34 / 39
34
しおりを挟む
震える声で、伊藤は続けた。
「あの日、厨房組は仕事を終えて、寮に戻っていた。片づけに残ったのは柊と、近藤と、その時レストランで働いていた菅原の3人だけ。香苗は、不安だったんだ、菅原は、ゆらぎに僕の知らないところで交際を迫っていたらしいし、でも帰る前に支配人の谷口さんに言ったら、仕事に私情を挟まないようにって」
しゃくりあげるように声を殺して泣いている伊藤に、雪知はかける言葉もなかった。
「僕は本当に、何も知らないんだ。2日間寝込んでいて、たたき起こされて行方不明だと知った後、探すことしかできなかった。香苗とあの2人を問い詰めたけど、「掃除に残った」の一点張り。今もそうだけど、この場所は山に囲まれていて、山の中に一歩間違えて入れば右も左もわからない」
雪知は、熱で寝込んでいて起きた時自分の恋人が行方不明になったと聞いた伊藤の気持ちを考えると、いたたまれなくなり自分の熱をお茶にうつすようにお茶を握りしめた。
「山を捜索にいった時木に傷があった。おかしいんだ、その傷が新しくて、でも、僕は……柊がつけたものかもしれないって……追いかけたよ。でも、その近くに熊が冬眠している熊穴があっただけで、どこを探してもいなかったから、山の中も探したけれどどうしても、見つからなかったんだ」
柊ゆらぎのことを愛しているからこそ、柊を倒れるまで探したというのは本当なのだろう。幽霊騒ぎのことや、行方不明事件のことを聞かれて何も知らないといったのも本当で、自分が何もできなかったことで、打ち震えていたのだ。
「伊藤さん……」
「……」
伊藤は、何度も肩で息をした。
「僕は、あの2人が怪しいと思って香苗と独自に調べた。でも、何も出てこなかった。あの2人がゆらぎに何かした証拠も、ゆらぎの手がかりも、そんな香苗も、あの女も、死んでしまった……」
「大丈夫ですよ」
雪知は、お茶をごくごくと飲んで立ち上がった。
「僕と不二三探偵で、柊ゆらぎさんの行方不明事件も、今回の事件も解き明かします。真相を解き明かすことが、僕たちがこの場所に来た理由です」
雪知は、不二三のいるレストランの倉庫へと向かった。
「あの日、厨房組は仕事を終えて、寮に戻っていた。片づけに残ったのは柊と、近藤と、その時レストランで働いていた菅原の3人だけ。香苗は、不安だったんだ、菅原は、ゆらぎに僕の知らないところで交際を迫っていたらしいし、でも帰る前に支配人の谷口さんに言ったら、仕事に私情を挟まないようにって」
しゃくりあげるように声を殺して泣いている伊藤に、雪知はかける言葉もなかった。
「僕は本当に、何も知らないんだ。2日間寝込んでいて、たたき起こされて行方不明だと知った後、探すことしかできなかった。香苗とあの2人を問い詰めたけど、「掃除に残った」の一点張り。今もそうだけど、この場所は山に囲まれていて、山の中に一歩間違えて入れば右も左もわからない」
雪知は、熱で寝込んでいて起きた時自分の恋人が行方不明になったと聞いた伊藤の気持ちを考えると、いたたまれなくなり自分の熱をお茶にうつすようにお茶を握りしめた。
「山を捜索にいった時木に傷があった。おかしいんだ、その傷が新しくて、でも、僕は……柊がつけたものかもしれないって……追いかけたよ。でも、その近くに熊が冬眠している熊穴があっただけで、どこを探してもいなかったから、山の中も探したけれどどうしても、見つからなかったんだ」
柊ゆらぎのことを愛しているからこそ、柊を倒れるまで探したというのは本当なのだろう。幽霊騒ぎのことや、行方不明事件のことを聞かれて何も知らないといったのも本当で、自分が何もできなかったことで、打ち震えていたのだ。
「伊藤さん……」
「……」
伊藤は、何度も肩で息をした。
「僕は、あの2人が怪しいと思って香苗と独自に調べた。でも、何も出てこなかった。あの2人がゆらぎに何かした証拠も、ゆらぎの手がかりも、そんな香苗も、あの女も、死んでしまった……」
「大丈夫ですよ」
雪知は、お茶をごくごくと飲んで立ち上がった。
「僕と不二三探偵で、柊ゆらぎさんの行方不明事件も、今回の事件も解き明かします。真相を解き明かすことが、僕たちがこの場所に来た理由です」
雪知は、不二三のいるレストランの倉庫へと向かった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発
斑鳩陽菜
ミステリー
K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。
遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。
そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。
遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。
臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。
声の響く洋館
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。
彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
双極の鏡
葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。
事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。
桜子さんと書生探偵
里見りんか
ミステリー
【続編(全6話)、一旦完結。お気に入り登録、エールありがとうございました】
「こんな夜更けにイイトコのお嬢さんが何をやっているのでしょう?」
時は明治。湖城財閥の令嬢、桜子(さくらこ)は、ある晩、五島新伍(ごしま しんご)と名乗る書生の青年と出会った。新伍の言動に反発する桜子だったが、飄々とした雰囲気を身にまとう新伍に、いとも簡単に論破されてしまう。
翌日、桜子のもとに縁談が持ち上がる。縁談相手は、3人の候補者。
頭を悩ます桜子のもとに、差出人不明の手紙が届く。
恋文とも脅迫状とも受け取れる手紙の解決のために湖城家に呼ばれた男こそ、あの晩、桜子が出会った謎の書生、新伍だった。
候補者たちと交流を重ねる二人だったが、ついに、候補者の一人が命を落とし………
桜子に届いた怪文の差出人は誰なのか、婚約候補者を殺した犯人は誰か、そして桜子の婚約はどうなるのかーーー?
書生探偵が、事件に挑む。
★続編も一旦完結なので、ステータスを「完結」にしました。今後、続きを書く際には、再び「連載中」にしますので、よろしくお願いします★
※R15です。あまり直接的な表現はありませんが、一般的な推理小説の範囲の描写はあります。
※時代考証甘めにて、ご容赦ください。参考文献は、完結後に掲載します。
※小説家になろうにも掲載しています。
★第6回ホラーミステリー大賞、大賞受賞ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる