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衝撃的事実は、一つとは限らない
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駅前のファストフード店で鶴間君と別れた私は、下を向きながらとぼとぼと家路に向かう。夕暮れ時、西日が映す私の影は頼りなく揺れていた。
とほほ。勢いとは言え、私はとんでも無い事を口にしてしまった。口説き落とさなればならない鶴間君の恋の応援をしてしまうなんて。
はっ! こんな事を六郎に知られたら何を言われるか分からないわ!!
「いや。悪くないぞ。小田坂ゆりえ。結果オーライってヤツだ」
私の心を見透かした様に、赤いジャージ姿の長身金髪男が突然私の隣に現れた。ろ、六郎!?
な、何であんた事情を知ってるの? だって六郎はあの時姿を消していたじゃない?
「鶴間徹平に俺の姿を見られない様に少し離れた場所にいたんだ。とにかくだ。小田坂ゆりえ。これは千載一遇の好機だぞ」
六郎は茶色いサングラスの中から、鋭い視線を私に向ける。こ、好機? この事態が? 何でよ?
「加点二十点。鶴間徹平がアンタへさっき抱いた好印象の点数だ。前回までの点数と合わせて七十点。これはもう、目標達成への射程距離に入ったと言ってもいいぜ」
六郎が小さくガッツポーズする。な、なな七十点!? 鶴間君がこんな小太りでブスな私に!?
「いいか。小田坂ゆりえ。ここからが重要だ。鶴間徹平の悩みに親身になってやるんだ。そうすれば点数はグングン伸びる。そして鶴間徹平が北海信長に失恋して傷心の所を攻めて勝負を決める!!」
力強く段取りを決める六郎の言葉に対して、私は何処か違和感を感じていた。そもそも人の気持を点数化するってどうなんだろう。
六郎達「理の外の存在」なら可能なんだろうけど。何だか人の内面を覗き見しているみたいな罪悪感がある。
それにこれは鶴間君が失恋する前提の話だ。しかも失恋した時を狙うだなんて。まるで、鶴間君の気持ちを私の都合で利用しているみたいだ。
······いいのかな。こんなんで。幾ら私が本来の姿に戻る為だからって。鶴間君と北海君を利用している気分に私はなっていた。
「何を項垂れてんだ? 小田坂」
西日に揺れる自分の影に別の影が重なった。顔を上げると、そこには北海君が立っていた。
「ほ、北海君? な、何でここに?」
「駅前のパン屋に用があってな」
北海君はパン屋の名前が入った白いビニール袋を私に見せた。あれ? 北海君、昼ごはんもパンだったわよね。
「ほ、北海君ってパンが好きなんだね」
北海君が歩き出したので私も太い両足を動かし始める。北海君の背中は相変わらず丸まっていた。やっぱり北海君は猫背だ。
「······別に。大して好きじゃねーよ。良かったら食うか? 小田坂」
北海君はビニール袋からカレーパンを無造作に取り出し私に渡す。え? 好きじゃない? じゃあ何でパン買うのかしら?
北海君が大きな手で焼きそばパンを噛り始めたので、私もつられて頂いたカレーパンを食べる。ゴ、ゴチになります。
私と北海君は夕暮れの中暫く無言で歩き続ける。なんだか不思議だな。北海君とは一緒に歩く機会が多い。
でも。北海君の隣は妙に心が落ち着く。北海君が大柄なせいだろうか。ん? そう言えば、北海君のマンションは逆方向なのに、何で私と同じ方向に歩いているの?
「······夜道の女の一人歩きは危ねーだろ」
北海君は素っ気なくそう言った。え? ええ? もしかして、北海は私を送ってくれているの? えええっ!?
この小太りでブスな私を!?「女の一人歩きは危ない」と仰る!? わ、私。今この瞬間女の子扱いされているの!?
私は未曾有の感激の余り、全身が震え涙が出そうになる。こ、こんな私を女の子扱いしてくれる人が。しかも男子でこの世に存在するなんて!
し、染みる。心に染みすぎて涙となって溢れてくる! 堪えろ! 堪えるのよ私! 止まれ涙!!
「······おい。小田坂。何で泣いてんだ?」
北海君が怪訝な表情で私を見る。私の我慢は脆くも崩れ去り、気づけば両目から涙が溢れていた。
「······カ、カレーパンがあんまりにも美味しくて。か、感激しちゃったの」
私の余りにも下手過ぎる言い訳に、北海君は「腹減ってたんだな」と普通に返してくれた。
な、何だか変な空気になってしまった。これを変える絶妙な話題は無いものか? 私は藁を掴む様な思いで必死に考えた。
そして、手にしたカレーパンに視線を落とした。
「ほ、北海君はここのパン屋さんの常連なの? とっても美味しいもんね。あ。もしかして可愛い店員さんがいるとか?」
コミュニケーション能力の無い私にしては、及第点の台詞だと自画自賛した。だが、私はこの口走った言葉を死ぬほど後悔する事となった。
グシャッ。
私が話しかけた瞬間、北海は右手に持っていたクロワッサンを握りしめた。いや。四散させた。
いつも無愛想な北海君の顔が豹変する。瞳が落ち着き無く泳ぎ、頬は夕暮れとは関係無く紅く染まっていた。
え? ど、どうされました北海君!?
「······何で分かったんだ? 小田坂」
はい? 何を? 私は何もお分かりになっておりませんが?
「俺がパン屋の店員に惚れているって。何で分かったんだ?」
ほ? ほほ惚れている!? 北海君が!? パン屋さんの店員に!? 惚れてるの!? 惚れているって好きって事? そう言う事!?
私は衝撃の事実に、凍死寸前の人間の様に歯をカチカチと合わせる。北海君は恥ずかしそうに目を伏せる。
「······でもな。どうしていいか。まるで分からねーんだ」
北海君は猫背を更に丸める。あろう事か北海君が小さく見えた。な、何この展開? どうなるのこれ!? ま、まさか。
ち、違うわよね。まさか私に相談とかしないよね。無い! それは無いわ! こんなブスな私に恋愛相談だなんて。
関東から石垣島に日帰り旅行するくらいあり得ないわ!!(何を言っているの私?)
「······小田坂。ちょっと相談していいか?」
来たあああっ! 関東から石垣島に日帰り旅行来たあああ!! 疲れるよ? それとっても疲れるよ?
ろくに観光出来ないよ? 青い海も。白い砂浜もろくに見れないよ? いいの? いいの北海君?(だから何を言っているの? 私?)
······意味不明な事を頭の中で叫びながら、私は夕暮れの中で立ち尽くしていた。
〘······愛は性別を越える。愛情は全てを超越する。
一日千秋の思いで待ち望んだ電柱柱さんの小説「八重歯の神様はきまぐれ」がついに更新された。私は狂喜して最新話を食い入るように熟読する。
どんなBL的な描写があるかと胸を高鳴らせていた私。八重歯の神様は作中でとんでも無い事をしでかした。
何と、神様は気紛れで大学生カップルの彼を女に変えてしまったのだ。そして男に変えた彼女は女の姿に戻した。
女に戻った彼女は、女の姿に変えられた彼を変わらず愛した。怒涛の展開に私は大口を開けたままある事に気付いた。
······これ。百合だよね? 百合展開だよね? 電柱柱先生? いやちょいとお待ちよ! こんなに性別がコロコロ変わったら、読者が登場人物に感情移入出来なくなるでしょう!!
濃密なBL展開を期待していた私のこの気持ちはどうなるのよ!? いや。決してその描写だけを目的としていた訳ではないけれど。
でも。でもね! でも·····
······百合展開未経験者の私は、読後即座に電柱柱先生に次の更新はいつですかとメッセージを送る鬱陶しい読者と化した。
······百合も悪くない〙
ゆりえ 心のポエム
とほほ。勢いとは言え、私はとんでも無い事を口にしてしまった。口説き落とさなればならない鶴間君の恋の応援をしてしまうなんて。
はっ! こんな事を六郎に知られたら何を言われるか分からないわ!!
「いや。悪くないぞ。小田坂ゆりえ。結果オーライってヤツだ」
私の心を見透かした様に、赤いジャージ姿の長身金髪男が突然私の隣に現れた。ろ、六郎!?
な、何であんた事情を知ってるの? だって六郎はあの時姿を消していたじゃない?
「鶴間徹平に俺の姿を見られない様に少し離れた場所にいたんだ。とにかくだ。小田坂ゆりえ。これは千載一遇の好機だぞ」
六郎は茶色いサングラスの中から、鋭い視線を私に向ける。こ、好機? この事態が? 何でよ?
「加点二十点。鶴間徹平がアンタへさっき抱いた好印象の点数だ。前回までの点数と合わせて七十点。これはもう、目標達成への射程距離に入ったと言ってもいいぜ」
六郎が小さくガッツポーズする。な、なな七十点!? 鶴間君がこんな小太りでブスな私に!?
「いいか。小田坂ゆりえ。ここからが重要だ。鶴間徹平の悩みに親身になってやるんだ。そうすれば点数はグングン伸びる。そして鶴間徹平が北海信長に失恋して傷心の所を攻めて勝負を決める!!」
力強く段取りを決める六郎の言葉に対して、私は何処か違和感を感じていた。そもそも人の気持を点数化するってどうなんだろう。
六郎達「理の外の存在」なら可能なんだろうけど。何だか人の内面を覗き見しているみたいな罪悪感がある。
それにこれは鶴間君が失恋する前提の話だ。しかも失恋した時を狙うだなんて。まるで、鶴間君の気持ちを私の都合で利用しているみたいだ。
······いいのかな。こんなんで。幾ら私が本来の姿に戻る為だからって。鶴間君と北海君を利用している気分に私はなっていた。
「何を項垂れてんだ? 小田坂」
西日に揺れる自分の影に別の影が重なった。顔を上げると、そこには北海君が立っていた。
「ほ、北海君? な、何でここに?」
「駅前のパン屋に用があってな」
北海君はパン屋の名前が入った白いビニール袋を私に見せた。あれ? 北海君、昼ごはんもパンだったわよね。
「ほ、北海君ってパンが好きなんだね」
北海君が歩き出したので私も太い両足を動かし始める。北海君の背中は相変わらず丸まっていた。やっぱり北海君は猫背だ。
「······別に。大して好きじゃねーよ。良かったら食うか? 小田坂」
北海君はビニール袋からカレーパンを無造作に取り出し私に渡す。え? 好きじゃない? じゃあ何でパン買うのかしら?
北海君が大きな手で焼きそばパンを噛り始めたので、私もつられて頂いたカレーパンを食べる。ゴ、ゴチになります。
私と北海君は夕暮れの中暫く無言で歩き続ける。なんだか不思議だな。北海君とは一緒に歩く機会が多い。
でも。北海君の隣は妙に心が落ち着く。北海君が大柄なせいだろうか。ん? そう言えば、北海君のマンションは逆方向なのに、何で私と同じ方向に歩いているの?
「······夜道の女の一人歩きは危ねーだろ」
北海君は素っ気なくそう言った。え? ええ? もしかして、北海は私を送ってくれているの? えええっ!?
この小太りでブスな私を!?「女の一人歩きは危ない」と仰る!? わ、私。今この瞬間女の子扱いされているの!?
私は未曾有の感激の余り、全身が震え涙が出そうになる。こ、こんな私を女の子扱いしてくれる人が。しかも男子でこの世に存在するなんて!
し、染みる。心に染みすぎて涙となって溢れてくる! 堪えろ! 堪えるのよ私! 止まれ涙!!
「······おい。小田坂。何で泣いてんだ?」
北海君が怪訝な表情で私を見る。私の我慢は脆くも崩れ去り、気づけば両目から涙が溢れていた。
「······カ、カレーパンがあんまりにも美味しくて。か、感激しちゃったの」
私の余りにも下手過ぎる言い訳に、北海君は「腹減ってたんだな」と普通に返してくれた。
な、何だか変な空気になってしまった。これを変える絶妙な話題は無いものか? 私は藁を掴む様な思いで必死に考えた。
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グシャッ。
私が話しかけた瞬間、北海は右手に持っていたクロワッサンを握りしめた。いや。四散させた。
いつも無愛想な北海君の顔が豹変する。瞳が落ち着き無く泳ぎ、頬は夕暮れとは関係無く紅く染まっていた。
え? ど、どうされました北海君!?
「······何で分かったんだ? 小田坂」
はい? 何を? 私は何もお分かりになっておりませんが?
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ほ? ほほ惚れている!? 北海君が!? パン屋さんの店員に!? 惚れてるの!? 惚れているって好きって事? そう言う事!?
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「······でもな。どうしていいか。まるで分からねーんだ」
北海君は猫背を更に丸める。あろう事か北海君が小さく見えた。な、何この展開? どうなるのこれ!? ま、まさか。
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「······小田坂。ちょっと相談していいか?」
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ろくに観光出来ないよ? 青い海も。白い砂浜もろくに見れないよ? いいの? いいの北海君?(だから何を言っているの? 私?)
······意味不明な事を頭の中で叫びながら、私は夕暮れの中で立ち尽くしていた。
〘······愛は性別を越える。愛情は全てを超越する。
一日千秋の思いで待ち望んだ電柱柱さんの小説「八重歯の神様はきまぐれ」がついに更新された。私は狂喜して最新話を食い入るように熟読する。
どんなBL的な描写があるかと胸を高鳴らせていた私。八重歯の神様は作中でとんでも無い事をしでかした。
何と、神様は気紛れで大学生カップルの彼を女に変えてしまったのだ。そして男に変えた彼女は女の姿に戻した。
女に戻った彼女は、女の姿に変えられた彼を変わらず愛した。怒涛の展開に私は大口を開けたままある事に気付いた。
······これ。百合だよね? 百合展開だよね? 電柱柱先生? いやちょいとお待ちよ! こんなに性別がコロコロ変わったら、読者が登場人物に感情移入出来なくなるでしょう!!
濃密なBL展開を期待していた私のこの気持ちはどうなるのよ!? いや。決してその描写だけを目的としていた訳ではないけれど。
でも。でもね! でも·····
······百合展開未経験者の私は、読後即座に電柱柱先生に次の更新はいつですかとメッセージを送る鬱陶しい読者と化した。
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