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駆け足で
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「ちょっと行ってきます」
鍵を閉めることなく、家を飛び出した。俺は駆け足で晴子さんの家へ向かった。角を曲がり、俺の心とは対照的に穏やかな流れをしている川が見えた。全速力で橋を渡り、ちょうど駄菓子屋の前あたりで、いつもに増して白い顔の晴子さんと出会った。どうやら晴子さんも俺の家へ向かおうとしていたらしい。
「賢治さん、日本……」
晴子さんの声は心弱く、震えていた。
「今回ばかりは、今までのようにいかないでしょう」
「はい……
マリアやマイケルの国とは戦争したくなかったのに、それにマスターとも」
「俺もです」
俺はポケットの中でマスターから頂いたアクセサリーを大切に握りしめていた。
「大日本帝国バンザーイ、大日本帝国バンザーイ」
街は日本の開戦にお祭り状態となっている。
「神国日本は無敵無敗、アメ公どもを蹴散らしたれ」
「天皇陛下バンザーイ、天皇陛下バンザーイ」
老若男女問わず皆が大声で想い想いの感情を言葉に表していた。しかし、何人かは暗い顔をした人達も居ることに俺は気がついた。きっと、その人達には日本の置かれている状況を客観的に見ることかできるのであろう。俺と晴子さんもその中の二人だった。
「おー賢治、久しぶり。一緒にアメリカぶっ倒そうぜ」
幼馴染みの哲也と偶然出会った。哲也は軍人家系に生まれた大男だ。先月までは中国に居て、現在休暇中らしい。最後に会った何年前と比べて目が鋭くなり、いかにも軍人らしい顔つきになっていた。
「久しぶりやなあ。今回ばかりは手強いぞ」
俺は少し低いトーンでそう言った。その瞬間俺の顔をジロリと見た哲也は、俺を見下すかのような態度を露わにした。
「ビビってんのか?神国日本が負けるはずないやろ。それともお前、アメリカに住んでたから奴らとは闘えないってか、この腰抜けが」
お前はアメリカを知らないからそんなことが言えるのだ……
「腰抜けか……俺は腰抜けではない、ただアメリカの力を客観的に見ることができるだけだ。神国日本は無敵無敗に変わりない。しかしだな」
「もういい。腰抜けと話す時間などない」
哲也は俺の話を一方的に遮り、通りの真ん中を大股で歩いていった。
「仕方ないですよね」
俺と哲也のやり取りを真横で見ていた晴子さんはそう言うと、手を握りしめてくれた。
俺達は川辺に降りて、木で作られた古びているベンチに腰掛けた。世間はお祭り気分だというのに川の流れは今日も穏やかなままだ。
「この川の流れのように穏やかなのが日本なのに……」
「私もそう思います」
俺は無言のまま晴子さんの肩を抱き寄せ、まるで時が止まったかのような気がしていた。いや、このまま止まっていて欲しかったのだろう。
鍵を閉めることなく、家を飛び出した。俺は駆け足で晴子さんの家へ向かった。角を曲がり、俺の心とは対照的に穏やかな流れをしている川が見えた。全速力で橋を渡り、ちょうど駄菓子屋の前あたりで、いつもに増して白い顔の晴子さんと出会った。どうやら晴子さんも俺の家へ向かおうとしていたらしい。
「賢治さん、日本……」
晴子さんの声は心弱く、震えていた。
「今回ばかりは、今までのようにいかないでしょう」
「はい……
マリアやマイケルの国とは戦争したくなかったのに、それにマスターとも」
「俺もです」
俺はポケットの中でマスターから頂いたアクセサリーを大切に握りしめていた。
「大日本帝国バンザーイ、大日本帝国バンザーイ」
街は日本の開戦にお祭り状態となっている。
「神国日本は無敵無敗、アメ公どもを蹴散らしたれ」
「天皇陛下バンザーイ、天皇陛下バンザーイ」
老若男女問わず皆が大声で想い想いの感情を言葉に表していた。しかし、何人かは暗い顔をした人達も居ることに俺は気がついた。きっと、その人達には日本の置かれている状況を客観的に見ることかできるのであろう。俺と晴子さんもその中の二人だった。
「おー賢治、久しぶり。一緒にアメリカぶっ倒そうぜ」
幼馴染みの哲也と偶然出会った。哲也は軍人家系に生まれた大男だ。先月までは中国に居て、現在休暇中らしい。最後に会った何年前と比べて目が鋭くなり、いかにも軍人らしい顔つきになっていた。
「久しぶりやなあ。今回ばかりは手強いぞ」
俺は少し低いトーンでそう言った。その瞬間俺の顔をジロリと見た哲也は、俺を見下すかのような態度を露わにした。
「ビビってんのか?神国日本が負けるはずないやろ。それともお前、アメリカに住んでたから奴らとは闘えないってか、この腰抜けが」
お前はアメリカを知らないからそんなことが言えるのだ……
「腰抜けか……俺は腰抜けではない、ただアメリカの力を客観的に見ることができるだけだ。神国日本は無敵無敗に変わりない。しかしだな」
「もういい。腰抜けと話す時間などない」
哲也は俺の話を一方的に遮り、通りの真ん中を大股で歩いていった。
「仕方ないですよね」
俺と哲也のやり取りを真横で見ていた晴子さんはそう言うと、手を握りしめてくれた。
俺達は川辺に降りて、木で作られた古びているベンチに腰掛けた。世間はお祭り気分だというのに川の流れは今日も穏やかなままだ。
「この川の流れのように穏やかなのが日本なのに……」
「私もそう思います」
俺は無言のまま晴子さんの肩を抱き寄せ、まるで時が止まったかのような気がしていた。いや、このまま止まっていて欲しかったのだろう。
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