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三章 再開の灯火
百十一話 覚悟の光
しおりを挟むこれ以上エタらせたくないので、ちょっとだけ文字数多めにします!
♦♦♦♦♦
俺とリシュアはお互いに睨み合い、集中力を深めていく。リシュアの殺気は段々と鋭くなっていき、その体の周りに浮かぶ刀の数もどんどんと増えて行く。
俺は痛みと疲労で今にも崩れてしまいそうな体に心の中で喝を入れ、負ける事など考えず勝利のことだけを考える。
「テルさん……すみません。能力が進化しません。やはり私では……」
進化しそうな前兆は見えるのに、ユーミーの能力は一向に進化しない。多分だが、ユーミーの中にはまだ迷いや雑念。願いを願いきれない恐怖や疑問があるのだろう。
「ユーミー」
「は、はい」
「お前の知りたいという気持ちはその程度なのか?」
「わ、私は」
「そうだな、今俺の中にある気持ちはなんだと思う?」
「テルさんの気持ち……ですか?」
「ああ」
俺はそう言いつつ、今俺が感じている感情を探りだす。
……そうか、俺はこう思っているのか。
「死にたくない……いえ、勝ちたい、ですか?」
「惜しいな。俺の気持ちは感情は……」
この場所に来てリシュアを目の前にしてから更にと膨れ上がり出した感情。それを頭の中で言葉にして下に乗せた。
「憎悪……殺したい、だ」
「て、テルさん?」
「ははっ!お前もそういう顔ができるんだな!良いぜ、本気で殺しに来やがれ!」
戦うことに集中する事で忘れていた、リシュアに……サンガシ家に対する深い深い憎悪としか表現出来ない感情。
言葉にすることでサンガシ家が今まで俺に対する扱いが鮮明に蘇り始めると、俺の発する気迫が今までのような闘志と呼べる様な物が混ざった気迫では無く、純粋なまでに深く濃い殺気に変わり始めた。
リシュアの言葉的に、俺はかなりの顔をしているのだろう。
「いいか、ユーミー。ただただ純粋に自分に素直になれ。怒りでもいい。歓喜でもいい。憎悪でも何でもいい。能力は自分自身を信じる者にだけ力を与えてくれる」
「自分に……素直に」
「リシュアを見てみろ。あんな奴だが自分を誰よりも信じているから強い。能力を信じているから強い」
リシュアは自分自身に誰よりも自信があり、誰よりも強いと確信している。勿論それだけでは強くはなれないが、強くなるための重要な要素の一つなのだ。
はっと、俺はユーミーに語りながらとある事に気づく。今まで俺はこの憎悪をどうにかして消そうとしていた。だが、それでは俺は強くなれないことに。
俺はこの憎悪を受け入れる。確かに今まであの屋敷で経験したことは思い出したくもないぐらいに辛く不快な思い出だ。だが、それは俺を構築する一つの歴史であり、俺を強くする経験であった。
「テルさん……刀が……!」
「力とは、力を信じる者だけに与えられる。だから、誰よりもプライドの高いあんたのそんな所だけは尊敬してるさ」
「はっ、全く嬉しくねぇな!」
紋章の器である俺の刀がうっすらと光り始める。今のユーミーと同じ、進化の予兆だ。
俺はリシュアに対する憎悪をどんどんと高める。自分でも抑えきれないほどに殺気を放ち、そしてそれが制御出来る自分の感情だと理解して自分の力とする。
ユーミーだけ頼りにして戦う訳には行かないんでね。
いざ、ぶつかり合う。そう思ったその時、俺たちの頭上辺りでガンッ!という音が鳴り響く。
俺達が一斉にその方向を見ると、シエが仁王立ちして俺達を見下ろしていた。
「ふふん!私とレインちゃんでこの装置を無理やr……正確な方法で開けることに成功しました~♪はてさて、テル君ばかりに集中してていいのかな~?」
「よくやったぞシエ!」
確実に「無理矢理」と言おうとした事はこの際無視し、シエがこのタンクをこじ開けることに成功したことを褒める。
「……もうタンクを開けたのか?」
「え?いやまだですけど~?」
「そうかそうか、ならそのまま開けない事をオススメするぜ。なんせ……」
リシュアはまるで悪巧みを成功した様にニヤリと笑う。もしやシエの方に刀を放ったのか!?と、思ったがどうやらそうではなく、リシュアは驚きの言葉を続ける。
「その液体は特殊でな、空気と触れれば数秒で爆発を起こす。その威力はこの工場だけでなく、かなりの被害を出すだろうぜ?」
「は、はぁ~!?そんな液体あるわけないでしょ~!」
リシュアの言葉にシエは全く信じてないように叫ぶ。だが、俺にはリシュアの表情や口調からは嘘は見えなかったし、実は俺はその液体に覚えがあった。
「本が大好きだったお前なら知ってるんじゃないか?なぁ、無能?」
「……『ルゼハ原液』。人族の国から真反対の場所にある魔境の奥にある、空気と触れ合うことで大爆発を起こす液体。かなりの危険性があるが、加工することで多種多様な効果を持つ液体を合成可能な正に夢の液体」
「し、知ってますそれ!そういえば最近大量入荷されたって噂が……」
「正解だ!無能にしてはなかなかやるな」
この液体自体はかなり前から発見されていたが、数年前に発明された安全に『ルゼハ原液』を採取、保存、加工をすることが出来る魔道具が出来たことでかなり有名になった液体だ。
その戦略的実用性から沢山の情報が広まり、武で成り立つ貴族としてはその存在を知らない方がおかしい液体だ。
もしリシュアの言葉が正しいのなら、シエがタンクを開けた数秒後にはこの工場を中心に大爆発が起こるだろう。
だが、それはこの液体を奪わせないようにするための嘘かもしれない。それを考えると、その情報だけ持って液体を奪わずに帰る訳には行かないのだ。
そんな俺の思考の邪魔をするように、何処からかベルの音が数秒間鳴り響いた。
「ああ、もうこんな時間か。いい事を教えてやるよ。この魔道具は俺がこの工場にいる間、数時間ごとに俺が暗号を入力しなけりゃタンクを強制解放する。今のは十分前の警報だ」
「え、それってまさか……」
「そうだ!俺に負けりゃお前達は死に、例え俺に勝ったとしても爆発で死ぬ。もうお前達は詰みなんだよ!」
「そ、そんな……」
「なら……爆発までにお前を倒すまでた!」
俺は少し焦りを感じながらリシュアに飛び掛る。そう簡単に倒せるとは思わないが、もう立ち止まってはられなくなった。
「はっ、焦りが見え見えだぜ!死ねや!」
「くっ……集中しろ。殺気を刀に!!」
思い出せ!屋敷を出るまで俺を追い詰め続けたあの苦行の数々を。怒りを!憎悪を!そしてその感情に身を呑まれるな!
「テル君!こっちは私に任せて!テル君は全力で戦って!」
「わかった!」
「暗号はあいつにゃ分からない!どうやっても詰みなんだよ!」
俺はシエを信頼して全てを託し、爆発に関する思考は全て捨てる。段々と俺は焦りがなくなり、深く濃い殺意による集中が深まっていく。
「はっ、無視か?結局お前ら程度じゃ、何も成し遂げることなんて……っ!?」
「あんたの勝手な思考を、俺達に押し付けるな……!」
全ての攻撃をリシュアの命を刈り取るためだけに使え!受けでもフェイントでもない。一ミリでも隙があるならそれを狙え!
「俺達はあんたに勝って、この場からを生きて帰る!あんたが何をしたいかなんて興味無い!ただ……俺達は無能ではないことを証明する!」
「はっ、やってみろ!」
「私は……私は……!」
俺はとにかく攻撃、攻撃、攻撃!今までのような回避を重点的に置きつつの攻撃ではなく、全てを攻撃に使い続ける。
そんな事をすれば防御が弱くなるのは仕方がなく、幾つもの切り傷を全身に着くが致命傷は一切入らない。俺は攻撃こそが最大の防御を全力で体現し続けた。
ユーミーの思い詰めた様な声が聞こえるが、俺はそれに触れない。これ以上はユーミー自信で超えなければならない壁だ。
「図に……乗るなぁ!!」
「乗ってるのは……お前だ!!」
空中に出現した大量の刀が俺を襲う。だが、俺はその攻撃が来たとしても攻撃重視の動きはやめない。
致命傷になりかねない刀だけを一瞬で定め、それらは完全に防ぎそれ以外はできる限り弾きながら常にリシュアに向かって突進しながら刀を振るう。
ダメだ、防御が追いつかずどんどん傷が増えていく。もっとだ。もっと強くならなくてはダメだ!更に速く、更に強く、更に重く、更に鋭く!俺なら、俺達ならリシュアを越えられる筈!!
「はあぁぁぁあ!!!」
「チッ!『雲流撃』!!」
「ぐぐぅ……!」
全力で前へ前へと進み続ける俺を嫌ったのか、リシュアは重さのみを追求した技で俺を吹き飛ばす。だが、この攻撃なら腕にダメージはあるものの受け止めれば戦闘不能になることはない。
「て、テルさん!傷が……!」
「ははっ、ちょっと開いたな。だけど、もう止められない。俺は、俺には力があるってことを証明しなきゃならないんだ!」
「っ!!」
動けなくならない以上、俺が足を止める理由にはならない。傷は少し開いて血がまた出たが、まだポーションを使えば止血はできる。
俺は気配でリシュアを捉えつつ息を整えて足を進めようとしたその瞬間、背筋が凍りつくような感覚が走る。
「死ねやァァ!!」
「っ!?」
リシュアが俺に向けて手を突きつけている。それはつまり、何処からか透明化した刀が飛んできている筈。
何処だ……!?ここは能力を使うべきか!?だが、今ここで使えば俺の唯一の利点が無くなる可能性が高い。
どうする?どうすればいい!?方向さえ分かればなんとでもなるのに!
「私は……私だって、無能じゃないんです!」
「ユーミー!?」
「私だって、役に立ちたい!テルさんに勝って欲しい!そして……」
その瞬間、ユーミーの手の甲にある紋章が強い光を放ち始める。
「私が知らない世界を、私自身の手で知りたい!」
「だからなんだ!お前ら二人とも串刺しだァァ!!」
その瞬間、ユーミーの紋章が眩しいほどに輝き出す。俺やシエとは違う金色の魔力光。それは明確にユーミーの紋章が進化したことを示していた。
「テルさん!あっちです!」
「何っ!?」
「っ!わかった!」
俺はユーミーが指さした方向に向けて『豪旋斬り』を参考にして生み出した防御技、名ずけて『廻閃』を繰り出す。
そして、俺は刀越しに感じるもう何度も経験した感触。何も無いはずの場所から鳴り響く金属同士でしかならない音。
「これが、私の本当の能力です!もうテルさんに透明な刀は当たりません!」
ユーミーは完璧に透明化した刀の場所を言い当てたのだ。
「なんだと……!?何しやがった!」
「ふふふ……それはですねぇ……」
「ユーミー、それ以上は言うな」
「あっ!す、すいません。自ら能力を明かしてしまうところでした。小声でテルさんだけに言いますね……。私の能力は……」
……なるほど、ある意味ユーミーにピッタリな能力であり、この戦いで勝つ為の鍵になるのは確実だ。
俺は内心その強力な能力に驚きながら、戦いに勝てる確信を確かに感じとった。
「チッ!刀の位置がわかった所で関係ねぇ!」
「それはどうかな。行くぞユーミー!」
「はい!」
♦♦♦♦♦
面白い!続きが読みたい!と思ったら是非お気に入り登録等をよろしくお願いします!
『女神様からもらったスキルは魔力を操る最強スキル!?異種族美少女と一緒に魔王討伐目指して異世界自由旅!』という作品も連載してます!ぜひ読んでみてください!
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