上 下
52 / 79
第二章 旅立ち、それは出会いと目的

五十二話 宿好き

しおりを挟む


「ああ、この店はこの道を真っ直ぐ行って次の大きな十字路を右に進めばある筈だぜ」
「ありがとうございます。あ、この串焼き二本買います」
「おう、まいど」

 俺達は小腹がすいたので宿の場所を聞くついでに美味しそうな匂いがする串焼きの屋台で買い物した。

「お客さん見た感じ冒険者だろ?もしかして祭り目当てか?」
「ええ、やっぱりこの時期は俺達みたいなのが多いですか?」
「ああ、ここから見るだけでも人の数は二倍、稼ぎも二倍、忙しさも二倍だ。まあ、会場は二倍どころじゃないがな」

 屋台のおっさんが串焼きを作りながら話す。会場とは美魔身祭を行う場所のことだろう。

「治安はいいほうだが人が多い分よからぬ事を考える奴も多くなるからな。特にスリなんかには気をつけな。ほい、特製串焼き二本だ」
「スリかぁ、気をつけますね。ここに代金置いときます」
「おう」

 俺は忠告に感謝しつつ、串焼きを一本レンゲに渡しながら屋台を離れる。

「……大切な物は全部ナルミが持ってる」
「まあね。流石に武器は身につけてるけど」

 流石にアイテムボックス内に干渉してくるようなとんでもない奴は居ないだろう。
 勿論二人分の服も食料もアイテムボックスに入れている。
 最初は俺が全部持ってていいのか悩んだが、レンゲが気にしないと言ったので俺が持っている。

 どうやらアイテムボックスの容量は魔力量とスキルレベルに比例するようで、実は食料を買い込んで衣服を全部詰め込んだ時にレベルが上がったこともあって容量は二倍になってたりする。

「どうする?金も全部俺が持ってるけどレンゲも持っておく?」
「……必要ない」
「そ、そうか?なら俺が持っておくが……」

 女子にはあんまり男に見られたくないような物もあるんじゃ?と、思ったが必要ないというのなら必要ないのだろう。

 俺はあまり考えないようにしながら宿に向かった。




「おや、いらっしゃい。二人組かい?」
「ええ、知り合いの勧めで来たんですけど、空いてますか?」
「知り合い?……もしかしてエマっていう子だったりしないかい?」
「え?知ってるんですか?」

 俺達は紙に書かれた一番上の宿である『ホライの宿』に着くと、そこには優しい口調の女性が店番をしていた。

 エマさんに紹介されたことを話すとどうやらエマさんのことを知っているらしい。
 もしかしてエマさんって想像以上に有名なのかも?

「ああ、あの子はこの街出身でねぇ。そして何よりあの子の家の人は全員宿好きなのよね」
「……宿好き?」
「ああ。ちゃんと自分達の家はこの街にあるんだけどね、あるのにも関わらずこの街の宿屋に泊まるのよ」
「ええ?どうしてそんなこと」
「私も気になって聞いてみたんだけど。さっきも言った通り宿が好きなんだと。多分だけどこの街の全ての宿屋をエマ達は知ってるかもねぇ。全く、どこからそんなお金出してんだか」

 どうやらエマさんは、エマさん一家はこの街の宿屋の有名人らしい。

「……想像以上に変人だった」
「はははっ、確かに変人かもねぇ。あの子が冒険者になった理由も色んな宿屋に行きたいかららしいし」
「えぇ」

 レンゲの言う通り想像以上に変人だったことが判明して少し呆然としている俺達を見て少し愉快そうにしながら彼女は口を開く。

「さて、宿のことだが。実は一人部屋に空きがないんだ。この時期はどうしても人が満員になってしまってねぇ」
「……一人部屋だけ?他は?」
「ん?ああ、二人部屋なら空いてるが……」
「……じゃあそこで」
「「へ?!」」

 いやまあ、確かに今まで一緒に寝てたから今更感はあるけども。

「……ナルミは嫌?」
「ぐふっ、だ、大丈夫です……」
「そ、そうかい。見かけによらずに積極的ねぇ……。まあ、あんたらがそれでいいなら、お代は飯付きで一泊600ユルだが何泊するかい?」
「に、二週間分で……」

 そんな少し悲しそうな声と顔でそんなこと言われたら断れるわけないじゃないか……。

 大会は一週間後に三日間かけて開催されるらしいので事前に決めておいた日数を頼んだ。

「了解。8400ユルだよ」
「えっと……銀貨九枚で」
「はい、銅貨六枚返すわね。はいこれ十八号室の鍵。夕食の時間はわかってると思うから、それまでには帰ってきなさいね?」
「はい、今日は街を見て依頼を確認するだけなので遅くならないと思います」

 そう言って俺達は宿を出た。

「さて、今からギルドに向かうのもいいけど観光しようと思うけどいい?」
「……ん、会場の下見」
「お、いいね。人がどれくらい多いか見てみたいしね」

 俺達はまず会場に行ってみることにしたのだった。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光
ファンタジー
魔物討伐を生業とする冒険者に憧れる俺は、十五歳の誕生日を迎えた日、一流の冒険者になる事を決意して旅に出た。 旅の最中に「魔物を自在に召喚する力」に目覚めた主人公が、次々と強力な魔物を召喚し、騎士団を作りながら地域を守り続け、最高の冒険者を目指します。 主人公最強、村人の成り上がりファンタジー。 ※小説家になろうにて、990万PV達成しました。 ※以前アルファポリスで投稿していた作品を大幅に加筆修正したものです。

紋章斬りの刀伐者〜無能と蔑まれ死の淵に追い詰められてから始まる修行旅〜

覇翔 楼技斗
ファンタジー
「貴様は今日を持ってこの家から追放し、一生家名を名乗ることを禁ずる!」  とある公爵家の三男である『テル』は無能という理由で家を追放されてしまう。  追放されても元・家族の魔の手が届くことを恐れたテルは無理を承知で街を単身で出る。  最初は順調だった旅路。しかしその夜、街の外に蔓延る凶悪な魔物が戦う力の少ないテルに襲いかかる。  魔物により命の危機に瀕した時、遂にテルの能力が開花する……!  これは、自分を追放した家を見返して遂には英雄となる、そんな男の物語。 注意:  最強系ではなく、努力系なので戦いで勝つとは限りません。なんなら前半は負けが多いかも……。  ざまぁ要素も入れる予定ですが、本格的にざまぁするのは後半です。  ハ(検索避け)レム要素は基本的に無いですが、タグにあるように恋愛要素はあります。  『カクヨム』にて先行投稿してします!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

トレントなどに転生して申し訳ありません燃やさないでアッ…。

兎屋亀吉
ファンタジー
確かに転生したい転生したいとは常日頃から思っていましたよ。 なんていうかこの世界って僕には向いてないっていうか。 できれば剣とか魔法とかある世界に転生して、金髪碧眼巨乳美人のお母さんから母乳を与えられてみたいと思うのが成人男子の当然の願望だと思うのですがね。 周りを見回してみても巨乳のお母さんもいないですし、そもそも人がいないですしお寿司。 右には巨木。お父さんかな。 左には大木。お母さんっぽいな。 そして僕も木です。トレントです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...