明日の空

鍵山 カキコ

文字の大きさ
上 下
2 / 56
第一章

いや、やっぱ無理

しおりを挟む
「やっぱり、これは交際したということになってるのかな……」
 机に突っ伏しながら、ポツリと呟いた。
 というか彼──戸山君とかいったな──は、私の何を好きになったのだろうか。
 私なんかに、魅力はあるのだろうか。
 それを確認するために、机の端に置いてある鏡を近くに寄せて、自分の顔を見てみる。
(やっぱり、全然可愛くない)
 恥ずかしながらも色々なポーズをしたけれど、鏡を覗いた結果は変わらない。
 やがて、もしかしたらこれは嘘の告白かもしれないと思い始めるようになった。
 今時の若者はよくやっていると聞く(姉からの偏った知識)し、ああいうチャラチャラした連中なんて毎日のようにやっていそうではないか(偏見)。
 むしろ、「あれは全て冗談でしたー!」と言われ、ドッキリ大成功と書かれた札を掲げられた方が納得がいくし、私からしたらありがたい。
 だが、あの無邪気な子供のように純粋な瞳──あれが嘘には見えなかった。
 ……今時の若者は演技力も高いのだろうか? なら皆俳優かなんかになれば良いのに。
 しかし、もしあれが本心だったとすれば、私は受け入れるしかないのだろうか……?
「今考えたって、仕方無いか」
 そう言ったのを最後に、私はその件について考えるのをやめた。
 そしてノートを開き、静かに勉強を始めたのだった。

「おはよう! 木嶋さん!」
「!?」
 翌日の朝、玄関の扉を開けると戸山君が家の前に立っていた。
(え、え。……え?)
 頭がついていかない。
 なんだこの状況?
(もしかして、一緒に登校しようって事なのかな? でも、そんなに親しくなってないのに)
 私が見るからに嫌そうな顔をしていたのか、戸山君はしゅんと俯いた。
「ご、ごめん。迷惑だった? 恋人になれて、俺、調子に乗っちゃったかな……」
 いやいや。
 仮に恋人という状態でも、まだ初対面の人間に迎えに来てもらって嬉しいか?
 とは、とても声に出して言えない。
「あぁ、いや、えっと。そのぉ……」
 こういった返事が来たら答えはYESだということを、薄々でも察してはくれないだろうか。
 だが、彼にはとても無理だろうな。
 なんとなく、昨日のやり取りからそう感じた。
 色々と鈍そうな人な気がする。
「嫌だったらハッキリ言っちゃっていいから!」
 そんな事、出来るわけ無い。
 出来ていたら、告白だってキッパリ断っていたのだから。
「いや、えっと……大丈夫で、す、よ?」
「……なんだぁ! 良かった」
 右手を胸に置き、ほっと安堵する戸山君と、「どうして自分はこうなんだ!」と、自らを恨むしかない私。
(この人は、本気で私を愛しているのかな? けど、そもそも『愛』ってよく分かんないし)
「さて、じゃ、行こっか!」
 戸山君はそう言って、スキップで前に進み始めた。
 私はその二、三歩後ろを歩く。横はさすがに、恐れ多いからだ。
 一歩一歩が、ぎこちないものになってしまう。
(私って、こんなに歩くの下手だったっけ?)
 うわ……駄目だ。
 今だけならまだしも、学校付近には大勢生徒がいる。こんな状態を見られたら、何と言われるか分かったもんじゃない。
(いや申し訳ないけど……やっぱ無理!)
 そう思い、私は戸山君を追い抜かして走り出した。
「……え?」
 戸山君は呆気にとられ、しばらくその場を立ち尽くしていたのだった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...