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一章 始まりの旅
十話 『僕』の脅し
しおりを挟む宿に帰ると、ちょうどご飯が出来ていたようで席に着くと気づいた女将さんがすぐに料理を持ってきた。
そしてその時気づいたが、どうやら料理を作っているのは男性の店員であり女将さんの夫、つまり店主のようだ。
どうやら基本的に無口で、宿泊期間に一切声を聞かずに終わることもざらにあるほど無口なようだ。
それは宿屋の店主としてどうなんだ?とも思わなくもないが女将さんがしっかりしているのだろう。
少なくともこの料理は絶品……とは言えないものの、料理屋としてやってけそうなほど美味しかった。
俺はご飯を食った後街をブラブラすることにした。
そういえばとグランの事を思い出しつつ馬車の方向に向かおうかと思ったが、グランもギルドに用事があると言っていたのを思い出しすれ違いになることを考えて辞めることにした。
まあ、いつか会えるだろ。そう思いつつ一番人通りの多いい道に入る。
そこは冒険者も一般人も沢山いる場所で、色々な物が売られていた。
「食料はまだあるから、新しい衣服や武器が欲しいところだ。今は買えないが魔法道具なんかも見て見るのもいいかもな」
俺は店の看板から連想した欲しいものを考えながら歩く。
冒険者がよく使っている魔法道具は魔力を込めれば飲料水が出る水筒や遠隔通話の魔法道具、魔石で作った目眩し、もしくは殺傷用の爆弾等だ。
それぞれ値が張るので店に入っても冷やかしになるだけなので入らないが、いつかは買ってみるのもいいかもしれない。
「あ、そういえば倒したダークウルフ売ってないな……。やることもないしそれだけしにギルドに行くか」
俺は人の波を崩さないように行先の方向を切り替え、ギルドの方に向かう。
「あ~!やっと見つけた♪ねーねー、おにーさん♪」
解体の方法も学ばないとな、と考えつつ歩いていると後ろから少女のような声が聞こえる。
しかしこの街に来て女性の知り合いはせいぜいリーフさんと女将さんぐらいしかいないので確実に聞いたことの無い声をスルーしてさっさとギルドに向かう。
「ちょっ、ちょっと~!無視しないでくださいよ~!」
「……ん?あ?僕?!あ、俺の事か?」
真横まで来て話しかけられれば流石に無視はできず反応するが、少し考え事をしていたのもあってつい『僕』と言ってしまう。
「ん~?僕?」
「い、いや、なんでもない。忘れてくれ。それより何の用だ?」
そこには髪型はショートで少し茶色が混じっている黒髪の少女が居た。よく見ると目は暗めの青だった。
俺は間違って『僕』と言ってしまったのを隠す為に少し早口になりながら話を促す。せっかく作り始めている俺のイメージがこんな所で壊れてしまうのは困るのだ。
「そうそう、そうだった!おにーさんがギルドに居た時私もギルドに居たんだけど、仲間を探してるって言ってたよね?それも魔術使い!」
「あ、ああ。まあそうだな」
もしかしてツツモタセ的な詐欺か?と、思いつつも事実なので話を聞く。
因みにこの「ツツモタセ」という言葉はとある本で知った言葉だ。
「そしてそして!実は私、こー見えて魔術使いなんです!」
「ほう」
確かによく見ると腰に魔法の杖らしき物を備え付けていた。
これだけで魔術使いだと断言は出来ないが、わざわざ新人をからかう為だけにある程度値の張る杖を買うとは思えなかった。
「つまり仲間になって欲しい、と」
「そーそー!察しが良くて助かる~!ね、僕君?」
「……」
にまーっと、満面の笑みを浮かべながら言う。
こいつホントに仲間になって欲しい気があるのか……。
もしかして仲間にしてくれないと俺の一人称が実は『僕』である事を晒すという脅し!?
この子にギルドに対するどれだけの影響があるかわからないが、わからない分だけ後が怖い。
「……歩きながら話そう」
「お?前向きに検討してる感じかな?そーいえばおにーさん名前なんて言うの?」
「テルだ」
「そっか~、私は『シエ』!よろしくね!」
「そうか。よろしく、シエ」
俺はギルドに向かいながら話す。これ以上ここでの立ち話は人に迷惑がかかると思ったからだ。
「それでそれで?ご返答は?」
「まず確認させてくれ。シエが魔術使いなのが本当だとしたら、何故俺と組もうとするんだ?魔術使いは人気な職業。確実に俺より稼ぎが良さそうなパーティからの勧誘もあるだろ」
「う~ん、そうですねぇ……」
シエは少し悩むような動作をした後、パッと顔を上げて言い放つ。
「私ってカワイイじゃないですか?」
「……は?」
いや、まあ嘘ではない。実際可愛いかどうかで言われると大抵の人が可愛いと言うと思う。
だが、それを自分で言うか……。
「勧誘してくる人達の中には魔術目当てだけじゃなくて、体目当ての人も一定数居るんですよねぇ」
「まあ、だろうな」
「で、私もお金は必要だからそーいうのわかってて入るんですけど、男の人達が毎回私を巡って喧嘩し始めて~、パーティを崩壊させちゃう事があった、無事パーティクラッシャーに就職って訳です!」
……この話がどこまで本当かわからないが、ありえない話ではない。
っていうか冒険者の男どんだけ女に飢えてんだよ。
「じゃあ、女性だけのパーティに入ればいいだろ?無いわけじゃないだろ」
「それも考えたんですが~、以外と私の事広まってるみたいで、単純に女性パーティは少ないのにその中でも受け入れてくれるところがないんですよねぇ。だから噂も偏見も持ってなさそうな新人さんであるテオ君に話しかけたんだよ♪」
本にも書かれていたが女の情報網は昔も今も変わらずとんでもないらしい。
「……わかった。仲間になろう。俺も魔術使いの仲間は喉から手が出る程欲しいからな」
「やった♪」
「ただし、あくまで仮だ。一回シエの実力を確認してから改めて決め直す。それでいいか?」
「うんうん!それでおっけー♪」
こうして、俺は仮ではあるが新しい仲間を手に入れた。
♦♦♦♦♦
イメージは小悪魔系です。
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