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荒れる日本
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──こんな事になってしまったのは、いつからだろうか。
ああ、そうだ。思い出した。
きっかけなんて無かったんだ。
それは、あまりにも突然に──
ある日、なんの前触れもなしに大雨が日本を襲った。
その日の天気予報では全国的に晴れるとされていたし、悪くてもせいぜい曇りとのことだったのだ。とても予想はつかない。
しかし昼頃、今まで誰も見たことの無いような大雨に日本中が見舞われたのだ。
日本は大混乱。
あちこちの川が氾濫し、その周辺の住宅は流されていく。
多くの人がその世を去った。私の兄もその一人である。
その日から、何日もそんな天気が続いた。
水上での惨めな生活。
抑えられない、食欲。
こんなに苦しむくらいなら、もう死んでしまいたい、と何度思っただろうか。
だが、兄の最期の言葉──
「ゆ…な……おま……えは……生きて……くれ……」
「生きろ」と、彼はそう言った。
兄が言ったことを、無下になんてできない。
実際、簡単に死ぬ事はできたのだ。兄の存在がなければ、私はすぐに死んでいただろう。
数日後。
晴れた。太陽が光ってる。
久々に見た太陽は、私の心を照らしてくれた。
しかし次の日も、そのまた次の日も……しばらく続いた。
水が引いたのは良い。
だが、
……干からびてしまうのではないかと思う程、空気が乾燥してきたのだ。
そんな天気の、繰り返し。
もう日本に建物なんて無い、と思う。
流れてくる野菜等を食べかろうじてまだ生きている人は結構いるが、皆近い内に亡くなるだろう。
もちろん私も、例外ではない。
グウウウゥゥゥゥ。
腹が鳴った。仕方ない。この空腹に体が耐えらるはずが無いのだから。
「スゲー音。ま、俺も人の事言える立場じゃないけど」
私の肩に手を置いて微笑んだのはクラスメート(もう学校は無いが)の『伊藤拓海』だった。
「気楽だね、伊藤は」
「フッ。まあな。でも、あんな大人よりかはマシだろ?」
伊藤は右手の親指で後方の大人達を指した。
「モウ、終ワリダ……」
「食ベル物モ、暮ラス場所モ無イナンテ……」
頭を抱えて絶望する大人達。
社会という、狭い狭いものに囚われる毎日。その事実を「嫌だ」と思う者が殆どであるが、いざ自由になってみると、自らの国の言語すら片言になってしまう程に狂ってしまうのだ。
そんな彼らから、学ぶ事なんて何も無い。
だから我々子供は、自分達だけで生きていこうと決めたのだ。
「うん。そうだね」
私は伊藤の問いかけに答え、空を見上げた。
今日も良く、晴れている。
空には雲は浮かんでいない。
だがそれを、誰が喜ぶ?
日本がこうなる事を、誰が望んだ?
いくら考えたって、分からないや。
ああ、そうだ。思い出した。
きっかけなんて無かったんだ。
それは、あまりにも突然に──
ある日、なんの前触れもなしに大雨が日本を襲った。
その日の天気予報では全国的に晴れるとされていたし、悪くてもせいぜい曇りとのことだったのだ。とても予想はつかない。
しかし昼頃、今まで誰も見たことの無いような大雨に日本中が見舞われたのだ。
日本は大混乱。
あちこちの川が氾濫し、その周辺の住宅は流されていく。
多くの人がその世を去った。私の兄もその一人である。
その日から、何日もそんな天気が続いた。
水上での惨めな生活。
抑えられない、食欲。
こんなに苦しむくらいなら、もう死んでしまいたい、と何度思っただろうか。
だが、兄の最期の言葉──
「ゆ…な……おま……えは……生きて……くれ……」
「生きろ」と、彼はそう言った。
兄が言ったことを、無下になんてできない。
実際、簡単に死ぬ事はできたのだ。兄の存在がなければ、私はすぐに死んでいただろう。
数日後。
晴れた。太陽が光ってる。
久々に見た太陽は、私の心を照らしてくれた。
しかし次の日も、そのまた次の日も……しばらく続いた。
水が引いたのは良い。
だが、
……干からびてしまうのではないかと思う程、空気が乾燥してきたのだ。
そんな天気の、繰り返し。
もう日本に建物なんて無い、と思う。
流れてくる野菜等を食べかろうじてまだ生きている人は結構いるが、皆近い内に亡くなるだろう。
もちろん私も、例外ではない。
グウウウゥゥゥゥ。
腹が鳴った。仕方ない。この空腹に体が耐えらるはずが無いのだから。
「スゲー音。ま、俺も人の事言える立場じゃないけど」
私の肩に手を置いて微笑んだのはクラスメート(もう学校は無いが)の『伊藤拓海』だった。
「気楽だね、伊藤は」
「フッ。まあな。でも、あんな大人よりかはマシだろ?」
伊藤は右手の親指で後方の大人達を指した。
「モウ、終ワリダ……」
「食ベル物モ、暮ラス場所モ無イナンテ……」
頭を抱えて絶望する大人達。
社会という、狭い狭いものに囚われる毎日。その事実を「嫌だ」と思う者が殆どであるが、いざ自由になってみると、自らの国の言語すら片言になってしまう程に狂ってしまうのだ。
そんな彼らから、学ぶ事なんて何も無い。
だから我々子供は、自分達だけで生きていこうと決めたのだ。
「うん。そうだね」
私は伊藤の問いかけに答え、空を見上げた。
今日も良く、晴れている。
空には雲は浮かんでいない。
だがそれを、誰が喜ぶ?
日本がこうなる事を、誰が望んだ?
いくら考えたって、分からないや。
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