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限界サラリーマンのおじさんは女装した銀髪の歳下に❤︎される

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「俺のマンションの方が近いよ」

 手を強制的に繋がれたまま歩いていると、不意に冬街がそう言った。

「だから、今日は僕の家に泊まっていきなよ」
「……は?」
「腹も減ったでしょ?コンビニで弁当買って帰ろっか」
「ちょっと待て。俺はまだ行くとは一言も……」
「ほら、早く行こ?」

 俺の話など聞かず、冬街はどんどん先へと進んでいく。
 アーケード通りを歩いていると、すれ違ったがほとんどの男性が冬街の容姿に身惚れているようであった。

 それはそうだろう。今の冬街は誰が見ても美人な女性なんだから。
 膝丈のスカートに白シャツというシンプルな服装だが、それ故に冬街の魅力が存分に引き出されているような気がした。骨格も上手に隠されていて、女性にしか見えない。

「……なんで女装してるのか聞いてもいいか?」

 コンビニの入り口から涼しい風が吹き込んでくる中、唐突に尋ねる。すると、冬街は一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「ああ、これ?」
「うん」
「太郎さんを驚かせたかったから」
「それだけのために?」
「そうだよ。似合ってるだろ」

 さすが女装をしながら地下アイドルをしている男だと言うべきだろうか。正直、すごく綺麗だと思えた。男なのにこんなにも女に見えるものなのかと感心するほどだ。

「何食べる?好きなもの選んで良いよ」

 冬街はカゴを手にすると、真っ先に菓子コーナーへと向かった。俺は少し悩んでから店を回る。そして目に入った半額シールの貼ってある商品を適当に手に取り、冬街のもとへと向かった。
 冬街は俺を見るなり、「やっぱりね」と訝しげな表情をする。

「……太郎さん」
「な、なんだよ」
「まさか、そんな物で済まそうとしていないよね」

 冬街の言う『そんな』というのは、おそらく半額シールの貼られた饅頭のことを言っているのであろう。

「え、ああ。まあな」
「嘘でしょ!?」

 信じられない、と言わんばかりの反応をする冬街だったが、俺にはこれが普通だ。

「………これにしなよ」

 冬街は棚からおにぎりを数個取り出すと、俺に差し出してきた。

「金が勿体無いだろ」
「そんなことないよ」
「はぁ?!お前な!この金額は紀元前ソフィーちゃんのステッカーが買えるんだぞ!?」
「だから、俺に貢ぐの禁止だってば」

 俺の顔を見ながらおにぎりを数個かごの中に入れる冬街。どうやら譲る気はないらしい。こうなったら何を言っても無駄だ。

「払ってくるね」
「いや、自分で払う」

 財布を取り出そうとするも、冬街に止められてしまう。

「……俺が払う」

 再度財布を取り出そうとしたところで冬街は口を尖らせながら阻止してくる。

「俺だって働いてるんだ。これぐらい払わせてくれ」
「歳下に奢らせるわけにいかないだろうが」
「歳上とか歳下とか関係ない。これは俺の気持ちの問題なんだから」
「……」
「俺は太郎さんに甘えられたいの」

 真剣な眼差しで見つめられ、俺は言葉が出てこなかった。

 甘えられたい。
 こんなおっさんに甘えられたいというのか?お前は俺の推しで俺はお前のファン。ただ、それだけの関係なのに。
 それなのに、お前は俺をなぜ気にかけるんだ。なぜ、俺を愛そうとするのだ。なぜ、他にもファンがいるなかで、俺なんだ?なんであの時、俺に声を掛けたんだ。


「太郎さん」
 
 返事がない俺を心配しているのか、再度冬街が俺の名前を呼んでくる。反射的に俺は承諾してしまったのだ。

「……わかったよ」
「ふふ、ありがとう」

 結局、押し負けてしまった。

 レジに並ぶと、店員は冬街を見て頬を赤く染めていた。そりゃあ、そうだろう。今、目の前にいる男はどこからどう見ても完璧な美女なのだから。
 それだけのやり取りなのに、胸がざわめいた。小学生の頃や幼い頃、気に入った友達、母親の注意を他人に取られたかの感覚。

「……どうかしたの?」

 会計を終え、袋詰めされた品物を渡される。それを受け取っている間、冬街は不思議そうな顔でこちらを見つめていた。

「なんでもない」
「そう?ならいいけど」

 冬街は首を傾げながらも、それ以上は何も尋ねなかった。
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