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あってくれよ

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痛い、痛い、痛い

腕からは血が吹き出しコックピット一面を赤く染めている。機体からも火が吹き、到底基地に戻れそうにない。治郎機は撃墜され、俺ももうすぐ堕ちるだろう。

ここまでか

基地から遥か南方にある島々の上空を飛んでいる。日本的な美は感じないが景色は美しく、ここが墓場なら寂しい感じもするが、ジャングルの沼地や湿地、寒い海よりはましだろう。

激しい音が聞こえた。それも凄まじい音だ。どうやら、翼が取れたらしい。

はあ、終わりか

痛みは激しく、血の量も尋常じゃない。特に、右肩から手先にかけては叫びたくなるほどだ。

地面との距離は数十メートル。目を瞑った。

おい、賢治、賢治

どこか遠くから声がする。それも聞いたことのある声だ。

俺は目を覚ました。

「大丈夫か?すごく魘されてたぞ」

夢でよかった

「すみません。撃墜される悪夢を見ていました」

全身が汗に取り憑かれ、海にでも飛び込んできたかのようだった。

「そうかあ。夢であってくれよ」

時刻は深夜を回っているのに、おじいちゃんは未だお酒を飲んでいる。脇には空になった瓶が並べられていた。

「まだまだ飲み足らんのお」

一人呟くと、おちょこを口に近づけお酒は身体に吸い込まれていった。

「賢ちゃんも飲むか?」

「いえいえ、もう結構です。頭がクラクラして苦しいです」

「まだまだだのお。ほれっ」

おちょこが俺の前に置かれた。もらった以上、飲まないわけにはいかず、アルコールの匂いに嫌気がさす中、飲み干した。

「なんじゃあ、まだまだいけるのお」

再びお酒を注がれた。おちょこを手に取る時、何気なしにおじいちゃんの顔を見た。目の下には汗か涙かわからなかったが、雫が垂れていた。

「若い衆と飲んだ時を思い出すのお。あいつらときたら困ったもんじゃ。厠で寝る奴や縁側で寝る奴、玄関で寝る奴、挙げ句の果てには裸になって家の前で寝る奴までおりよった。最近のことなのに、なんだか懐かしいのお」

若い衆はみんな戦争に行き、安否がわからない人も多い。

おじいちゃんはぼんやりと遠くを眺めていた。

「賢ちゃん、ほんまに死んだらあかんぞ。人間は生きてこそだからのお」

「本当に大丈夫ですよ」

「若い衆も皆大丈夫言いよったけど、この有様じゃ。このままだと誰一人として帰ってこんかもしれん」

おそらく、いや、そうなるだろう。しかし、そのような事は言えなかった。

「きっと、皆大丈夫ですよ」

「そうならええけどなあ」

おじいちゃんはそう言うと、おちょこを置いて寝る支度を始めた。

「今日はいい夢が見れそうじゃ」

「いい夢だったらいいですね」

俺達は眠りについた。
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