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第二章 ブラッド・レーベル

第20話 街の掃除屋②

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「では、依頼されるということでよろしいですか?」

「はい。よろしくお願いします」

「かしこまりました。では、契約書に記入をお願いいたします」

神崎さんはそう言って席を立ち、机の方へ向かった。俺はその間に出されたお茶に口をつける。俺の好きなほうじ茶だった。美味しいな、これ。


「こちらの書類に必要事項を記入いただけますか?」

「あ、はい」

書類に目を通す。特に不審な点もなさそうだ。日付と氏名、住所などを記入していく。神崎さんは、何やら別の書類に目を通していた。早速捜査を始めてくれているのだろうか。仕事が早いな。

「あの、もし居場所がわかったら、すぐに連絡をもらえますか?」

「ええ。それはもちろん」

「ありがとうございます。よろ……」

「ゴラァ神崎! ◯しに来たぞ!!!」

「「「!?」」」

俺の言葉を遮るように、低くドスの効いた怒鳴り声が聞こえてきた。入り口の方からだ。見ると、入り口の扉が蹴破られ、そこにはいかにもヤ◯ザだと言わんばかりの強面男たちが5~6人ドスを構えて立っていた。

え、どういう状況?

「……お客様、困りますよ。扉の修理代って意外と高いんですよ?」

日常ではまず出会すことがないはずの相手を前に、有り得ないほど冷静な神崎さん。なんでこの人はこんなに冷静なんだ?!

「舐めたこと抜かしとんちゃうぞ餓鬼コラ。てめえに嵌められたせいでワシらんとこの組はめちゃくちゃじゃ。どう落とし前つけんじゃ!!」

リーダーらしき男が、ものすごい剣幕で捲し立てている。取り巻きの男たちも、全員もれなく戦闘態勢だ。いつ手に持ったドスを振り回してくるか分からない。

しかし、それでも神崎さんは冷静さを保ったまま答える。

「見て分かりませんか? 今は、他のお客様がいらっしゃってるんです。要件なら後で伺いますから、外で待っておいてください」

「安心せえ。用があんのはお前だけや。大人しく付いてくれば、他の奴には手を出さん」

「はあ。これだから馬鹿は。順番くらい守ってくださいよ」

「んだとゴラァ! お前ら! サッサと攫っちまえ!」

「「オウ!」」

おいおいおい嘘だろ。神崎さんに煽られた男たちは頭に血が上ったようで、一斉に襲いかかってきた。っておいおい、このままじゃ俺たちまで巻き込ま

「フッ!」

と、一瞬のことだった。一目散に襲いかかってきたリーダーらしき男が事務所の壁まで蹴り飛ばされたのだ。男は壁に激突した衝撃で、気を失ってしまった。

「……忘れないでください。これは、正当防衛ですから」

男を蹴り飛ばしたのは、神崎さんだった。八崎の蹴りに匹敵する速さと威力……。この人一体何者だ?

「て、てめえよくも!!」

目の前でリーダーがやられ、冷静さを欠いた取り巻きたちが次々と神崎さんに襲いかかる。しかし、神崎さんはそれらを全ていなしてしまった。

気がつけば、事務所を襲ってきた男たちは全員床に這いつくばっている。短い時間に、色々なことが起こりすぎて頭が追いつかない。一体、何が起こったんだ?

「ふう。申し訳ありません成瀬さん。それに、お連れの方も。この方たちについては、個人情報保護のためご説明できないのですが、後の処理はこちらでやっておきますので」

「処理って……おい! 危ねえ!」

八崎が何かを言おうとした瞬間、最初に蹴り飛ばされた男が急に立ち上がり、神崎さん目掛け突進してきた。その手にはドスが握られている。

「死ねやあああああああああ!!!」

「てめえがな!」

今度は、八崎の蹴りが男の顔面を捉えた。再び壁まで蹴り飛ばされた男は、今度こそ完全に気を失った。突然の出来事だったにも関わらず、的確に顔面を捉えるなんて……。


「……お強いんですね。すみません、助かりました。お怪我はありませんか?」

「これくらいは全然。それより、これからコイツらどうすんだ? 警察呼ぶのか?」

「いえ、それには及びません。後ほど、僕からキッチリお話させていただきますので」

神崎さんがそう言うと、給湯室に繋がっていると思われる扉が開き、1人の男が出てきた。2mほどはある体格のいい大男だ。髭を生やし、何ともワイルドな印象を受ける。

「…………」

「すみません。後は任せます。この方たちの話が済んだら、すぐに行きますから」

「…………」

大男は、神崎さんの同僚らしかった。しかし神崎さんの言葉にも返事はせず、床に伏している男たちを軽々と拾い上げ、そそくさの向こうの部屋に戻って行ってしまった。

「さて、とんだ邪魔が入ってしまいましたが、話を続けましょう」

「あ、えっと……」

いやいやいや、どう考えてもそれどころじゃないだろ! いくら探偵事務所だからって、こんな真っ昼間からヤ◯ザが乗り込んでくるなんてことあるか?! 下手すれば、怪我じゃ済まない事態になっていたかもしれないんだぞ!?

「大丈夫。安心してください。何も怖がらなくて良いですから」

「はい? それって、どういう……」

急に、強烈な眠気に襲われた。あれ、おかしいな。さっきまで別に眠気なんかなかったのに。疲れてたの………か……?


「……さん? ……しま……?」


神崎さんが何かを話しているが、それを聞き取ることはできなかった。
俺の意識は、そこで完全に途絶えた。
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