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深夜のコンビニバイト前二十六日目 番外編 村松小雨です

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「行ってきます」

朝ご飯を食べた私は、両親に挨拶をして家を出た。

村松家は、母、父、兄、姉、私の5人家族。
私は末っ子の村松小雨(むらまつこさめ)
中学一年生。
高校生二年生の雲子(くもこ)お姉ちゃんは、電車で通学だから、私より早く家を出る。

ずっしりと重いリュックサックを背負い、五月の半ば。
熱が出て三日間学校を休んでいた私には、リュックサックが重く感じ、登校風景もなんだか変わったように感じる。
行く途中の川には、いつものようにこっちを見ている河童さんがいて、私は笑顔で手を振った。
河童さんは、ちゃぷんと川に隠れてしまう。いつもそう。河童さんは恥ずかしがり屋さんなのだ。

「おはよう!小雨ちゃん!体調大丈夫?」

クラスメイトの朱音ちゃんが私に笑顔で駆け寄ってきた。

「平気だよ。もう治った」

「よかったー!心配してたんだよ。あ、そうそう、小雨ちゃんが休んでる間、転校生が来たの」

「どんな子なの」

「なんかね、自分の事竹から生まれたかぐや姫だって...ちょっと変な子なの」

「すごいね」

お父さんとお母さんと生まれたわけじゃなくて、竹から生まれた、なんて。
どんな子か楽しみだった。

「まさか小雨ちゃん...本気で信じてる?」

私は楽しみで朱音ちゃんの若干引き気味の声は耳に届かなかった。

登校すると、他のクラスメイトがわぁっと来て、

「小雨ちゃん!おはよう!大丈夫?」
「よかった!久しぶり!」
「大変だったでしょー心配したよ」

なんて声をかけてくれた。
クラスの皆は優しい。

私が席に着くと、隣の席の天邪鬼そら(あまのじゃくそら)君が、じっとこっちを見ていた。

「そら君、おはよう」

「......おはよ」

「何でこっち見てるの」

「別に。小雨ちゃんが元気になって"残念"だなって」

そら君は、天邪鬼という鬼なんだそうだ。
隣の席になったそら君にそう教えてもらった。
鬼だけどそら君は全然怖くない。
ツノも小さいし、顔も怖くない。
天邪鬼は、思った事と反対の事を言ってしまうって言っていた。
そら君は無口で普段はあまり話さないけど、私の事心配してくれるし、給食のプリン分けてくれるし、勉強教えてくれるし優しい。

「ありがとう。そら君は優しいね」

「べ、....別に」

と顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
いつもそうだから、私は気にしてない。

転校生のかぐや姫ちゃんを辺りを見回して探してみると、教室の隅っこで一人ノートに何か描いている見覚えのないツインテールに、ハートの眼帯の女の子がいた。
思っていたかぐや姫ちゃんとは違ったけど、休み時間に話しかけてみようかな。

休み時間になったら、クラスの子達にトイレに行こうと誘われたけど、

「さっきしてきた」

嘘をついてかぐや姫ちゃんに話しかけに行った。
かぐや姫ちゃんは、相変わらずノートに何か描いている。

前の席が空いていたから座って、後ろを振り向いた。

「何描いてるの」

「ひゃあ!!」

かぐや姫ちゃんは、びっくりして飛び上がり、描いていたノートを後ろに隠した。

「や、やめなよ。小雨ちゃん、その子変なんだって」
「そうだよ、竹から生まれたって本気で言ってるんだよ。お母さんとお父さんは月にいるんだって」
「喋り方も変だし、"私"じゃなくて"われ"っていうんだよ」

クラスの皆は、私に優しいけど。
こういう所は優しくない。
自分達と少し違うとすぐそうやって非難する。
そら君も最初は浮いてたけど、結局あまり話さないし、本ばっかり読んでるから徐々にクラスからはミステリアスなイケメンと言われて一歩引かれるようになった。
顔は格好いいし、ミステリアスで格好いいって女子からは悪く言われないし、男子は前にすかしてんじゃねえよって喧嘩ふっかけてギタギタのめためたにされてたからもうそら君に関わらないし、いいんだけど。

かぐや姫ちゃんは女の子だし、よく喋る子なのかな。
そら君がよく話す子だったら、きっとクラスの皆はそら君をこうして非難してたんだろうな。

「前に何かあったの?」

「自己紹介の時に、我はかぐや姫。竹から出生せし、姫なるぞ。クラス全員私の下僕として仲良くしてあげるわ!って」

「...大丈夫?」

私がかぐや姫ちゃんを見ると、机に突っ伏して動かなくなっていた。

「竹から生まれたのにお父さんとお母さんが月にいるのは何でなの?」

「どうせ信じてくれないじゃん」

突っ伏したままでふてくされたようにいうかぐや姫ちゃんに、

「小雨ちゃんが話しかけてあげてるのに!」

「信じるよ」

他のクラスメイト達の声を遮るように言った。

「竹から生まれたなんてすごいじゃん。私とは違って格好いい。月ってどんなところなの?かぐや姫ちゃんはどんな子なの?もっと私に話してよ」

「馬鹿にするもん...」

「馬鹿にしないよ」

「嘘つきっていう」

「言わないよ」

「後で我の事、皆で笑う!」

顔を上げたかぐや姫ちゃんは、目に涙を溜めていた。

「ううん、笑わないよ。私と友達になろうよ。かぐや姫ちゃん」

私は、かぐや姫ちゃんに右手を差し出した。その右手と、私の顔をえ?え?と見ながら、目を見開いたかぐや姫ちゃんに、

「私の友達になったら、今度かぐや姫ちゃんを笑った人を私が絶対に許さない。変な事言われてたら守ってあげる。一人でいたら一緒にいてあげるよ」

「本当...?」

「うん、本当」

「体育のペアも?」

「いいよ」

私は、変わった人を笑うクラスメイト達より、竹から生まれたかぐや姫ちゃんの方が面白くて好き。
反対言葉を話しちゃうそら君の方が好き。

人間なんてつまらないもので、この地球に飽きる程沢山いて、多数決的にそう、人間が言う"普通"が普通。
他は理解できないされない受け入れない。
でも、私は昔から多数決があると、少数派の意見にわざと手を上げてしまう程、"他と違うもの"、や"違う人"に憧れを抱いていた。
私は、普通の人間にはなりたくない。
こうして変わった人達を見るとついつい興味が湧いてしまうのだ。羨ましくて仕方ないのだ。
だからこうして、手を伸ばしたくなる。

「私と、本当に、友達になってくれるの?」

「うん。私が嘘ついたら私の事10回殴ってもいいよ」

「本当に殴るぞ!いいのか?」

そうやって、本気で返してくるところも面白い。

差し出した右手に、恐る恐る左手を重ねた彼女の手をしっかり握って握手する。

「よろしくね、かぐや姫ちゃん。ところで、そのノートに何描いてたの?」

「あっ...こ、これは、だな。その」

休み時間が終わってしまった。
席に着くと、そら君が私をまたじっと見ていた。こういう時はなにかを伝えたい時だ。

「どうしたの?」

「小雨ちゃんって"普通"だよね」

「.....そんな事ないよ。でも、ありがとうそら君」

そら君全然普通だよ、そら君。
特殊能力、変わった個性、他と違う人達に私は憧れている。
将来は、異世界に転生して魔王とかになりたい。勇者はいっぱいいるけど、魔王は一人しかいない。
私が魔王を倒して、魔王になるんだなんて考えてるけど、きっとそれは私みたいな一般人が考えつく事なのだからもっと凄い人がとっくに考えついてると思う。

結局、クラスの皆は『高熱で小雨ちゃんの頭がおかしくなった』
という事で、落ち着いたみたい。

放課後、かぐや姫ちゃんにノートを見せてもらった。
そこには、白と黒の天使の羽が生えた女の子と、黒い羽が生えた悪魔みたいな格好した女の子の真ん中で、ゴスロリの格好をしたかぐや姫ちゃんが手を繋いでる絵だった。

「これは?」

「我の友達!天使ちゃんと、悪魔ちゃん、最近友達になったの」

満遍の笑みで笑うかぐや姫ちゃん。

「天使と、悪魔ちゃん...」

「そう、天使ちゃんは、黒と白の羽が生えた天使で、悪魔ちゃんは悪魔界のエリートなの。また今度天界の話を聞かせてもらうんだ」

普通の人が聞いたら厨二病的な内容だ。
でも、私は心が踊ってわくわくした。

「今度、絶対紹介してね。かぐや姫ちゃん」

「いいぞ!小雨ちゃんは友達だからな」

その日は、クラスの友達に帰ろうって言われたけど断ってかぐや姫ちゃんと帰った。

「我!友達と帰るの初めて!」

と笑うかぐや姫ちゃんは、本当に嬉しそうだった。
友達になれてよかった。
また明日ね、と二人で手を振りあって一人になった帰り道。

「お、嬢ちゃん...」

「人面犬のおじちゃん、こんにちは」

人面犬のおじちゃんは、帰り道たまたま会うと挨拶する。
面白い事を沢山教えてくれるんだ。
公園で隣同士、座りながらよく話をする。

「前は学校つまんねぇっていってたけど、最近はどうだぃ?」

「楽しい。隣の席に天邪鬼君が転入してきて、体調崩して戻ってきたらかぐや姫ちゃんが転校してきていて、面白い。中学校生活は、楽しく過ごせそう」

「そうかぃ...あんたも俺と普通に話してる時点で大概普通じゃねえけどなぁ」

ぼそっと呟いた人面犬のおじちゃんに、

「河童や人面犬のおじちゃん、天邪鬼なそら君や、竹から生まれたかぐや姫ちゃんがいてもいいじゃない。その方が面白い。魔王や勇者がこの世界のどこかにいるかもしれないって考えると、すごくわくわくしない?」

「そうだな。あんたは、肝っ玉の据わったお嬢ちゃんだ」

「ありがとう。おじちゃん」

でも、私がおじちゃんを撫でると眉をひそめてなんとも言えない恥ずかしいと言う顔で撫でられていた。

「俺ぁ撫でられるのは嫌いだが、大人だから嬢ちゃんに撫でられてやっている」

と前に言っていたけど、やっぱり犬の部分があって無意識に尻尾を振ってしまっているところを、私は可愛いと思う。

「おじちゃん、またね」

「あぁ、また学校の様子教えてくれよ」

「うん」

一人で帰る夕焼けの帰り道。
見覚えのある背中が見えた。

「あっ!お兄ちゃん!」

「あぁ、小雨か。学校帰り?インフルエンザ明けだったけど大丈夫だった?」

「うん、平気だよ。お兄ちゃんは?」

私の大好きなお兄ちゃん。晴お兄ちゃんは、ティーシャツにジーンズ姿で買い物袋を下げていた。

「買い物帰りだよ。どうしたの?楽しそうだね」

買い物袋の中からペットボトルのりんごジュースを取り出して蓋をあけると、ゴクゴク飲み出したお兄ちゃん。
今日の出来事を早く話したかった。

「今日復帰したらね、かぐや姫ちゃんって転校生が来てたよ」

ブーっとりんごジュースを吹き出したお兄ちゃんは、ポタポタと口からりんごジュースを垂らしながら私を見た。

「どうしたのお兄ちゃん」

「.....な、何でもないよ」

ポケットからハンカチを出して口をふくお兄ちゃんは、心底心配そうに私をみていた。

「最近転校生が多くて、隣の席の天邪鬼君と仲良くなって、次はかぐや姫ちゃんとも仲良くなれたよ。最近学校が楽しいの」

「これが兄妹の宿命ってやつなのか...へ、変なやつが変な事してきたらお兄ちゃんにいうんだぞ!かぐや姫のストーカーしてる六人の公達とか...公達とか!」

お兄ちゃんは頭を抱えてよくわからない事をブツブツいっていた。

お兄ちゃん、ストーカーといえばお兄ちゃんの後ろにいつも隠れてついてきてる赤い服を着た女の人は、誰なの。



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