ケチと言われた家康の代わりに豪遊してやろうと転生した結果。ただ単に貧乏なだけだった。

たった、これだけか

親氏と松平

家康（私）：「親氏と松平との接点は？」
所員：「親氏は元々徳阿弥と称する時宗の僧侶でありました。時代は室町。南北朝及び足利幕府内の権力争いが続きまして、これまで有力であった後ろ盾がある日突然倒され、それがために自らの身が脅かされることになる。と言う出来事が頻発していました。そうなりますと各地の土豪が生きていくためには有能な人物を確保し、自らの力で持って自らの権益を守らなければならなくなりました。そんな時代に諸国を流浪していましたのがのちの松平親氏となる徳阿弥でありました。そんな徳阿弥が今の愛知県碧南市大浜にあります称名寺に立ち寄った時、声を掛けて来たのが松平郷の当主でありました。その後、徳阿弥の人柄に惚れた松平郷の当主が入り婿を勧め、徳阿弥にも定住したい気持ちがありまして、目出度く徳川家の始祖となった。と言われています。」
家康（私）：「世の中下剋上の中、中国の『禅譲』みたいな話でありますね……。これが江戸時代末まで家を残すことが出来なかった松永久秀や斎藤道三。更には宇喜多直家あたりですと、もっと生々しい。それだけで一本のドラマが出来るようなことがあったのかもしれませんね。」
所員：「眉に大量の唾を付けたほうが良いかもしれませんね……。」
家康（私）：「どう言う経緯で松平の当主になったのかはわかりませんが、少なくとも当時の松平家の当主にとって、徳阿弥を抱え込むだけのメリットがあった。それだけ徳阿弥は優秀な人物であったわけですよね。」
所員：「先程も述べましたようにのちの親氏であります徳阿弥は時宗の僧侶。時宗と言うのは浄土宗や浄土真宗と同様、鎌倉時代に発生しました言わば新興宗教であります。そのため中央政権との繋がり。政治的な利権を有してはおりません。そんな彼らが活路を見出したのが一般大衆への布教。その方法の１つとして時宗が利用したのが『念仏踊り』。都に比べますと刺激となるものが少ない田舎の地域にとりまして、各地を流浪しながら披露されます派手な念仏踊りは一大娯楽。多くの観衆をひとところに集めては布教活動に勤しむことにより勢力の拡大を図っていました。」
家康（私）：「時の政権からしますと、世間を惑わす不安定要因となり兼ねませんね。」
所員：「鎌倉仏教の多くがそうでありますように、時宗に関しましても当然『弾圧』と言うモノがあったことは容易に想像することが出来ると思います。それに対抗するべく彼らが武力を蓄えていったことも容易に想像することが出来ます。時宗が持っている素地が親氏となったのち松平郷の民を戦闘集団に変貌させる一つの助けになったと思われます。が、いくさに強いからだけで徳阿弥が松平に招かれたわけでは無いと思います。」
家康（私）：「最後、乗っ取った。名実共に怪しい人物だったわけですからね。」
所員：「時宗の僧侶が布教も兼ね接近したのは一般大衆だけではありません。それだけですといつまでたっても弾圧の恐怖を抱え込むことになりますので。身の安全を担保してくれる有力者に近づかなければいけません。そんな有力者とジョイントするのに利用しましたのが『お茶』『花』『書』に『絵画』。更には『田楽』などの大衆向けでは無い芸能。ほかには医学。更には時宗の心得の１つ。これは『有力者に近づくのに好都合だからやっておけ』の意味合いが強かったと思われます『連歌』など様々な能力を時宗の僧侶は有し、それら特技を駆使して各地の豪族や大名に入り込んで行った。と……。親氏が最初松平に近付く切っ掛けとなったのも『連歌』であったと言われています。」
家康（私）：「近付くことは出来てもそれだけでは、ただの客人で終わってしまいますよね。」
所員：「連歌以外にも徳阿弥が得意としていたものがあります。それは何かと言いますと最先端の『鉱山技術』。稲作には不向きな松平郷に住む民が生活の糧としているのがたたら製鉄。そのために必要なのが奥三河の山を開き眠っている金属資源を発見し採掘すること。これを実現してくれる人物がのちに松平の当主となる徳阿弥であった。と……。今から話しますのは時宗ではありませんが、のちに家康の勘定奉行となります大久保長安。武田家滅亡に伴い徳川家の家臣となりました彼の父も元々は猿楽師であった。と……。長安の父は信玄お抱えの猿楽師でありましたが。たぶん実態は……。」
家康（私）：「親氏同様。当時の最先端の鉱山技術を持っていた。故に長安は猿楽師では無く家臣として雇われることになった。と……。」
所員：「持っている特技であります『連歌』を切っ掛けに近づき。同じく特技の『鉱山技術』を通し、徳阿弥は松平に無くてはならない人物となるのでありました。この段階では徳阿弥・松平双方幸せだったのでありましたが……。」