女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

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仲良し少女の恋愛相談

渡された小箱

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 『昨日の手紙どうでしたか』と。
 どこか興奮しているように問われ。
 ちょっと驚き、ちょっと後ずさる。

「ラブレターのことだよね?」

 それ以外にあるわけがないのに、私はそう聞き返した。
 昨日、添削の依頼を受けたあの手紙。
 まぁ。それはそれは熱い想いが刻まれていた。
 見てるこっちまで恥ずかしくなる熱すぎるラブレターだった。

「ら、ラブレターって! 後ろの伊奈ちゃん先輩の彼女さんも聞いてるんだから、そんな声を大にして言わないで!」
「な! 彼女じゃない! それとごめんなさい!」

 昨日もこんなことを言われた気がするが、私と心音は、はたから見れば恋人同士のように映るのだろうか。
 ……ふへへ。だとしたら嬉しい。

「彼女じゃない、って……。私、相当睨んでるんだけど、本当に違う?」
「違いまーす」

「そ。ならいいけど。……あ、あと、そこの伊奈ちゃん先輩の彼女もどきさんは、昨日と同じくこの部屋から出て行って貰えませんか?」
「うわっ。結構、辛辣な口ぶり」

 そう思いながら、私は後ろを確認した。
 せっかく一緒になれたのに、また離れ離れになってしまうのかと。

 悲しい思いに一瞬だけなった。が、それは本当に一瞬だ。
 また昨日みたいに一緒に抜け出してキスをすればいい。

「あ、伊奈ちゃん先輩はここにいて。昨日、帰ってくるの遅すぎたし。今から話す内容は、多分すぐ終わるから」

 ……………………。
 私の思いむなしく、心を読まれたようにそれを否定された。
 というか、これは自業自得なのかもしれない。……かも、じゃない。事実だ。
 ……まぁ、一瞬ならいいかと。私の心がそれを許し、頷いた。

「……りょーかいです。でも、天崎さんは耳が良くないですから、ちょっと部室の外へと案内しますね……」
「先輩なのになんで敬語なの。……それと、なんか落ち込んでません? やっぱり付き合ってるんじゃ──」

「よーし! 天崎さん! 外へ出よっか!」

 逃げるように振り返り、心音の手を取り部室の外へ。
 目を合わせて、無意味に心音を可愛いなって認識して。
 「ごめんね」と一言だけ残し、私はまた部室の中へ。

「おかえり。伊奈ちゃん先輩」

 開けた扉のすぐそこに、前に佇む美結ちゃん。

「た、ただいま」
「おか。……いよっし。てなわけで本題。……昨日の手紙の感想を聞かせて?」

「うん。いいけど。その前に、椅子に座らない? 立ったままもあれだしさ」
「いや、いい。すぐ終わる」

 吐き捨てるように。まるで冷めたかのように。
 寂しそうに下を向いて、そう口から零す美結ちゃん。
 さっきから、明るくなったり暗くなったりと、どこかテンションの落差が大きいような気がしてしまう。

「……美結ちゃん? どうかした?」
「ど、どうもしてないよ! はい。それよりも感想をお聞かせ願います!」

 今度は明るく言い放たれる。
 その違和感を疑問に思ったが、この質問に答えないとまた暗い雰囲気になりかねないと危惧したので、昨日読んだままの感想をとりあえず伝えてみる。

「えっとね。とりあえず、めっちゃ良かった! こっちにまで、そのね。えっとね。美結ちゃんのめっちゃ熱い想いが伝わってきました」
「やっぱそうだよね。ありがとう」

「あ。うん。どもども! だから私が添削する必要はないと思う!」
「……添削ね。必要なかったんだ」

「うん! これで美結ちゃんの想い人……? まぁ、その人に凄く良く伝わると思うよ!」
「本当? 伝わる?」

「もちもち! 私が言ってるんだから大丈夫だって!」
「……うん。そうだね」

 美結ちゃんは自信がないのか、どこか不安げな顔だ。
 元気付けようと明るくは言ってみるものの、その顔は明るくならない。
 美結ちゃんにはこの後、ラブレターを渡すという重大なイベント控えていることを考えると、明るい表情にならないのも無理はないのだと思う。
 テンションの振り幅が大きいのも、考えてみれば、そういう理由のためかもしれないと納得した。

「まぁ。不安かもしれないけどさ! 頑張って!」

 私には何が正解なのか分かっていない。
 だから。この声かけも、もしかしたら美結ちゃんにとってマイナスに作用してしまうのかもしれない。
 けど。そんな不安そうな顔をする美結ちゃんの前で、私は黙っていることなど出来なかったのだ。

「うん。そうだね。伊奈ちゃんは、そういう人だった」
「うんうん。こういう人だよ」

「うん。まぁ。ありがと。私はこれで、今日は帰るね」
「あ、うん!」

「あ。その手紙、一応私に返してくれない?」
「一応って、美結ちゃんのじゃん!」

 変なことを口走る美結ちゃんに、律儀に突っ込みながら。
 私はカバンの中から、昨日のラブレターを取り出した。

「あーごめん。緊張のせいかな。少し変になってるかも」
「落ち着いて。リラックスだよ。……ほい。昨日の手紙」

 シワひとつ付いてないことに安心しながら、私はその封筒を手渡す。
 それを固まった表情で受け取る美結ちゃん。

「ありがと。……あ、あとさ。私も渡すものがあるんだけど。いい?」

 思い出したかのように、そう言ってきたが。
 その言い方は、あまりにも不自然だった。

 私が答える前に、美結ちゃんはカバンを漁りだす。

「え、なになに」

 数秒経過し、そのカバンの中から立方体の箱を取り出した。
 大きさはかなり小さい。一辺五センチくらい?
 よくわからないけど、とにかく小さい箱だった。

「え、なにそれ?」

 思ったままが口に出る。

「えっとね。この箱を、伊奈ちゃん先輩に預かって欲しいんだ」

 美結ちゃんは、淡々とそう告げる。

「中にはなにが入ってるの?」
「言えない。けど、空けないで。ずっと、伊奈ちゃん先輩が大切に持ってて」

 空けるなと言われたら空けたくなるのが人のさがではあるが、
 私は約束を守れるいい女なので、そんなことはしない。はず。

「え。まぁ。分かった。じゃあ、家の引き出しの中にしまっておこうかな」
「それはダメ。伊奈ちゃん先輩の制服の胸ポケット。それがダメなら、スカートのポケットでもいい。ともかく、それをずっと身につけて」

「え。なんでなんで。理由気になる」
「……分かった。言いたくなかったんだけど、仕方なく教えてあげる」

「うんうん」
「その中に入ってあるのは媚薬なの。それでね──」

「いや待て」

 恐ろしく異質な存在感のある言葉が耳に飛び込み、私は反射的にストップをかけた。

 え。なんってった?
 いや、めっちゃ発音良かったから、間違えるはずもないんだけど。
 綺麗にBIYAKUって言ってた……。発音が完璧だった。うん。
 何この子。
 ……人って成長するんだなぁ。と悲しい実感をしてしまった。

「どうしたの? 伊奈ちゃん先輩」
「どうしたのじゃなくて! え、今、媚薬って言ったよね?」

「はい」
「え、あ。まぁ。理由は聞きません……はい」

 なんやこの子。と思う同時に。
 理由を言いたがらなかった理由が腑に落ちた。
 用途はよく分からないが。聞くのも可哀想な気がして口をつぐむ。

「私ね、学校で恋人とえっちなことをするのが夢だったんだ。だからこの告白が成功したら、その相手に媚薬を使おうと思って」
「いや、別に理由は聞いて──」

「私のクラスの担任が凄く厳しくてさ、毎日持ち物検査があるんだよね。ポケットとか裏返さないといけないし、カバンは漁られるし。だから、伊奈ちゃん先輩にそれを預かってもらおうかと思ってさ。いいよね?」
「あ。はい。おけです」

「じゃあ、いつでも取り出せるように。できれば胸ポケに」
「りょ、りょーかいです」

「じゃあ。……行ってきます」
「が、頑張って!」

 そそくさと退出する美結ちゃんに、慌てて激励の言葉を送り。
 そのままあっけにとられ、ぽかーんとなってしまう。

 昨日は私の記憶の中にある美結ちゃんだったのに。
 何だか今日の美結ちゃんは、全然印象が違った。
 それもこれも媚薬発言のせいだけれど。
 ……媚薬て。どこでそんなものを購入したんだ。
 R18だぞ……多分。
 それを持っている私も、もしかしたら犯罪者?

「そんな訳ない……!」

 否定して、言われた通りにそれを胸ポケットの中へとしまう。
 おっぱいから突起物が飛び出してる感じになったけど。
 私を見る人なんて、心音しかいない。
 だから。別におっぱいが尖ってても私は気にならない。
 それよりも気になるのは、美結ちゃんの行方だった。

 この日はそれ以降、心音とハグするだけで特にそれといったことはなかった。
 いや、ハグも凄いことではあるんだけど。
 だけど。心音の声は、心音が風邪を引いていたので聞けなかった。
 それが唯一残念な点だった。
 一応、筆談でこの胸の突起物を『可愛いですね』って言ってくれた。
 絶対、気を遣ってくれている。心音は優しいから。
 そう考えると、結構いろいろなことがあったのかもしれない。
 最終的に私は帰宅し、美結ちゃんのことを心配になりながら眠りについた。

 次の日。
 美結ちゃんは部室にこなかった。
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