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第3話 泡沫夢幻-2

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それは、この夢が終わるタイミングだ。昨日の夢は、美幸とキスをしようとした時に目が覚めた。そして今日もまた、同じようなシチュエーション……。

つまりこの夢は、美幸とキスをすれば終わってしまう、というのが俺が考えた可能性だ。。まあ、いつかは目が覚めてしまうだろうけどな。早いか遅いかの問題で。


「ん……? 純平?」

目の前には、まだヴェールに身を包んだままの美幸が目を閉じて立っている。
……どうせ夢だしな。好きにやるか。

「ねえってば……って、純平!?」
「うおおおおおおお!!!」

思いきった俺は、美幸を抱えて式場を飛び出した。夢の中だから、重さは一切感じなかった。疲れもなく、式場から離れたあたりで美幸を降ろす。

「ちょっと純平! なに考えてるの!?」

この状況をのみこめていない美幸が、目くじらをたてる。正直、俺自身なぜあんなことをしたのか正確にはわからない。これは夢なのだから、いつかは目が覚めて終わってしまうのに。

……まだ、美幸と話したいと思っているのか。夢の中の美幸と。

「少し、お前と話したくて」
「え? そんなの、挙式が終わってからいくらでも……」
「できないんだよ、それは」
「どういうこと?」

 「それはまあ、色々とあってだな……」
「色々じゃわかんないでしょ!?」
「色々は色々じゃ!」
「なっ……! 逆ギレ……!?」
「あ、すまん」

上手い言葉が見つからず、つい熱くなってしまった。夢でこんなんだったら、現実で美幸と話すのはもっと無理だろこれ。

そうか、この夢の中で練習すればいいんだ。昨日会った美幸と、夢で会う美幸は、全然感じは違うけどな。


「あー。えっと、少し昔話でもするか?」
「昔話?」
「そう。例えば……俺たちが式を挙げるまでに何があったかとか」
「そんなの、いまする話!?」

ぐっ。夢だというのに、しっかり筋が通った話をしやがるな。

「その話聞いたら戻るから! なっ?」
「もー。少しだけだよ?」
「ヨッシャ」
「よっしゃ?」
「何でもない。さあ話そう話そう」

これは練習だ。できるだけ美幸と会話して、慣れなくては。


「んー、まずはどこから話そうかな。一番記憶に残ってるのは、純平からのプロポーズかな。あ、私の両親に結婚の挨拶をしに行ったときのことも覚えてるよ」
「おいおい、先にプロポーズしてきたのはそっちだろ」
「あの時の純平ったら、緊張で声カラカラだったもんね。ははっ。思い出しただけで笑えてくるよ」

コイツ、普通に無視しやがった。ていうか挨拶行ってねえし! 腹抱えて笑ってんじゃねえぞ!


「あと、純平のお母さんに挨拶行った時は感動したなあ。自分のことのように喜んでくれて」
「え……?」

自分の耳を疑った。
美幸は今、なんて言った?

「私も、それにつられて泣いちゃってさあ。翌日も中々腫れが引かなかったんだよね。まあ、今となってはいい思い出だけど」
「……なあ、俺の母さんに会ったのか?」
「え? そうだけど。純平も一緒にいたのに、忘れちゃったの?」

そうか。夢の中では、生きてることになってるんだな。

「母さん、何か言ってた?」
「何かって……孫の顔が見れそうだわ! とか、美幸ちゃんが養っていかないとね! とか?」
「そっか。母さんらしいや」
「あとは、純平が結婚するって聞いて本当に驚いたって。結婚には良いイメージを持ってないと思ってたから、美幸ちゃんのこと本当に愛してるんだなあって……言ってくれてたよ」

愛してるという言葉のあたりから、恥ずかしくなったのか、しどろもどろになる美幸。俺は、その言葉を聞いて目頭が熱くなるのを感じた。




母さんは、7年前に死んだんだ。俺が高校三年の時に。原因は過労死だった。
女手ひとつで俺を育ててくれた母さんに、何一つ親孝行できなかった。もう、そのチャンスはない。

「純平? なんで泣いてるの?」

俺は、心配そうに見つめる美幸の唇に、自ら口づけをした。
いや、正確に言うと、口と口が触れあう直前で視界が真っ白になったから、口づけはできてはいない。


俺の意識は、そこで途絶えた。

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