上 下
34 / 625

着陣

しおりを挟む
 産川を渡り、千曲川の南を東へと進む武田晴信。川の向こう左前方に尼ヶ淵が見えたその時、



山本勘助「ここが渡しであります。」



 尼ヶ淵近辺は古くから街道と街道とが交差する場所。そのため人の往来も多い。そこでネックとなるのが川の存在。『人と物の流れの全てが川に沿って』では勿論ありませんので『川を渡る』必要が生じることになります。これを解消する手っ取り早い方法となりますと架橋。ただ千曲川は流れが速い上、大水の度に流路を変えてしまうため、土台となる土もろとも流失してしまう恐れがあること。加えて人と物が集まる=富が集中する場所でありますので、敵からの攻撃を防ぐ必要もあり、橋が架けられないことしばし。それでは不便でありますので、代わりに設けられたのが浅瀬を船で渡ること。『浅瀬』と言うことはそれだけ川を渡ることが容易となる場所でありますので守る必要が生じることになります。これに対応するべく村上……真田幸隆は尼ヶ淵の崖上に城を築いたとも言えます。



山本勘助「渡河を強行していたら崖と川に挟まれることになっておりました。」

武田晴信「金堀衆を使うことが出来るかもしれぬな?」

山本勘助「さすがに城の目の前では無理攻めでありましょうし、安全な手前からとなりますと、千曲川の下を掘らなければならなくなりますので。」



 尼ヶ淵を横目に更に東へと進む武田晴信。



武田晴信「しかし敵の姿が見えない……。どこで川を渡ろうか……。」

山本勘助「尼ヶ淵に城を構えている以上、いきなり川を背にするのは危険でありますので神川の東側に回り込みましょう。」



 神川の東側から千曲川を渡る武田晴信。



武田晴信「……にしても静かだ……。様子はどうだ?」

山本勘助「誰もおりませぬし、兵が伏せられている。と言うこともありませんでした。」

武田晴信「ここを渡ったらあとは城に向かって下る一方……。何もしていないわけはないはず……。もしかして……村上に戦意がない……。」

山本勘助「でしたらわざわざ城を築くことは無いでしょう。」

武田晴信「そうだよな……。」

山本勘助「渡りますか?」

武田晴信「そうだな……。ただ流石にそこからは村上が居る……。」

山本勘助「国分寺の跡ならば問題ない模様であります。」



 国分寺は8世紀。聖武天皇が仏教による国の安寧を願い全国に建立した寺。信濃において選定されたのが上田。と言うことはここが8世紀信濃の最先端を走っていた場所でありましたが栄枯盛衰。



武田晴信「義清にとって、守る必要も無い場所……。」

山本勘助「そこに陣を構えましょう。」



 神川を渡り、国分寺跡に陣を構える武田晴信。そこで今後の方針を示すべく軍議が開かれるのでありました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。 これは、別次元から来た女神のせいだった。 その次元では日本が勝利していたのだった。 女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。 なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。 軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか? 日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。 ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。 この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。 参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。 使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。 表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

信濃の大空

ypaaaaaaa
歴史・時代
空母信濃、それは大和型3番艦として建造されたものの戦術の変化により空母に改装され、一度も戦わず沈んだ巨艦である。 そんな信濃がもし、マリアナ沖海戦に間に合っていたらその後はどうなっていただろう。 この小説はそんな妄想を書き綴ったものです! 前作同じく、こんなことがあったらいいなと思いながら読んでいただけると幸いです!

高天神攻略の祝宴でしこたま飲まされた武田勝頼。翌朝、事の顛末を聞いた勝頼が採った行動とは?

俣彦
ファンタジー
高天神城攻略の祝宴が開かれた翌朝。武田勝頼が採った行動により、これまで疎遠となっていた武田四天王との関係が修復。一致団結し向かった先は長篠城。

処理中です...