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担がれた神輿
表裏者5
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高遠とのいくさに勝利し、躑躅ヶ崎館に凱旋した武田晴信。
山本勘助「勝つには勝ったのではあるが……。」
此度のいくさにおいて高遠頼継が前面に押し出し支持を集めたのが『諏訪を治めるのは諏訪の人間』。
山本勘助「幸いにして寅王丸様が居たから良かったと言うもの。ただそれでは……。」
今後、武田が諏訪を支配するにあたり寅王丸が必要不可欠な存在となってしまった。
山本勘助「……このままではいづれ元服した寅王丸様に諏訪を返さなければならぬ。それだけは避けなければ……。かと言って蔑ろにすれば高遠らに付け入る隙を与えてしまう……。」
思案に暮れる勘助。そこへ。
甘利虎泰「殿の女好きには……。」
飯富虎昌「血筋は争えませぬな。」
山本勘助「どうされましたか?」
甘利虎泰「おお、勘助か。ちと困ったことが起こってな。」
飯富虎昌「晴信様が側室を迎えたいと申しておってな。」
山本勘助「別に宜しいのではないですか?」
甘利虎泰「問題はその相手なんだよ。誰だと思う?」
山本勘助「……誰?と言われましても……。」
飯富虎昌「驚くなよ。殿が欲しがっている女は……。」
甘利虎泰「諏訪の娘だ。」
山本勘助「え!?殿が自刃においやった……。」
飯富虎昌「そう。頼重の娘だ。」
山本勘助「ただでさえ諏訪の地を治めることが出来ていないこの時期に。まるで戦利品の如く側室とするのは……。」
甘利虎泰「だろ。」
飯富虎昌「だから殿の落としどころのわかるお前からも言ってくれよ。」
山本勘助「……そうですね……。」
二人と別れた勘助。
山本勘助「世継ぎを残すことを考えれば、女好きであることが当主たるものの必須条件ではあるが。既に武田家には義信様がいらっしゃる。仮に諏訪の娘との間に子供が出来た場合、諏訪の連中は当然。諏訪の娘との間に生まれた子を支援することになる。内輪揉めに発展する危険性がある。それは避けねばならぬが。」
当時は避妊の技術が発達しているわけでは無い。
山本勘助「殿に禁欲を強いることは不可能であるし、目的が目的で側室に迎えようと言っているのだからな……。殿と諏訪の娘との間にもし男が生まれてしまった場合……。いや待てよ……。」
諏訪で戦後処理にあたる板垣信方のもとを訪ねた勘助。
板垣信方「どうした勘助。わざわざ諏訪まで足を運んで。」
山本勘助「諏訪の娘の件で。」
板垣信方「あぁあれな……。甘利も飯富も愚痴っておった。かく言う私もどうやって諏訪の連中を説き伏せようか悩んで居るところだ。」
山本勘助「その件なのでありますが。」
板垣信方「どうした?申してみよ。」
山本勘助「諏訪の娘を殿の側室に迎えるべきではないか。と思っております。」
板垣信方「……暑気にでもやられたのかお前?」
山本勘助「いえ。大丈夫であります。」
板垣信方「大丈夫って言っている時が人間一番危険な時なんだよ。」
山本勘助「問題ありません。私は健康そのものであります。」
板垣信方「じゃあ何で諏訪の娘を側室に。と考えておるのだ。申してみよ。」
山本勘助「はい。此度のいくさにおいて、我らの勝利に最も貢献した人物は寅王丸様であると考えております。」
板垣信方「確かに。寅王丸様を若神子に押し出すことによって諏訪の衆が我がほうになびいてくれた。あれは本当に助かった。」
山本勘助「……となりますと今後も諏訪については寅王丸様を介さなければならなくなります。」
板垣信方「そうだな。」
山本勘助「それでは面白くありません。」
板垣信方「確かに。それと諏訪の娘とどう繋がるのだ?」
山本勘助「はい。寅王丸様は諏訪頼重の子供であります。」
板垣信方「そうだな。」
山本勘助「諏訪の娘も頼重の子供であります。」
板垣信方「うん。」
山本勘助「双方共に諏訪の。それも嫡流の血筋を受け継いでおります。」
板垣信方「確かに。」
山本勘助「しかも寅王丸様は武田の血も継いでおります。」
板垣信方「禰々様のお子様だからな。」
山本勘助「それと同じことを……。」
板垣信方「晴信様と諏訪の娘をくっつけ、男を産ませることにより。と言う事か。」
山本勘助「左様に御座いまする。」
板垣信方「そうすることにより、晴信様直系の子を諏訪の当主に持って行く。と言う事か。」
山本勘助「その通りに御座います。」
板垣信方「殿の希望を叶えることにもなる。と……。寅王丸様はどうする?」
山本勘助「当主は1人で充分。」
板垣信方「……だな。」
山本勘助「ただ禰々様の手前。客将として遇するのが理想。」
板垣信方「その待遇に納得すれば生かし、そうで無ければ消すまで。と言う事だな。」
山本勘助「御意。」
板垣信方「……高遠らのことも考えると寅王丸様を諏訪で自立させるのは危険だからな……。そう考えると諏訪の娘を晴信様の側室に迎えるのも悪い話では無い。」
山本勘助「いづれ奴らは、また殿に刃を向けることになるでしょうし。」
板垣信方「こっちが狙っているだからそうなるわな。」
山本勘助「そうなった時、寅王丸様では。」
板垣信方「国人衆は諏訪の人間だからな……。殿のお子が諏訪を。になったほうが。」
山本勘助「甲斐の安定化並びに領国の拡大に貢献することに……。」
板垣信方「わかった。甘利と飯富には俺から言っておく。殿と諏訪の娘のセッティングは頼むな。」
翌年。武田晴信は諏訪の娘を側室に迎えるのでありました。
山本勘助「勝つには勝ったのではあるが……。」
此度のいくさにおいて高遠頼継が前面に押し出し支持を集めたのが『諏訪を治めるのは諏訪の人間』。
山本勘助「幸いにして寅王丸様が居たから良かったと言うもの。ただそれでは……。」
今後、武田が諏訪を支配するにあたり寅王丸が必要不可欠な存在となってしまった。
山本勘助「……このままではいづれ元服した寅王丸様に諏訪を返さなければならぬ。それだけは避けなければ……。かと言って蔑ろにすれば高遠らに付け入る隙を与えてしまう……。」
思案に暮れる勘助。そこへ。
甘利虎泰「殿の女好きには……。」
飯富虎昌「血筋は争えませぬな。」
山本勘助「どうされましたか?」
甘利虎泰「おお、勘助か。ちと困ったことが起こってな。」
飯富虎昌「晴信様が側室を迎えたいと申しておってな。」
山本勘助「別に宜しいのではないですか?」
甘利虎泰「問題はその相手なんだよ。誰だと思う?」
山本勘助「……誰?と言われましても……。」
飯富虎昌「驚くなよ。殿が欲しがっている女は……。」
甘利虎泰「諏訪の娘だ。」
山本勘助「え!?殿が自刃においやった……。」
飯富虎昌「そう。頼重の娘だ。」
山本勘助「ただでさえ諏訪の地を治めることが出来ていないこの時期に。まるで戦利品の如く側室とするのは……。」
甘利虎泰「だろ。」
飯富虎昌「だから殿の落としどころのわかるお前からも言ってくれよ。」
山本勘助「……そうですね……。」
二人と別れた勘助。
山本勘助「世継ぎを残すことを考えれば、女好きであることが当主たるものの必須条件ではあるが。既に武田家には義信様がいらっしゃる。仮に諏訪の娘との間に子供が出来た場合、諏訪の連中は当然。諏訪の娘との間に生まれた子を支援することになる。内輪揉めに発展する危険性がある。それは避けねばならぬが。」
当時は避妊の技術が発達しているわけでは無い。
山本勘助「殿に禁欲を強いることは不可能であるし、目的が目的で側室に迎えようと言っているのだからな……。殿と諏訪の娘との間にもし男が生まれてしまった場合……。いや待てよ……。」
諏訪で戦後処理にあたる板垣信方のもとを訪ねた勘助。
板垣信方「どうした勘助。わざわざ諏訪まで足を運んで。」
山本勘助「諏訪の娘の件で。」
板垣信方「あぁあれな……。甘利も飯富も愚痴っておった。かく言う私もどうやって諏訪の連中を説き伏せようか悩んで居るところだ。」
山本勘助「その件なのでありますが。」
板垣信方「どうした?申してみよ。」
山本勘助「諏訪の娘を殿の側室に迎えるべきではないか。と思っております。」
板垣信方「……暑気にでもやられたのかお前?」
山本勘助「いえ。大丈夫であります。」
板垣信方「大丈夫って言っている時が人間一番危険な時なんだよ。」
山本勘助「問題ありません。私は健康そのものであります。」
板垣信方「じゃあ何で諏訪の娘を側室に。と考えておるのだ。申してみよ。」
山本勘助「はい。此度のいくさにおいて、我らの勝利に最も貢献した人物は寅王丸様であると考えております。」
板垣信方「確かに。寅王丸様を若神子に押し出すことによって諏訪の衆が我がほうになびいてくれた。あれは本当に助かった。」
山本勘助「……となりますと今後も諏訪については寅王丸様を介さなければならなくなります。」
板垣信方「そうだな。」
山本勘助「それでは面白くありません。」
板垣信方「確かに。それと諏訪の娘とどう繋がるのだ?」
山本勘助「はい。寅王丸様は諏訪頼重の子供であります。」
板垣信方「そうだな。」
山本勘助「諏訪の娘も頼重の子供であります。」
板垣信方「うん。」
山本勘助「双方共に諏訪の。それも嫡流の血筋を受け継いでおります。」
板垣信方「確かに。」
山本勘助「しかも寅王丸様は武田の血も継いでおります。」
板垣信方「禰々様のお子様だからな。」
山本勘助「それと同じことを……。」
板垣信方「晴信様と諏訪の娘をくっつけ、男を産ませることにより。と言う事か。」
山本勘助「左様に御座いまする。」
板垣信方「そうすることにより、晴信様直系の子を諏訪の当主に持って行く。と言う事か。」
山本勘助「その通りに御座います。」
板垣信方「殿の希望を叶えることにもなる。と……。寅王丸様はどうする?」
山本勘助「当主は1人で充分。」
板垣信方「……だな。」
山本勘助「ただ禰々様の手前。客将として遇するのが理想。」
板垣信方「その待遇に納得すれば生かし、そうで無ければ消すまで。と言う事だな。」
山本勘助「御意。」
板垣信方「……高遠らのことも考えると寅王丸様を諏訪で自立させるのは危険だからな……。そう考えると諏訪の娘を晴信様の側室に迎えるのも悪い話では無い。」
山本勘助「いづれ奴らは、また殿に刃を向けることになるでしょうし。」
板垣信方「こっちが狙っているだからそうなるわな。」
山本勘助「そうなった時、寅王丸様では。」
板垣信方「国人衆は諏訪の人間だからな……。殿のお子が諏訪を。になったほうが。」
山本勘助「甲斐の安定化並びに領国の拡大に貢献することに……。」
板垣信方「わかった。甘利と飯富には俺から言っておく。殿と諏訪の娘のセッティングは頼むな。」
翌年。武田晴信は諏訪の娘を側室に迎えるのでありました。
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