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手詰まり

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跡部勝資「整理します。我らは伊奈城を攻略しようと考えています。」

山県昌景「はい。」

跡部勝資「しかしこれまで全盛期の今川や飛ぶ鳥を落とす勢いであった松平清康を以てしても落城の憂き目に遭う事は無かった。正しくは攻める事を諦めさせてしまった。」

山県昌景「はい。」

跡部勝資「城の周りは崩壊しない限界の高さまで積み上げられた土塁と涸れる事の無い水堀で囲まれている。」

山県昌景「はい。」

跡部勝資「更に外側は深田ないし湿原地帯。」

山県昌景「はい。」

跡部勝資「伊奈城を守る本多氏は徳川と深い繋がりがあるため、内応者を出す事は叶わない。」

山県昌景「その通りであります。」

跡部勝資「そのような城を攻略しようと考える事が無謀では無いかと?我らが城攻めを行う際、心掛けている事は何でありますか?」

山県昌景「3つあります。

1、城内の者に調略を仕掛け、内から崩壊に導く事。

2、後詰めに来た兵を徹底的に叩く事により城内の士気を損耗させる事。

3、城攻めは短期で終わらせる事。その備えが出来るまで仕掛けてはならない。

以上の3点であります。」

跡部勝資「今考えられてる伊奈城攻略にあたりまして、山県様が仰った3点の中で当て嵌まる項目は御座いますか?」

山県昌景「……うむ。」

跡部勝資「仮に力攻めに打って出たとしましょう。城の規模自体は小規模なものであります。故に内部に入ってさえしまえば何とかなるかもしれません。その際、問題となりますのは恐らく土塁や水堀よりも……。」



 周囲の深田と湿原地帯。



跡部勝資「先程山県様は

『馬も人も動く事が困難な場所。』

と仰りました。」

山県昌景「はい。」

跡部勝資「我らが得意とする戦法は機動力であると認識しています。」

山県昌景「その通りであります。」

跡部勝資「使えますか?」

山県昌景「……。」

跡部勝資「加えて今、足助から東濃を馬場様。二連木以東を山県様。長沢を高坂様。そして後方支援及び一宮を内藤様が担う事になっています。これらは全て現状を維持する事を目的とした配備であります。新たな権益獲得を目指す事の出来る態勢にはなっていません。真田殿と小幡殿は信濃上野のそれぞれ本拠地で休暇中にあります。その状況で伊奈城を攻め取ろうとのお考えなのでありますか?殿を最前線の危険地帯に送り込もうとのお考えなのでありますか?」

山県昌景「いや。それは考えてはおらぬ。」

跡部勝資「では誰を伊奈に送り込もうと考えているのでありますか?」

高坂昌信「その事なんだが……。」
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