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五章 帝国の洗礼

百八十四話 ギリギリの脱出

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「人払いは済んでいるだろうね?」
「ええ、もちろんですとも。とはいえ、今は高ランク冒険者達が蔓延ってますから、せいぜい五分が限度ですぜ?」
「問題ない。それまでに全てを終わらせればいいだけだから」
「そっすかぁ。ではでは、また何かあればお呼びくださいっすぅ」
「……相変わらず奇妙か喋り方だな。まるでかの様だ」
「へへへっ、お褒めに預かり光栄ですね!」

 声だけ聞いていれば、まるで複数人の人が話しているかのように聞こえる奇妙な二人の会話。

 そして彼等の前には高密度な魔力の塊が浮遊しており、今にも爆発してしまいそうなほど不安定な状態であった。

 その魔力を生み出して操作しているのはどうやら研究者のようで、真下には彼が拠点としていた教会があった。

「さて、そろそろ消し飛ばすか。死にたくないのなら離れておきな」
「お小遣いどぉもぉ」

 背後から老人のような返事を受け取った直後、研究者は目の前に浮かぶ魔力の下半分を解放する。

 そして放たれる教会全体を包むほどの極太の魔力光線自体は意外にもほぼ無音で、しかし魔力光線に耐えきれずに崩壊した教会の音が鳴り響いた。

「うん、こんなもんか。いい塩梅に更地になったし、証拠ごとネズミ達も消滅してくれただろう。それと、コレには改良が必要のようだね」
「おやおや、教会が跡形もないですな。まったく恐ろしいことですなぁ」

 研究者が放った魔力の光線はどうやら彼の魔術や能力では無いらしく、彼自身が作った杖型の魔道具であり使い捨てなのか一度の使用で焼き切れる。

 魔力光線を食らった教会はもはや跡形もなく、街に初めて来た者がこの場所を見ても何があったか正確に当てることは不可能だろう。

「これで僕がここにいた痕跡も証拠も実験内容も綺麗さっぱり無くなった、と。じゃあ次の街に行くとしよう。君はどうするんだい?」
「おでとの契約はこの街の内でごんすから、街をでるなら契約は終了でごんす」
「だろうね。君は他の奴らはとは違って役に立ったから惜しいが、契約という形で雇った以上仕方がないか」

 研究者は少し残念そうに肩を落とすが、仕方がないと割り切り次の予定の為に頭を働かせる。

 どうやら彼は幾つもの街で今回と同じようなことを繰り返しているようで、今回も流れ作業のように証拠を消して次の街へ移動する様だ。

「ではでは、契約は明日までということでございますね?」
「ん~……いや、そういえば僕に偽物を掴ませた奴がいたからね。そいつを処理してから出るから三日後かな」
「了解しましたわ。私も同行しましょうか?」
「よろしく頼むよ。君の能力は証拠の処理にも便利だからね。実行は二日後だ」

 そう言って彼等は元教会があったこの場所を後にする。
 研究者にはもはやこの場所に対する興味は無く、振り向くことすら無くこの街の何処かに身を潜めた。

「……ぷは~!死ぬかと思ったね~♪」
「だな、脱出する直前に時間切れになるとは」
「も、もうコリゴリでやんすぅ……」
「だっはっはっ!またテルとネルに感謝しなければな!」

 魔物化した一般人達を振り払い、何とか出口にたどり着こうとした瞬間に先程の極太の光線が俺達に襲いかかった。

 このままだと全員が死ぬと思った俺は、あいつに生存をバレる可能性がありつつも能力を付与した斬撃で一瞬ではあるが無理やり魔力を食い止める。

 そしてシエの手を掴みガイスに捕まることで、ネルの能力を俺達にも付与してもらい強引に脱出したのだった。

「アイツが戦闘向きじゃないと言っていたのが本当だったのが救いだな。俺達の気配を感じ取れず、そのままここを離れたらしい」
「さっきのビームで私達を倒した確信もあったんだろうね~♪」

 何とか出口したが瓦礫に埋もれてしまった俺達は、すぐに瓦礫から出ることはせず気配を殺して研究者が離れるのを待った。

 そして彼が離れた事が分かったのと同時に、研究者には複数の声を持った奇妙な仲間も居ること。そして次に彼が何処かに現れることを知ることが出来た。

「そのうち冒険者達がここに来るだろう。後処理は彼等に任せるとして……二日後、どうする」
「ふん、そんなの決まってるだろ?……あいつに仲間全員殺された。その復讐は終わってねぇ……!」
「あ、あんなビームを撃てる奴と戦いたくないでやんすけど……仲間の仇は訴ちたいでやんす!」
「そうか……わかった」
 
 どうやら彼等の覚悟は想像よりも重く、そして強い様で。
 家族にも近い仲間が全員実験台にされ、そして全員消し炭にされた。さらに言えば、自分達も殺されそうになったのだ。
 
 なのにも関わらず、彼等は絶望することも無く仇を討とうとしている。……いや、もう絶望する時は通り過ぎたのかもしれないな。

「そういうお前達はどうなんだ?」
「ん?俺達か?」
「ああ、一応冒険者としての仕事は終わりだろう?なら、お前達は戦わなくてもいいんだぞ?」
「え、テルの兄貴達は戦ってくれないんでやんすか……?」

 ガイスは俺達を気遣うように、ネルは不安そうに質問してくる。
 ……何を今更なことを言っているのか。

 俺とシエは一度目を合わせながら、少し呆れつつ説得するようにガイス達に話す。

「ここまで来て、今更『俺達には関係ない』なんて言うわけないだろ?俺達もあいつをぶん殴りたいしな」
「その通り~♪私もあの上から目線野郎にめちゃくちゃイラついたしね~♪」

 そもそも俺達は教会に狙われている。そしてあの実験で俺達も聞きに晒されるかもしれないし、そもそも合法かつ人道的な実験なわけが無い。

 例え焼け石に水であったとしても、少しでも遅らせる為にあれは確実に防ぐべき実験だ。

「ありがとう、二人とも。よし、二日後にアイツらが襲撃する場所を探すぞ!」
「了解でやんす!」
「お~♪」
「その前に少しいいか?」
「ん?なんだテル。何か妙案でもあるのか?」
「いや、そろそろ冒険者が来るからガイス達は離れた方がいいと思うぞ?」

 俺の言葉に慌てだしたネルを見ながら、次に襲われるであろう場所に思考をめぐらせるのであった。


 ♦♦♦♦♦


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『【短編】殺戮に嫌気が刺した死神様は、純白少女に契約を持ち掛けられる』という作品も投稿してみました。
 二千文字程度なので良ければ見てみてください!


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