上 下
34 / 41
第3章 そこにいるのは不穏な影

第31話 第1王子、セレン・フォン=アレクシス

しおりを挟む
 南門近くに駆け付ける──と、思わぬ光景が飛び込んだ。
 防壁がボロボロに崩され、街に乗り込む多数の魔物。
 加えて奥の空からは、ワイバーンが向かってきている。
 それに対し絶望する者、立ち向かう者、多種多様な叫び声を上げていた。
 だが、戦える冒険者が現れ始めたらしく、先と比べて戦う人は多い。
 そんな中、ドロシーは右手に視線を落としてポツリ、

「しばらく魔力は回復しそうにないな……」
「使ったばかりだもんね……」

 見る限りの冒険者の戦闘の形態といえば。
 近接職が戦い、魔法使い職が隙を突いて攻撃をする、といった形態だった。
 だから魔法を使える私たちは、援護が主となる場面だろう。
 けれど私が魔法を放てば、それは明後日の方へと向かっていく。
 今、私にできるのは、ドロシーの魔法の援護だ。

「ドロシー。私と手を繋いでくれる?」
「え? き、急だね? いやもちろんいいよ? けど、こんな状況で……」
「今だからこそ、だよ。……あ、ドロシーは本当によかった?」
「えぇ……! まぁ、しょうがないな。いいよ」

 と。差し出された左手を、私は迷いなく掴み取る。

「よし。じゃあ魔力を注ぐね。もう少し近付いた方がいいかな?」
「…………え? ……あ、そういう。魔法ね、そりゃ魔法だ」

 なぜか肩を落とした様子で、何回か頷くドロシー。
 どうしたのだろう、と思う私に彼女は、

「ここからでも、当たるよ」

 と。右の手を、混戦する前方へと向けた。
 そこには一際大きなオークに挑む戦士がいる。
 隙を見て魔法が放たれていたが、どうやらあまり効いていない様子だった。
 ドロシーは狙いを定めるように、その場所を見つめると──。

「『アイスランス』」

 氷の槍を放った。
 オークの頭を目がけて飛んだそれは、問答無用で脳天をかち割る。
 当然のように絶命するオークに、そこにいた冒険者は一斉にこちらを振り返りった。

「助かった! また頼む!」

 剣士の言葉に、ドロシーは照れ臭げに頭を下げた。
 やっぱりドロシーは強い。距離はかなりあるのに、悠々と命中させる。
 私も負けてられない──けど、今は……。

「クロエ、魔力お願いできる?」
「あ、うん!」

 ドロシーの呼びかけに魔力を注ぐ。
 そして間髪入れずに次のターゲットに魔法を放った。
 また次。次、次と、ドロシーはとめどなく魔法を放っては魔物を倒してゆく。
 可愛いドロシーの真剣な横顔を見ながら、羨ましいなと思った。
 が、そんな悠長なことも考えている場合でもないようで──。

「おい! やべーぞ、これ!」

 誰かが言った。
 ついにワイバーンが乗り込んできていた。
 しかも一体や二体じゃない。すぐに後ろには十体以上のワイバーンがいる。

「…………」

 ゴクリと唾を飲み込んだ。
 魔法が次々に放たれるが、落とせる様子は無い。
 ドロシーが放った魔法もあっさりと弾かれてしまう。
 口から吐かれた炎が、街を焼き払い、冒険者までもそれに巻き込まれていた。
 治癒職が駆け寄っていたが、このままじゃ防戦一方どころか、全滅も見えてきている。
 どうする? さっきのように私がドロシーの力を借りて倒す?
 けど。それだと他の冒険者の魔法が私に当たりかねない。
 他に強力な魔法を放てる魔法使いはいないのか?
 しかし、その時だった。

「セレン様だ! セレン様がきたぞ!」

 後方から耳をつん裂くような声が聞こえた。
 皆その場に振り返り、ぞろぞろと現れた人影を見やる。
 分厚い甲冑を身に纏った集団だ。恐らく、王国の騎士団とやらだろう。
 その先頭を金髪の好青年が率いている。

「第1王子様だ……」

 ドロシーがポツリと呟く。
 なるほど。つまりリリアンの兄という訳だ。
 言われてみると確かに面影があるかもしれない。
 ただ、なんとなく王子の方が、髪の金色が濃く見えた。

「強い人なの?」
「うん、私も話にしか聞いたことがないけどね。強いらしい」

 なんて話していると、王子はワイバーンに火属性の魔法を放っていた。
 初級魔法の『ファイヤボール』と思われる魔法は、対象に命中し弾ける。
 しかし倒せるところまでは至っていない。だが王子は余裕そうだった。
 向けた手を下げると、王子は周りの冒険者に向け、声高々に言い放つ。

「みんな、ここまで耐えてくれてありがとう! 後は僕に任せてくれ!」

 王子は腰に携えた剣を抜いた。
 しかもただの剣じゃない。魔法剣だ。
 魔力を宿したその剣は、普通の剣とは別格に強い。
 ただし扱うのは相当難しく、剣の技術と魔法の技術の両方が求められた。

「はぁ──っ!」

 だが流石は王族。
 振りかざされた剣先から飛び出すのは、輝く斬撃。
 それはワイバーンを真っ二つに切り裂く。

「「「おぉ──!」」」

 冒険者から歓声が湧き上がる。

「さぁ反撃だ!」

 王子の呼びかけに、冒険者の士気が高まるのを感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

退魔の少女達

コロンド
ファンタジー
※R-18注意 退魔師としての力を持つサクラは、淫魔と呼ばれる女性を犯すことだけを目的に行動する化け物と戦う毎日を送っていた。 しかし退魔の力を以てしても、強力な淫魔の前では敵わない。 サクラは敗北するたびに、淫魔の手により時に激しく、時に優しくその体をされるがままに陵辱される。 それでもサクラは何度敗北しようとも、世の平和のために戦い続ける。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 所謂敗北ヒロインものです。 女性の淫魔にやられるシーン多めです。 ストーリーパートとエロパートの比率は1:3くらいでエロ多めです。 (もともとノクターンノベルズであげてたものをこちらでもあげることにしました) □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ Fantiaでは1話先の話を先行公開したり、限定エピソードの投稿などしてます。 よかったらどーぞ。 https://fantia.jp/fanclubs/30630

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

悪魔との100日ー淫獄の果てにー

blueblack
恋愛
―人体実験をしている製薬会社― とある会社を調べていた朝宮蛍は、証拠を掴もうと研究施設に侵入を試み、捕まり、悪魔と呼ばれる女性からのレズ拷問を受ける。 身も凍るような性調教に耐え続ける蛍を待ち受けるのは、どんな運命か。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...