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第1話 夢見心地-2
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市役所を後にした俺たちは、あの場所を目指していた。高校3年生の春、美幸からプロポーズを受けた場所。
あの時は人生で1番衝撃を受けた。人間、自分のキャパを越える出来事に直面すると、本当に思考が停止するということを、身をもって体感した。
「着いたね」
市役所から徒歩5分。目的地に到着した。あの頃の何も変わっていない景色がそこにあった。辺りには田んぼぐらいしかない田舎道。
「何も変わってないな」
通学路として使っていたこの道は、高校を卒業してから通ることはなくなった。実に7年ぶりにこの場所にやってきたことになる。
「なあ美幸」
「ん? なに?」
俺は、密かに気になっていたことを聞いてみることにした。
「美幸って、いつから俺のこと好きだったわけ?」
「ぶほっう! な、なによ急に!」
「驚きかたの癖が凄い」
俺の質問が予想外だったのか、くそキモい声をあげた美幸。いや、これはけっこう前から気になっていたことだ。
聞こう聞こうとは思っていたが、その度にタイミングを逃して聞けず仕舞いになっていた。
「んで? いつから?」
「そ、それは……」
答えるのが恥ずかしいといった具合に、モジモジしだす美幸。
「……純平は?」
「ん?」
「純平は、いつから私のこと好きになってくれた?」
「質問に質問で返すとは関心しないな」
「ぐぬぬ……」
唇を噛み、悔しさを表現する美幸。甘い、そんな質問返しで話を逸らそうとしても無駄だ! 今日という今日は、この疑問を解決させてもらう!
「観念して答えるのじゃ」
「…………わかんない」
「え?」
「いつからなんか、わかんないよ。気がついたら好きになっちゃってたんだから」
「おま……」
自分の頬が熱を帯びていくのがわかった。まさかこんな答え方をするとは思ってもいなかった……。やっぱりこいつ……。
「可愛いな」
「へ?」
「あ、いや……」
何を言ってるんだ俺は。つい思っていることを口に出してしまった。って違う違う! いや、違わないけどそうじゃなくて……!
「さ、さあ! 私は答えたよ! 次は純平が答える番!」
「俺は……」
自分の記憶をたどってみる。思えば、7年前に美幸からプロポーズを受けるまで、美幸をそういう目で見たことはなかった。仲のいい幼なじみとしか思ってなかった。
町中で可愛い子を見かければ自然と目で追いかけてたし、好きなグラビアアイドルの数は、ゆうに百を越えていた。
そんな俺が、美幸と付き合うなんてことを考える訳もなかった。
じゃあなんで、俺は美幸と付き合い、結婚をするところまで来たのか。
「…………俺は多分、ずっと好きだった。ガキの頃から、最初に出会ったときからずっと。考えもしなかったけど」
「…………」
美幸は黙って俺の話を聞いている。
「今になって思えば、もっと早くその気持ちに気づけばよかった。そしたら、もっと恋人としての時間が増え……」
「純平このやろうー!!!!」
「ぐほっ!」
俺が喋っている途中にも関わらず、美幸が全力で胸に飛び込んできた。あばらを目掛け頭突きをかまし、その衝撃を逃がすまいと両手で俺のことをガッシリとホールドする美幸。
「いてぇわ!」
「純平ー! 純平めー! 純平のくせにー!!」
「なんだなんだ!」
「ドキドキさせるなこのやろうー!」
「なんじゃそりゃ」
「私の心臓を壊す気かー!」
「私だって出会ったときからずーっと好きだったんだから! 私の方が早いんだからー! 純平のバカヤロー!!」
「……美幸。お前はさらっと爆弾発言するよな」
「…………へ?」
またもや、この場所で衝撃の告白をかます美幸。思考は停止しなかったが、これもなかなかの衝撃を受けた。
俺の腹にぐりぐりと押し付けていた頭をあげ、上目遣いに俺を見る美幸。自分が発言した内容に赤面しており、うっすら涙を浮かべている。恥ずかしきことこの上ないのだろう。
「あ、あのあの……。そんなつもりでいったのではなくてですね、あー。なんと申し上げたらよいか……」
「言ってること意味わからんぞ!」
「はい! 全くもってその通りでございます!」
「……ダメだこりゃ」
俺は呆れたように呟くと、美幸を自分の方へ抱き寄せた。優しく、でも少し強引に。
「美幸。落ち着いて」
「は、はい……!」
心臓の跳ねような音が、抱き締めている美幸から伝わってくる。全くもって落ち着く気配はない。むしろ逆効果だったようだ。
「まだ緊張してるの?」
「し、してないよ!」
「そっか。ならいいや」
美幸の返事を聞き、俺は素っ気なく美幸から離れた。え? と呟き、驚きの表情を浮かべている美幸。
まあこれはもちろん俺の作戦な訳だが。
「あ、あの……」
「ん? なに?」
「ま、まだ緊張してるかも。だから……」
「……もうちょっと、ぎゅってして?」
「…………」
俺は返事をする代わりに、もう一度美幸を抱き締めた。先ほどより力が入ってしまったようで、美幸が苦しそうに身をよじる。
「い、痛いよ純平。もう少し優しく……」
「あ、ごめん」
すぐに腕の力を緩め、美幸の様子を確認する。ふう、と息を吐き、解放感に浸っているようだった。
純粋に俺を求める美幸があまりにも可愛くて、つい力が入りすぎてしまっていた。
「美幸」
「は、はい!」
「今度は、優しくするから。もう一回抱き締めていい?」
素直な気持ちを伝えると、美幸はふふっと笑った。
「さっきの私みたいだね、純平」
「だ、ダメか?」
自分が恥ずかしいことを口走ったのだと気づいたときには、すでに時遅し。今さら否定もできない俺は、このまま突き進むことを決めた。
「ふふっ。いいよ。おいで?」
今度は優しく、包み込むように美幸を抱き締める。美幸の体温が伝わってきて、改めて幸せを感じた。
俺は、こんなに幸せでいいのだろうか。
「純平……」
「ん?」
俺に体を預けるようにしている美幸が、目線を合わせず問いかけてくる。
「……幸せにしてね」
「おう」
「絶対だよ?」
「もちろん」
「……うん。信じてる」
これから先どんなことがあっても、美幸と2人なら乗り越えられるだろう。そんな確信があった。
「純平、これからもよろしくね」
「ああ、ずっと一緒にいよう」
「純平……」
美幸は、俺の目を見つめ、ゆっくり目を閉じた。背伸びをして口を寄せてくる。
こ、これはいくしかないか……!?
「美幸……」
辺りは夕焼けに包まれ、どこか幻想的な雰囲気だ。そこで男女がいい感じになったら、やることは1つしかない。
行けるとこまでいったるでー!!!
そこで、俺の視界は真っ白になった。
あの時は人生で1番衝撃を受けた。人間、自分のキャパを越える出来事に直面すると、本当に思考が停止するということを、身をもって体感した。
「着いたね」
市役所から徒歩5分。目的地に到着した。あの頃の何も変わっていない景色がそこにあった。辺りには田んぼぐらいしかない田舎道。
「何も変わってないな」
通学路として使っていたこの道は、高校を卒業してから通ることはなくなった。実に7年ぶりにこの場所にやってきたことになる。
「なあ美幸」
「ん? なに?」
俺は、密かに気になっていたことを聞いてみることにした。
「美幸って、いつから俺のこと好きだったわけ?」
「ぶほっう! な、なによ急に!」
「驚きかたの癖が凄い」
俺の質問が予想外だったのか、くそキモい声をあげた美幸。いや、これはけっこう前から気になっていたことだ。
聞こう聞こうとは思っていたが、その度にタイミングを逃して聞けず仕舞いになっていた。
「んで? いつから?」
「そ、それは……」
答えるのが恥ずかしいといった具合に、モジモジしだす美幸。
「……純平は?」
「ん?」
「純平は、いつから私のこと好きになってくれた?」
「質問に質問で返すとは関心しないな」
「ぐぬぬ……」
唇を噛み、悔しさを表現する美幸。甘い、そんな質問返しで話を逸らそうとしても無駄だ! 今日という今日は、この疑問を解決させてもらう!
「観念して答えるのじゃ」
「…………わかんない」
「え?」
「いつからなんか、わかんないよ。気がついたら好きになっちゃってたんだから」
「おま……」
自分の頬が熱を帯びていくのがわかった。まさかこんな答え方をするとは思ってもいなかった……。やっぱりこいつ……。
「可愛いな」
「へ?」
「あ、いや……」
何を言ってるんだ俺は。つい思っていることを口に出してしまった。って違う違う! いや、違わないけどそうじゃなくて……!
「さ、さあ! 私は答えたよ! 次は純平が答える番!」
「俺は……」
自分の記憶をたどってみる。思えば、7年前に美幸からプロポーズを受けるまで、美幸をそういう目で見たことはなかった。仲のいい幼なじみとしか思ってなかった。
町中で可愛い子を見かければ自然と目で追いかけてたし、好きなグラビアアイドルの数は、ゆうに百を越えていた。
そんな俺が、美幸と付き合うなんてことを考える訳もなかった。
じゃあなんで、俺は美幸と付き合い、結婚をするところまで来たのか。
「…………俺は多分、ずっと好きだった。ガキの頃から、最初に出会ったときからずっと。考えもしなかったけど」
「…………」
美幸は黙って俺の話を聞いている。
「今になって思えば、もっと早くその気持ちに気づけばよかった。そしたら、もっと恋人としての時間が増え……」
「純平このやろうー!!!!」
「ぐほっ!」
俺が喋っている途中にも関わらず、美幸が全力で胸に飛び込んできた。あばらを目掛け頭突きをかまし、その衝撃を逃がすまいと両手で俺のことをガッシリとホールドする美幸。
「いてぇわ!」
「純平ー! 純平めー! 純平のくせにー!!」
「なんだなんだ!」
「ドキドキさせるなこのやろうー!」
「なんじゃそりゃ」
「私の心臓を壊す気かー!」
「私だって出会ったときからずーっと好きだったんだから! 私の方が早いんだからー! 純平のバカヤロー!!」
「……美幸。お前はさらっと爆弾発言するよな」
「…………へ?」
またもや、この場所で衝撃の告白をかます美幸。思考は停止しなかったが、これもなかなかの衝撃を受けた。
俺の腹にぐりぐりと押し付けていた頭をあげ、上目遣いに俺を見る美幸。自分が発言した内容に赤面しており、うっすら涙を浮かべている。恥ずかしきことこの上ないのだろう。
「あ、あのあの……。そんなつもりでいったのではなくてですね、あー。なんと申し上げたらよいか……」
「言ってること意味わからんぞ!」
「はい! 全くもってその通りでございます!」
「……ダメだこりゃ」
俺は呆れたように呟くと、美幸を自分の方へ抱き寄せた。優しく、でも少し強引に。
「美幸。落ち着いて」
「は、はい……!」
心臓の跳ねような音が、抱き締めている美幸から伝わってくる。全くもって落ち着く気配はない。むしろ逆効果だったようだ。
「まだ緊張してるの?」
「し、してないよ!」
「そっか。ならいいや」
美幸の返事を聞き、俺は素っ気なく美幸から離れた。え? と呟き、驚きの表情を浮かべている美幸。
まあこれはもちろん俺の作戦な訳だが。
「あ、あの……」
「ん? なに?」
「ま、まだ緊張してるかも。だから……」
「……もうちょっと、ぎゅってして?」
「…………」
俺は返事をする代わりに、もう一度美幸を抱き締めた。先ほどより力が入ってしまったようで、美幸が苦しそうに身をよじる。
「い、痛いよ純平。もう少し優しく……」
「あ、ごめん」
すぐに腕の力を緩め、美幸の様子を確認する。ふう、と息を吐き、解放感に浸っているようだった。
純粋に俺を求める美幸があまりにも可愛くて、つい力が入りすぎてしまっていた。
「美幸」
「は、はい!」
「今度は、優しくするから。もう一回抱き締めていい?」
素直な気持ちを伝えると、美幸はふふっと笑った。
「さっきの私みたいだね、純平」
「だ、ダメか?」
自分が恥ずかしいことを口走ったのだと気づいたときには、すでに時遅し。今さら否定もできない俺は、このまま突き進むことを決めた。
「ふふっ。いいよ。おいで?」
今度は優しく、包み込むように美幸を抱き締める。美幸の体温が伝わってきて、改めて幸せを感じた。
俺は、こんなに幸せでいいのだろうか。
「純平……」
「ん?」
俺に体を預けるようにしている美幸が、目線を合わせず問いかけてくる。
「……幸せにしてね」
「おう」
「絶対だよ?」
「もちろん」
「……うん。信じてる」
これから先どんなことがあっても、美幸と2人なら乗り越えられるだろう。そんな確信があった。
「純平、これからもよろしくね」
「ああ、ずっと一緒にいよう」
「純平……」
美幸は、俺の目を見つめ、ゆっくり目を閉じた。背伸びをして口を寄せてくる。
こ、これはいくしかないか……!?
「美幸……」
辺りは夕焼けに包まれ、どこか幻想的な雰囲気だ。そこで男女がいい感じになったら、やることは1つしかない。
行けるとこまでいったるでー!!!
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