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一章 始まりの旅

十二話 買取の価格

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 俺はカウンターの奥に敷かれた布の上に魔物を設置する。一~二メートル程度ならアイテムボックスから出す場所は調節できるのだ。
 それにどうしても届かない時は刀の端を持って手を伸ばせば3メートル程度離れた場所になら行けるだろう。

「へぇ、丈夫だと思ったが……ふむ、確かにダークウルフだ。買取額は後で教えるから後ろで待ってな」
「わかった」

 大柄の男は布でダークウルフを包み持ち上げ、奥に入っていった。
 今の発言的に俺が器持ちなのが分かったのだろう。後で変な誤解を生む前にさっさと行っておくのも有りかもしれない。



 数分待っていると、俺の名前が呼ばれた気がしたので受付を見るとリーフさんが戻ってきていた。

「大変な目にあいましたね……怪我がなくて何よりです」
「ああ、グランがちょうど来ててよかった。流石にあの攻撃を食らってはただじゃ済まない」

 力を受け流す方法や刀を抜かなくても応戦する方法を学ぶべきか。
 そんなことを考えるが、まずは加護を強くすることが一番手っ取り早いだろう。

「ゼロスさんは昔はああじゃなかったんです。まだ新人のころ、ダークウルフに……」
「ダークウルフ?……ああ」

 俺があの時ダークウルフの話をしていたことや、ゼロスの顔に残るひっかき傷を思い出す。

「それ以来、人が変わったように振舞うようになって黒い噂が絶えないんです……。十分気を付けてくださいね」
「ああ、今回のことで目を付けられただろうしな」

 今後俺に降りかかるかもしれない災いに憂鬱になる。今日はゆっくりする予定だったんだがなぁ。

「では、買取料金ですが。ダークウルフのランクは『黄』ですが、その強さと稀少度、しかも状態が綺麗な素材という事で銀貨二十枚です」
「たった一体で銀貨二十枚?!しかもあの強さで『黄』なのか……」
「ええ、その基準は私たちが決めたのではなくて紋章を解析したらそう表示されるんですよねえ」

 だが確かに俺のスキルで切れたという事は『黄』で間違いないだろう。
 あの時、紋章を切ったダークウルフが逃げ出したことを考えると夜限定でしか強くなれない力なのかもしれない。
 そう考えるとランク評価が『黄』も納得がいくかもしれない。

 銀貨二十枚は『緑』の討伐依頼レベル。新人冒険者レベルで考えるとすごいお金だ。
 っと言っても、今の俺にはダークウルフを狩りに行くのは自殺行為なのでしないが。

「今日は流石に疲れたから何もせずに休むことにする」
「ええ、そうしてください」
「え~?薬草取りぐらいすぐじゃないかな~?」

 さっきまで大人しかったシエが駄々を捏ね始める。
 確かにシエからすれば今日は何の収入もないし、まだお昼なのに依頼に行かないのは勿体ない気がするだろう。
 因みに『薬草取り』の報酬は銀貨五枚だ。

「流石に今日は疲れたからな……」
「へ~?そんなに疲れてるならシエお姉ちゃんがよしよししてあげるよ~♪」

 いやお姉ちゃんって……さっき俺の事お兄さんって言ってただろ。

「遠慮しておく」
「も~、恥ずかしがっちゃって~」
「え、え~と、一応聞いておきますが、テルさんと……シエさん?はパーティになったんですか?」
「そうですよ♪」
「仮ではあるが一応な」

 シエがノリノリで即答したので一応『仮』であることを説明する。
 どうやらリーフさんはシエのことを知らないようだ。
 もしかしたら想像以上に新人なのか?それにしては仕事ができる気が……。

「『仮』ですか?ならまだパーティ登録はしないほぅがいいですね」
「そうだな」
「え~?めんどくさいし今やった方がいいと思うけどな~」
「……はぁ、わかった。薬草取りの依頼を受けよう」

 シエはやたらと急かしてくる。俺はスルーして帰ろうと思ったが、どうせやることもないし薬草取りの依頼ぐらい受けることにした。
 ……こうやって流されるのは俺の悪い所かもしれない。

「いぇーい!わかってるぅ♪やっぱりクール振ってるテル君も私の魅力には叶わないか~♪」
「テルさんが決めたことなら止めませんが……」

 ウキウキのシエと違ってリーフさんは言葉にはしなかったが「気をつけてくださいね」と目で訴えかけて来た。
 って言うかシエの俺の呼び名『テル君』なのか……。

「では薬草取りの依頼を受注しました。期限は今日まで。北門から出た先の森で薬草はよく生えてます。見本は必要ですか?」
「いや、大丈夫だ」
「そうですか。では、いってらっしゃいませ」
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
「……はぁ」

 ルンルンとギルドから出ていくシエの背中を追いかけながら、シエのことやゼロスを含めて少し頭を抱えるのだった。


 ♦♦♦♦♦

「それでマスター、話って?」
「ああ、あいつの話だ」

 そこはギルドの奥にあるギルドマスター専用の部屋。

 この場所に気軽に入れるのは精々冒険者ランク『紫』以上の権力を持つものぐらいだ。

 グランはボサボサの少し曇った赤髪で少しだけ厳ついい顔をして少しダボッとした服を着ている一見どこにでも居そうなおっさんっぽい姿に対して、マスターは筋肉隆々のスキンヘッド、そして彼なりのファンションなのか整った髭を生やしている男だった。

「あいつ……ゼロスか?」
「いや、あいつと確定したわけじゃねぇ。そういやさっきも騒動を起こしたみてぇだな、あいつ。全く……」
「流石に俺も連れが絡まれてるのを見て少し肝が冷えたよ」

 グランがあの時止めに入ったのは本当に偶然で、少し嫌な予感がしたので早足で行くと殴られる瞬間だった。

「連れ?……ああ、今日登録したっていうテル少年か……まあ、今は彼のことはいいだろう。今回はこの事ではなく、最近新人冒険者の失踪が相次いでる」
「……討伐依頼の失敗では無く?」
「ああ、寧ろ依頼の完了手続きが終わったあとに失踪している。ああ、そういう意味では彼も関係あるかもしれんな」
「……」

 グランは思い出す。
 ギルドの中に入った瞬間感じた視線や悪意、嫉妬……欲望。

「話はそれだけか?」
「いや、まだあるが一応お前にも知ってもらった方がいと思ってな」
「なるほど、俺も気にかけてみる」

 グランは少し嫌な予感を感じながら、ギルドマスターの話を聞くのだった。




 ♦♦♦♦♦

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