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三章 再開の灯火

七十一話 一瞬の出来事

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「く……黒騎士だぁ!!」

 店員の一人が怯えを含んだ声でそう叫ぶ。

 そして、その声に共鳴するように思考と感情が繋がり、恐怖と驚きによる動揺が走る。

 彼らとて自分達の店が黒騎士に狙われているという噂ぐらい聞いたことがあるだろう。
 しかし、噂は所詮、噂。そんな物を真に受けて無駄に資金と時間を費やしてまで警備を厳重には出来ないのだろう。

「おい!侵入者だ!警備員として雇ってるんだから働け!」
「ちっ、なんで俺が居る時にくるんだかなぁ。なぁ黒騎士さんよ」
「本当ですねぇリーダー。楽な仕事だと思ったんだけどなぁ」
「へへ、でも俺達がこいつを倒せば超有名になれるんじゃないですか?」
「……」

 黒騎士が金属の足音をたてながら店の中心に着いた頃、店の奥から人が数人出てくる。
 暗くて見れないが体格的に冒険者達だろう。

 聞こえてくる会話的に警備員として常に数人の戦える人材を雇って居るのだろう。

「ちっ、だんまりか。悪いが、仕事だから本気でいかせてもらうぜ!」
「援護します!」
「行くぜ行くぜ~!」

 リーダーと呼ばれた一番大きな体格の男が武器を抜いて黒騎士に襲いかかり、残りの二人はリーダーをサポートする為にその後ろについて襲いかかった。

 そんな三人組の攻撃から身を守る為に黒騎士が腰から抜いた武器は……二丁の銃だった。

「「「!?」」」
「……」

 黒騎士が使う武器は銃だと理解した三人組は咄嗟に武器を斜めにし、頭部や体の関節等を防御する構えを取る。

 そしてパンパンッ!と、黒騎士の銃から意外と軽い発砲音か放たれる。
 しかし、その銃口はあらぬ方向を向いており、三人組に当たることはなかった。

「はっ、何処に向かって……」
「ギヒッ!?」
「グァ!?」
「何!?」
「……」

 かと思えば、カカンッ!と、音を立てて銃弾は壁や店の商品にぶつかって跳ね返り、的確にリーダーの男の後の二人組の後頭部と顎に直撃させ、一瞬で気絶させた。
 最初からそれが目的だったのだろう。普通の銃弾ならそんなに跳ね返り続ける筈がないし、いくらなんでもそう簡単に気絶するだろうか。

「テメェ……。あくまで人は殺さないってか?善人ぶってんじゃねぇ偽善者がぁ!『極腕力』!ゥオラァ!」

 ただでさえ常人の二倍はあろうリーダーの片腕が能力によって更に倍の大きさになり、その腕で持つとただの片手剣に見える両手剣を振り回した。

「オラオラァ!今の俺にはそんなチンケな銃弾は効かねぇぜ!」
「……」

 魔力の気配的に頭部を身体強化で硬化させているのだろう。確かにその状態なら余程完璧に当たりでもしない限り、さっきの弾丸では直撃しても気絶はしないだろう。

 それは黒騎士もわかっているのか、振り回される大剣を軽く避けながら二丁の銃を腰にしまった……かと思えば、即座にもう一度腰から取り出した。

 その行動の意味を俺達をは一瞬理解できなかったが、即座に理解させられる。何故なら、先程まで確かに銃だった物が月明かりに光る片手剣に、つまり双剣になったのだ。

「はぁ?!いつのま……!?」
「……」
「グボハッ!?」

 避けに徹していた黒騎士は双剣に持ち替えた途端に移動速度を急激に上げ、リーダーの大剣を弾き飛ばしそのまま男を蹴り飛ばした。

 この場にいる殆どの人には見えなかっただろうが、俺の目にはギリギリ見えた。常人には一瞬にしか感じない間に黒騎士はリーダーの鳩尾、胸元、顔面にそれぞれ一回ずつ蹴りをぶち込んでいた。

 それだけの衝撃をくらい、そのまま壁に打ち付けられたリーダーはそのまま意識を失う。
 彼らも弱くはない。寧ろ、警備の依頼を受けられるということはそれなりの実力があるはずだ。

 なのに黒騎士は三人組の冒険者を十分……いや、三分とかからずに全員撃退してしまった。

 圧倒的な実力。それを目の当たりにした店内は静まり返る。
 戦いの間も終始沈黙を貫いた黒騎士は今度こそちゃんと武器をしまい、何かを探すように周りを見渡し始めた。

 そしてその視線は……俺達に定まった。

「えっ、ちょっ、なんかあの人私達見てな……」
「ヤバいっ!?」

 気がついた時にはもう黒騎士は俺達の目の前にやって来ており、持っていた箱から手を離してシエを左手で無理やり後ろに下げつつ、右手は刀に手をのばすが黒騎士の方が圧倒的に早かった。

 黒騎士の手は俺たちに向かって近づき……箱をキャッチした。

「シッ!……って、は?」
「箱が~!?」

 俺の手が刀に届き振り抜いた頃にはもう黒騎士は俺の抜刀範囲には居ない。
 そしてその手には俺達が持っていた箱があった。

 黒騎士が見ていたのは俺たちではなく箱だったのか!

 どうして黒騎士がが箱を狙ったのかは分からないが、何とか取り返すために思案しているうちに黒騎士は箱を開けて謎の食材を取り出した。

 鎧の下の表情は読み取れないのでそれを見てどう思ったのかは分からない。
 しかし、黒騎士は数秒間それを見つめた後……握りつぶした。

 その黒騎士の奇行をこの場にいる全員は呆然と見つめる。もしかして気に入らなかったのか?それともその行動に何か意味が?
 戦闘スタイルすらも謎めいていた黒騎士の一挙一動に誰もが目を話せない。

 そして、謎の食材を握りつぶしたこぶしを黒騎士はゆっくりと開ける。色は分からない。だけど確かに、その手の内には光の反射する謎の球体があった。

 なんだあれは?食材の種?いや、それにしては光沢があり過ぎる。
 ならば黒騎士が元から持っていた物を手品のように取り出した?いや、そんなことをする意味があるとは思えない。パフォーマンスの可能性も無くはないが……。
 一番可能性があるとすれば、やはり最初からあの食材に入っていたという事だろう。

 黒騎士はその球体を口元に近づけた後、適当にそれを放り投げる。
 するとその球体は空中で止まり、そのまま動かなくなった。

 それを確認した黒騎士は体の向きを変え、どこかに行こうと歩を進めようとしたその時。

「なんの騒ぎだ……ひ、ひぃ!?黒騎士ぃ!?」
「て、店長……!?」
「……」

 先程、冒険者達が出てきたドアがバァン!と音を立てて開かれるかと思うと、そこにはふくよかな体型の男性が立っており、この光のない部屋から黒騎士を見つけた瞬間に腰を抜かして倒れた。

 店員の言葉通りこの店の責任者なのだろう。

「く、来るなぁ!」
「……」

 それを確認した黒騎士は剣を抜きながら店長に近づく。店長はその黒騎士を待てビビり散らかしていた。
 いや、怖がりすぎだろ……。とは思うが、その分やましい事があるのかもしれない。

「ヒィ!?」
「……深入りは、身を滅ぼすぞ」
「?ど、どういう……ヒッ!?わ、分かった!もうしないから殺さないでくれぇ!」

 黒騎士は抜いた剣を店長の首元に据えて初めて声を出し、そして店長を脅した。

 暗闇と距離の問題で店長の表情は見えないが、黒騎士の言葉がどういうことなのか理解していないようだが再度脅されて無理やり分からされた様だった。

「……」
「はひっ、はひっ……」

 そうして過呼吸ぎみになった店長から剣を離し、それを鞘にしまった黒騎士は窓に向かって走り出す。

 割れた窓から飛び出し、なんの音もせずこの空間から居なくなった。まるで嵐のようだった。

 そして、それと同時にこの建物内を照らしていた魔道ランプが復旧する。

 店内は戦いがあったことで荒れまくっており、店の中心には未だになぞの球体が浮かんで居るのであった。



 ♦♦♦♦♦


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