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第三章 カモフ攻防戦
20 敵中突破(3)
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ザオラルを生け捕りにしようと、敵兵が取り囲むように進み出てくる。
「ザオラル様を護れっ!」
同時にそれを阻止しようと残った兵たちがザオラルを護るように動き、二人の周りで激しい小競り合いが発生した。
「さて、貴様らはここまでよく戦った。褒美にこのまま全滅するか、降伏して生き恥を晒すか選ばせてやろう」
周りの戦いを尻目にエリアスは涼しい表情で告げる。
エリアスが告げるまでもなく、彼らの敗北はほぼ確定だろう。
街を見れば立ち上る煙はもう城を覆う程に大きくなっていた。城の尖塔も煙で見えづらくなっている。このままでは城に火が回るのも時間の問題だろう。
この戦い、最初からザオラルは生還を考えていなかった。
生を捨てた集団は死兵と化し、死ぬまで止まることのない彼らの突撃は、反乱軍側を恐怖に陥れた。
ザオラルとしても最期にエリアスとの一騎打ちまで持ち込めたのだ。
一騎打ちの結果は望んだものではなかったが、満足いくまで戦う事ができたのだ。望外の結果を得ることができただろう。
油断無く身構えながら、頭の片隅には戦場を脱出させた二人のことが浮かんできていた。
ーーーダニエルは無事に脱出できただろうか? リーディアは?
青い顔を浮かべ気丈に振る舞っていた赤髪の少女。
悔いがあるとすれば、彼女のことだけだった。
生還までを考えていたなら、経験の浅いリーディアを単独行動はさせず、最期まで自分の傍に置いていただろう。
ザオラルが目の前だけに集中して戦うのはいつ以来のことだろうか。
特に領主となってからのこの二十数年間は、いかに負けないかを考えて軍全体に気を配っていた。しかしこの戦いでは、勝ち負けすら関係なく目の前の敵を倒すという、懐かしくも新鮮な高揚感とともに戦場を駆けていたのだった。
自慢の体力はまだ充分残っていたが、肝心の武器が頼りない短剣一本ではどうしようもなかった。
『ここまでか・・・・』
かくなる上は玉砕覚悟でエリアスに挑むしかない。
ザオラルがそう覚悟を決めた時だった。
「ザオラル様っ!」
突然の闖入者が、分厚い包囲を割ってザオラルとエリアスとの間を分断するように割り込んできたのだ。
割り込んできたのはオモロウへと撤退したはずのダニエルだった。
「ダ、ダニエル殿!? 何故だ?」
「お叱りはなしで! それよりこれをお使いください!」
そう言って一振りの薙刀を差し出すのだった。
ザオラルはその薙刀に見覚えがあった。
「これはまさか!?」
受け取ったザオラルは、思わずダニエルに問い掛けていた。
見た目と違ってずしりと重いが手に馴染む感覚があり、幅広く長い刃は刃こぼれひとつなく鈍い輝きを放っていた。
柄は象牙のように白く、石突きや刃の根元には細やかな装飾が施され金色に輝いている。
「父上の薙刀です」
ダニエルの回答はザオラルの予想通りのものだった。
「いいのか?」
「私には使いこなせそうにありませんので、ザオラル様に使っていただいた方が父上も喜びます」
「助かる。これでもう少し戦える」
ザオラルは軽く振り回して感触を確かめる。
重量の割にバランスがいいのか非常に扱いやすい。これならまだまだ暴れることができそうだった。
この薙刀を見ていると、オリアンとともに反乱鎮圧に奔走していた頃を思い出させた。
かつてお互いに背中を預けて戦っていたオリヤンとザオラルだったが、今は彼の息子二人が命を賭けて争っているというのは皮肉な話だった。
「ザオラル様は今すぐオモロウに向かっていただきたい」
「しかし!」
「リーディアが向かったオモロウには、どうやらヴィクトルが待ち構えているようです」
ダニエル有利の状況を引っ繰り返す切っ掛けを作ったヴィクトルの姿は、この戦場に見当たらなかった。どこにいるのかはっきりしなかったが、よりによってオモロウに布陣していたとは。
「今頃はトゥーレ殿と戦闘になっているかも知れません。このままではリーディアがトゥーレ殿に合流することは難しいでしょう。それに加えリーディアに追撃が出たとの報告もあります」
「それでは貴殿は!?」
「分かっております」
すでに覚悟しているのか迷いのない表情でそう告げた。
「この戦いは兄上と私との決着の場です。それなのにザオラル様のお言葉に甘えて再起をはかり、それで勝てたとしても、それでは付いてくる民はいません。この場でどちらが父上の後継者として相応しいか見せねばならないのです」
そう告げるダニエルの姿は髪こそ黒いものの、かつてのオリヤンに重なるものを感じた。
どうしようもなく遅すぎた感は否めないが、この土壇場で彼に流れるオリヤンの血がようやく覚醒したかのようだった。
「・・・・わかった」
ザオラルは短くそう答えると右手を差し出した。ダニエルも笑みを浮かべ、ガッシリと握手を交わす。
「退路は我らが開きます! ザオラル様はその隙に! どうかリーディアをお願いいたします」
「ご武運を! 皆聞いたな!? 我らはもう一働きする必要があるようだ。まだ腕は動くか!? 拍車を押し当てる力は残っているか!?」
ザオラルは振り返ると満身創痍の部下たちにそう声を上げた。
「もちろんです! 体は多少がたが来てますが、まだまだ戦えます」
「姫様のためなら、もう一踏ん張りせねばなりませんな!」
老騎士たちはそう言って笑う。
確認するまでもなく、彼らには殆ど戦う力は残っていなかった。それでもダニエルの覚悟を目の当たりにし、リーディアの危機を耳にしてしまった。
この場に生き残っているのは既に百二十名程だったが、戦意だけはまだまだ健在だった。
「それではザオラル様、一足先にヴァルハラで父上とお待ちしております」
そう告げるとダニエルは振り返ることなくエリアスへ向かっていくのだった。
「また逢おう!」
去って行くダニエルの背中にそう声を掛けると、ザオラルもまた満身創痍の体に鞭打ち、包囲網に突撃していった。
「兄上、決着を付けましょう!」
「いいだろう。返り討ちにしてくれる!」
そう言うと向かい合った二人は、ほぼ同時に馬を走らせた。
二人はぶつかり合うかと思われた寸前、それぞれの得物を振るう。
―――ガギッ
金属同士と思えないほど重たい激突音が響き、それまでの慣性力など無視したかのようにそのまま鍔迫り合いが始まった。
意地の張り合いなのか二人とも引く様子はなく、お互い獣のように歯を剥き出しにしながら獰猛な表情を浮かべている。
―――ギギギ
ダニエルの薙刀とエリアスの戦斧から悲鳴のような音が響く。
先に動いたのはエリアスの方だ。一瞬力を抜くとバランスを崩したダニエルの薙刀を跳ね上げ、再び距離を取る。
そのまま睨み合う二人。
だがその表情は対照的だ。充実感を漂わせたダニエルに対し、屈辱に顔を歪めたエリアス。最初の力比べはダニエルに軍配が上がった。
「くっ。中々やる!」
「兄上こそ!」
再び馬をぶつけるように接近した二人は、今度は激しい打ち合いを始めた。
エリアスが上段から戦斧を振り下ろし、ダニエルはそれを下から搗ち上げる。そして直ぐさま薙刀を横凪ぎに払うと、今度はエリアスがそれを受け止めた。
躱すという考えがないのか、お互い激しく金属音を奏でながら叩き込んでいく。そのどれもが必殺の一撃なのは得物同士の打ち合う音が、怖気を覚えるほど重いことでも分かる。
お互い全力の一撃を繰り出し何十、何百と打ち合うが、そのどれもが決定打とならず勝負の行方はどう転ぶか分からない。
「す、凄い・・・・」
「エリアス様はもちろん凄いが、ダニエル様も負けてねぇ」
いつしか周りの兵が戦いを止め、固唾を飲んでいつ終わるとも分からない二人の戦いに魅入られていた。
どれほど打ち合っていたのだろうか。
どちらともなく距離を取った二人は再び睨み合った。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
「ふう・・・・、まさか俺とここまで打ち合うことができるとは。流石に親父殿の子というところか」
激しい息遣いを見せて肩で息をするダニエルと、すぐに呼吸を整え次に備えるエリアス。互角に見えた戦いだったが、二人の様子に明らかな違いが見え始めていた。
赤鬼と恐れられるほど自らも戦場に立つことの多いエリアスと、指揮官として戦場に赴くことはあっても自らは前線に出ることのないダニエル。
力比べでは負けてなかったダニエルだったが、ここに来て体力の差が出てきていた。
「そろそろ決着を付けよう」
「はぁ、はぁ・・・・。いいでしょう。参る!」
呼吸を整えたダニエルが愛馬に拍車を当て、最後の力を振り絞り突撃していく。
エリアスもほぼ同時に馬を走らせ、二人の距離が見る間に縮まっていく。
「うぉおおおおお・・・・!」
「はぁあああああ・・・・!」
地の底から聞こえてくるような雄叫びを上げながら得物を振りかぶった。
―――ガキン!
得物同士が激しくぶつかる金属音が響き渡る。
しかし、今度は力負けした薙刀が宙を舞った。
「くっ!」
「させるかっ!」
すぐに剣を抜こうとするダニエルだったが、エリアスが一瞬早く跳ね上げた戦斧を振り下ろす。
「ぐはぁあっ!」
袈裟に切られたダニエルが、鮮血に塗れながら馬から落ちる。
落下した彼は、なお戦意が衰えていない目でエリアスを見上げ、すぐに身体を起こそうとする。
「げほっ」
しかし、口から激しく吐血すると全てを悟ったように、力なく仰向けに横たわった。虚ろな視線を馬上から見下ろすエリアスに向ける。
「あ、兄上の、勝ちだ」
「ああ。お前もよくやった。ゆっくり眠るがいい」
エリアスはそう言うとゆっくりと戦斧を振り下ろした。
ここにフォレス近郊での戦いは決着し、エリアスがウンダルの支配権を獲得するのだった。
フォレスの街を焦がす炎は、いつしか城へと燃え移っていた。
炎は城をゆっくりと浸食していき、やがてふたつの尖塔をも包み込んだ業火は、三日三晩の間フォレスの空を真っ赤に染めるのだった。
「ザオラル様を護れっ!」
同時にそれを阻止しようと残った兵たちがザオラルを護るように動き、二人の周りで激しい小競り合いが発生した。
「さて、貴様らはここまでよく戦った。褒美にこのまま全滅するか、降伏して生き恥を晒すか選ばせてやろう」
周りの戦いを尻目にエリアスは涼しい表情で告げる。
エリアスが告げるまでもなく、彼らの敗北はほぼ確定だろう。
街を見れば立ち上る煙はもう城を覆う程に大きくなっていた。城の尖塔も煙で見えづらくなっている。このままでは城に火が回るのも時間の問題だろう。
この戦い、最初からザオラルは生還を考えていなかった。
生を捨てた集団は死兵と化し、死ぬまで止まることのない彼らの突撃は、反乱軍側を恐怖に陥れた。
ザオラルとしても最期にエリアスとの一騎打ちまで持ち込めたのだ。
一騎打ちの結果は望んだものではなかったが、満足いくまで戦う事ができたのだ。望外の結果を得ることができただろう。
油断無く身構えながら、頭の片隅には戦場を脱出させた二人のことが浮かんできていた。
ーーーダニエルは無事に脱出できただろうか? リーディアは?
青い顔を浮かべ気丈に振る舞っていた赤髪の少女。
悔いがあるとすれば、彼女のことだけだった。
生還までを考えていたなら、経験の浅いリーディアを単独行動はさせず、最期まで自分の傍に置いていただろう。
ザオラルが目の前だけに集中して戦うのはいつ以来のことだろうか。
特に領主となってからのこの二十数年間は、いかに負けないかを考えて軍全体に気を配っていた。しかしこの戦いでは、勝ち負けすら関係なく目の前の敵を倒すという、懐かしくも新鮮な高揚感とともに戦場を駆けていたのだった。
自慢の体力はまだ充分残っていたが、肝心の武器が頼りない短剣一本ではどうしようもなかった。
『ここまでか・・・・』
かくなる上は玉砕覚悟でエリアスに挑むしかない。
ザオラルがそう覚悟を決めた時だった。
「ザオラル様っ!」
突然の闖入者が、分厚い包囲を割ってザオラルとエリアスとの間を分断するように割り込んできたのだ。
割り込んできたのはオモロウへと撤退したはずのダニエルだった。
「ダ、ダニエル殿!? 何故だ?」
「お叱りはなしで! それよりこれをお使いください!」
そう言って一振りの薙刀を差し出すのだった。
ザオラルはその薙刀に見覚えがあった。
「これはまさか!?」
受け取ったザオラルは、思わずダニエルに問い掛けていた。
見た目と違ってずしりと重いが手に馴染む感覚があり、幅広く長い刃は刃こぼれひとつなく鈍い輝きを放っていた。
柄は象牙のように白く、石突きや刃の根元には細やかな装飾が施され金色に輝いている。
「父上の薙刀です」
ダニエルの回答はザオラルの予想通りのものだった。
「いいのか?」
「私には使いこなせそうにありませんので、ザオラル様に使っていただいた方が父上も喜びます」
「助かる。これでもう少し戦える」
ザオラルは軽く振り回して感触を確かめる。
重量の割にバランスがいいのか非常に扱いやすい。これならまだまだ暴れることができそうだった。
この薙刀を見ていると、オリアンとともに反乱鎮圧に奔走していた頃を思い出させた。
かつてお互いに背中を預けて戦っていたオリヤンとザオラルだったが、今は彼の息子二人が命を賭けて争っているというのは皮肉な話だった。
「ザオラル様は今すぐオモロウに向かっていただきたい」
「しかし!」
「リーディアが向かったオモロウには、どうやらヴィクトルが待ち構えているようです」
ダニエル有利の状況を引っ繰り返す切っ掛けを作ったヴィクトルの姿は、この戦場に見当たらなかった。どこにいるのかはっきりしなかったが、よりによってオモロウに布陣していたとは。
「今頃はトゥーレ殿と戦闘になっているかも知れません。このままではリーディアがトゥーレ殿に合流することは難しいでしょう。それに加えリーディアに追撃が出たとの報告もあります」
「それでは貴殿は!?」
「分かっております」
すでに覚悟しているのか迷いのない表情でそう告げた。
「この戦いは兄上と私との決着の場です。それなのにザオラル様のお言葉に甘えて再起をはかり、それで勝てたとしても、それでは付いてくる民はいません。この場でどちらが父上の後継者として相応しいか見せねばならないのです」
そう告げるダニエルの姿は髪こそ黒いものの、かつてのオリヤンに重なるものを感じた。
どうしようもなく遅すぎた感は否めないが、この土壇場で彼に流れるオリヤンの血がようやく覚醒したかのようだった。
「・・・・わかった」
ザオラルは短くそう答えると右手を差し出した。ダニエルも笑みを浮かべ、ガッシリと握手を交わす。
「退路は我らが開きます! ザオラル様はその隙に! どうかリーディアをお願いいたします」
「ご武運を! 皆聞いたな!? 我らはもう一働きする必要があるようだ。まだ腕は動くか!? 拍車を押し当てる力は残っているか!?」
ザオラルは振り返ると満身創痍の部下たちにそう声を上げた。
「もちろんです! 体は多少がたが来てますが、まだまだ戦えます」
「姫様のためなら、もう一踏ん張りせねばなりませんな!」
老騎士たちはそう言って笑う。
確認するまでもなく、彼らには殆ど戦う力は残っていなかった。それでもダニエルの覚悟を目の当たりにし、リーディアの危機を耳にしてしまった。
この場に生き残っているのは既に百二十名程だったが、戦意だけはまだまだ健在だった。
「それではザオラル様、一足先にヴァルハラで父上とお待ちしております」
そう告げるとダニエルは振り返ることなくエリアスへ向かっていくのだった。
「また逢おう!」
去って行くダニエルの背中にそう声を掛けると、ザオラルもまた満身創痍の体に鞭打ち、包囲網に突撃していった。
「兄上、決着を付けましょう!」
「いいだろう。返り討ちにしてくれる!」
そう言うと向かい合った二人は、ほぼ同時に馬を走らせた。
二人はぶつかり合うかと思われた寸前、それぞれの得物を振るう。
―――ガギッ
金属同士と思えないほど重たい激突音が響き、それまでの慣性力など無視したかのようにそのまま鍔迫り合いが始まった。
意地の張り合いなのか二人とも引く様子はなく、お互い獣のように歯を剥き出しにしながら獰猛な表情を浮かべている。
―――ギギギ
ダニエルの薙刀とエリアスの戦斧から悲鳴のような音が響く。
先に動いたのはエリアスの方だ。一瞬力を抜くとバランスを崩したダニエルの薙刀を跳ね上げ、再び距離を取る。
そのまま睨み合う二人。
だがその表情は対照的だ。充実感を漂わせたダニエルに対し、屈辱に顔を歪めたエリアス。最初の力比べはダニエルに軍配が上がった。
「くっ。中々やる!」
「兄上こそ!」
再び馬をぶつけるように接近した二人は、今度は激しい打ち合いを始めた。
エリアスが上段から戦斧を振り下ろし、ダニエルはそれを下から搗ち上げる。そして直ぐさま薙刀を横凪ぎに払うと、今度はエリアスがそれを受け止めた。
躱すという考えがないのか、お互い激しく金属音を奏でながら叩き込んでいく。そのどれもが必殺の一撃なのは得物同士の打ち合う音が、怖気を覚えるほど重いことでも分かる。
お互い全力の一撃を繰り出し何十、何百と打ち合うが、そのどれもが決定打とならず勝負の行方はどう転ぶか分からない。
「す、凄い・・・・」
「エリアス様はもちろん凄いが、ダニエル様も負けてねぇ」
いつしか周りの兵が戦いを止め、固唾を飲んでいつ終わるとも分からない二人の戦いに魅入られていた。
どれほど打ち合っていたのだろうか。
どちらともなく距離を取った二人は再び睨み合った。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
「ふう・・・・、まさか俺とここまで打ち合うことができるとは。流石に親父殿の子というところか」
激しい息遣いを見せて肩で息をするダニエルと、すぐに呼吸を整え次に備えるエリアス。互角に見えた戦いだったが、二人の様子に明らかな違いが見え始めていた。
赤鬼と恐れられるほど自らも戦場に立つことの多いエリアスと、指揮官として戦場に赴くことはあっても自らは前線に出ることのないダニエル。
力比べでは負けてなかったダニエルだったが、ここに来て体力の差が出てきていた。
「そろそろ決着を付けよう」
「はぁ、はぁ・・・・。いいでしょう。参る!」
呼吸を整えたダニエルが愛馬に拍車を当て、最後の力を振り絞り突撃していく。
エリアスもほぼ同時に馬を走らせ、二人の距離が見る間に縮まっていく。
「うぉおおおおお・・・・!」
「はぁあああああ・・・・!」
地の底から聞こえてくるような雄叫びを上げながら得物を振りかぶった。
―――ガキン!
得物同士が激しくぶつかる金属音が響き渡る。
しかし、今度は力負けした薙刀が宙を舞った。
「くっ!」
「させるかっ!」
すぐに剣を抜こうとするダニエルだったが、エリアスが一瞬早く跳ね上げた戦斧を振り下ろす。
「ぐはぁあっ!」
袈裟に切られたダニエルが、鮮血に塗れながら馬から落ちる。
落下した彼は、なお戦意が衰えていない目でエリアスを見上げ、すぐに身体を起こそうとする。
「げほっ」
しかし、口から激しく吐血すると全てを悟ったように、力なく仰向けに横たわった。虚ろな視線を馬上から見下ろすエリアスに向ける。
「あ、兄上の、勝ちだ」
「ああ。お前もよくやった。ゆっくり眠るがいい」
エリアスはそう言うとゆっくりと戦斧を振り下ろした。
ここにフォレス近郊での戦いは決着し、エリアスがウンダルの支配権を獲得するのだった。
フォレスの街を焦がす炎は、いつしか城へと燃え移っていた。
炎は城をゆっくりと浸食していき、やがてふたつの尖塔をも包み込んだ業火は、三日三晩の間フォレスの空を真っ赤に染めるのだった。
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