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四章 罪の元凶

百三十六話 研究の成果

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 グランに夕食を奢ってもらった次の日、俺とシエはグランと会う前にシエの器を預けた研究所に向かった。

 案の定人通りは少なく、明らかに散らかった建物に近づくと微かに魔力を感じた。

「おおおお!おおおお!!!キタキタこれんだぁぁ!」
「お、やってるな。どんな感じだ?」
「そろそろ器を返して欲しいんだけどな~」
「ああ、君達んか!ちょうどいいところに来た!ぜひ研究成果を見て行ってくんれ!」

 そう言って彼は何の変哲もない市販の剣を取り出す。そしてそれに鑑定書を使い、その結果を俺達に見せつけた。

 そこに書かれていたのは見た目通り普通の剣の説明でランクは最低の『黄』ランク。どこをどう見ても普通の剣だ。

「これは?」
「これは見た通りただの剣だ。これを強化して見せんよう!」
「お~♪」

 そう言って彼はシエの器がセットされた装置の中に剣を設置し、そして目の前の取手に手をかける。

 その取手には魔石が組み込まれている様で、それに博士は能力を発動させた。
 この装置は自前の魔力が必要なのか?それとも博士の能力か?

 そんなことを考えた瞬間、博士から彼が生み出したとは思えない程の莫大な魔力が装置の中に流れて行く。
 その量はシエを持ってしても戦慄するほどの様だ。

「す、すごい魔力……!?」
「これは……能力を使って魔力を増大させてるのか?」
「行くんぞぉぉ!」
 
 博士は勢いよく取手を下げる。そうすることで博士が流し込んだ魔力が装置を伝い、そしてシエの器にたどり着く。

 器は莫大な魔力を溜め込み、本当に発光しているかのように強い魔力光を放つ。
 膨大すぎる魔力故か、器は今にも崩壊しそうなほどカタカタと震えていた。

「おお!素晴らしい!素晴らしいんぞ!!持ち主が近くにいるからか?!今まで以上に魔力を溜め込んでいんる!!」
「お、おい。これ本当に大丈夫か?」
「爆発しそうだね~!?」
「勿論だ!さぁ、これが研究の成果だァァァ!!」
 
 博士が叫んだ瞬間、器に溜め込まれた魔力が先程設置した普通の剣に送り込まれる。

 一瞬、本当に爆発が起こったのかと思うほどの光と魔力の波動を感じたが実際はそんなことは起こらず、耳がキーンッとするだけで終わった。

 莫大な魔力の影響で発熱したのか、液体が蒸発するような音を立てて装置が停止する。
 博士は装置から剣を取り出し、最初と同じように鑑定書を使い俺達に見せてきた。

「ほ、本当にランクが上がってる……!」
「ランクが『黄』から『青』になってる~!凄い凄~い♪」
「素晴らしい……!ランクを一つあげるどころか二つも上がっていんる……!過去最大の成果だ!!」
 
 ランクが上がったということは単純に武器としての品質がかなり上がったことを示す。
 
 この結果をか分かりやすく説明するとすれば、使い物にならないくず鉄の塊を全く同じ体積の金塊に変えたのと同じくらいの結果だ。
 
 鑑定書を見る限り特殊な効果こそ付与されては無いようだが、それでもかなり強力な武器としての強さを発揮してくれるだろう。

「この武器はお前達に譲ろんう。これだけでは感謝を伝えきれないんが、感謝の印だ」
「い、いいのか?これを研究に使ったりは……」
「大丈夫だ。ここにあっても邪魔になるだけだからんな。それに、二ランク上げたものは無いが幾つかランク上げたものは保存してあんる」
「そうか。なら遠慮なく受け取ろう」

 正直、俺には必要の無いものではあったが、いつか使うときがくるかもしれなのでありがたく受けとっておく。

 『緑』ランクの武器までは意外と店で売ってあるが、それ以上の武器はあまり売っていないし値も張るのだ。

「剣も凄かったけど~、さっきの魔力も凄かったよね~♪あれって能力~?」
「まだまだ……付与……効率……」
「あれ?おーい、エールス・グサルノラ博士~」
「ブツブツ……ん?ああ、済まない。考え事をしていんた。なんだ?」

 どうやら博士は研究のことで考え事をしていたようで、シエの問いを聞き取れなかったようだ。

 シエが何故フルネームで呼んだのかはこの際どうでもいいとして、俺も気になっていたのでシエの代わりに博士にもう一度問う。

「あの魔力は博士の能力か?」
「魔力?……ああ。装置に送り込んだ魔力の事んか。あれは私の能力だ。私はこの世の気体、もしくは液体を魔力に変換出来んる」
「えぇ!?それってかなり強い能力じゃない~?」
「いや、そうでも無んい。魔力は変換した素材によって変わる時間制限があってんな、時間を過ぎると変換の素材に戻るんのさ。つまり、水を魔力に変えて『火球』を出しても数秒後にはただの水に戻ってその場に落ちる」

 どうやら博士自身も色々と試したことがあるようで、愚痴のように色々と話してくれた。
 確かに魔力に変換した物体がすぐに元に戻るの戦闘にも使うのが難しいかもしれない。

 もし魔石にでも保存できたのなら、それだけで一財産は築けただろう。

「だが、逆に言えば変換して即座に消費する研究になら最高の能力だ!因みに、今のは私の周りの空気を使っていたぞ」
「え……、それってかなり危険では?」
「ああ。いつもは呼吸装置をつけての実験だったが、研究に興奮しすぎて忘れていたんよ!にはは!」
「いや、にはは!じゃないんだが……」

 どうやら彼は研究者のイメージ通りの没頭すると周りが見えなくなってしまうタイプの様だ。
 運良く空気を消費する速度より追加される空気の方が多いから良かったものの……。

 そんな俺の心配を他所に、シエはさらに疑問が湧いたのか博士に問いを続ける。

「あれ?でもそれじゃあこの武器も元に戻っちゃうの~?」
「いや、そんなことは無んい。まぁ詳しいことはまだまだ分からないが、どういう訳か能力を使ったは消えないらしんい」
「結果の結果~?」
「ああ、例をあげるなら火属性の基本魔術である『種火』。あれの魔道具に変換した魔力で発動して火を付けた焚き火は通常の火と変わらず燃え続けるんだ」
「えぇ~?すぐに消えちゃいそうだけどな~」
「ああ。私もそう思ったんがそうはならなかった。どうやら何かに燃え移った時点で魔術ではなくなるらしんい」
「……なるほど。興味深いな」

 結果の結果……か。何かのヒントになるかもしれないな。記憶に留めておいて損はないだろう。

 そんなこんな質問しながら、装置からシエの器を取りだしてもらう。
 シエに返す時、博士はとても名残惜しそうであった。

「な、なぁ。あともう一日貸してくれないんか……?」
「貸してあげたいけど、私達にも予定があるからな~」
「だよなぁ……。まぁ、当分必要ないからそれまでにどうにか確保するんか……」

 博士は気だるげな様子でベッドに倒れ込む。もしかしたらあれから寝ていないのかもしれない。

 まぁ、約束は約束なのでもう一度貸すことはないが、何か研究に役に立ちそうなことがあればここに持ってきてあげてもいいかもしれないな。

「じゃあ俺達は行くよ。研究頑張ってな」
「たまにはお風呂にも入るんだよ~♪」
「うぃ~……」

 用が済んだ俺達は博士のまるで酔っ払いみたいな返事を聴きながら建物から出る。
 なんやかんやで色々な事を知れたのである意味有意義な時間だったかもしれない。

 今後も博士の活躍には期待しておこうと思う。博士ならきっと成し遂げてくれるだろう。

「え~と、おじさんとは何処で待ち合わせだっけ~?」
「近くの冒険者ギルドだ。それはそうと、器の調子はどうだ?」
「ん~、特に違和感はないかな~♪あ、でも色々と汚れちゃってるから後でお手入れしなきゃな~」

 シエと次の予定について話しながら、待ち合わせ場所に向かうのであった。

 
 ♦♦♦♦♦


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『【短編】殺戮に嫌気が刺した死神様は、純白少女に契約を持ち掛けられる』という作品も投稿してみました。二千文字程度なので良ければ見てみてください!

 
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