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第4話 夢中説夢-2
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朝食を食べ終えた俺は、傘をもって玄関を出た。外では相変わらず雨が降っている。出勤前に濡れるのは結構嫌だが、仕方がない。
傘を開いて歩いているが、足元がじんわりと濡れてきた。このままいけば、靴下までぐっしょりと濡れそうだな。
途中で花屋さんに立ち寄り、母さんに供える花を買った。
もうあと少しで目的地に着く、というところで、見知った顔を見つけた。
「あ……」
「あら? もしかして、純平くん?」
「……真由美さん、お久しぶりです」
高坂 真由美さん。美幸のお母さんだ。こうやって言葉を交わすのは何年ぶりだろうか。というか、今まで散々避けていたくせに、自然と言葉を返せている自分に驚いた。
「お久しぶりです……じゃないでしょ! 時々純平くんのこと街で見かけるから、その度に声をかけようとしたのに! 純平くんったらそそくさとどっか行っちゃうし!」
「はい、すみません」
「謝るくらいなら無視しない! 私と純平くんの仲でしょ!」
「相変わらずですね、真由美さん」
「あら、年をとってるように見えないって? もう、誉めても何にもでないわよ!」
「誉めてないっす」
真由美さんは、黙っていればかなりの美人さんだと思う。スラッとしてるし、とても若々しくてエネルギッシュだ。女性らしい雰囲気を持ちながらも、元気いっぱい! という印象を受ける。
が、それは黙っていればの話だ。一言口を開けば最後、その印象はある意味180度変わってしまう。エネルギッシュなのは見た目通りだが、元気みなぎりすぎな。
「それで、こんなところでどうしたの? ……って、聞くだけ野暮か」
「はい。母の墓参りに」
「そうよね。私もご一緒していいかしら?」
「ええ、もちろん。母も喜びます」
俺たちは、母さんの眠る墓地へ足を踏み入れた。全体的に綺麗、という表現が合っているのかは分からないが、ここはとても清掃が行き届いていると思う。そもそも、どの石碑も立派なのだ。
そんな墓地を進んでいると、母さんの石碑が見えてきた。高坂 幸子。若くして死んだ俺の母さん。
「よく来るの?」
「どうですかね……。家からも近いんで、フラッと寄ることはありますね」
「そっか」
真由美さんの質問に答えながら、さっき買った菊の花を供えた。雨が降っているので、線香はあげないことにした。
母さんの前に座り、目を閉じて手を合わせる。
「ねえ純平くん」
「はい?」
俺と同じように手を合わせてくれていた真由美さんが、母さんの石碑を見ながら聞いてきた。
「ひとつ聞いてもいいかしら?」
「はい。なんですか?」
「最近、美幸と会った?」
「えっと……はい。会いました、昨日」
「そっか。こないだ、美幸から連絡があったの。社員旅行でこっちに来ることになったからって」
「社員旅行ですか」
会社の人たちと来ているとは思っていたが、社員旅行で来ていたのか。社員旅行で来るにしては、特に名物といった名物もないところだけどな、ここは。自分で言ったら悲しくなるが。
「それで、純平くんのところのお店に寄ってたりしないかなって思って、聞いてみたの」
「昨日、お店に来ましたよ。会社の方達と一緒に」
ふと、美幸に部長と呼ばれていた男性のことを思い出した。再び、腹のなかに黒い感情が生まれそうになったが、ぐっと堪えた。ただえさえ朝から体調が優れないのに、気まで悪くしては昼からの仕事に影響がでそうだしな。
「純平くん、美幸とは今も連絡とってるの?」
「……いえ、連絡先も知りません。高校卒業してからは、昨日会ったのが初めてです」
そこで真由美さんは、俺の方に目線を寄越した。目が合う。俺は、なぜかそれをそらして下を向いてしまった。
「美幸と何かあったの? 昔は、あんなに仲良かったのに。ケンカでもした?」
「ケンカ、ならよかったんですけどね」
時間がたてば仲直りできるから。俺とあいつなら、10分も経てば仲直りしているだろう。
「ケンカじゃないならどうして……。 あ、純平くんに彼女ができたとか!? ていうか、もう結婚しちゃった!?」
「いや、それはないっす」
「えー。つまんないなあ」
ぷーっと口を膨らませ、拗ねるようにする真由美さん。年齢を考えると信じられない行動だが、見た目だけで考えれば充分許される。それぐらい真由美さんは若々しい。
「俺が悪いんです。俺があいつを怒らせちゃったから、口も利いてくれなくなったんです」
「え? それはないでしょ」
真由美さんの口からでたのは、まさかの否定だった。俺が何をして美幸を怒らせたのかも言っていないのに。
「いや、でも……」
「そんなことで、純平くんのこと嫌いになったりしないよ、あの子は」
「そんな、なんでわかるんですか」
「はっはっはっ! 私が美幸の母親だから! 以上!」
「そんな無茶苦茶な……」
「えー? これ以上の正論はないでしょ?」
意味がわからん。意味がわからんぞ真由美さん。
「純平くんは、美幸とそれでいいの?」
「え?」
「今のままで。連絡先も知らないなら、遊んだり電話することもできないでしょ? それとも、昨日会ったときに連絡先くらい交換した?」
「いえ、ほとんど話もできませんでした」
「それで、いいの?」
傘を開いて歩いているが、足元がじんわりと濡れてきた。このままいけば、靴下までぐっしょりと濡れそうだな。
途中で花屋さんに立ち寄り、母さんに供える花を買った。
もうあと少しで目的地に着く、というところで、見知った顔を見つけた。
「あ……」
「あら? もしかして、純平くん?」
「……真由美さん、お久しぶりです」
高坂 真由美さん。美幸のお母さんだ。こうやって言葉を交わすのは何年ぶりだろうか。というか、今まで散々避けていたくせに、自然と言葉を返せている自分に驚いた。
「お久しぶりです……じゃないでしょ! 時々純平くんのこと街で見かけるから、その度に声をかけようとしたのに! 純平くんったらそそくさとどっか行っちゃうし!」
「はい、すみません」
「謝るくらいなら無視しない! 私と純平くんの仲でしょ!」
「相変わらずですね、真由美さん」
「あら、年をとってるように見えないって? もう、誉めても何にもでないわよ!」
「誉めてないっす」
真由美さんは、黙っていればかなりの美人さんだと思う。スラッとしてるし、とても若々しくてエネルギッシュだ。女性らしい雰囲気を持ちながらも、元気いっぱい! という印象を受ける。
が、それは黙っていればの話だ。一言口を開けば最後、その印象はある意味180度変わってしまう。エネルギッシュなのは見た目通りだが、元気みなぎりすぎな。
「それで、こんなところでどうしたの? ……って、聞くだけ野暮か」
「はい。母の墓参りに」
「そうよね。私もご一緒していいかしら?」
「ええ、もちろん。母も喜びます」
俺たちは、母さんの眠る墓地へ足を踏み入れた。全体的に綺麗、という表現が合っているのかは分からないが、ここはとても清掃が行き届いていると思う。そもそも、どの石碑も立派なのだ。
そんな墓地を進んでいると、母さんの石碑が見えてきた。高坂 幸子。若くして死んだ俺の母さん。
「よく来るの?」
「どうですかね……。家からも近いんで、フラッと寄ることはありますね」
「そっか」
真由美さんの質問に答えながら、さっき買った菊の花を供えた。雨が降っているので、線香はあげないことにした。
母さんの前に座り、目を閉じて手を合わせる。
「ねえ純平くん」
「はい?」
俺と同じように手を合わせてくれていた真由美さんが、母さんの石碑を見ながら聞いてきた。
「ひとつ聞いてもいいかしら?」
「はい。なんですか?」
「最近、美幸と会った?」
「えっと……はい。会いました、昨日」
「そっか。こないだ、美幸から連絡があったの。社員旅行でこっちに来ることになったからって」
「社員旅行ですか」
会社の人たちと来ているとは思っていたが、社員旅行で来ていたのか。社員旅行で来るにしては、特に名物といった名物もないところだけどな、ここは。自分で言ったら悲しくなるが。
「それで、純平くんのところのお店に寄ってたりしないかなって思って、聞いてみたの」
「昨日、お店に来ましたよ。会社の方達と一緒に」
ふと、美幸に部長と呼ばれていた男性のことを思い出した。再び、腹のなかに黒い感情が生まれそうになったが、ぐっと堪えた。ただえさえ朝から体調が優れないのに、気まで悪くしては昼からの仕事に影響がでそうだしな。
「純平くん、美幸とは今も連絡とってるの?」
「……いえ、連絡先も知りません。高校卒業してからは、昨日会ったのが初めてです」
そこで真由美さんは、俺の方に目線を寄越した。目が合う。俺は、なぜかそれをそらして下を向いてしまった。
「美幸と何かあったの? 昔は、あんなに仲良かったのに。ケンカでもした?」
「ケンカ、ならよかったんですけどね」
時間がたてば仲直りできるから。俺とあいつなら、10分も経てば仲直りしているだろう。
「ケンカじゃないならどうして……。 あ、純平くんに彼女ができたとか!? ていうか、もう結婚しちゃった!?」
「いや、それはないっす」
「えー。つまんないなあ」
ぷーっと口を膨らませ、拗ねるようにする真由美さん。年齢を考えると信じられない行動だが、見た目だけで考えれば充分許される。それぐらい真由美さんは若々しい。
「俺が悪いんです。俺があいつを怒らせちゃったから、口も利いてくれなくなったんです」
「え? それはないでしょ」
真由美さんの口からでたのは、まさかの否定だった。俺が何をして美幸を怒らせたのかも言っていないのに。
「いや、でも……」
「そんなことで、純平くんのこと嫌いになったりしないよ、あの子は」
「そんな、なんでわかるんですか」
「はっはっはっ! 私が美幸の母親だから! 以上!」
「そんな無茶苦茶な……」
「えー? これ以上の正論はないでしょ?」
意味がわからん。意味がわからんぞ真由美さん。
「純平くんは、美幸とそれでいいの?」
「え?」
「今のままで。連絡先も知らないなら、遊んだり電話することもできないでしょ? それとも、昨日会ったときに連絡先くらい交換した?」
「いえ、ほとんど話もできませんでした」
「それで、いいの?」
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