後は僕に任せてくれ!」
王子は腰に携えた剣を抜いた。
しかもただの剣じゃない。魔法剣だ。
魔力を宿したその剣は、普通の剣とは別格に強い。
ただし扱うのは相当難しく、剣の技術と魔法の技術の両方が求められた。
「はぁ──っ!」
だが流石は王族。
振りかざされた剣先から飛び出すのは、輝く斬撃。
それはワイバーンを真っ二つに切り裂く。
「「「おぉ──!」」」
冒険者から歓声が湧き上がる。
「さぁ反撃だ!」
王子の呼びかけに、冒険者の士気が高まるのを感じた。
防壁がボロボロに崩され、街に乗り込む多数の魔物。
加えて奥の空からは、ワイバーンが向かってきている。
それに対し絶望する者、立ち向かう者、多種多様な叫び声を上げていた。
だが、戦える冒険者が現れ始めたらしく、先と比べて戦う人は多い。
そんな中、ドロシーは右手に視線を落としてポツリ、
「しばらく魔力は回復しそうにないな……」
「使ったばかりだもんね……」
見る限りの冒険者の戦闘の形態といえば。
近接職が戦い、魔法使い職が隙を突いて攻撃をする、といった形態だった。
だから魔法を使える私たちは、援護が主となる場面だろう。
けれど私が魔法を放てば、それは明後日の方へと向かっていく。
今、私にできるのは、ドロシーの魔法の援護だ。
「ドロシー。私と手を繋いでくれる?」
「え? き、急だね? いやもちろんいいよ? けど、こんな状況で……」
「今だからこそ、だよ。……あ、ドロシーは本当によかった?」
「えぇ……! まぁ、しょうがないな。いいよ」
と。差し出された左手を、私は迷いなく掴み取る。
「よし。じゃあ魔力を注ぐね。もう少し近付いた方がいいかな?」
「…………え? ……あ、そういう。魔法ね、そりゃ魔法だ」
なぜか肩を落とした様子で、何回か頷くドロシー。
どうしたのだろう、と思う私に彼女は、
「ここからでも、当たるよ」
と。右の手を、混戦する前方へと向けた。
そこには一際大きなオークに挑む戦士がいる。
隙を見て魔法が放たれていたが、どうやらあまり効いていない様子だった。
ドロシーは狙いを定めるように、その場所を見つめると──。
「『アイスランス』」
氷の槍を放った。
オークの頭を目がけて飛んだそれは、問答無用で脳天をかち割る。
当然のように絶命するオークに、そこにいた冒険者は一斉にこちらを振り返りった。
「助かった! また頼む!」
剣士の言葉に、ドロシーは照れ臭げに頭を下げた。
やっぱりドロシーは強い。距離はかなりあるのに、悠々と命中させる。
私も負けてられない──けど、今は……。
「クロエ、魔力お願いできる?」
「あ、うん!」
ドロシーの呼びかけに魔力を注ぐ。
そして間髪入れずに次のターゲットに魔法を放った。
また次。次、次と、ドロシーはとめどなく魔法を放っては魔物を倒してゆく。
可愛いドロシーの真剣な横顔を見ながら、羨ましいなと思った。
が、そんな悠長なことも考えている場合でもないようで──。
「おい! やべーぞ、これ!」
誰かが言った。
ついにワイバーンが乗り込んできていた。
しかも一体や二体じゃない。すぐに後ろには十体以上のワイバーンがいる。
「…………」
ゴクリと唾を飲み込んだ。
魔法が次々に放たれるが、落とせる様子は無い。
ドロシーが放った魔法もあっさりと弾かれてしまう。
口から吐かれた炎が、街を焼き払い、冒険者までもそれに巻き込まれていた。
治癒職が駆け寄っていたが、このままじゃ防戦一方どころか、全滅も見えてきている。
どうする? さっきのように私がドロシーの力を借りて倒す?
けど。それだと他の冒険者の魔法が私に当たりかねない。
他に強力な魔法を放てる魔法使いはいないのか?
しかし、その時だった。
「セレン様だ! セレン様がきたぞ!」
後方から耳をつん裂くような声が聞こえた。
皆その場に振り返り、ぞろぞろと現れた人影を見やる。
分厚い甲冑を身に纏った集団だ。恐らく、王国の騎士団とやらだろう。
その先頭を金髪の好青年が率いている。
「第1王子様だ……」
ドロシーがポツリと呟く。
なるほど。つまりリリアンの兄という訳だ。
言われてみると確かに面影があるかもしれない。
ただ、なんとなく王子の方が、髪の金色が濃く見えた。
「強い人なの?」
「うん、私も話にしか聞いたことがないけどね。強いらしい」
なんて話していると、王子はワイバーンに火属性の魔法を放っていた。
初級魔法の『ファイヤボール』と思われる魔法は、対象に命中し弾ける。
しかし倒せるところまでは至っていない。だが王子は余裕そうだった。
向けた手を下げると、王子は周りの冒険者に向け、声高々に言い放つ。
「みんな、ここまで耐えてくれてありがとう! 後は僕に任せてくれ!」
王子は腰に携えた剣を抜いた。
しかもただの剣じゃない。魔法剣だ。
魔力を宿したその剣は、普通の剣とは別格に強い。
ただし扱うのは相当難しく、剣の技術と魔法の技術の両方が求められた。
「はぁ──っ!」
だが流石は王族。
振りかざされた剣先から飛び出すのは、輝く斬撃。
それはワイバーンを真っ二つに切り裂く。
「「「おぉ──!」」」
冒険者から歓声が湧き上がる。
「さぁ反撃だ!」
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