73 / 625
徐々に
しおりを挟む
真田幸隆「『新しい鉱脈を見つけた。』みたいな顔をされていますけれども……。一言申し上げさせていただいても宜しいでしょうか。」
私(村上義清)「……わかっているよ。民からカネを巻き上げているだけで、領内の富を増やすことが出来ているわけでは無いことぐらい……。」
真田幸隆「しかしまぁ殿の方式でありましたら彼の能力を別のものに使ったほうが良いのかもしれませんね……。ただ……採算は合わないと思いますよ。」
私(村上義清)「志賀のものが行う仕事にしては不自然にしか映らないか……。」
真田幸隆「御意。志賀のものは現在、村上と井上との境に展開しています。今は我が領内での活動……稲を植えても宜しいでしょうか。」
私(村上義清)「もしもに備えて自然堤防の上に桑も植えよう。」
真田幸隆「あそこ(千曲川)に『もしも』はありませぬ。洪水は『必然』かと思われますが。」
私(村上義清)「でも治水にも取り組んでいるように見せないと……。」
真田幸隆「比較的に洪水に強い桑を育てたところで絹の技術を持ってはおりませぬが。」
私(村上義清)「目的は違えど折角開墾にお金を使うのであれば、成果の可能性があるものをやったほうが……。」
真田幸隆「確かに。徐々に範囲を広げ、井上領内に足を踏み入れます。」
私(村上義清)「領地を侵犯するのだから当然井上は抗議して来ることになる。」
真田幸隆「こちらは『申し訳ない。』と言って引き下がります。これを幾度となく繰り返していき、抗議を無視するようにします。そうなりますと井上側も武力で以て排除に乗り出すことになります。ここで……。」
少し時間を戻して。
私(村上義清)「山内上杉の使者から奇妙な話を聞いたのだが。」
春日虎綱「どのような話でありましょうか。」
私(村上義清)「『戦おうとしたら居なくなり、居なくなったと思ったら背後に回られ。気付いたらお互い無傷で城への撤収を終えていた。』と……。これはいったいどのようなことをしておったのだ。」
春日虎綱「うち(武田)の連中は負けると言うことを全く想定しておりませぬ。だからあのようなふざけた水攻めに引っ掛かってしまったのであります。」
真田幸隆「あのようなふざけたとは。」
春日虎綱「あっ。口が過ぎました。申し訳ございませぬ。」
私(村上義清)「(幸隆の悪口を言われているのだから)まぁよい。続けよ。」
春日虎綱「引っ掛かっても突っ込めば勝てると思っていた板垣も板垣でありましたが。隊形を作れば敵の攻めを切ることが出来ると思っていた勘助も勘助であります。それ以上の相手だった場合どうするのかを考えてはおりませぬ。」
私(村上義清)「(悪い気はしていない。)もしそなたがあの場所に居たら……。」
春日虎綱「まず殿の退却路の確保を前提とした進軍を行います。今回でありましたら全ての部隊を川の向こうに渡らせるなどと言うことは絶対に致しませぬ。勿論殿(武田晴信)を渡らせるなど愚の骨頂。そのようなことをせずとも村上を破るだけの力が武田にはありました。」
私(村上義清)「(……確かに。)そなたもそう思っておったか……。もし晴信が渡ると言った場合は止めることは出来ないよな。」
春日虎綱「はい。仮に晴信が渡河し、計略に嵌ってしまった時のために準備していたものがあります。」
私(村上義清)「それが志賀城で見せたそなたの用兵であった。と言う事か……。」
春日虎綱「はい。急いで逃げ出そうとすれば敵を勢いづかせることになります。かと言いまして踏み留まり過ぎてしまうのも討ち死にの危険が増すばかりであります。如何に相手をかわしながら、被害を少なく安全な場所へ退却するかを常に想定しておりました。……がそれも無駄に終わってしまいました……。殿がこちら(志賀城)に寄ってから向かわれていましたら今頃は……。」
私(村上義清)「俺の首が晒されることになっていた。」
春日虎綱「はい。」
私(村上義清)「(『はい。』って……。)」
戻って。
真田幸隆「虎綱の指揮のもと。双方とも人的被害を出さず。のらりくらりと井上領を出入りさせましょう。」
私(村上義清)「しかし侵入するのは井上が既に耕作している場所ではないだろう。」
真田幸隆「はい。」
私(村上義清)「しかもうちが攻撃を加えるわけでは無く逃げ回るばかり。」
真田幸隆「はい。」
私(村上義清)「いづれ『また来たか。』『どうせいつもことだろ。』となってしまわないか。」
真田幸隆「はい。」
私(村上義清)「それでよいのか。」
真田幸隆「それでも構いませぬし、井上が本気になって虎綱を潰しに掛かっても問題はありませぬ。」
私(村上義清)「どう言う事だ。」
私(村上義清)「……わかっているよ。民からカネを巻き上げているだけで、領内の富を増やすことが出来ているわけでは無いことぐらい……。」
真田幸隆「しかしまぁ殿の方式でありましたら彼の能力を別のものに使ったほうが良いのかもしれませんね……。ただ……採算は合わないと思いますよ。」
私(村上義清)「志賀のものが行う仕事にしては不自然にしか映らないか……。」
真田幸隆「御意。志賀のものは現在、村上と井上との境に展開しています。今は我が領内での活動……稲を植えても宜しいでしょうか。」
私(村上義清)「もしもに備えて自然堤防の上に桑も植えよう。」
真田幸隆「あそこ(千曲川)に『もしも』はありませぬ。洪水は『必然』かと思われますが。」
私(村上義清)「でも治水にも取り組んでいるように見せないと……。」
真田幸隆「比較的に洪水に強い桑を育てたところで絹の技術を持ってはおりませぬが。」
私(村上義清)「目的は違えど折角開墾にお金を使うのであれば、成果の可能性があるものをやったほうが……。」
真田幸隆「確かに。徐々に範囲を広げ、井上領内に足を踏み入れます。」
私(村上義清)「領地を侵犯するのだから当然井上は抗議して来ることになる。」
真田幸隆「こちらは『申し訳ない。』と言って引き下がります。これを幾度となく繰り返していき、抗議を無視するようにします。そうなりますと井上側も武力で以て排除に乗り出すことになります。ここで……。」
少し時間を戻して。
私(村上義清)「山内上杉の使者から奇妙な話を聞いたのだが。」
春日虎綱「どのような話でありましょうか。」
私(村上義清)「『戦おうとしたら居なくなり、居なくなったと思ったら背後に回られ。気付いたらお互い無傷で城への撤収を終えていた。』と……。これはいったいどのようなことをしておったのだ。」
春日虎綱「うち(武田)の連中は負けると言うことを全く想定しておりませぬ。だからあのようなふざけた水攻めに引っ掛かってしまったのであります。」
真田幸隆「あのようなふざけたとは。」
春日虎綱「あっ。口が過ぎました。申し訳ございませぬ。」
私(村上義清)「(幸隆の悪口を言われているのだから)まぁよい。続けよ。」
春日虎綱「引っ掛かっても突っ込めば勝てると思っていた板垣も板垣でありましたが。隊形を作れば敵の攻めを切ることが出来ると思っていた勘助も勘助であります。それ以上の相手だった場合どうするのかを考えてはおりませぬ。」
私(村上義清)「(悪い気はしていない。)もしそなたがあの場所に居たら……。」
春日虎綱「まず殿の退却路の確保を前提とした進軍を行います。今回でありましたら全ての部隊を川の向こうに渡らせるなどと言うことは絶対に致しませぬ。勿論殿(武田晴信)を渡らせるなど愚の骨頂。そのようなことをせずとも村上を破るだけの力が武田にはありました。」
私(村上義清)「(……確かに。)そなたもそう思っておったか……。もし晴信が渡ると言った場合は止めることは出来ないよな。」
春日虎綱「はい。仮に晴信が渡河し、計略に嵌ってしまった時のために準備していたものがあります。」
私(村上義清)「それが志賀城で見せたそなたの用兵であった。と言う事か……。」
春日虎綱「はい。急いで逃げ出そうとすれば敵を勢いづかせることになります。かと言いまして踏み留まり過ぎてしまうのも討ち死にの危険が増すばかりであります。如何に相手をかわしながら、被害を少なく安全な場所へ退却するかを常に想定しておりました。……がそれも無駄に終わってしまいました……。殿がこちら(志賀城)に寄ってから向かわれていましたら今頃は……。」
私(村上義清)「俺の首が晒されることになっていた。」
春日虎綱「はい。」
私(村上義清)「(『はい。』って……。)」
戻って。
真田幸隆「虎綱の指揮のもと。双方とも人的被害を出さず。のらりくらりと井上領を出入りさせましょう。」
私(村上義清)「しかし侵入するのは井上が既に耕作している場所ではないだろう。」
真田幸隆「はい。」
私(村上義清)「しかもうちが攻撃を加えるわけでは無く逃げ回るばかり。」
真田幸隆「はい。」
私(村上義清)「いづれ『また来たか。』『どうせいつもことだろ。』となってしまわないか。」
真田幸隆「はい。」
私(村上義清)「それでよいのか。」
真田幸隆「それでも構いませぬし、井上が本気になって虎綱を潰しに掛かっても問題はありませぬ。」
私(村上義清)「どう言う事だ。」
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた
中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■
無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。
これは、別次元から来た女神のせいだった。
その次元では日本が勝利していたのだった。
女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。
なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。
軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか?
日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。
ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。
この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。
参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。
使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。
表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
暁のミッドウェー
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。
真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。
一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。
そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。
ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。
日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。
その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。
(※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)
信濃の大空
ypaaaaaaa
歴史・時代
空母信濃、それは大和型3番艦として建造されたものの戦術の変化により空母に改装され、一度も戦わず沈んだ巨艦である。
そんな信濃がもし、マリアナ沖海戦に間に合っていたらその後はどうなっていただろう。
この小説はそんな妄想を書き綴ったものです!
前作同じく、こんなことがあったらいいなと思いながら読んでいただけると幸いです!
高天神攻略の祝宴でしこたま飲まされた武田勝頼。翌朝、事の顛末を聞いた勝頼が採った行動とは?
俣彦
ファンタジー
高天神城攻略の祝宴が開かれた翌朝。武田勝頼が採った行動により、これまで疎遠となっていた武田四天王との関係が修復。一致団結し向かった先は長篠城。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる