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第2章 王族親衛隊
偉大なる願望
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「またここを通るとはな…」
赤本は窓の外を見ながらそう呟いた。傾いた道路標識には、消えかかった薄い字で『福島市』と書かれている。
「ここで、黒澤に会ったのか?」
東雲はどこか言いにくそうに尋ねた。
「はい。ですが……」
「ああ、彼はもう亡くなっている。前に聞いた」
「今でもその光景を覚えています。あんな、あんな姿で…!」
赤本は悔しそうに拳を握りしめた。少なくとも、あのような形で会いたくは無かった。あの黒澤が人を八つ裂きにするなんて、薄汚い言葉と嘘をつらつらと吐くなんて、想像も出来ないような変わりようだった。否、それは黒澤本人の意思ではない。替えられたのだ、新たな精神に。
『東雲班長、聞こえるか』
不意に無線が繋がった。スピーカー越しに聞こえるその簡潔な英語は、アーノルドのものだった。
『……東雲です。アーノルド隊長、どうされましたか?』
『1キロ前方の市街地に怪人だ、それも30数体。我々が迎え撃つから、そちらはミナモトに制御装置を付けてくれ。こちらの隊員と共同で怪人を浄化する』
『怪人…!』
にわかに車内の緊張が高まる。赤本はすぐに特殊処理班の制服に着替え始めた。
『こちら東郷、私たちはここで待機します。制服の着用と武器の携行をお願いします。それと、車外には絶対に出ないように』
『了解です』
東雲は無線を切ると、運転席から降り、皆の方を向いた。
「たった今米軍から無線が入った。福島市街地に怪人がいるようだ。我々はさきの米軍の提案にのっとり、ただちに制服に着替えたのち、車内待機とする。いいな」
「了解!」
各車両は戦闘準備を終えた後、窓を閉め切り息をひそめ、聞こえるのは互いのエンジン音だけとなった。
「これで自衛隊は介入してこない。あとはお前たちの独壇場だ」
「やっと戦えるぜ」
アーサーは大きなファンが2つ着いたマスクをすると、真っ黒のグローブを手にはめた。
「張り切ってるとこ悪いが、俺が全員ぶっ殺す。お前はクソ垂れ流しながら隅で震えてな」
黒髪に青い目のドイツ人はそう言って自分のマスクをつけた。
「一番弱いくせに何言ってんだ、ジーク」
「うるせえカートマン。農園に引き渡すぞ?」
ジークはホルスターに銃を突っ込みながらカートマンを睨んだ。
「はあ、相変わらずだな」
カートマンは肩をすくめると、車外に降りていった。
「チッ、俺が一番弱いだなんてぬかしやがって、あの野郎」
「事実でしょ、アンタがアーサーより強かったのは最初の1か月だけ」
ジークがその声に振り向くと、ブロンドの髪を短く切りそろえた、どこか白石に似た顔の美人が腕を組んで立っていた。
「カレジをかばうのか?ちっとは女らしいところがあるじゃねえの、シルビア。抱いてやろうか?」
「アンタがすぐフラれる理由、良くわかるわ」
シルビアはあきれたように首を振った。
「リリー、別に俺は気にしてねえよ。それに、お前は俺の彼女じゃない」
支度を終えたアーサーが二人の間に割り込んできた。
「当たり前でしょ、アーサー。アンタも何言ってんのよ」
「ハハ、フラれてやがる」
アーサーはジークの鼻ツラを軽く殴ると、さっさと車を降りて行った。
「クソ!痛てえじゃねえか、あの野郎」
「あの、そろそろジークさんも行ってもらっていいですか?あまり時間をかけられない」
ジークの様子を見かねたように、助手席で機材を広げる人のよさそうな顔をしたアジア人が言った。
「……分かったよ。ぜってえ借りは返してやる」
ジークはアーサーに悪態をつきながら、どかどかと車外に降り立った。
「ナイス、リー」
シルビアはリーと呼ばれたアジア人とハイタッチした。
「まったく、ドイツ人とは思えないですよ。ジークさん」
「昔はあんなんじゃなかったんだけどね」
シルビアは助手席の背もたれを掴んで機材の計器を覗き込む。
「…特権階級が2人か。やはり他に仲間が潜伏していたな」
アーノルドは、同じように計器を見てそう言った。
「でも前回のとは無関係に見えますね」
「それは、現地の奴らに聞いてきてもらおう」
「ですね」
アーサー、カートマン、それにジークは阿武隈川を渡る橋の一つ、大仏橋の上に立っていた。目の前にはローブを身にまとい、顔を隠した怪人が2人立っていた。双方の間合いは10メートル程である。
『いかにもだな』
カートマンが目の前の2人を見てそう言った。
『にしてもこの気配、アイツら女だぜ』
『女?ガワの話か?』
『それもそうだが、中身もだ。随分人間と近い雰囲気だな、こりゃ』
『まずは顔を拝まねえと始まらねえだろ』
ジークは短刀を抜くと、それを逆手に持った。すると片方の怪人が口を開いた。
「猿共!そちらの大君をこちらに引き渡せ。さすれば帝の元で奴隷として奉する名誉を与える」
『……アーサー、ココの怪人はどれもあんな感じなのか?』
『例外もいるが、大体こんなもんだ』
『まじかよ……』
カートマンはため息をつくと外部マイクをオンにした。
「怪人共、お前たちの組織、ずいぶんと古いそうだな。一体いつからある」
「フ、猿らしい愚問だな。我らに始まりも終わりもない。永遠に続く栄華の清流よ」
「答えになってねえな。じゃあ質問を変える。アシュキルについて…」
その時、2人の怪人の様子が急変した。それまでの侮りと怒りの感情が、屈辱と深い憤りに変異したように思えた。
「……よりにもよって呼び捨てとは、ずいぶんと死にたいようだな」
『こりゃ地雷だぜ』
『ああ、めんどくせえな』
「では言い方を変える。アシュキル殿下は一体いつから地球にいる」
「これもまた凡な問い。殿下は彼の時より幾星霜、その玉体が朽ちた後も高潔な精神を下賤の体へ移され、今宵この時まで偉大なる願望のためひた走られているのだ」
「なんだと?」
『マジかよ!』
『とんだクソじじいだな!』
「つまりアシュキ、アシュキル殿下は1万年以上生きているのか?」
「その通り、貴様らのような醜悪と悠久とも思える時を共にしてきたのだ。その胸に輝ける使命を宿しながらな」
そう語る片方の怪人は、感極まったように自分の胸を押さえた。
『ゾッコンだな』
『バカなだけだろ』
「……そうか。ではその殿下は何をしようとしている」
「ラケドニアをこの穢れた地に取り戻すのだ。まず手始めにこの島国を征服する」
「そうかよ。にしても何故今なんだ」
「知れたことを。大君がお目覚めになられたからに決まっている。それも奴がしくじったからなのだが」
「しくじった?誰が、何をしくじったって?」
「こちらも喋りすぎた。では……」
「まあ待て、最後に一つだけ。あの大怪獣を操っているのはお前たちか?」
「…そうだ。起こしたのは我々だが、手綱は握っていない。あれでもウルの女傑。殿下も御しきれぬ固い精神を持っているからな」
「ウルの女傑、万能のトラグカナイか。まさか怪獣になっていたとは…」
「質問は終わりだろう猿共よ。ここで死ね!」
2人はそういうと弾丸のようなスピードで突っ込んできた。それと同時に川から怪人たちが次々に飛び出してきた。
「気が早えんだよ、クソアマ!」
カートマンは咄嗟に両腕でガードすると、突っ込んできた片方がその勢いのままドロップキックを撃ち込んだ。
『おいアーサー、どっちが先に死ぬか賭けようぜ』
『…お前に100ドル』
アーサーは突っ込んできたもう片方の怪人の蹴りを受け止めた。
『お前に200ドル』
ジークは短刀を向かってきた怪人に真っ直ぐ繰り出すと、その首を両断した。
『これは、張り合いがねえな…』
吹き飛ばされたカートマンは口から垂れる血をぬぐうと、強打した両肩をほぐすようにぐるぐると回した。
「なにドロップキックなんざしてやがる。それとなあ、下は履け」
「黙れ!」
女怪人は一気に間合いを詰めると、左の手刀でわき腹を裂こうとした。
「甘えよ」
カートマンはそれを右ひざとひじで挟み込み、そのまま圧し潰した。女怪人はすぐに左手を引きちぎると、カートマンの頭部に向けた鋭いジャブを間一髪で避けた。その軌道に重なっていた髪の毛がちぎれてはらはらと宙に舞った。女怪人は一旦間合いをとると、何と手を失った左手首を口に突っ込んだ。
「オエ、なにしてやがる」
数秒すると、突っ込んでいた腕を口から引き出した。すると、そこにはないはずの左手があった。
「その再生能力、随分金をかけたようだな」
「戦闘再開だ、猿」
そのころアーサーは、もう片方の女怪人に苦戦していた。
「いい加減なにか喋れよ!クソ!」
この怪人は無口だった。そして無表情だった。
(なんの反応もねえんじゃ次の手が組みにくい!やりずれえ)
アーサーは蹴りも試したが、どうにも手ごたえがない。が、隙はあった。
「そこだ!」
アーサーは女怪人の右ストレートを最小限の動きで避けると、それと同時に自身も右ストレートを撃ち込んだ。その拳はまっすぐ顔面を直撃し、顔の上半分を吹き飛ばした。
「あと一つか。ジークの方は…」
アーサーはちらりと横で戦っていたジークを見た。ちょうど最後の一体を殺し終えて、返り血で真っ黒になったジークとそのまわりに怪人の首と死体が散乱していた。
「こっちも…」
アーサーは目の前にふらつく怪人の心臓目がけて膝蹴りを繰り出した。すると、目も見えないはずの怪人が両手を使ってその膝蹴りをガードした。
「なに!?」
アーサーが驚く束の間に、女怪人は後ろに飛び下がり、吹き飛ばされた頭部を頭に乗っけた。すると瞬く間に傷がふさがり、元の形に癒着した。
「これまた随分な再生能力だな。お前、貴族の娘か?」
「……ただのしがない踊り子です」
「は?」
その瞬間、アーサーの心臓は握りつぶされていた。
赤本は窓の外を見ながらそう呟いた。傾いた道路標識には、消えかかった薄い字で『福島市』と書かれている。
「ここで、黒澤に会ったのか?」
東雲はどこか言いにくそうに尋ねた。
「はい。ですが……」
「ああ、彼はもう亡くなっている。前に聞いた」
「今でもその光景を覚えています。あんな、あんな姿で…!」
赤本は悔しそうに拳を握りしめた。少なくとも、あのような形で会いたくは無かった。あの黒澤が人を八つ裂きにするなんて、薄汚い言葉と嘘をつらつらと吐くなんて、想像も出来ないような変わりようだった。否、それは黒澤本人の意思ではない。替えられたのだ、新たな精神に。
『東雲班長、聞こえるか』
不意に無線が繋がった。スピーカー越しに聞こえるその簡潔な英語は、アーノルドのものだった。
『……東雲です。アーノルド隊長、どうされましたか?』
『1キロ前方の市街地に怪人だ、それも30数体。我々が迎え撃つから、そちらはミナモトに制御装置を付けてくれ。こちらの隊員と共同で怪人を浄化する』
『怪人…!』
にわかに車内の緊張が高まる。赤本はすぐに特殊処理班の制服に着替え始めた。
『こちら東郷、私たちはここで待機します。制服の着用と武器の携行をお願いします。それと、車外には絶対に出ないように』
『了解です』
東雲は無線を切ると、運転席から降り、皆の方を向いた。
「たった今米軍から無線が入った。福島市街地に怪人がいるようだ。我々はさきの米軍の提案にのっとり、ただちに制服に着替えたのち、車内待機とする。いいな」
「了解!」
各車両は戦闘準備を終えた後、窓を閉め切り息をひそめ、聞こえるのは互いのエンジン音だけとなった。
「これで自衛隊は介入してこない。あとはお前たちの独壇場だ」
「やっと戦えるぜ」
アーサーは大きなファンが2つ着いたマスクをすると、真っ黒のグローブを手にはめた。
「張り切ってるとこ悪いが、俺が全員ぶっ殺す。お前はクソ垂れ流しながら隅で震えてな」
黒髪に青い目のドイツ人はそう言って自分のマスクをつけた。
「一番弱いくせに何言ってんだ、ジーク」
「うるせえカートマン。農園に引き渡すぞ?」
ジークはホルスターに銃を突っ込みながらカートマンを睨んだ。
「はあ、相変わらずだな」
カートマンは肩をすくめると、車外に降りていった。
「チッ、俺が一番弱いだなんてぬかしやがって、あの野郎」
「事実でしょ、アンタがアーサーより強かったのは最初の1か月だけ」
ジークがその声に振り向くと、ブロンドの髪を短く切りそろえた、どこか白石に似た顔の美人が腕を組んで立っていた。
「カレジをかばうのか?ちっとは女らしいところがあるじゃねえの、シルビア。抱いてやろうか?」
「アンタがすぐフラれる理由、良くわかるわ」
シルビアはあきれたように首を振った。
「リリー、別に俺は気にしてねえよ。それに、お前は俺の彼女じゃない」
支度を終えたアーサーが二人の間に割り込んできた。
「当たり前でしょ、アーサー。アンタも何言ってんのよ」
「ハハ、フラれてやがる」
アーサーはジークの鼻ツラを軽く殴ると、さっさと車を降りて行った。
「クソ!痛てえじゃねえか、あの野郎」
「あの、そろそろジークさんも行ってもらっていいですか?あまり時間をかけられない」
ジークの様子を見かねたように、助手席で機材を広げる人のよさそうな顔をしたアジア人が言った。
「……分かったよ。ぜってえ借りは返してやる」
ジークはアーサーに悪態をつきながら、どかどかと車外に降り立った。
「ナイス、リー」
シルビアはリーと呼ばれたアジア人とハイタッチした。
「まったく、ドイツ人とは思えないですよ。ジークさん」
「昔はあんなんじゃなかったんだけどね」
シルビアは助手席の背もたれを掴んで機材の計器を覗き込む。
「…特権階級が2人か。やはり他に仲間が潜伏していたな」
アーノルドは、同じように計器を見てそう言った。
「でも前回のとは無関係に見えますね」
「それは、現地の奴らに聞いてきてもらおう」
「ですね」
アーサー、カートマン、それにジークは阿武隈川を渡る橋の一つ、大仏橋の上に立っていた。目の前にはローブを身にまとい、顔を隠した怪人が2人立っていた。双方の間合いは10メートル程である。
『いかにもだな』
カートマンが目の前の2人を見てそう言った。
『にしてもこの気配、アイツら女だぜ』
『女?ガワの話か?』
『それもそうだが、中身もだ。随分人間と近い雰囲気だな、こりゃ』
『まずは顔を拝まねえと始まらねえだろ』
ジークは短刀を抜くと、それを逆手に持った。すると片方の怪人が口を開いた。
「猿共!そちらの大君をこちらに引き渡せ。さすれば帝の元で奴隷として奉する名誉を与える」
『……アーサー、ココの怪人はどれもあんな感じなのか?』
『例外もいるが、大体こんなもんだ』
『まじかよ……』
カートマンはため息をつくと外部マイクをオンにした。
「怪人共、お前たちの組織、ずいぶんと古いそうだな。一体いつからある」
「フ、猿らしい愚問だな。我らに始まりも終わりもない。永遠に続く栄華の清流よ」
「答えになってねえな。じゃあ質問を変える。アシュキルについて…」
その時、2人の怪人の様子が急変した。それまでの侮りと怒りの感情が、屈辱と深い憤りに変異したように思えた。
「……よりにもよって呼び捨てとは、ずいぶんと死にたいようだな」
『こりゃ地雷だぜ』
『ああ、めんどくせえな』
「では言い方を変える。アシュキル殿下は一体いつから地球にいる」
「これもまた凡な問い。殿下は彼の時より幾星霜、その玉体が朽ちた後も高潔な精神を下賤の体へ移され、今宵この時まで偉大なる願望のためひた走られているのだ」
「なんだと?」
『マジかよ!』
『とんだクソじじいだな!』
「つまりアシュキ、アシュキル殿下は1万年以上生きているのか?」
「その通り、貴様らのような醜悪と悠久とも思える時を共にしてきたのだ。その胸に輝ける使命を宿しながらな」
そう語る片方の怪人は、感極まったように自分の胸を押さえた。
『ゾッコンだな』
『バカなだけだろ』
「……そうか。ではその殿下は何をしようとしている」
「ラケドニアをこの穢れた地に取り戻すのだ。まず手始めにこの島国を征服する」
「そうかよ。にしても何故今なんだ」
「知れたことを。大君がお目覚めになられたからに決まっている。それも奴がしくじったからなのだが」
「しくじった?誰が、何をしくじったって?」
「こちらも喋りすぎた。では……」
「まあ待て、最後に一つだけ。あの大怪獣を操っているのはお前たちか?」
「…そうだ。起こしたのは我々だが、手綱は握っていない。あれでもウルの女傑。殿下も御しきれぬ固い精神を持っているからな」
「ウルの女傑、万能のトラグカナイか。まさか怪獣になっていたとは…」
「質問は終わりだろう猿共よ。ここで死ね!」
2人はそういうと弾丸のようなスピードで突っ込んできた。それと同時に川から怪人たちが次々に飛び出してきた。
「気が早えんだよ、クソアマ!」
カートマンは咄嗟に両腕でガードすると、突っ込んできた片方がその勢いのままドロップキックを撃ち込んだ。
『おいアーサー、どっちが先に死ぬか賭けようぜ』
『…お前に100ドル』
アーサーは突っ込んできたもう片方の怪人の蹴りを受け止めた。
『お前に200ドル』
ジークは短刀を向かってきた怪人に真っ直ぐ繰り出すと、その首を両断した。
『これは、張り合いがねえな…』
吹き飛ばされたカートマンは口から垂れる血をぬぐうと、強打した両肩をほぐすようにぐるぐると回した。
「なにドロップキックなんざしてやがる。それとなあ、下は履け」
「黙れ!」
女怪人は一気に間合いを詰めると、左の手刀でわき腹を裂こうとした。
「甘えよ」
カートマンはそれを右ひざとひじで挟み込み、そのまま圧し潰した。女怪人はすぐに左手を引きちぎると、カートマンの頭部に向けた鋭いジャブを間一髪で避けた。その軌道に重なっていた髪の毛がちぎれてはらはらと宙に舞った。女怪人は一旦間合いをとると、何と手を失った左手首を口に突っ込んだ。
「オエ、なにしてやがる」
数秒すると、突っ込んでいた腕を口から引き出した。すると、そこにはないはずの左手があった。
「その再生能力、随分金をかけたようだな」
「戦闘再開だ、猿」
そのころアーサーは、もう片方の女怪人に苦戦していた。
「いい加減なにか喋れよ!クソ!」
この怪人は無口だった。そして無表情だった。
(なんの反応もねえんじゃ次の手が組みにくい!やりずれえ)
アーサーは蹴りも試したが、どうにも手ごたえがない。が、隙はあった。
「そこだ!」
アーサーは女怪人の右ストレートを最小限の動きで避けると、それと同時に自身も右ストレートを撃ち込んだ。その拳はまっすぐ顔面を直撃し、顔の上半分を吹き飛ばした。
「あと一つか。ジークの方は…」
アーサーはちらりと横で戦っていたジークを見た。ちょうど最後の一体を殺し終えて、返り血で真っ黒になったジークとそのまわりに怪人の首と死体が散乱していた。
「こっちも…」
アーサーは目の前にふらつく怪人の心臓目がけて膝蹴りを繰り出した。すると、目も見えないはずの怪人が両手を使ってその膝蹴りをガードした。
「なに!?」
アーサーが驚く束の間に、女怪人は後ろに飛び下がり、吹き飛ばされた頭部を頭に乗っけた。すると瞬く間に傷がふさがり、元の形に癒着した。
「これまた随分な再生能力だな。お前、貴族の娘か?」
「……ただのしがない踊り子です」
「は?」
その瞬間、アーサーの心臓は握りつぶされていた。
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