上 下
17 / 32
第二章 『厄介な日常』

こんなに仲悪かったっけ?

しおりを挟む
 さて、小熊さんの誕生日プレゼントを選んでいた我々だが最終的に、あるものを購入した。
「いや~、奮発したねぇ」
「まあ、小遣いが少ないわりに大分出したからな。ただ、喜んでもらえるのは確かなんじゃないか? このスポーツシューズ」
「小熊さんの好きな色知らないから、シンプルな白だけどな」
「変にカラフルな物よりはよっぽど良いだろ。僕だって喜ぶぞ、これなら」
 ちょっぴり高かった靴の眠る袋を握り締め、彼女が喜ぶ姿を想像する。
 小熊さんがたくさん運動をするタイプかどうかなのかは分からないけれど、得意なのは確かだし、靴なら邪魔になることも無いと思い購入したスポーツシューズこれ
 女の子へのプレゼントは初めてじゃないけれど、やっぱり選ぶ度にドキドキワクワクが止まらない。

     ○ ○ ○

「楽しみだな~、愛ちゃん家。どんな感じだろう」
「別に大したこと無いわよ、あの家。我が家と変わんないわ。それより冷房効きすぎて体冷えたりしてないわね? 多田さん」
「うん、大丈夫だよ。というか2人の家に大差がないのは当然でしょ」
 最近話題に挙がらなかったが、加納院メイこの人もまた愛ちゃんと同規模の金持ちである。
 忘れがちな情報だなぁ。
「まあそうね。でも私の家の方が綺麗よ。家具の色全部白で統一してるから」
「へぇ。掃除してないと目立ちそうだね」
「清掃員がいるから大丈夫よ。……それにしても、私があの女の誕生日会に足を運ぶ事になるとは。正直、私の中では38%の確率だったわ」
「び、微妙な数値だね」
 そういえば、百分率で表すのが好きだったっけ。
(あれ、なんでこんな加納院さんのこと忘れてたんだろう。うっかりしてたなぁ)
 小熊さんを「あの女」呼ばわりする加納院さんだけど、実際そこまで嫌っていないみたいだ。彼女のバッグから少しだけ顔を出す謎の包装紙から、その事実は伺える。
 ちなみに小熊さん本人は現在愛ちゃん宅で先輩使用人方から教育を受けている。しかしこれはパーティーの準備が進められている大広間へ誤ってでも足を踏み入れることを避けるためだ。
「ちょっとメイさ~ん? 晃狩さんに近付き過ぎじゃないですか? 距離感考えて下さいっ」
「何言ってるの愛。これは別に変な気持ちがあっての行為じゃあないわ。ただ、車内が冷えてるからお腹壊したりするかもしれないでしょ?」
「屁理屈ですよ! 強い冷房は弱めればいいだけじゃないですか!」
 俺を挟んで険悪な雰囲気になる2人。
(この後誕生日会やるのに、これで大丈夫かな~?)
「まさに両手に花だな、多田」
 こういう状況で、香山がからかってこない確率は0%。
 他人というか俺が困るといつも高みでケラケラと嘲笑ってくるのである。慣れっこだから腹は立たないが、嬉しくもない。
「うるさいな~」
「皆様、到着致しました」
(やっとだ!)
 喜びのあまり車から急いで飛び出す。──というのは真ん中の席では不可能なので、愛ちゃんに続いてゆっくりと出る。
「ここが駐車場かぁ。広い」
「何百台イケるんだ? この場所は」
 素朴な疑問を口にする香山に、愛ちゃんは笑顔で回答する。
「ええと、大体580台ほどかと。お客様用が殆どですね。我が家はあまり台数無いので」
「へぇ、貧しいのね」
 カチンッ。
「受け取り方が捻くれてますね。神田家は無駄な出費をしない、だから台数が少ないのです。1台に深く長く愛を注ぐ、それが私達のスローガンです」
「まずその考え方から貧乏なのよねぇ。あるものは使っちゃって良いじゃない」
「裕福であるからといって、図に乗ってはいけませんよ。いつか痛い目を見ますから」
「そんな未来、あって5%程度よ」
 また始まった……。
「そんなものアナタの独断じゃないですか。なんの根拠も無いです」
「ねぇもうやめ──」
「それを言ったら愛の主張こそ、核心を突く言葉がないじゃない。迷信よ、め・い・し・ん!」
 俺の台詞を聞く耳持たず……というより、両者とも全く周りが見えていないな。
「あの……運転手さん。会場まで案内していただけませんか?」
「え? あ、あぁ……。承知しました。少々お待ちくださいね」
「はい、分かりました」
 運転手さんは愛ちゃん達を見てしっかり事情を察してくれた。
「お2人は、どう致しましょう」
「放っておいて良いんじゃないっスか? ここは神田さんの家なんだし、危険はないでしょう」
「そ、そうですね。では参りましょうか」
 とりあえず、あの空気を会場まで持ってこなければもう何でもいいや。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...