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深夜のコンビニバイト九十二日目 ストーカー来店(後半)

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深夜のコンビニバイト九十二日目。

「ゆかりさんが最近あっているストーカー被害というのはどういうものなんです?」

「実は...ね」

ゆかりさんは、ポツポツと話し始めた。

「ストーカーというか、うーん、まぁ私は彼がそんな人に思えないんだけど」

酷く曖昧な感じだな。言い表せない感じなんだろうか?

「たまたまね、村松君が休みの時に私が深夜シフトで入った時があって、一週間前くらいかな...赤い帽子を被って海賊のコスプレをした20代後半か30代前半くらいの男性が来店してきたの」



***

ピロリロピロリロ。

ふらふらと来店してきたその人は、心身共に疲れてるというのが一目で分かったわ。

「何だここは...海がない。船もない。仲間もいない...こんな事になったのは全部ピーターパンのせいだ!!」

頭を休憩スペースの机にガンガン打ち付けて、包帯でぐるぐる巻きの右手がかなり痛々しかった。
ブツブツずっと一人で話している。かろうじて聞こえた言葉はパンの二文字。

パンが食べたいのかな?私は、こんな深夜にやってきた海賊コスプレイヤーさんを見て、次にパン売り場を見た。
サキュバスさんもサキュバスだって言ってたし、もしかしてこの人も本当に海賊だったりして。なんて。
創作活動してると、サキュバスだったり新しい同居人のマリーアントワネットちゃんも大概受け入れられてしまう。
このコンビニ深夜に変な人よく来るしなぁ。村松君もたいへんだぁ。

「あぁ...海賊は海がないと死んでしまうんだよ...潮の匂いが鼻について離れないんだよ...船もないと、今も俺はゆらゆら揺れてるんだ。懐かしい船酔いしたい...あぁ...クソ...あぁ...あれ、あれ。外...あれは海か?」

突然海賊さんは突然立ち上がって外を見た。
そして彼は、桃源郷を見つけたというように走り出した。
私は、突然どうしたんだろうと疑問に思ってふと店の外を見てみたら──さっきのお客様、雪の上でクロールしてみたり、暴れたり、雪を掴んで口いっぱいに頬張り始めた辺りで、私の体は自然と動いていた。

「な、何してるんですか!?大の大人がそんな...雪を食べるなんて!!パンですか!?パンなら私が払います!やばいですよ!お腹すいて頭おかしくなってるじゃないですか!」

彼の口から雪がポロリと落ちて呆然としている彼を私は腕を掴んで引きずるように店に連れ込んだ。
パンをあげると彼はボロボロ泣いて、

「親切なセニョリータ...ありがとう...」

「うわ、あの、ハンカチ...よかったら。全然いいんですよ。それよりあの、あれは何をしてたんですか?」

海賊さんは、私を見てその後分かってもらえないと悟ったように顔を伏せた。

「いや...まぁ、故郷を思い出していたみたいなものさ」

はは、と乾いた笑いを漏らして右手でちょび髭をいじろうとして彼はハッとした。
私も固まった。彼の右手、包帯でぐるぐる巻きだった右手は、包帯がとられ、銀色に光るフックのような義手だった。

「あ、これは作り物だよ」

さらっと答えた彼に、私は

「よくできてますね」

と合わせた。彼は、「まぁね」と微笑んで、サッと後ろに右手を隠すと、私の目の前に右手を差し出した。

パッと右手から咲く一輪の薔薇に、

「え?すごい」

驚いてると、左手でそれを摘んで、

「親切なセニョリータ。心も見た目も美しい貴方にプレゼントです。貴方のような素敵な人に出会えた日に感謝を」

私は薔薇を受け取るつもりがなかったのに思わず受け取ってしまった。
ただの手品お兄さんなの?この人?

ピロリロピロリロ。

「ちょっと船長!!船長!ここにいたんですか!」

「何!?お前達もここに!?」

ぞろぞろと海賊のようなコスプレをした人達が来店してきた。船長と呼ばれた彼は心底嬉しそうにして、

「それではセニョリータ!」

「あ、待って、待って下さい。またあんな事しちゃダメですよ!?」

引き止めると、彼は深く頷いて、

「大丈夫ですよ。仲間がいればまた航海ができる」

そして皆は帰っていった。

***

「そしてその日の帰り道、その日は朝から用事があったから早朝に仕事が終わったの。家も近いからね帰り道、普通に帰ってたら、誰かにつけられてる気がして」

「気がして?」

「うん、ずる...ずる...って何かを引きずるような音がついてくるの。振り返っても、誰もいなくて」

「いや怖い!!!それ普通にホラーじゃないですか」

「そう、それがね、最近毎日なの。それに、無言電話もかかってきたりして。しかも公衆電話から」

「公衆電話から、無言電話?」

「うん、基本的に出ないんだけどねそういうの。でも、一日に30件くらいかかってくるからなんだろうと思って出たんだけど、無言なの、ずーっと無言」

「...公衆電話から無言電話程怖いものはないですよ」

「そう...でしょう」

色々コンビニで経験してきた俺も真っ青の話だった。

「それに、最近ピンポンダッシュもあって。ピンポンが鳴って外に出てみたら誰もいなくて」

「いたずらってレベルじゃないですね。下手すると全員同一人物の可能性も」

「それで、そのストーカーが始まった日に来たお客がその怪しい海賊の奴だったからそいつを疑ってるってわけ」

サキュバスさんの言ってることはよくわかる。

「初対面のゆかりさんにバラの花をあげるなんてキザな野郎は許せねぇ明らかに不審な奴だろ」

「いやあんたが言うなよ」

それ狼男さんが最も言っちゃいけない事!

「それでも、私はあの人がそんな事さんとは思えない...お仲間さん一緒に帰っていったのよ」

「そういう奴が一番怪しいのよ!ゆかりが困ってるのをみて今も楽しんでるかもしれないでしょう」

サキュバスさんは、必死にゆかりさんを説得する。
ゆかりさんは、納得いってない表情だ。

ピロリロピロリロ。

入ってきたのは、今、まさに、話をしていた、海賊の格好に、赤い帽子、右手に包帯を巻いた20代後半から30代前半の男性。

「お嬢さんに前に世話になったお礼をしようと思ってな」

後ろからぞろぞろ仲間達と一緒に現れた彼に、サキュバスさんと狼男さんは飛びかかる勢いで指をさして叫んだ。

「あんたね!!!!!!!!!!!」
「てめぇだな!!!!!!!!!!」

「え?」

きょとんとする海賊の船長さん。

「あんた最近ゆかりのストーカーしてるでしょう!?」

「え?すと、え?」

「いい加減粘着質にゆかりさんにつきまとうな!!」

「な、何の...話をしてるんだ?この人達は」

海賊の船長さんは、助けを求めるようにゆかりさんをみた。

「やっぱりこの人がやったとは思えない。ねぇ、海賊さん外で変な人を見なかった?私、実は今も誰かに見られてる気がするの」

「.....変な人?成る程。貴方は誰かに命を狙われてると?それはきっとピーターパンだ。私が見てきましょう」

海賊の船長さんは、仲間達とぞろぞろと店を出ていく。

「さっきの見られてるっていうのは本当なの?」

サキュバスさんは、狼男さんと一緒に店の出口にもう向かっていた。

「う、うん。もしかしたら気のせいかもしれないと思ったけどやっぱり気のせいじゃないみたい」

サキュバスさんと狼男さんも店を飛び出した。

「ゆかりさんには、こんなに仲間がいますよ。ストーカーだって、きっとすぐ捕まえる事ができますよ。信じて待ちましょう」

俺の言葉に少し目を潤ませながらゆかりさんは「うん」と頷いた。



***

「外にいたわ」

まじかよ。ドサっとそこに犯人のようにロープでぐるぐる巻きにされていたのは、なんと罰当たりか"お地蔵様だった。

「あ、このお地蔵様...」

ゆかりさんは、ピンときたようにお地蔵様を覗き込む。お地蔵様は、よく見たら頭にアニメのキャラタオルを巻いていた。

「あの日の出勤の時に雪が頭に積もっててはらってあげたの。寒そうだなって思って丁度本屋の一番くじでダブったアニメタオルを頭に巻いてあげて...何でそのお地蔵様がここに」

お地蔵様は、縛られた状態で顔だけむくりとゆかりさんに向いて、

「あ、えっと、その、ずっと...お礼を言いたかったんです。あの時は、寒くて口が開かなくてあの、お礼を言えなかったので、その、えっと、で、でもいざ貴方を目の前にすると恥ずかしくてずっとお礼を言いたくて貴方に話しかけたくてこの一週間貴方に話しかけようと頑張っていたんですけど...」

「...待って、夜にずるずるって誰かがついてくる音は?じゃあ公衆電話の無言電話も」

「それは、私です。話しかけたくて...あ、それも私です。電話...かけたんですけどね。いざかけて貴方の声を聞くと声が出なくなってしまって」

「ぴ、ピンポンダッシュも?」

「あ、はい。貴方が出て目の前に現れると思うと隠れてしまって...」

お地蔵様は、照れながら俯いた。
サキュバスさんと狼男さんは、爆発五秒前という顔をしていた。

ゆかりさんは、両手で口元を押さえて、

「よかった...変な人じゃなくて」

心底安心したように微笑んだ。
優しいなぁ、ゆかりさんは。今までの事より怪しいストーカーじゃないという安心が勝ったようだった。
サキュバスさんと狼男さんはその様子を見て驚愕したように目を見開くと無言でぐっと堪えた。

海賊の船長さんは、ゆかりさんを見て髭をいじりながらウインクした。

「貴方は、やはり素敵な人だな。私もそうだが、色んな人が貴方に感謝を伝えたいと思っているようだ」

ゆかりさんは、いいえと首を振ると、

「私こそ、皆に助けられてばっかり本当にこのコンビニで働いていてよかったって思いますよ。きっとそうじゃなかったら今私の大切な人達に出会えなかったと思いますから」




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