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たまには性欲でもいかがです?

45 プッシー・キャット・ドール③

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私は次の日、すぐに用意した道具をもって「祈りの園」にやってきました。


ジャラ
ジャラ…


重い…
私は腕と足に鎖をつけ、部屋のドアノブに繋ぎます。
首には首輪をつけます。

目覚まし時計を1時間おきにセットします。
お腹もいっぱい。

はたから見たら、きっとやべーヤツです。絶対。

でもこれで大丈夫。
きっと大丈夫。


ガチャ…


インナちゃんの部屋にはいると、ふわりと甘い香りがします。
香水とかではなく、洗いたてのお布団のような、清潔な香り。
すこしクラクラしている自分に気が付きます。


「こんにちは、インナちゃん」

「…」


インナちゃんからの返答はありません。


「…」


視線は彼女の身体のあたり。
顔を見ないように…


「インナちゃん、すこし…お話しよう…?」


そう…
私はあなたとお話がしたいんだよ。
あなたの気持ちが知りた…


「…」


気持ちが知りたい…?
目も見ないで…?

ちがう…
こうじゃない。

ちゃんと目を見なきゃだめだ。
ちゃんと目を見なきゃ、言葉の違う人と話なんかできない。


「ふぅ…」


私はゆっくりと視線をインナちゃんの顔に向けます。
インナちゃんは口をぬいぐるみで隠していました。
私をまるで珍獣でもみるように、じっと見つめています。


「…私…かなっていうの…沖田かな…」


私は彼女を怖がらせないように、笑顔を作ります。
インナちゃんは、笑いません。
まん丸のブルーの瞳は、私の身体を写しています。


「…」


でも…本当に可愛らしい顔をしています。
お人形さんみたいだな…
いったいどんな顔で笑うんだろう…
いったいどんな声で泣くんだろう…

私は、あなたのことがもっとしりたい…


だから…もっと…もっと…


近くにいきたい



「インナちゃんッ!!!」


ジャラジャラッ!
ガシャン!!



「インナちゃんッ!…はぁッ!お願い…私と…はぁッ!はぁッ!話そう…?」

「…」

「だいじょうぶ…ッ!痛くしないから…ッ!私と…ハッ!ハッ!」


インナちゃんインナちゃんインナちゃんインナちゃんインナちゃんインナちゃんインナちゃんインナちゃんインナちゃんインナちゃんインナちゃんインナちゃんッ!









「…ハッ」


目が覚めると、私は応接間にいました。
向かいのソファーには島崎さんが座っています。


「私…」

「…」

「またやっちゃったんですね…」

「あぁ…目ざましも意味なかったみたいだね」


私はすぐに状況を把握します。
時計をみるとすでに6時間以上が経過していました。
おそらく最後はインナちゃんに眠らされてしまったんでしょう。


「まぁ初日だし、気を落とすことはないさ。ただ期日がきたら、わかってるね…?」

「はい…」

「今日は帰んな。」

「…明日!明日また来ますッ!」

「わかっとるよ」







2日目



「インナちゃんッ!インナちゃんッ!インナちゃんッ!…」

「…」


ジャラジャラッ!
ガシャン!!


この鎖が邪魔ッ!邪魔ッ!
ハァッハァッ!!!



「終わりだッ!かなを引き上げなッ!」

「クソババアッ!邪魔すんじゃねぇよッ!クソがッ!クソがッ…!」






3日目


「インナちゃん…私、少し広東語を練習してきたの…」

「…」

「ネイホウ…(こんにちわ)」

「…」

「ゴー…セン、オキタカナ…」

「…」


インナちゃんは、もう私に完全に飽きているようです。
もう私の方すら向いてくれません…


「ネイホウ!」

「…」

「えっと…えっと…ネイセッムセックォーントンワー…」

「…」


私が思い出しながら広東語を話していると、インナちゃんが不機嫌そうに振り向きます。


「…」


その時…


ぐるるるるるる


「え?え?まって…嘘でしょ…?」

「…」

「インナちゃん…まって…それだけはいや…」

「…」

「ごめんッ!私はただ友達に…!」


突然、お腹が痛くなりだしました。
一番爆発してほしくない欲求が、私の中で爆発します。


「…いやッ!!!!」







「…最悪だ…」

「…かな、あんたいくつだい?」

「…19です。」

「…。…まだ子供だから…」

「19歳の女子がお漏らしなんかしません!!!!」


慰めてくれている島崎さんについ大きな声を出します。

排便欲…
本当最悪だ…
お嫁にいけないってのはこの事だ…


「あの…麻衣さんや…イノさんにこのことは…」

「言わないよ。もう諦めるかい?」

「いえ、また明日来ます。」

「頑固な子だねぇ…」






6日目

4日目と5日目は、結局部屋に入った瞬間に眠らされてしまいました。
でもここに来て、なんとなく彼女の能力を理解し始めます。

なんとなくですが…
インナちゃんの『プッシー・キャット・ドール』は、自動で発動する能力ではない気がするんです。
彼女が、望んだ時に発動する…彼女の意識で操作する能力。
そんな気がするんです。


ガチャ…


「ネイホウ…インナちゃん…」

「…」



インナちゃんは、今日もそっぽを向いています。



「インナちゃん…私、インナちゃんとお話したいの…お話…」

「…」

「なんでもいいの…好きなぬいぐるみのこととか…なんでも…」



インナちゃんはこちらを向きません。
私は近くに置いてあったウサギの人形を手にとります。



「へいへいっ!…僕はウサギのぴょん太だよっ!インナちゃんっ!こっちむいてよぅ!」



声色を高くしてウサギの人形をぴょんぴょんさせます。
インナちゃんはチラっとこちら向きます。


「…」

「インナちゃん…」


しかし…


「インナちゃん…インナちゃん…」


彼女を見た瞬間。
また自分の中がとある欲求で満たされていくことに気づきます。


「はぁッ…はぁッ…」


ダメだと…
わかっているのに…


「インナちゃんッ!」


ジャラジャラッ!


「インナちゃんッ!インナちゃんッ!」


ジャラジャラッ!


ダメ…わたし…
こんなんじゃ話なんかできない…
その時…


ジャラジャラ…
ガチャ…

バンッ!

「!」


私を縛る鎖が繋いであったドアノブが壊れ、私の身体が自由になります。


「インナちゃんッ!」


私は、彼女に駆け寄ります。
だめ…また私…欲望に負けてる…

だめだ…

っ…


だめだ!!!!!!!





「『ここにいて』」


ズゥンッ!
ドンッ!

とっさに自分に『イエロー・スナッグル』を発動します。
自分の重さで耐えられなくなり床に倒れます…


「ッ…!」


痛い…
まだ欲求がおさまらない…
だめだ…まけちゃだめ…


「イ…ンナちゃん…ッ」

「…」

「おはなし…しよう…?」


私は、あなたのことが知りたいんだ…
私のことを知ってほしいんだ…

私は…


「友達に…なりたいの…」



ポゥ…




その時…
身体を支配していた欲求が、ふわっとなくなります。


「…」


インナちゃんを見ます。
さっきまでとは違い、少し私を心配そうに見ています。
けど、彼女の顔を見ても私は理性を保てていました。


「『ごめんね』私…」


私は能力を解いて立ち上がります。


「…インナ…ちゃん?」


来た…
インナちゃんが、私にかけた能力を解いたんだ。
私は彼女の横にすわります。


「…インナちゃん、あのね…」


話さなきゃ…
でも何を?

今までどんな生活を送ってきたのか?
なぜその能力を身につけたのか?

イノさんだったら、きっと聞くでしょう…
でもきっと、この能力はインナちゃんにとってのトラウマそのもの…
そんな気がするんです。


「…」


目の前にいる少女を前に、私は何もできなくなっていました。
言葉がでない…

ロシア語や広東語が話せないからじゃない。
何を聞けばいいのかわからなくて…

私とインナちゃんは、ただただ見つめ合います。


「…私…」


いや…


「…」


話す必要なんかないんだ…


「インナちゃん…」


私は彼女に優しく微笑みます。

そして、
どの国の言葉も使わず…
どの国の人にでも伝わるように…


「…!」


彼女を優しく、けれど力強く抱きしめました。



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