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三章 再開の灯火
七十九話 思考の交差
しおりを挟む(凄い……。まだ立て……って、テル君?!)
「……はぁ!」
「?!」
「キッ……」
「「「ガルゥ!?」」」
俺はシエの驚きの声を無視しつつ自分の意思に従って動く。
今の俺ならこの程度の魔物なら四匹居てもどうにでもなる。
今まで狩る側だと思っていたゴアウルフ達は突然の俺の出現に対応することは出来ず、一番俺の近くにいたゴアウルフはそのまま俺の奇襲喰らう。
背後からの一撃で俺が現れたことすら気づけず絶命させ、そのまま間を置かずに次の首を狙う。
流石に仲間一人殺られた事に気づいたゴアウルフ達は即座に俺の事を危険な存在だと認識し、俺に明確な殺意を向ける。
ゴアウルフは紋章を光らせその鋭い爪に魔力を纏わせて襲いかかってくる。
情報通りならば爪自体の鋭さの強化の筈だ。
その能力を考えるならば、ゴアウルフ達の次の行動を予想するの簡単。一番近いゴアウルフに接近しつつ、俺は姿勢を低くする。
それと同時にゴアウルフは俺の想像通り爪を有効活用するために飛びかかって来る。
想定通りの動きをしたゴアウルフは俺にとってはゆっくり動く大きな的でしか無かった。
「はぁ!!」
「キャウ……!」
「ガルァ!」
「『反波』」
ゴアウルフを胴体を切り裂きつつ、そこから流れるように喉を切り裂いて絶命させる。
そして後ろから飛びかかってくる気配を感じていたゴアウルフに対してカウンターの構えを取り、俺の刀が届く範囲に距離に入った瞬間にはゴアウルフが反応できない速度で首を切り落としていた。
残りの一匹は……俺が一睨みするとそのまま走って逃げて行った。賢明な判断だ。
ふぅ、と息を抜いて体の緊張を解く。シエが草むらから出てくるのを感じながら刀に付いた血を払って鞘にしまった。
「テ~ル~君?突然飛び出るのは私の心臓に悪いから辞ようね~?」
「飛び出たことは謝るが、お互い様だな。それより……」
俺はシエの文句を軽く流し、俺が飛び出た理由に目を向ける。
もう体に力が入らないのか地面に伏しているが、その目は俺達を今にも蹴り殺してやる!という感じで俺達を睨んでいた。
しかし、それと同時に軽い諦めと困惑が混ざっているのを俺は感じ取った。
「そう睨むなって。少なくとも俺達は敵じゃない。シエ、回復ってできるか?」
「できるけど、大きい傷はポーションじゃないと無理かな~」
「わかった。できる限り頼む」
「了解~♪あ、今はこれ使おうかな~♪」
「ああ、そうしてくれ」
俺の隣に座り込んだシエはスティックを取り出して紋章から魔石を取り出す。
その中にはシエが事前に溜めておいた魔力が入っており、それを持つことで周りから魔力を奪うのを防ぐことができるらしい。
まぁ、一度使えばすぐ中の魔力が無くなるので大魔術には使えないし、効果がある魔石一個の値段と戦闘中の出し入れ等の実践を考えるとあまり効率的では無いのでこういう時にしか使わなかったりする。
「むむむむ~……『時癒《じゆ》の雫』!今だよ~♪」
「わかった!」
シエが魔術を唱えると杖から現れた魔法陣から雫がこぼれ落ちて馬の魔物に掛かる。
そしてシエの合図に従って中級ポーションを全身に振りかけるように浴びせた。
ポーションの効果がシエの魔術の効果か分からないが、すぐ血は止まり傷はたちまち塞がって最終的には綺麗な深い青の体に治ったのだった。
「シエ、今の魔術は?」
「今のはね~、闇属性と水属性を使った洗浄効果と精神安定効果があって~、さらに自然治癒を底上げする魔術だよ~♪ま、今の私じゃ止血効果と痛み止め程度しか効果ないけどね~」
「いや、それでも十分凄いな」
当たり前のように合成魔術を使っているのにはもう驚くのにも疲れる。
本当に光魔法で出来ることを合成魔術で再現しているのに少し苦笑いしつつ、ゆっくり立ち上がる馬の魔物に少し注意しながら視線を合わせる。
精神安定効果があると言っていたが、突然襲いかかってこないとは限らないからだ。
「……ブルルン」
「お、もしかして感謝してくれてるのかな~?いや~、助けて良かったね~♪」
「そうだな。少なくとも俺達を敵とは思ってないようだ」
俺はゆっくり手を挙げてその顔を撫でるように触る。
馬の魔物は特に嫌がる様子を見せず、じっ……と俺の目を見続けてきた。
何か観察されている?そう思った俺も少し姿勢を正してこいつと見つめ合う。俺もこいつを見定める為に。
……よし、俺の覚悟も決まったぞ。ここまでやったなら責任と取らないと行けないしな。
二分ほど無言で見つめあった俺は口を開く。
「なぁ、お前。俺と一緒に来るか?」
「……ブルルン!」
「よし、決まりだな!」
「えぇぇ!?いまさっきの無言の時間に何があったの!?」
言葉が通じたのかは分からないが、馬の魔物は立ち上がった俺にすり着いてくるように近づいてくる。俺もそれに答えるように撫でてやった。
言葉は通じなかったかもしれないが、心は通じあったようだ。
そんな俺達に意味がわからないと驚きの声を上げるシエ。世の中には言葉以外の物もあるんだぞ。
馬の魔物は……いや、このまま馬の魔物って言い続けるのも悪いな。仲間になったからには名前を付けてやらないと。
「こんな時はこれを使うべきだな」
「え、フル無視~?」
俺が取りだしたのは王都を探索した時に数枚買っておいた『鑑定書』だ。
これは俺が初めて紋章を鑑定した物とは違い生物を鑑定する魔道具で、主に魔物を鑑定する為に用意られるアイテムだ。
他にも鉱石等の物体を鑑定する物や植物等の物体を鑑定する物等のたくさんの種類がある。これらは冒険者ギルドや大きめの商店で買うことができる。
俺は鑑定書に魔力を込めながら馬の魔物に少し近ずける。するとゆっくりとだが文字が浮かびだした。
よし、ちゃんと使えてるな。
「へぇ……、やっぱりな。これからは一緒に強くなろうな」
「ん~、どれどれ~?」
「ブルルン!」
大半が俺の予想通りのことが書かれてらる鑑定書をシエに渡しつつ、俺は馬の魔物を撫でてやるのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
種名:『深蒼馬《しんそうば》(変異種)』 年齢:一歳 性別:メス
説明:『スカイホース』の変異種。全身を包む鱗の色が通常の水色と違い、深い青色の鱗が特徴の魔物。
体重が軽く足が早いスカイホースと比べると体重は重く足は遅い。それ故に仲間には置いていかれることが多い。
その代わりに全身の筋力は発達しており、そこらの魔物等は一撃。遅いと言ってもあくまでスカイホース基準なので通常の馬より圧倒的に速く力も強い。一部では高額の報酬が出させるほどに需要があると言われている。
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