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三章 再開の灯火
七十八話 意志の力
しおりを挟む障壁を張ってテントを自分達で守る必要が無くなった俺達はそのまま森の中を進む。
特に魔物討伐の依頼等は受けてないが、討伐した魔物を売ること自体はできるので意味の無い行為ではない。
あまり同じ魔物を狩りすぎるとその依頼を受けている人が困ってしまうのでそこは注意しなければならないが。
ある程度森を進んで何時もならもう魔物が居てもいい距離に来たが……、魔物の気配が一切しない。やはり一通り駆逐されているのだろう。
「あっ、それなら私に索敵まかせて~♪」
「出来るのか?」
「もっちろ~ん!行くよ~♪」
そういってスティックを取り出したシエは少しだけ唸った後に魔術を唱える。
「ん~……『風弾《ウィンド》』!」
「……ただの弱い風か?それが索敵になるのか?」
シエにしてはその程度の魔術に時間をかけてるなと思いつつ、それで発動した魔術が風属性の最も簡単な初級魔術なので少し聞いてみる。
因みに、魔術の威力的には直撃してもふわっと髪が動く程度だった。
「ふふん♪初めて依頼に行った時のこと覚えてない?あの時、魔術を使った後に魔力草を見つけてたでしょ~?」
「そういえばそうだったな……。なるほど、つまり今のは……」
「そそ~♪魔力を奪うとどこら辺に魔力を持った物体が居るかわかるんだよね~。ぎりぎり野営場に届かない感じで奪う範囲を広くして、できるだけ弱くして詠唱無く一瞬で発動できる且つ、周りに影響を与えない魔術を使えば限りなく相手に影響を与えず索敵できるって思ったんだ~♪」
「なるほどな」
自分の紋章の能力の拡張性を考えて見つけ出し、それを自らの実力として昇華させる。それをやっているのは勿論俺だけではない。
シエも自分の能力が『呪い』でしかない様に思っていたのを克服し、完全に自分の力として使えるように意志の進化をしているのだ。
……グランが教えてくれた鍛冶屋のジェド。彼が言っていた紋章の器の意志は、今のシエの意志と限りなく近く力になっているのかもしれないな。
「で、見つかったか?」
「えっとね~。あっちの方向に少し大きめの魔力があったよ~♪五個だけど冒険者ってほど魔力は感じなかったからゴブリンかウルフかな?」
「わかった。そっちに行こう」
シエが指さした方に向かう。あくまでシエの能力は魔力を奪う能力なので詳しくは対象の種類等は判別できないのだろう。
気配は消しながら俺達はその場所に向かう。魔物の位置的にここはまだ浅い方のはずだが、警戒を怠らないに越したことはない
シエに何となくの距離を聞きながら近づくと、やっと俺のにも気配を見つけることができた。
シエの言ったように、この気配はウルフ系の魔物のようだ。……ん?少し気配が変だな?
「これは……狩りをしている?」
「狩り~?あ、そういえば一回り魔力の薄いのが居た気がする~」
このあたりに生息する主な魔物は『スライム』や『ゴブリン』、『ゴアウルフ』と呼ばれる鋭い爪が特徴的なウルフ系の魔物だ。
そして他にも、あの豚のような顔の『オーク』や血のような赤い見た目で冒険者に恐れられるクマの魔物の『ブラッドベアー』や『スカイホース』と呼ばれる水色で足が速いことで有名な馬の魔物、槍の様なくちばしをもった『ランスバード』という鳥の魔物等が生息しているが、もう少し奥に行ったところにいるはずだ。
「ここらで狩りってことはゴブリンかな~?」
「いや、気配的にもう少し大きいし四足歩行だ。同族狩りのかのうせいもあるが……『スカイホース』か?」
「すかいほーす……もしかして馬の魔物?」
「ああ、そこらの情報はある程度かき集めてる」
「さっすが~♪」
そんな会話をしながら気配に近づくと……少し木々が分かれて小さな広場の様になっている所にゴアウルフ四匹が一匹の魔物を囲んでいた。
中心に居るあの魔物は……、スカイホース……か?少し集めた情報と違って水色ってより青……それも深めの青だ。
だが、見た目は確実に馬。やはり魔物なので少し普通の馬と違って体に鱗のようなものもあるが、馬の魔物に違いないだろう。
今すぐ飛び込んで倒してもいいが、何となく俺達はその様子を隠れて見守った。因みに、周りに魔物の気配はない。
(あの子、逃げ遅れたのかな~?)
(かもな。仲間の気配がないところを見るに、仲間と逸れて森の浅いところに来てしまったのかもな)
俺達は小声で馬の魔物について話す。
さっきも言った通りスカイホースはもう少し深いところに居る筈。しかし、あの馬の魔物は明らかに子供。親や仲間と逸れて……いや、情報と違うあの色……まさか?
「ガルァァ!」
(あっ、ウルフ達が襲い掛かってる!)
(……)
シエの言った通り、ゴアウルフ達がそれぞれ馬の魔物に襲い掛かる。
俺もシエも一瞬でそのウルフの爪で斬り裂かれる様子を頭に思い浮かべたが……予想外のことが起きる。
「ブルルン!」
「キャン!?」
「「なっ!?」」
思わず俺達も少し声が出てしまった。運よく気づかれることは無かったが、それに対する安堵より目の前で起こった現象に俺達は驚いた。
ゴアウルフより少し小さいサイズの馬の魔物がウルフを後ろ脚で蹴り上げたのだ。
しかし、逆に俺は納得した。異様にゴアウルフ達があの馬の魔物を警戒しているな、と思っていたがそういう事だったか。
確かに今思うと、ウルフ達が住む場所に居る所より奥にスカイホース達は住んでいる。それを考えると馬の魔物の方が個体としては強くて当然かもしれない。
とはいえ、魔物の種類とはいえ子供。さらに言えば一対四。
仲間が吹き飛ばされた様子にも動揺せず、他のウルフ三匹も爪で襲い掛かった。
勿論そんな攻撃を対処しきれるはずもなく、一度は避けたが残りの二匹分の攻撃は避けきれず血を出しながら吹き飛んだ。
(ああ……、頑張れ~……)
(もう、立てないかもしれないな……)
その青い体を赤い血で染めながら痛みにもがく馬も魔物。そこにとどめを刺そうと近寄るウルフ達。
戦闘のウルフがその爪を振り上げ、馬の魔物の首を狙って振り下ろした……かと思った瞬間、その顔に馬の魔物の蹴りが炸裂した。
「キュ!?」
「「「ガルゥ!?」」」
「……ブルゥ……ブルルン!!」
「ッ?!」
そして同時に俺は幻視した。あの時の……サンガシ家を追放された後、初めてした命の取り合いの時の俺とあの馬の魔物の姿が重なった。
あれだけの傷を負っても、たとえどれだけ絶望の中に居ても、たとえ家族から見捨てられたとしても、最後まで諦めずに生存を求める。
どれだけ足掻いても現実はうまくいかないことはわかっていながら。
それは人間だろうと魔物だろうと変わらないのだろう。俺は、あの今にも倒れそうな、されど絶対にくじけない意志を感じ取れる立ち姿に、いつの間にか刀に手をかけ飛び出していた。
♦♦♦♦♦
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