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二章 強さの道筋

四十九話 実感の狙撃

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 俺達の試合の番は多分だが三回目。それまで軽く体を動かす。

 先程の試合を軽く見た感じ、殆ど同格の実力で組まされているのは確かなようだ。
 そして試合が終われば、それぞれの良い所と悪い所を指摘して貰っていた。

 そういえば、明確に遠距離タイプの敵と戦ったことは無いな。しかも限りなく接近戦に近いスタイルで。
 彼はどんな戦い方をするのだろうか?

 チラッと、弓使いの彼に目を向ける。

 彼は矢を十発撃てばマネキンに近づき、矢を拾って元の位置に戻ってまた撃つを繰り返していた。

 そして俺の視線に気が付いたのか一瞬だけ目が合った気がしたと思えば構えを解き、背の矢入れに矢をしまった。……かと思えば同時に三本の矢を取り出す。

「三本……!?」
「……ふぅ……『三本狙撃三本狙撃スリーショット』」

 放たれた矢は的に向かって高速で飛ぶ。しかし同時に三本も撃てば変な方向に飛んでしまうのは目に見えていた。

 だが、矢は突然空中で軌道を変える。全く別の方向に飛んでいくかのように見えた矢は吸い込まれるように顔、心臓、腹部に向かってぶつかった。

「すげぇ……」
「……ふふん」

 顔はよく分からない。しかし確実にドヤ顔しているのはわかった。

 今の技、原理は分からないが矢に魔力を感じた。考察するに魔力で予め道を作っていた。もしくは、あらぬ方向に飛ぶのを想定して魔力による方向転換をするように仕組んでいたか。

 どちらにせよ、一夕一朝でできる技ではないことはわかった。

 弓使いは俺に無言の視線を送ってくる。お前も何かやってみろということか?
 まぁ、見せてもらったからにはやってもいいか。

 俺は木刀を腰の位置まで持っていき姿勢を低くする。抜刀の構えだ。

 マネキンを前に斬るための木刀の道筋を俯瞰して見ながら集中を深める。そんな何十分も掛けられない。息を吐き目を細め、ある程度脱力して抜刀を行う。

「……シッ!」

 刀を抜く直前に脱力状態から全身に力を入れ、魔力による身体強化を爆発的に強める。
 そしてその結果……。

 ……ドスッ!

「……おぉ、木刀なのに斬った」
「まぁ、こんなもんかな」

 俺が頭で思い描いた通りの剣筋でマネキンを真っ二つにする。因みに、マネキンはある程度リサイクル可能なので壊していい許可は出ている。

「……なら次は威力重視を……」
「次の試合を始めるぞ!名前を呼ぶからすぐに集まれ!」
「……試合で見せてあげる」
「ああ、楽しみにしておく」

 どうやら二回目の試合は終わったようで、想像通り俺たちの番がやってきた。

 ちらっと横目で見た感じ、レイはまだのようで少し羨ましそうな目で見られた。そしてテレサは同じ番のようで、厄介男は……まぁ、いいか。

「それでは試合を始めます。もう一度言いますが、能力の使用は禁止。支給された武器の使用も禁止。殺傷も禁止です。では、それそれ武器を構えて……」
「ファイトね~!」

 そうネネが言った瞬間、目の前に矢が飛んできていた。

 殆ど予備動作なしの初撃。最初の方から思っていたがこの弓使い、早撃ちも得意なようだ。

 俺は突然の事に硬直してしまったが何とか首を傾けて避ける。流石にこれで終わるのは情けなさ過ぎる。

「なかなか容赦ないな!」
「……先手必勝。剣士とやるなら初撃で仕留めるべし。何故なら……」

 俺は身体強化を強めて全力で近づく。矢を当てづらいように少しフェイントを入れつつ、直線ではなく回り込みながら走る。

 勿論弓使いもタダでは近寄させない。弓を撃ちつつ、バックステップで回避するがこの障害物も無い狭い範囲では俺から逃げることは不可能だった。

「……近距離は剣士の分野。間合いに入れば、負け」
「はぁ!!」

 バックステップで逃げようとする弓使いに何とか接近し、いつでも回避と防御ができるようにしつつ斬り掛かる。

 取った!そう思った瞬間、弓使いが矢入れに入れていた右手で持った何かで防がれる。
 これは……数本の矢!?

 矢は俺の攻撃で折れたが俺の攻撃の衝撃を打ち消すことに成功し、弓使いはその衝撃のまま上に飛ぶ。

 そして弓使いは空中で飛んだまま一瞬で構えた弓を俺に向ける。

「……だけど、間合いから脱出すれば勝機はある……『三本狙撃』」
「くっ……!」

 空中から放たれた不規則な動きの矢。矢の到達地点から後退して避けることを選択するが、まるで地面を飛び跳ねるかのように三本とも下から首を狙ってくる。

「はぁ!!」
「……」
「!?」

 画面に迫る矢を木刀で弾き、即座に弓使いを見ると既に着地した彼は深く弓を構え、矢に強い魔力を込めていた。

 溜めが必要なのだろう。即座には放たないと何となく理解した俺は受けの姿勢を取る。この距離では接近は意味をなさず、逃げも出来ないと判断したのだ。

「…… 『貫通狙撃パーフォレイトショット』」

 迫る、多分だが弓使い最大の一撃。こちらが使う技は抜刀では無い。まず、構える時間が足りない。

 ならば俺に出来るのは、反撃カウンターのみ。

 構えた木刀に矢が到達する。
 矢と木刀がぶつかった瞬間に全身に感じるその威力。そのまま行けば木刀をへし折るだろう。

 だが……!

「シッ!」
「……?!」

 パァン!と、音を経てながら上に弾き飛ぶ矢。振り上げられた俺の木刀を見て弓使いは察したようだ。

「……なるほど」
「俺の勝ちだ」

 予想外の出来事に硬直していた弓使いに即座に近づいた俺はその首元に木刀を置く。

 もう少し抵抗するかと思ったがよく見ると矢の数が残っていなかった。

 先程の攻撃で倒せなかったら降参する予定だったのかもしれない。

「……ああ、負けだ」
「よし、試合終了。お前らお互い良くやったぞ」

 すると、俺たちを囲んでいたバリアがとけ、大剣使いの男が近寄ってくる。俺達の評価をしてくれるようだ。

「テルだっけか?お前は判断の速さは目を見張るものがあったな。ただ、初見の技を受けようとするのは頂けないな。勿論賭けに出る度胸も必要だが、遠距離武器相手に離脱された時点で負けた同義だと思っとけ」
「わかりました」
「お前は技も多様でお前は作戦を立てるのが上手いようだな。だが、まだまだ詰めが甘い。しかも、それらが崩れた時の動揺が強いみたいだ。それを改善するべきだな」
「……はい」
「じゃあ、試合の反省会もここまで。次の指示まで休んでな」

 そう言って大剣使いの男は他のまだ試合中の人達を見始める。

 なんとか試合には勝てたが、幾つか負ける要素はあった。
 まだまだ経験も技術も浅い事実を噛み締めながら、まだまだ強くなれる気がする自分に期待をするのであった。


 ♦♦♦♦♦

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