上 下
44 / 128
第三章 魔法学校編

第四十二話 アスタナシアVSレイロード

しおりを挟む
 魔法学校にある練習場に全校生徒が集まり、とても賑わっている。

 その練習場のど真ん中にいるのは、俺とアスタナシアさんだ。

 「いい勝負にしましょう」

 アスタナシアさんは、そう言い、手を差し出した。

 「よろしくお願いします」

 俺も手を差し出し、握手した。

 今から俺とアスタナシアさんとの勝負が始まる。

 どうして、こうなったかと言うと、これが校長の言う提案だったからだ。

 校長は、俺が無詠唱で魔法を使うことで、周りから浮いた存在になり、妬み、嫉妬であることない事言われる可能性があるということ。

 俺だけなら、別に前世でもボッチで、そういうことにも慣れているが、マリーはそういかないだろう。

 あいつは、俺と一緒にいたから、巻き込まれて、言われるかもしれない。

 それは駄目だ。

 丁度、新入生代表と今在学中の生徒の代表での勝負があるらしい。

 それは、この魔法学校で、在学の生徒が、どれだけの実力があるのかを見せつける為に始まったらしい。

 なので、この学校で天才と言われている、アスタナシアさんと勝負をして、そんな事を言われる前に、黙らせてやろうという提案だ。

 だが、これには問題がある。

 それは、アスタナシアさんに勝たないといけないということだ。

 この人の実力は、とても噂になっていた。

 この学校の一番強い生徒であり、四年生で超級魔法が三つも使える天才と言われている。

 無詠唱は出来ないが、詠唱を短縮することは出来るらしい。

 超級三つということは、俺よりも魔法で上回っている。

 これを、カバーするには、これまでの戦闘経験しかない。

 俺とアスタナシアさんは、お互い離れ、対峙する。

 ルールは簡単だ。

 剣は木刀を用いて、殺すのは厳禁。魔法は何でもありだ。

 そこでアナウンスが流れる。

 「ようやくこの日がやってきました。新入生代表レイロード君と在校生代表アスタナシアさんの試合が始まります。実況はレイロード君の担任の私ナタリアとこの学園校長ルドノフでお送りします」

 あの校長、ルドノフって名前だったのか。初めて知ったな。

 「今ご紹介にあった、ルバノフです。今回の勝負は見応えのある勝負になるでしょうから皆さん期待して下さい」

 ......あいつ。

 これで、俺がわざと負けないようにさせる為の布石だろう。

 俺が、実力を皆に分かってもらえたら、降参するとでも思ったのだろうか。

 俺は、こういう事で手は絶対に抜かない。

 それこそ、相手に対する侮辱だからだ。

 「では、これから勝負を開始します。負けは、どちらかが気絶するか、降参するかです。では始め!」

 審判の合図で、俺達の試合は始まった。

 俺は、最初は魔法を纏わずに戦う。

 纏うと、すぐに体力を消耗してしまう。

 今までは、緊急事態だったから、しょうがなかったが、今は余裕あるので、まずは相手の力量を測る。

 アスタナシアさんは、開始と共に、火の上級魔法を使う。

 俺はそれを避け、次の攻撃が来るかと思ったがこない。

 ......え?

 俺があれでやられると思ったのだろうか。流石にそれは馬鹿にしすぎだ。

 「中々やるようですね。では、こちらも本気でいきます」

 アスタナシアさんは、風の超級魔法を放つ。

 風魔法の超級は、風の刃、それをコントロール出来るだけ生成し、それを放つものだ。

 だが、俺は何とか、それを避ける。

 「そんな!」

 アスタナシアさんは、動揺しているが攻撃の手を緩めない。

 「おっと!アスタナシアさんは色んな魔法を用いて、レイロード君を追い詰めていくようです。今の戦況はどうですか?校長」
 
 「レイロード君が全て避けきっているので、決定打になってないですからね。まだ分かりません」

 そんな、アナウンスが流れてくるが、俺はそれどころじゃない。

 アスタナシアさんは、確かに魔法をコントロールし、放ってくる。

 だが、何故か違和感がある。

 なんせ、俺が全て避けきれているのだ。

 本当ならば、超級魔法を三つも扱える人だ。俺がこんなにも余裕で避けれる筈がない。

 俺は、何度かアスタナシアさんの攻撃を躱し、ようやく違和感の正体に気付いた。

 俺は、これはどういうことかと、目線で校長を見た。

 そこには、口元に笑みを浮かべる校長がいた。

 ~校長視点~

 ようやく、レイロード君も気付きましたか。

 確かに、アスタナシアさんは、あの歳で超級魔法を扱える天才です。

 ですが、扱えるだけなのです。

 今の時代、平和なので、皆に魔法による戦略が全く身に付いてない。

 なので、魔法を放ち、それで終わりになってしまう。応用も何もない。

 私は、今回の勝負で、皆にわかって欲しい。

 魔法による戦略、応用がどれだけ凄いのか、そして身に付けて欲しい。

 今は平和かもしれない。

 しかし、いつ戦争が起こるか分からない。

 その時、何も出来ないままでいて欲しくないんです。

 だから、君には、この学校を変えるきっかけになって欲しいのです。

 私はその本人であるレイロード君に目を向けた。

 ~レイロード視点~

 さて、これからどうするかだ。

 この人は、戦略が無い為、非常に何が来るのかわかりやすい。

 「どうして!」

 アスタナシアさんは、今起きている事が分かってないらしい。

 しかし、攻撃の手を緩める事はしない。

 魔力量、魔法共に素晴らしいのだ。

 これで、戦略が備われば、凄いのに。

 俺はそう思ってしまう。

 これからどうしたらいいのだろうか。

 決着をつけることは簡単だ。

 だが、相手は上級生なのだ。この行事の目的は、上級生がどれだけの力を持っているかを示すものだ。

 それに俺が勝ってしまってもいいのだろうか。

 俺がこう思う事を想定して、校長はああ言ったんだろうが。

 「......負けられない」

 アスタナシアさんは、独り言の様に呟くが、俺にはっきり聞こえた。

 俺は、何を考えているのだろうか。

 アスタナシアさんは、全力で戦っているのに、俺が手を抜いて負けてそれで本当に良いわけが無い。

 これから、上級生は馬鹿にされるかもしれない。その時は俺が責任をもって、そいつ等をどうにかしよう。

 俺はそう決め、火魔法を体に纏い、一気にアスタナシアさんに突撃した。

 「そんな!」

 アスタナシアさんの攻撃を全て避けきる。

 魔術師と、剣士の戦い。

 それは、魔術師の魔法を全て避けたら剣士の勝ちだ。

 俺は、アスタナシアさんの攻撃を全て避けきり、木刀を首に当てた。

 「......降参です」

 アスタナシアさんは、膝から崩れ落ち、そう言った。

 勝負が終わる頃には、会場は静まり返っていた。

 まさか、上級生が負けるとは思っていなかったのだろう。

 一人を除いて。

 「とてもいい勝負でしたよ、レイロード君、アスタナシアさん」

 練習場に入って感想を述べる。

 「ありがとうございます」

 アスタナシアさんは、俯きながらも返事をする。

 だが、俺は返事をしない。

 この人は、初めから勝負が見えてた筈だ。

 「今回の勝負を皆さんも見て、歳の差で実力が分かるとは限らないという事が分かったと思います」

 校長は、大きな声で皆に言う。

 「ですが、これが魔法の全てではない。魔法には、限りない可能性があること、それを今から、僕とレイロード君が証明しましょう!」

 そこで、会場にいる皆から俺の方を振り向き、

 「無詠唱魔法使いどうしの戦いを!」

 校長は、口元に笑みを浮かべて、俺にそう言うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

コブ付き女サヨナラと婚約破棄された占い聖女ですが、唐突に現れた一途王子に溺愛されて結果オーライです!

松ノ木るな
恋愛
 ある城下町で、聖女リィナは占い師を生業としながら、捨て子だった娘ルゥと穏やかに暮らしていた。  ある時、傲慢な国の第ニ王子に、聖女の物珍しさから妻になれと召し上げられ、その半年後、子持ちを理由に婚約破棄、王宮から追放される。  追放? いや、解放だ。やったー! といった頃。  自室で見知らぬ男がルゥと積み木遊びをしている……。  変質者!? 泥棒!? でもよく見ると、その男、とっても上質な衣裳に身を包む、とってもステキな青年だったのです。そんな男性が口をひらけば「結婚しよう!」?? ……私はあなたが分かりません!

【悲報】男子高校において自分以外の全ての男子がTSし、男女比1:1000の女子高に変貌してハーレムが出来あがってしまう

リヒト
恋愛
TS病。 それは急に世界中で観測された男性が女性化してしまう病……しかも、この病によってかつては男であったTS女もその体に引っ張られていくように性格すらも女性化していき、男に恋するTS女も出てくるような最中。 とある日本の男子校ではたった一人の男子を除いてすべてがTS化。 深刻な女不足の空間から一変して複雑な女子高へと姿を変えた中で、ただ一人TS化しなかった一条輪廻の運命は如何にっ!?

虹の瞳を継ぐ娘

冬野月子
恋愛
かつて『七色の空を持つ楽園』と讃えられた美しい王国は、女神への信仰を失った王のせいで滅んでしまった。 百年後。 片田舎の領地でひっそりと暮らしていた伯爵令嬢イリスは、領地に滞在する事になった王子レナルドと出会う。 やがて王都へ出て行ったイリスは、自身に秘められた血の運命と己の力に向き合っていく。 ※小説家になろうにも掲載しています。

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

夫が離縁に応じてくれません

cyaru
恋愛
玉突き式で婚約をすることになったアーシャ(妻)とオランド(夫) 玉突き式と言うのは1人の令嬢に多くの子息が傾倒した挙句、婚約破棄となる組が続出。貴族の結婚なんて恋愛感情は後からついてくるものだからいいだろうと瑕疵のない側の子息や令嬢に家格の見合うものを当てがった結果である。 アーシャとオランドの結婚もその中の1組に過ぎなかった。 結婚式の時からずっと仏頂面でにこりともしないオランド。 誓いのキスすらヴェールをあげてキスをした風でアーシャに触れようともしない。 15年以上婚約をしていた元婚約者を愛してるんだろうな~と慮るアーシャ。 初夜オランドは言った。「君を妻とすることに気持ちが全然整理できていない」 気持ちが落ち着くのは何時になるか判らないが、それまで書面上の夫婦として振舞って欲しいと図々しいお願いをするオランドにアーシャは切り出した。 この結婚は不可避だったが離縁してはいけないとは言われていない。 「オランド様、離縁してください」 「無理だ。今日は初夜なんだ。出来るはずがない」 アーシャはあの手この手でオランドに離縁をしてもらおうとするのだが何故かオランドは離縁に応じてくれない。 離縁したいアーシャ。応じないオランドの攻防戦が始まった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。 ★読んでいる方は解っているけれど、キャラは知らない事実があります。 ★9月21日投稿開始、完結は9月23日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

下剋上を始めます。これは私の復讐のお話

ハルイロ
恋愛
「ごめんね。きみとこのままではいられない。」そう言われて私は大好きな婚約者に捨てられた。  アルト子爵家の一人娘のリルメリアはその天才的な魔法の才能で幼少期から魔道具の開発に携わってきた。 彼女は優しい両親の下、様々な出会いを経て幸せな学生時代を過ごす。 しかし、行方不明だった元王女の子が見つかり、今までの生活は一変。 愛する婚約者は彼女から離れ、お姫様を選んだ。 「それなら私も貴方はいらない。」 リルメリアは圧倒的な才能と財力を駆使してこの世界の頂点「聖女」になることを決意する。 「待っていなさい。私が復讐を完遂するその日まで。」 頑張り屋の天才少女が濃いキャラ達に囲まれながら、ただひたすら上を目指すお話。   *他視点あり 二部構成です。 一部は幼少期編でほのぼのと進みます 二部は復讐編、本編です。

グラティールの公爵令嬢

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
ファンタジーランキング1位を達成しました!女主人公のゲーム異世界転生(主人公は恋愛しません) ゲーム知識でレアアイテムをゲットしてチート無双、ざまぁ要素、島でスローライフなど、やりたい放題の異世界ライフを楽しむ。 苦戦展開ナシ。ほのぼのストーリーでストレスフリー。 錬金術要素アリ。クラフトチートで、ものづくりを楽しみます。 グルメ要素アリ。お酒、魔物肉、サバイバル飯など充実。 上述の通り、主人公は恋愛しません。途中、婚約されるシーンがありますが婚約破棄に持ち込みます。主人公のルチルは生涯にわたって独身を貫くストーリーです。 広大な異世界ワールドを旅する物語です。冒険にも出ますし、海を渡ったりもします。

処理中です...