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第二章 旅立ち、それは出会いと目的

四十二話 英雄

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 俺達は残りの数匹のグレーウルフを討伐し、解体した素材を持ってギルドに戻った。

 体感で大体四時ぐらいだろうか。この辺りの気候は年中暖かく、基本的に七時まで明るいのでもう少し狩ろうかと思ったがあまり狩りすぎるのもダメだし今日はゆっくりしようとレンゲと話し、さっさと帰ることにした。

 帰る道に近寄ってきた魔物はレンゲが『鬼圧』で追い払いつつ、急ぐこともないので警戒はしながら徒歩で帰るのであった。


「どうも門番さん、おつかれです。えっと銅貨二人分で六枚でしたね」
「ああ……ふむ、いや待て。そういえば君たち確か冒険者ランクが上がったらしいな?見せてくれないか」
「え?はい、了解です」

 いきなりのことでびっくりしたが俺達はギルドカードを差し出す。

「ふむ、確かにDランクだな。これからは銅貨二枚でいい」
「え、本当ですか!」
「ああ、冒険者は私達や騎士や自警団等では守れない街の外と内の防衛や魔物の間引き、商売に必須の商品を命を懸けて提供してくれる大切な機関だ。これぐらいの恩恵は当然だろう。更にランクを上げていけばBランク以降では無料になったりAランク以降だと王都レベルでもない限り優先門に並ぶ必要が無くなるという軽く貴族レベルの接待を受けることができ、Sランクになると公爵とまでは行かずとも侯爵レベルの扱いを受けることが出来る。世界的な実績を得た者は貴族レベルではなく本当に貴族になった者もいるらしいぞ」
「へぇ~、夢がありますね!」
「ああ、中には貴族になるために冒険者になった。なんて奴もいるぐらいだ。まあ、ほとんど夢物語だがな。そう簡単に身元が確かではない者を貴族にはできんからな」
「……英雄」
「ふむ、英雄か。確かにそのレベルではないと貴族にはなれないな。……む、次の人が来たようだ早く入りなさい」
「はい、お疲れ様です!」

 いい話を聞いた。冒険者ランクが上がれば待遇が良くなって貴族レベルの待遇を受けることが出来ることと、実際に貴族になれるということ。
 まあ、貴族になるつもりは無いが知識として知っておいて損は無いだろう。

 英雄か。俺は魔王を倒そうとしているのだから、もし倒すことが出来たら英雄と言われるのだろうか。

 ……まあ、魔王どころか冒険者一人に苦戦している様じゃ英雄なんて夢のまた夢だけれども。

「……やっぱりナルミも英雄とかに憧れる?」
「ん?まあ、そりゃあ物語に出てくるようなどんな敵でもバッタバッタと倒しまくる英雄に憧れることはあるかな。そういうレンゲは?」
「……人族に伝わる英雄は分からないけど、鬼人族に伝わる英雄の物語は全鬼人族が……少なくとも私が住んでいた集落ではみんな尊敬していた。剣技の技の名前になるぐらい」
「へぇ~、どんな話なんだ?」
「……とっても昔の話……」

 俺達は門番さんとの会話を終えてギルドに向かう途中、鬼人族の英雄の話を楽しむのであった。



 ♦♦♦♦♦

 side魔王側

「(コンコン)失礼します」
「……貴様、今は使徒全員による会議中だと知っての行為か?余程の理由がない限り私達の会議を止めた者は魔王様以外、即死刑だぞ」
「はい、申し訳ございません。私の独断ではありますが今すぐにでも使徒様全員に伝えるべきだと判断した所存でございます」

 ここは魔族領の中心にある魔族達が住む都市にある魔王城の一室。
 そこでは魔族達に『魔淵の使徒』と呼ばれる魔族達が集まり会議をしていた。

『魔淵の使徒』とは、簡単に言えば魔王の次に強い、つまり魔王を除いた全ての魔族の中で最も強い魔族たちの集まりのことで、一言で言えば魔王を守る四天王のようなものだ。
 まあ、実際は使徒は六人居てここには五人しかいないが。

 現在、月に一度の使徒達が集まり話し合う会議が行われ、一人を除く全員が集まっていた。

 そして使徒の一人が魔王と話し合い決めていた事を全員に伝えていた。
 その時に魔王城で働く執事の一人がその場にやってきたのだった。

「へぇ、僕達の会議を止めるほどの理由ねぇ。つまんなかったらどうなるかはわかってるみたいだし、さっさと言っちゃって」
「はい、了解しました。先程、魔王様に代々仕えている予言者様が勇者の出現を予言しました」

 やる気のなさそうな声で使徒の一人が執事に催促し、執事が持ってきた報告書を読み上げる。

 その瞬間、その場にいた全員の顔に驚愕の表情をする。

 勇者が現れること自体は脅威だがそこまで驚くことではない。なにせ魔王が現れたら確実に一人勇者も現れる。これは種族関係なくほとんどの人が知っている事実であった。

 それでは何故使徒たちが驚愕したのか。それはこの予言がだからだ。

 今回の会議の主な内容は勇者に対する対応についてだった。それは今現れている勇者が魔族領に近づいている情報が入ったからだ。

 しかし、その勇者が討伐されたという情報は無い。つまり今現在この世には勇者に仇なす存在が存在していることになる。

 これは今までの事例として一人の勇者とその仲間にやられた魔王たちのことを考えると即刻対処しなければならない事項だった。

「……それは誠か?」
「はい。予言者様も信じられなかったようで数度予言をしてみたところ変わらず同じ予言を受け取ったとのことでございます。現在、最初の勇者の生死を確認しに向かわせていますが、勇者と言われる存在がそこらのモンスターにやられるとは思えないので勇者が二人いると考えていいかと」
「わかった……下がっていいぞ」
「はい、失礼します」
「ちょっと!とんでもないことじゃない!どうすんのよこれ!」
「……まずは事実を確認しないことには意味が無い。そして勇者と言えども生まれたばかりは赤ん坊。そこまで脅威は無いだろう」
「そりゃあそうかもしれないけど……」
「それに今その二人目の勇者がどこにいるかもわかんないんだろ?じゃあさっきの計画を変更することもないじゃん。もし見つけたらその場で殺すってことで。え~と、確かだったな」
「……わかった。この言葉は後で私も魔王様に伝えておく。魔王様の伝言は後々伝えよう。では今回はここで解散とする」


 女の魔族の少しヒステリックな声が響くが落ち着かせ、今はどうすることも出来ないと判断してこの会議はここで終わるのであった。












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