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第一章 始まり、それは希望と後悔

二十四話 コーディネート

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「レンゲちゃんは何かこういうのがいいとかある?」
「……フードが欲しい」
「なはは……、ナルミくんは何かあるかい?」

 テリーヌさんに話を振られて慌ててレンゲに合いそうな服を考える。

 レンゲは……鬼だからやっぱり和服っぽい服がいいかも?武器も刀とか持って欲しいし。あ、金棒か?いや、剣技使ってたからそれはないか。

「そうですね。和風チックな服がいいですかねぇ」
「ワフー?何それ?」
「え?あ」

 そうだった、相手が日本語で話している(様に聞こえる)から忘れていたけど、日本はこの世界に存在しないんだった。

 う~ん、どうしようか。この世界には和風のものは無いのか?

 そう考えていると頭の中にある異世界辞書が開く。

 ……おっ!ここから東にの方面に日本風……と、言ってもいいのか分からないけど、それに似た国がある!
 流石に日本のお城みたいな建物はないし、名前も日本風ではあるけど漢字は使われてないみたいだが、刀もいるし『侍』という職業に着いている人もいるようだ。

 そしてそのような文化の様子を『式和しきと』と言うらしい。

「え、え~と、式和風でお願いします」
「ああ!式和風ね!確かにレンゲちゃんに似合いそうね!ちょ~と待ってね!」

 そういうとテリーヌさんは小走りでカウンターの奥の部屋に戻って行った。


 数分後、顔を隠そうとしているレンゲを横目に周りの服を見ていると、ドタドタと大きな足音が聞こえドアの方を見る。

 すると布面積の多そうな服を持ってテリーヌさんが大きな音を立ててドアを開けた。

「いや~、ごめんごめん。なかなか売ることの無い服だから探すの手間取っちゃった。はい、レンゲちゃん!これ着てみて!」
「……わ、わかった」

 レンゲは有無を言わせぬテリーヌさんの気迫に迫られて受け取った服を持って試着室に入っていった。

「じゃあナルミくん。レンゲちゃんが着替えているうちに君の買いたい物も見ておこうか」
「あ、はい。お願いします」

 テリーヌさんはそう言いながらこちらを向いた。まあ、買いたいものと言っても下着なんですけどね。


 特に下着にこだわりはなかったので2~3枚手に取り先に会計しておこうかなと思っていると試着室から声が聞こえる。

「……着方が分からない……」
「ん?あっ、ごめ~ん。そういえば式和風って切るの難しく見えるよねぇ、ってあれ?確か鬼人族ってこういう服着てなかったっけ?」
「……確かに来てるけどこの服なんか変」

 そう話ながらテリーヌさんはレンゲの居る試着室に入る。
 そういえばテリーヌさんが持ってきた服はよく見れていないがパッと見着物のようにも見えた。
 と、言っても歴史の教科書に乗って居るような何重にも重ねて着るようなものでもなく、どちらかと言えばまさに異世界チックな和服って感じの足が丸見えの奴だ。

「え~とね、この服は本物のやつと違ってエンチャントで簡単に付け外しできるようになってるの。ほら!」
「……ホントだ。便利」
「でしょ~!」
「……ん?!何この服?足が丸見え」
「可愛いでしょ?」
「……否定はしないけどあんまり好みじゃない」
「え~?レンゲちゃんならめちゃくちゃ似合うと思うんだけどなぁ……仕方ない。こっちの服にする?こっちだったら露出面積も少ないし顔も隠せるよ?」
「……ならそっちにする」

 どうやら他にも服を持ってきていたようでレンゲはそちらの服にするようだ。

「この服はねぇ、まず上から着てからここの紐を括くくって、その上からこれを付けてまた括って、更にこれを後ろからつけて括って~……あ、手馴れてるねぇ」
「……このタイプの服は着てたから」

 そんな感じの会話が続き、次第に全く関係ないことまで話し始めた。

 その声と服が擦れる音を聞きながら少ないファッションセンスで飾られてる服を自分に似合うか考えていた。



 数十分後、やっと服を着れたとのことなので試着室の前にやって来た。

「いやー、ごめんね?ついつい楽しくて話し込んじゃった」
「あはは……まあ、レンゲも楽しそうだってんでいいですよ」

 実際、口数は少ないが心做しか楽しそうに聞こえた。
 もしかしたら久しぶりに同性と色々喋れて嬉しかったのかもしれない。

「じゃあそろそろレンゲちゃんに登場してもらおうかな!出ておいでー!」
「……わかった」

 テリーヌさんがそういうとレンゲはカーテンを開ける。

「おお!」
「どうよ!似合うでしょ~!」
「……ん」

 その服はまるで巫女のような服だった。
 少し違う点をあげるとするならば、ズボンのような所の色が本当の巫女なら赤色だが上から下に掛けてだんだん色が濃くなっている紫色で、下の方には桜のような花びら模様が浮かんでいた。

 ついでに、後付けか元からあるのか分からないが白いフードのようなものも着いていた。

 レンゲも気に入ったのか少し嬉しそうだった。

「どうどう?可愛くない?」
「ああ、凄い似合ってて可愛い、さらにかっこいい。レンゲの要望にもしっかり対応してるし、いい感じだ。やっぱりレンゲはこういう系が似合う」

 足りない語彙を気持ちを込めて補い(?)ながら後は刀持ったら完璧だなぁとか思いながら褒める。

 やっぱり鬼系は和服だよなぁ……。

「……私も気に入った」
「ご希望に添えられて良かった!」

 テリーヌさんとレンゲがまた楽しそうに話始める前に話に入り込む。

「テリーヌさん、この服ここら辺じゃ売って無さそうだし高いんじゃ?」
「……あ」

 式和風なんて言葉もこの辺りじゃ聞いたこともなかったし、素人目だが見た感じ素材もいいものを使っていてもしかしたらエンチャントまでされてるかもしれない。

「ん?あ~、確かにこの服はなかなかにいい値段するねぇ、最低でも1万ユルぐらいかな?」
「…「え」」

 日本円に換算して10万円、払えない訳では無いがほぼその日暮らしの俺には少しきつく感じた。

 女神様から貰ったお金を使うしかないか……と、思っているとテリーヌさんが救いの手を出してくれる。

「ん~、じゃあ3000ユルでいいよ!」
「な?!そんなに?!」

 最低でも1万ユルするものを3000ユルにしてくれるって……7割以上割引してくれるのは流石に色々考えてしまう。

「そ、それは流石に……」
「いいって、いいって!『雨宿り亭割引』と『在庫処理割引』、『常連さんになってね割引』と『私の女の勘が囁いてる割引』でそれぐらいになったの!」
「いや、最後が一番意味がわからないんですけど……」

 女の勘でそこまで割引してもいいのか?とも思うがせっかくここまで割り引いてくれたんだ、この好意に甘えよう。

「わかりました。そこまで言ってくれるならその値段で買います。こっちもそこまでお金があるわけじゃないので助かります」
「……ありがと」
「なはは!いいってことよ!さて、最後はレンゲちゃんの下着を選ぼう!」

 そう言ってテリーヌさんは女性の下着コーナーに向かう。

 流石に自分は着いていけないのでレンゲ達が選び終えるのをゆっくり座って待つことにした。

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