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三章 再開の灯火
八十二話 効果の結果
しおりを挟む俺はハッとして靴を脱いで足の先を見る。ブラックシャボルは食べると足先から真っ黒になっていくらしいのだ。
俺は自分の足先をまじまじと観察するが……うん、違和感は無い。黒くもなって行く様子も無い。
「はぁ……。良かった……」
「ブラックシャボルの汁は透明になったし、ちゃんと成功してるハズなんだけどな~」
シエが魔術のを使った途端、ブラックシャボルのまるでインクのような黒い汁は消えるように鍋の汁と混ざりあった。その際に色の変化はない。
シエはその事を知っていたということは事前に色々と調べたというのは本当なのだろう。
「味は特に変化はなかったが……調理自体は成功してるんじゃないか?こいつはそもそも害のある食材だからな」
「ん~、やっぱりそう簡単に不正はできないか~」
「不正?」
なにか試合でもしているのか?
シエは鍋をよそってそれを口にしながら自分で調べたであろう情報を話し始めた。
「もぐもぐ……。不正っていうか、短縮かな~?このブラックシャボルって果実は、とっても意志が強い食材らしい~」
「意思?果実なのにか?」
「あ、生きてるってことじゃないよ?どういう訳かこの果実はあらゆるものを拒絶するらしくて、その拒絶反応の結果真っ黒になるっぽい~。色が黒いのは空気を拒絶してるから。体が黒くなるのもね~」
原理は分からないが、この果実にはそういった副作用があるのだろう。
これが空気に触れた事で変わっている色なら、実際の色はどんな色なのか気になる所だ。
「じゃあ、さっきの魔術は?それがシエの言う不正って奴か?」
「そそ~♪『調合安定化』って魔術は調合師の人達が喉から手が出るほど欲しい闇属性魔術なんだよ~?逆に言えば闇属性使いの人の半分以上は調合師ってぐらいね~♪」
「そういえば、それは少し聞いたことがあるな。確か時間を掛けて素材どうしを合成する調合の時間を大きく省く事ができる魔術だったか?」
「さっすがテル君!博識~♪」
なるほどな。確かにそれを使えばブラックシャボルの拒絶反応を強制的に取り除き、他の素材と融和させることができる。
そしてそれは実際に成功したが……。味に関して特に変化を及ぼす事は無かったようだ。
「本当の調理法は何時間も掛けて食材とブラックシャボルを融和させる事なんだけど~……。きっとそれは拒絶反応を取り除くだけの効果じゃないんだろうね~」
「かもな。昔の人の知恵はそう易々とバカにはできない。それに、魔術も絶対に万能とは限らないからな」
「だね~」
完璧に美味しく料理されたブラックシャボルもいつか食べてみたいなと思いながら、俺達は交代で眠る準備を始めるのであった。
♦♦♦♦♦
「テル君~、朝だよ~」
「……ん?ああ。今起きる」
次の日の朝。シエに揺すられて目が覚める。
野営場で比較的安全な場所とはいえ、本番の事を考えて野営するのがこの場所の意味。俺達は順番に見張りを交代して睡眠を取った。
それは俺達にとって初めての経験なので正直まだまだ寝足りないという気持ちが強く、あまり元気が出ないのは仕方がないだろう。
これは今後の為に早く慣れるべきだな。
「……ふぅ。やっぱり、ベット以外で寝るのは体に来るな。寝泊まりできる馬車が欲しいと思うのは贅沢か?」
「そんなことは無いと思う~……。ふぁ~……」
体を伸ばして軽く目を覚ましてそう言うと、俺よりもシエはベットが恋しそうに欠伸をした。
馬車……。まぁ、そんな物を買えるほど余裕はない。馬に関してはレインがいるので何とかなるかもしれないが、馬車を買えば馬車置き場で料金だったり、そもそもレインの為の食費も増えたのだ。
余程の収入があがったり誰かから貰ったり格安で買えたりしない限り数年後になるだろう。レインの成長もあるしな。
俺達は睡眠欲に負けそうになるのを耐えながら体を伸ばしつつテントを片付ける。レインはどうやら寂しがりな様だったので早く迎えに行ってやらなければ。
焚火の火もちゃんと消えてるのを確認して俺達は馬小屋に向かう。暇そうに地面に置いてある藁をいじくっていたレインが俺達を見つけると嬉しそうに鼻息を鳴らした。
「ブルルン♪」
「待たせて悪かったな。さ、行くぞ」
「テル君になついてるね~♪」
レインはシエよりも積極的に俺にすり寄ってくる。まぁ、レインを助けるためにウルフ達を倒したのは俺なので当然と言えば当然かもしれない。
そういえばレインにも装備が必要だな。今後戦闘にも参加してもらうことも考えつつ、直接乗馬することも考えるとサドルも欲しいな。
「そういえば、魔物は普通の動物と違って魔素の吸収で成長が加速すると何かで書いてあったな……」
「魔素~?」
「紋章が魔物を倒すと徐々に強化されて行くのと同じ現象のはずだ」
魔物が魔物と言われる所以。それは魔物を構築する魔力にある。
生き物の肉体は大なり小なり魔力で構築されている。魔力で構築されているからこそ魔力を操作することもできるし魔力で身体強化をすることが出来るのだ。
昔から魔物の事を魔物と呼んでいるから、というのも理由の一つだが、今の正式な理由として魔物は通常の生物より魔力で呼応精されている肉体の割合が多いかららしい。それゆえに肉体の成長や環境への適用がかなり早いらしい。
「じゃあ、レインちゃんは積極的に戦わせた方が早く大人になるってこと~?」
「そうだな。単純に強くもなるし俺たち二人が同時に乗れるようにも意外と早くなるかもな。まぁ、今日は戦闘より先にテイム登録しよう」
「ブルルン!」
俺達は受付をしているおじいさんに軽く会釈しつつ門に向かう。やはり朝だからだろう、馬車は全くいなかった。
「ふわぁ……。朝っぱらから門番はきつい……」
「ちょっといいか?ここを通りたいんだが、テイムの証はこれでいいか?」
「んあ?そいつは……、ああ。大丈夫だ。ただし、そいつが適用されるのは今の一回だけだ。王都に入ったら買いなおしてくれよ。確か冒険者ギルドで売ってるはずだ」
「わかった。助かる」
「あざま~す♪」
門で受付をしながらこの首輪がちゃんと使えるのかを確認する。どうやらちゃんと使えるようだ。
門を通って王都の朝の活気とレインに対する好奇の視線を全身で感じつつ、俺達は冒険者ギルドに向かうのであった。
「……フフフ。このまま目立てば~……」
「ん?何か言ったか?」
「何でもないよ~♪」
「ブルルン!」
♦♦♦♦♦
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『女神様からもらったスキルは魔力を操る最強スキル!?異種族美少女と一緒に魔王討伐目指して異世界自由旅!』という作品も連載してます!ぜひ読んでみてください!
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