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深夜のコンビニバイト四日目 口裂け女さんご来店(笑)&魔王再び来店

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昨日口裂け女さんが来店した後、口裂け女さんは、格好良く

「また来るわ、ハル」

なんて言って帰っていかれたけれど、口裂け女さんは、レジ台の上の大量のべっこう飴を忘れていた。
俺も気がつかないのがどうかしていたんだと思うけれど、やっと蛇に魂を鷲掴みにされたカエルな気分から解放された安堵感で、すっかり気がつかなかった。

「どうしよこれ」

とりあえず、店長にお客様のお忘れ物だと伝えた。
店長は、

「そのお客様.....え?これ、忘れたの?ちょっと、大丈夫なのその人」

本気で心配していた。


***

深夜のコンビニバイト四日目。

ピロリロピロリロ

「いらっし」

無事に顔を真っ赤にしてズカズカと早歩きでやってきた赤い肩出しワンピースに相変わらずの帽子サングラスマスクの口裂け女さんだった。

「わ、忘れ物!!そ、その、昨日私が買った...その」

最初は強気で俺のレジに飛び込んできた口裂け女さんだったが、徐々に恥ずかしさで口調が弱々しくなる。

「あっ...ありますよ...ぷぷ...」

いかんいかん笑ってはいけない。
堪えろ俺...落ち着いて深呼吸だ。
口裂け女さんが再度ご来店(笑)された事実に前回と違い若干別の意味で震えながらカゴいっぱいのべっこう飴を差し出した。

「あっ...ありがと。それじゃまたくる...わっ!」

「ぶへっ」

わっ!とべっこう飴の袋を顔面に叩きつけられた。
なにこの仕打ち。
べっこう飴の忘れ物のカゴを渡したら顔面にべっこう飴の袋叩きつけられたんだけど結構痛いし。

くるりと振り返り、俺に背を向けた口裂け女さんは、また競歩出れるよってくらいの早歩きでズカズカと帰っていった。


やっと...嵐が去った。

俺は、大きく息を吐いてレジ台に突っ伏した。

べっこう飴かぁ...懐かしいな。
微笑ましい気分で、立ち上がる。

「よし、今日も仕事頑張るぞ」

小さく呟いてガッツポーズ。
もうどんなお客さんが来てもどんとこいだ。

ピロリロピロリロ

「いらっし」

「坊主、我だ。魔王だ」

「いらっしゃいませ。お出口はあちらになります」

帰れ。

フランクに手を上げながら、「村松ヨッスヨッス」みたいな感じで入ってきたガチガチのクソでか魔王に俺は頭を抱えた。
今度は何だ。

魔王はガシャンガシャンと鎧の音を立てながら俺の立っているレジ前まで歩いてくると、

「食料が尽きた。前に我に献上したカツサンドなるものを寄越すが良い」

「一応、聞きますがお金は」

魔王はふむ、と考えるそぶりを見せた。
おっ、まさか──。

「金貨なら」

「それ異国のお金でしょどうせ異国って言っても異世界のアレですよね!?違うよジャパニーズマネーですよ」

もう俺は驚かない。
最初は魔王のコスプレをした人だと思っていた。思えていた俺の頭が平和だったからだ。
でもここ数日で河童、口裂け女さんと来てはっきり分かった。

このコンビニ、変な客しか来ない。

「お金は...シェリィの給料日まではないんだ」

しょぼんと落ち込んだ魔王に、純粋にこの人達がどうやって暮らしているのか気になった。

「あの、普段どこでどういう生活を」

「公園でホームレスという奴らと共に空き缶を拾って過ごしている」

........涙出そうになった今。
俺は、よくラノベやアニメで見る魔王と見た目は全くイメージ通りなのにかけ離れた生活をしている魔王を見て驚きのあまりなにも言えなかった。

ピロリロピロリロ

「魔王様!何してるっすか!」

コンビニに駆け込んで来たのは初日に魔王を連れ戻しに来た褐色エルフメイドだった。

でも何か今日はピンク色の肌の露出した....キャバクラで大人の女の人が来てそうなドレスを着ていた。

「ほら、帰るっすよ!」

「....我はまたあの美味なるカツサンドを食べたいのだ」

「我儘言わないでくださいっす!うちにはお金がないんすから!」

「あの...エルフメイドさん」

俺は、絶対に聞いてはいけないと分かっていたが、思わず聞いてしまった。

「あの、今まで何してたんですか?」

エルフメイドさんは、自分のドレスと俺を交互に見て、儚げに笑った。

「人間の男の人にお酒を注いで喋ったり、一緒に飲んだりする所で働いているっすよ」

キャバクラだそれ!!!

「カツサンドが食べたいのだ!我はカツサンドが食べたいのだ!」

「我儘言わないでくださいっす!お店から今日も残ったポテトもらってきてあげたっすよ」

「毎日しなしなのポテトやだ!サクサクのカツサンドがいいのだ!」

俺は、もう耐えられなかった。
レジを飛び出して、休憩室に駆け込んだ。
ロッカーを開けて財布の中身を確認する。

お財布には5000円。
まあまあの金額だが俺にはもっと彼女らに贅沢させてあげたかった。

「クソッ今俺にもっと金があれば有り金全部回らないお寿司にでも行ってあの二人に使い果たしてたのに!」

深夜二時だからどこもやってないけどさぁ!
上を向いていないと涙が溢れそうだった。なんだよ、この野郎。
健気すぎんだろこのエルフメイドさん。厳しすぎんだろこの社会。

俺は店のカツサンドをありったけカゴに入れ、その他パンや、二リットルペットボトルの飲み物、甘いお菓子、ついでに魔王が暇にならないように漫画雑誌まで入れて凄い勢いでピッピッとレジを打っていった。

「どうしたんすか!?突然。仕事中っすよね!?いいんすか!?そんなことして」

「こんな時間だからおかしくなったのか坊主!?」

二人に本気で心配されながら俺は、レジを打ち終わり、袋に丁寧に詰めて二人に渡した。

「な、なんすかこれ.....こんなに」

「カツサンドが...入っている」

二人はずっしりと重いコンビニ袋を覗き込んでつぶらな瞳で俺を見た。

「いいんだよ。俺の気持ちだからさ。好きなだけ食べてくれよ」

これは決して同情なんかじゃない。
この感情にあえて名前をつけるとすれば.....だめだ思いつかない。

「ただ、ほっておけないから...」

ぽりぽりと頰をかきながら二人を見ると、エルフメイドさんが俺に飛びかかってきた。

「ありがとうございますっす!正直魔王様の我儘にはこっちも困ってたんすよ!何度河原に捨てていこうと思ったか!!これでカツサンド口に押し込んで黙らせる事ができるっす~」

「礼を言う坊主よ。正直毎日しなしなのポテトでは俺までしなしなになってしまう所だった。シェリィの奴毎日自分はお腹いっぱい食べて我にはしなしなのポテトしか持ってこないからな。これでまともな食事を我も食べれると言うものだ」

なんか二人闇深くない。
そんな状況なんだから仲良くして!!

「そうだ」

俺は、さっき口裂け女さんからもらったべっこう飴を口裂け女さんには申し訳ないけど二人の袋の中に入れてあげた。

「坊主、何だこれは」

「お菓子...っすか?」

「喧嘩しそうになったりお互い嫌な気持ちになったら食べてください。仲良くなれる魔法の飴です」

魔王と、エルフメイドは顔を見合わせて改めて大事そうに袋を抱えた。

「本当に、ありがとうございますっす」

「礼を言う坊主よ」

俺の財布はすっからかんだが、俺の心は満たされていた。

さて、今夜は商品の補充で忙しいな。






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