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第二章 旅立ち、それは出会いと目的
五十七話 障壁
しおりを挟むここはファーナント街の近くにある魔物が住む森。そこに依頼をこなす為に俺達は訪れていた。
そしていつもとは違い、俺の隣にはレンゲともう一人、サーナが杖を背負って歩いていた。
「いや~、連れて行ってくれてありがとうございます~」
「……もっとナルミに感謝すべき」
「あれ以上はあそこに居られなかったからね……」
あれから十分ほどたってもサーナが粘り続けたので俺が折れて連れて行くことにした。
あのまま騒いでいたら周りの人に迷惑かつ、俺自身あの視線の中に晒されるのが耐えられなかったのが理由だ。
「さっきは騒いでたから聞き流したけど、『障壁魔法』が使えるって本当か?」
「あ、はい!ちょっと私って珍しい存在らしくてですね~」
「珍しい?」
サーナは俺が言いたいことがわかったようで、自分のことを話し始める。
「はい。まず前提としてレンゲさんが気になってるのって獣人族の魔力に関してですよね?」
「ああ」
実は獣人族は殆ど魔力を持たない。
全く持っていない訳では無いがせいぜい身体強化に使える程度しか持っていない。
魔術を発動しようものなら酷い場合、誰でも使える生活魔法すら一回使用しただけで魔力枯渇になってしまうらしい。
障壁魔法に使用する魔力がどれ程かは知らないが、通常の攻撃魔法と違い使用中常に魔力を消費するためそれなりに多い筈だ。
「実はですね。私、どうやら『先祖返り』っぽいんですよね」
「……「先祖返り?」」
「あれ?ナルミさんはともかく、レンゲさんも知らないんですか?」
少し意外そうに驚いた様子を見せた後、サーナは説明を始める。
「『先祖返り』って言うのは、簡単に言うと今みたいに劣化した姿や力ではなく、昔の姿や強い力を持って産まれてくることを指すんです」
「つまり、獣人族は昔は魔力を持っていて先祖返りしたサーナは昔の獣人族のように魔力を持ったって事か?」
「そうなんですよ!」
え、それって簡単に言ってるけどとんでもない事じゃないか?
「すごいでしょ~!って言いたいところなんですが、実は獣人族からしたら私の力ってあんまりいいものじゃ無いんですよね……」
「……魔術が使えるのに?」
魔力があれば身体強化も他の獣人族よりも強化にできるし、更にサーナが使える魔術は『障壁魔法』だったがもし攻撃魔法だったなら他の獣人族には出来ない遠距離攻撃ができて利点しかないはずだが……。
「これはよく勘違いされるんですが、魔力が無くて魔術が使えないからと言ってその種族が魔術に憧れてるとは限らないんですよ」
「と、言うと?」
「獣人族の『先祖返り』は二種類あるんです。まず私のように魔力が増えて魔術の使用に特化するタイプ。そして魔力は少し増えて体が先祖に近づく、つまり身体能力に特化するタイプの二つです」
「体が先祖に近づく?」
「ええ、昔の獣人族は今みたいな人族に近い姿では無くてもっと獣に近い姿だったんです」
つまり、昔は単純に動物の耳やしっぽが生えただけではなく、二足歩行ではあるが顔や手足が動物というガチの獣人だったわけか……。
「それにですね……私のタイプは魔術に特化するのでその分身体能力が下がるんですよね……。魔力が今よりもあった昔でも獣人族は身体能力で戦ってきたので私のタイプはあまりよく思われてないんですよ……」
「……私が知ってると思った理由は?」
「えっと、人族は先祖返りはせず、したとしても基本的に『天才』って言葉で大抵終わるので知らなくてもおかしくなくて、人族以外の種族は時々先祖返りした人が居るらしいので知ってる種族が多い、って教えてもらったんです」
つまり人族は昔から姿は変わってないのか?そういえば五百年以上前には古代とかなんとか……。まぁ今は関係ないか。
「とりあえず!確か今回はゴブリンを討伐しに行くんですよね!見つけたらまず私の魔術を見てくれませんか?」
「まぁ、取り敢えず実力を見させてもらおうかな」
それから数分歩くとゴブリンが五匹ほど溜まっているのを見つけ、近くの茂みで気配を消して観察する。
俺達はここまで来る途中に決めていた作戦を小声でおさらいし、実行に移す。
(よし、行こう!)
(……ん)
(頑張ります!)
まずいつも通りレンゲが飛び出す。
そしてゴブリンがレンゲに気づく前に一体ゴブリンを仕留めると、そのまま別のゴブリンには行かず一度後退する。
「「「「グキャ?!?」」」」
「……光の防壁よ、対敵を閉ざし、我が領域を作れ『閉陣障壁』!」
サーナが詠唱を終えた瞬間、俺達を囲うように半透明の障壁が出現する。
「ふふん!どうですか!ちょっと無駄に大きいのを作っちゃったですけど、私が使える障壁魔法の一番強いやつです!」
「グギャッ?!グキャッ!」
「グギャーー!」
突然現れた障壁に驚くがすぐさまゴブリンは障壁を壊すために攻撃するが、しょうはビクともしてなかった。
「おお、すげぇな」
「ですよね!それにですね~……えい!」
「ギャ?!」
サーナは足元に落ちていた石を拾い上げてそれをゴブリン目掛けて投げつける。
その石は障壁をすり抜けてゴブリンにあたり、そのままどこかへ飛んでいった。
「……内側からの攻撃は透き通る?」
「ええ!つまり弓矢や魔術での攻撃も内側から安全に出来るんです!」
「……『雷撃』」
「グギャギャギャギャ!?」
レンゲが放った『雷撃』もサーナの言う通り障壁をすり抜けてゴブリンに当たった。
「ふっ!」
「ギャ?!」
障壁越しに剣を振るとそれもすり抜けゴブリンを斬り裂く。
俺は少し考えた後、俺のスキル『全能操』を試す。
操った魔力は障壁に触れることができ、操作が可能だととわかるのと同時に障壁を透過することが出来るのもわかった。
「ん?ナルミさん、今何を……」
「いや、なんでもない。そうだ、サーナもゴブリンを倒しておくか?」
「あ、はい!そうします!…… 炎よ『火球』!!」
「グギャァ……」
サーナが詠唱短縮した『火球』を放つ。
「ギャ、ギャァ」
「……遅い」
最後に逃げ出したゴブリンをレンゲが倒し、まずは五匹ゴブリンの討伐は完了したのだった。
♦♦♦♦♦
『紋章斬りの刀伐者~ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!~』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!
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