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第二章 『厄介な日常』
親友兼、幼馴染兼、理解者=俺
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恋愛の話をするのは、いくら幼馴染でも少し抵抗がある時がないだろうか?
俺は普段から愛花愛花言っていたし、香山からしたら興味はないだろう。愛ちゃんとの話ならともかくとして。
だが付き合いの長い俺でも、香山の恋愛話はあまり聞かない。奴は持ち前のルックスとクールさで数え切れないほど告白されているのだが、それにOKしたことはおそらく無いだろう。
好きなタイプとかそういった話題が出た時でも、人を好きになったことがないらしく「分からない」の一点張り。これでは恋バナなど盛り上がるはずもなく、小・中の修学旅行時香山は一匹狼となっていた。
──そう、だから、理解しているつもりではあるんだ。どうせ軽く振ったんだろって。
しかし、やっぱりその都度本人以上にソワソワしてしまうのがこの俺・多田晃狩という人間なのである。
まあとりあえず、何があったのか具体的に語らせていただくとしよう。何となく察しがついた方も多いとは思うけれども、な。
話は約一時間前に遡る。
今日は部活がオフの日。ただ委員会が行われたため、俺と愛ちゃんと小熊さんの三人は体育委員会の終了をぼーっとしながら待っていた。
『ありがとうございましたー!』
暇そうな愛ちゃん、読書中の小熊さんの前へ移動し口を開く。
「隣の教室の……給食委員でしたっけ? 終わったみたいですね。体育の方もそろそろなのではないでしょうか」
「まあ体育祭が終わりましたからね。あまりやる事も無さそうですし、終わっているかもしれないですね」
「そうだね。じゃあ、俺が見てくるよ。二人共早く帰りたいだろうしね」
「「ありがとうございます」」
誰かを待つ時間というものは極めて退屈。終了した可能性が少しでもあるというならば、確かめる他無いだろう。
(えっと、体育委員ってどこだっけ……。あ、田島先生のクラスだから、3-Dか)
それぞれの教室の場所ももうすっかり記憶した。入学当初は「覚えられるかなぁ」と不安になったものだが、高校生活4ヶ月目ともなると大分馴染んでくるものだなとしみじみ感じる。
なんて考えていたら、3年生の階にあっという間に到着。そこで、どの教室にも灯りが点いていないのに気が付く。
体育どころか、放送や美化などたいていの委員会が既に終了しているみたいだ。それも“ついさっき”ではなく、“少し前”に。この程度のことは、人気のなさで俺でも察知できる。
(もう終わってるはずなのに、香山の奴どこで道草食ってるんだよ)
人に遅刻遅刻とうるさく言っておいて、結局自分もそうではないか。俺は文句を言える立場では無いがな。
なんて思っていた、その瞬間。
「……待たせちゃってごめんね、香山君」
(!?)
この声の感じは、十中八九告白だ。俺は知っている、何度も見てきたからな。
そして同時に、声の持ち主も分かってしまった。
──放送委員長・完甘舞。体育祭の時に少し登場したが、覚えている方なんていないだろうな。
「いえ、別に。さっき終わったんで」
「フフ、そっか。それでね、話があるんだけど……聞いてくれる?」
「当たり前じゃないスか。じゃなかったらここに居ませんよ」
「そ、そうだよね! 私ったら変なこと訊いちゃった」
完甘先輩、放送時と違って余裕も自信も消え失せたような声だ。乙女なんだな、彼女も。
それにしても香山の敬語は聞いていて慣れない。誰かを敬うような顔をしていないんだよなアイツは。
「じゃあ、言うね──好きです、香山君。私と付き合って下さい!」
やっぱり。俺の予想は的中だ。
これから香山はどのようにしてこの告白を断るのか、というのも見ものだが……。
(でもアイツ、今まで俺の前で人を振ったことはないんだよな。一緒に下校してた時でも、わざわざ先に帰らせてくれたりして……)
ああ見えて告白相手の気持ちは汲んであげてるんだと密かに見直した過去もあったのだ、そういえば。ずっと見てるのは、さすがに悪い行いかもしれない。
「──っ」
香山の髪が小さく揺れたのを見届け、俺は踵を返して教室まで駆けていった。
とまあ、こんな出来事があったのだ。だが俺は今猛烈に後悔している。
(あのまま見ておけば良かったかも……)
人のこと考えてるんだな~と思う反面、モテる男の振り方が気になっていたのもまた事実。
それを覚えておけば愛ちゃんや加納院さんから(真面目な)告白を受けてもスマートに断れるかもしれない。とどこか頼りにしている面すらあった。
だけれども俺は、それを知る一世一代のチャンスを逃してしまった(まあ悔やむ理由としては完甘先輩というファンクラブまである大物をいかにして振ったのだろう、という好奇心も少しあるが)。
言い訳のようになってしまうが、親友として踏み込まなくてはならない瞬間は誰にだって訪れるもの。俺達のそれが今だったというだけで、何も特別なことなどない。
俺は知らなくてはならなかったし、香山は伝えなければならなかった。そういう運命に、はじめから置かれていたんだ。
だから、だから俺は──
プルルルル……
絶対に、訊いてみせるんだ! 一番の理解者として!
ガチャ
『もしもし?』
俺は普段から愛花愛花言っていたし、香山からしたら興味はないだろう。愛ちゃんとの話ならともかくとして。
だが付き合いの長い俺でも、香山の恋愛話はあまり聞かない。奴は持ち前のルックスとクールさで数え切れないほど告白されているのだが、それにOKしたことはおそらく無いだろう。
好きなタイプとかそういった話題が出た時でも、人を好きになったことがないらしく「分からない」の一点張り。これでは恋バナなど盛り上がるはずもなく、小・中の修学旅行時香山は一匹狼となっていた。
──そう、だから、理解しているつもりではあるんだ。どうせ軽く振ったんだろって。
しかし、やっぱりその都度本人以上にソワソワしてしまうのがこの俺・多田晃狩という人間なのである。
まあとりあえず、何があったのか具体的に語らせていただくとしよう。何となく察しがついた方も多いとは思うけれども、な。
話は約一時間前に遡る。
今日は部活がオフの日。ただ委員会が行われたため、俺と愛ちゃんと小熊さんの三人は体育委員会の終了をぼーっとしながら待っていた。
『ありがとうございましたー!』
暇そうな愛ちゃん、読書中の小熊さんの前へ移動し口を開く。
「隣の教室の……給食委員でしたっけ? 終わったみたいですね。体育の方もそろそろなのではないでしょうか」
「まあ体育祭が終わりましたからね。あまりやる事も無さそうですし、終わっているかもしれないですね」
「そうだね。じゃあ、俺が見てくるよ。二人共早く帰りたいだろうしね」
「「ありがとうございます」」
誰かを待つ時間というものは極めて退屈。終了した可能性が少しでもあるというならば、確かめる他無いだろう。
(えっと、体育委員ってどこだっけ……。あ、田島先生のクラスだから、3-Dか)
それぞれの教室の場所ももうすっかり記憶した。入学当初は「覚えられるかなぁ」と不安になったものだが、高校生活4ヶ月目ともなると大分馴染んでくるものだなとしみじみ感じる。
なんて考えていたら、3年生の階にあっという間に到着。そこで、どの教室にも灯りが点いていないのに気が付く。
体育どころか、放送や美化などたいていの委員会が既に終了しているみたいだ。それも“ついさっき”ではなく、“少し前”に。この程度のことは、人気のなさで俺でも察知できる。
(もう終わってるはずなのに、香山の奴どこで道草食ってるんだよ)
人に遅刻遅刻とうるさく言っておいて、結局自分もそうではないか。俺は文句を言える立場では無いがな。
なんて思っていた、その瞬間。
「……待たせちゃってごめんね、香山君」
(!?)
この声の感じは、十中八九告白だ。俺は知っている、何度も見てきたからな。
そして同時に、声の持ち主も分かってしまった。
──放送委員長・完甘舞。体育祭の時に少し登場したが、覚えている方なんていないだろうな。
「いえ、別に。さっき終わったんで」
「フフ、そっか。それでね、話があるんだけど……聞いてくれる?」
「当たり前じゃないスか。じゃなかったらここに居ませんよ」
「そ、そうだよね! 私ったら変なこと訊いちゃった」
完甘先輩、放送時と違って余裕も自信も消え失せたような声だ。乙女なんだな、彼女も。
それにしても香山の敬語は聞いていて慣れない。誰かを敬うような顔をしていないんだよなアイツは。
「じゃあ、言うね──好きです、香山君。私と付き合って下さい!」
やっぱり。俺の予想は的中だ。
これから香山はどのようにしてこの告白を断るのか、というのも見ものだが……。
(でもアイツ、今まで俺の前で人を振ったことはないんだよな。一緒に下校してた時でも、わざわざ先に帰らせてくれたりして……)
ああ見えて告白相手の気持ちは汲んであげてるんだと密かに見直した過去もあったのだ、そういえば。ずっと見てるのは、さすがに悪い行いかもしれない。
「──っ」
香山の髪が小さく揺れたのを見届け、俺は踵を返して教室まで駆けていった。
とまあ、こんな出来事があったのだ。だが俺は今猛烈に後悔している。
(あのまま見ておけば良かったかも……)
人のこと考えてるんだな~と思う反面、モテる男の振り方が気になっていたのもまた事実。
それを覚えておけば愛ちゃんや加納院さんから(真面目な)告白を受けてもスマートに断れるかもしれない。とどこか頼りにしている面すらあった。
だけれども俺は、それを知る一世一代のチャンスを逃してしまった(まあ悔やむ理由としては完甘先輩というファンクラブまである大物をいかにして振ったのだろう、という好奇心も少しあるが)。
言い訳のようになってしまうが、親友として踏み込まなくてはならない瞬間は誰にだって訪れるもの。俺達のそれが今だったというだけで、何も特別なことなどない。
俺は知らなくてはならなかったし、香山は伝えなければならなかった。そういう運命に、はじめから置かれていたんだ。
だから、だから俺は──
プルルルル……
絶対に、訊いてみせるんだ! 一番の理解者として!
ガチャ
『もしもし?』
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