女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

文字の大きさ
上 下
63 / 82
心音と共に、

どうしようもないくらいに

しおりを挟む
 唇を離す。私から。
 互いを繋ぐ、唾液の糸。
 ヤバいことしたんだなって思った。

 次の瞬間。謎の罪悪感のようなものが、私に押し寄せる。
 苦しそうに呼吸を整える心音を見ながら、私は窺う。

「こ、心音さん?」

 心音はその言葉にスマホを取り出して、苦しそうにしながらも文字を打つ。
 それに合わせて、私もスマホ取り出した。
 ブーッとスマホが震える。
 それを見る。

『すごーく強引でしたね! 呼吸の隙を私に下さい。苦しかったです』
『ごめんなさい! 本当に!』

『それであのキス、なんですか?』
『あ、あのキスとはなんでしょうか!』

 分かっているけど、そう答えた。
 自分でそれを文字に起こすのは、いささか恥ずかしい気がしたから。

『自分からしといて、それを私から言わせるんですか?』
『な、なんのことやら』

『深いやつですよ。ディープなやつ。……いつかする日はくると思っていたのですが、それがまさか今日だなんて』
『えっと。嫌だった?』

 そっちの方が気になって、私はそう返す。
 うん。でぃーぷなやつね。深いやつ。
 大人がするやつね。

「…………」

 その、でぃーぷなやつをしてしまったのだと、心音に実感させられてしまう。
 あのキスはあまりにも唐突だったと思う。
 私が悪いんだけど。

『嫌じゃないです。けど、ちゃんとするって言ってください!』
『ごめん』

『また今度やり直すからいいです』
『今度って? 今からでもいいんじゃない?』

 送って、数秒の後に。
 この発言は迂闊だったと気付く。
 送信を取り消したくても、心音は勿論そのメッセージを見逃さない。
 というより、バッチリ凝視されていた。

『へー。たしかにそれも言えてますが、月曜日でいいと思いますよー。疲れちゃいましたし……』

 困惑した私を弄ぶかのような文章。
 ……っていうのは多分気にしすぎだ。

『そ、そうだね』

 ラインなのに、なぜか言葉が詰まる。
 私は今から、もう一度キスすることを要求した。
 その事実を実感して、顔が赤面する。

『……あの。急にすみません。忘れていたんですが、今日は耳鼻科に行く日でした。ので帰ります!』

 ……。
 心音は帰ってしまうらしい。
 さっきキスしたばかりなのに。
 心音は何も思っていないみたいだ。
 けど、これもきっと気にしすぎで。
 でも。そんな確証も無くて。
 そんな交錯した思いで、私は思いのままに指を動かす。

『なんで。行かないで』

 送ってしまったその文章を見て。
 文章は考えてから打つべきだと思った。
 じゃないと、こんな文章を打ってしまう。
 私の本能が心音を優先している。
 これは、まずいなって思った。
 私は顔を伏せた。
 赤面した顔を隠すために。
 けど、耳は熱い。これはダメだ。

『また月曜日に会えますよ。それに、ラインができるじゃないですか』
『うん。そうだね』

 下を向いたまま私は送った。
 なんで心音はこんなに冷静なんだ。
 折角キスができたのに、心音はすぐに私を離れる。
 嫌だ。嫌だ嫌だ。

『耳鼻科、休んでよ』

 考えずにまた送る。
 けど、その文章に後悔は無かった。

『そうしたいのですが。第三金曜日は決まって耳鼻科に行っているので……』
『そう。分かった。ごめんね。』

 知っていた。
 そうだ。心音は耳が良くないんだ。
 そりゃ、行かないといけない。
 当たり前のことだった。
 そんな当たり前を私は見落としていた。
 心音ばっかりしか見ていなかった。

『そんなに私と一緒にいたいんですか?』
『うん。』

『明日、土曜日ですし、遊びますか?』

 その提案は気を遣ってくれているのかな。
 分からないけど、分からないままに私は返信をする。

『絶対遊ぶ』
『はい。あ、でも。今週、結構宿題多いから、遊んでる暇ありますかね? そういえば私も反省文を書かないといけないですし』

『なら、心音の家で遊びたい。いい? 一緒に宿題もする』
『それならいいと思います。……えと、私、もう時間なので帰りますね!』

「うん」

 声にして呟く。
 私は顔を上げた。
 涼しい空気が、温度を上げた私の頬を撫でた。

「…………」

 小走りで教室を出ていく心音を見送りながら、私は心の中でガッツポーズをする。

 けど、同時に現実に直面をした。
 少し前は心音が私のことを好きで、その想いを、私はただ受け止めていた。
 けれど今は、私から心音を求めている。
 心音が離れることを深く悲しみもしたし。
 私の心は、心音を優先している。
 それ以外が見えていないようであった。
 これを依存と言うのだろうか。
 別にいいっか。

 なんだろう。なんだろうな。
 心音は。私にとって、大きな存在に変わっている。
 私はどうしようもないくらいに、心音のことが。
 好き。なのかもしれない。

 少し悩む。
 「かもしれない」はやっぱ抜き。
 こんなことを考えるのは恥ずかしい。
 顔は熱いし、心臓の動きも早いし。
 けど、誰にも見られてないから別にいい。
 心音の事は考えるだけでも、私の心がどこか満たされる。
 これはきっとそういうことだ。

 心音が好き。付き合いたい。
 改めて、そう思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凶器は透明な優しさ

恋愛
入社5年目の岩倉紗希は、新卒の女の子である姫野香代の教育担当に選ばれる。 初めての後輩に戸惑いつつも、姫野さんとは良好な先輩後輩の関係を築いていけている ・・・そう思っていたのは岩倉紗希だけであった。 姫野の思いは岩倉の思いとは全く異なり 2人の思いの違いが徐々に大きくなり・・・ そして心を殺された

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

オトナになれないみづきと凜霞の4日間逃亡生活

らんでる
青春
小さな少女、みづきと大人びた少女、凜霞。 時間はたったの4日間。出会ったばかりの2人が海を目指し、繰り広げられる友情と恋愛の狭間の物語。

処理中です...