優等生と劣等生

和希

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5thSEASON

そうだあの時は……

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(1)

「おはよう愛莉」

そう言って唇に柔らかい感触が。

目を開けると冬夜君が優しい表情で私の顔を除いてる。

「起きた?」

そう言ってにこりと笑う冬夜君が。
これは夢ですか?
朝からこんなに優しい冬夜君なんで珍しい。

「どうしたの?」

冬夜君に訪ねてみた。
冬夜君は包装紙に包まれた小箱を差し出す。

「お誕生日おめでとう」

覚えててくれたんだ。
毎年の事だもんね。
一年に一度の冬夜君がとても優しい日。

「ありがとう、開けてもいい?」
「どうぞ?」

箱を開けると香水が入ってあった。
今度はつけたら気づいてくれるかな?

「嬉しいよ、ありがとね」

そう言って冬夜君の頬にキスをする。
あ、ゆっくりしてる場合じゃない。
急いで朝ごはん作らなきゃ。

「今日は僕がつくるよ」
「だめ、冬夜君のごはんは私がつくるの!」

そのくらいさせてよ、私なにも出来ないお嫁さんになっちゃう。

「じゃあ手伝いくらいするよ」
「うん」

冬夜君はやっぱり家事は苦手らしい。
それでも偶にこうして手伝ってくれる。
二人で並んでキッチンに立ってるの楽しいよ。
誠君は違うみたいだけど。
そう言えば昨日誠君の事で喧嘩したんだった。
冬夜君は謝ってくれた。
隠し事はもうしないって。
でもよく考えたら冬夜君も被害者なんだって気づいた。
だって冬夜君は誠君との友情って絆を守っただけだもん。
悪いのは誠君だ。
昨夜は大荒れだった。
炎上する渡辺班と女子会グル。
渡辺君は頭を抱えているようだった。
ファミレスに緊急招集がかかった。
必死に弁解する誠君に浴びせられる罵詈雑言。
男性陣は誰一人何も言わなかった。
冬夜君も食べることに夢中になってた。
神奈も黙って話を聞いてた。
誰一人誠君の話を信じる女性陣はいなかった。
何も文句を言わない男性陣にも矛先はむかった。
男性陣はみんな誠君を恨んでるだろうと冬夜君は言う。

「冬夜君も恨んでるの?」

私は朝ごはんとお弁当の支度をしながらそのお手伝いをしてくれる冬夜君に聞いていた。

「まあね、桐谷君と誠には誰しも少なからず不満はあると思うよ」

冬夜君はそう言って笑う。
昨日の事だってわざわざグループチャットに載せなければ分からなかったのだからと言う。
そうか、他の男性陣は自分た被害者だと思ってるのか。
朝食を食べながら思う。
そもそもなぜ、知らない女性とそんなことになったのか?
話はそれからだ。
それは本人に聞いてみないと分からないと冬夜君は言う。
今日学校に行けばわかるのだろうか?
神奈は話を聞いたのだろうか?

「愛莉、今日授業終ったら家でパーティみたいだから」
「ほえ?」
「明日学校だろ?一泊できない」

あ、そっか。

「その代わりと言ったらなんだけど来週末でも一泊するか?」
「う~ん。お泊りはいいや。冬夜君の誕生日も月曜日だし。クリスマスも平日だし」
「いいのか?」
「うん、ただ今夜は甘えさせてね♪」
「ああ、そのつもりだよ。」

わ~い

「2人とも仲が本当に仲がいいのね」

麻耶さんが言った。

「今からなら卒業した後になるだろ?もう子供作ったらどうだ」

冬夜君のパパさんが言う。

「出来婚は止めろって言ったの母さんだろ」
「そうだったね。でも早い所結婚して孫をみせてちょうだい。遠坂さんところも楽しみにしてるよ」
「分かってる」

てことは作る気はあるんだ。
私はちょっと恥ずかしかった。
冬夜君の部屋に戻ると私と冬夜君は着替える。
スカートをはくときに感じた違和感。
嘘……。
私は着替えると脱衣所に向かって体重計に乗る。
……最近飲み会が増えたからだろうか?冬夜君の日課を止めたからだろうか?
意気消沈して部屋に戻る。
冬夜君が抱きしめてくれる。

「愛莉何かあった?」
「うぅ……」

素直に言った方がいいんだろうか?夫婦で隠し事はしない。そう言ったのは私だ。
私は右手でピースサインをした。

「……増えてる」
「何が?」

少しは気づいてくれてもいいんじゃないだろうか?最後まで言わないと気づかないんだろうか?

「……体重」

冬夜君の顔を見る。
きょとんとしてた。

「……それだけ?」

それだけってなに?私にとっては重大な事だよ。

「愛莉も成長期なんじゃないのか?」
「……スカートがきつくなってた」
「じゃあ、新しいの買いに行かなくちゃな?」

ほえ?

「2キロくらい誤差だよ。すぐに痩せるさ。秋冬は体重が増えるっていうじゃないか?」
「うぅ……」
「今日でも行くか?一緒に選んであげる」

冬夜君は冬夜君なりに励ましてくれてるんだ。その事が嬉しく思えた。

「冬夜君の色はこれからだと赤か黒だよね?」
「チェック柄もいいかも」
「ミニスカートは嫌だよ?」
「分かってる。今年もスケート行くか?」
「うん!」

青色に染まった誕生日は冬夜君が虹色に染めてくれた。
今日は良いことがある。そんな気がした。

(2)

この日の女性陣は皆機嫌が悪かった。
きっと先日の件だろう。
まずはカンナに事情を聞いてみないと始まらない。
カンナに聞いてみた。
誠はサッカー部の合コンに参加した。
理由はJリーグに仮契約のお祝いと言う釣り糸の餌にされたから。
誠はちゃんと結婚指輪をはめていた。
大抵の女性はそれを察して声をかけてこなかった。
そんな中にも声をかけてくる女性がいた。
下村さんもそんな中の一人だ。
ただ彼女は積極的に交際を申し込んでは来なかった。
誠の趣味やら学校生活、学生婚の実情なんかを聞いてきたらしい。
誠がトイレから戻って飲み物を飲んだ後の事だった。
突然襲い掛かる眠気。
体が重い。
これは2次会までもたない。
誠は1次会で帰ることにしたらしい。
帰る時すでに誠はふらふらだったそうだ。
見かねた下村さんが駅まで送っていくと言い出した。
あとの話は誠のメッセージ通り。
裸の下村さんと眠っていた。

「話はそれで終わり?」
「ああ、そうだけど?」

カンナの機嫌も悪い。当たり前だけど。

「妙だな……」

僕は独り言をつぶやいたつもりだった。

「何が妙なの?冬夜君」

愛莉には聞こえていたらしい。

「あ、いや。大したことじゃないんだけどちょっと引っかかることがあって」
「トーヤ、お前まで隠し事しようってつもりじゃないだろうな?」

カンナの矛先がこっちに向いてきた。

隠し事か。愛莉にはしないって言ったけどでも僕一人の力じゃどうにもならない。
かといって恵美さん達を説得しないと調査は無理だ。どうしたものか……。

「片桐君思いつくことがあるなら言いなさい!男共はどうしてすぐそうなんでも隠したがるわけ!?」

恵美さんが怒鳴る。
今の恵美さん達に言っても協力してもらえるだろうか……?

「その下村って女が気になるんですか?」

亀梨君が言ってきた。

「って事は亀梨君も?」
「……俺も心当たりがあるんですよ。大学はどこなんですか?」
「そこまでは知らねーよ!てか誠の問題をすり替えようとしてるだけじゃないのか?」

カンナが言う。
やっぱりカンナには説明した方が良さそうだ。

「カンナ……今は無理だろうけど、事実が発覚するまでは信じてたんだよな?」
「ああ、信じてたよ。いくらあの馬鹿でもそんな馬鹿な真似はするはずがない」
「カンナ……誠を信じろとは言わない。僕に賭けてくれないか?責任は全部僕がとる」
「何を賭けろってんだよ?」
「誠を……どうせ、誠とは別れる気になってるんだろ?」
「片桐君その男目線の考え方やめてちょうだい。神奈ちゃん、優秀な弁護士つけてあげる徹底的に慰謝料請求しましょう」

恵美さんが言う。

「じゃあ、その慰謝料僕が払ってもいい。いつかは愛莉との結婚費用にと貯めてるお金がある。それから払うよ。今の誠からとれる請求額何てしれてるだろ?僕はスポンサー料とか金メダルの賞金とか貯めてるから」
「そこまでしてトーヤが誠を庇う理由は何だよ?」
「それを話す前にまずこの話に乗るかだ。もし僕の言う事が正しかったら誠を許してやって欲しい」
「……誠は悪くないって言いたいのか?」
「これから話すことはただの言い訳にしか聞こえないかもしれない。誠が他の女と寝てたってのは事実なんだから」
「そこまでして庇う理由があるんだな?わかったよ。お前の賭けに乗ろう」

カンナは説得した。後は恵美さんだ。

「片桐君がそこまでして自信を持って言うなら面白いじゃない。さぞ納得のいく理由を教えてくれるんでしょうね。いいわよ。自分の言ったこと忘れないでね。もし片桐君の言う事が間違っていたら片桐君も同罪よ?」
「ああ……」
「じゃあ、話せよ」

カンナが言う。

「カンナ、まずさっきの話を聞いてみて違和感を感じなかったか?」
「どこにだよ?」
「誠の行動の説明に辻褄が合わない点ががる。凄く単純な事だけど」

皆怒りで我を忘れて気づいてない。

「あ、わかった~」

愛莉が言う。

「何が分かったの?愛莉ちゃん」

恵美さんが聞く。
愛莉が答えてくれた。

「誠君は最初は二次会の帰りって言ってたのにさっきの説明だと二次会には行ってない。そうでしょ?冬夜君」

隣に座る愛莉の頭を撫でてやる。

「そんなの苦し紛れの言い訳だからだろ?最初は慌てて嘘ついたんだろ?」
「そう、慌てて嘘ついたんだ。朝起きたら知らない女と寝てたなんて間違っても嫁さんには言えない」

僕が愛莉パパにそんなこといったらエアハンマーで潰されそうだ。

「じゃあ、その後に神奈に話したことが本当ってわけ?」
「普通に考えたらそうだろ?もう言い逃れ出来ないんだ。事実を隠す理由が無い」
「まあ、そうですね。ホテルに行ったことは認めたんだから……あれ?」

石原君も気づいたようだ。

「望、どうしたの?」

恵美さんが聞いている。

「俺にも冬夜の言いたい事が分かったぞ。そう言う事か」

渡辺君や他の男性陣にはわかったらしい。
みんなが「なるほど」と言っている。

「納得のいくように説明して。そんな理由じゃとてもじゃないけど誠君を許せないわよ!」

恵美さんが言うと女性陣がそうだという。
まずはそこからだな。

「誠は電車で帰ると言ったのにホテルに泊まってた。妙じゃないか?」
「誠が嘘ついてるだけかもしれないだろ!?」
「誠に今からでもいいからどうやって駅に向かったのか聞いてみて。多分答えられないから」
「聞けばいいんだな、ちょっと待ってろ」

カンナがスマホを操作している。
そしてスマホを突きつけた。

「すまん覚えてない、どうしてホテルに行ったのかも記憶が無いんだ」

思った通りだ。

「そんなの見え見えな嘘じゃない。証拠にならない!」
「嘘じゃないよ」
「何でそう言えるのよ?」

恵美さんが言う。

「嘘なら空白の時間なんて作る必要が無い。その証拠に一次会での出来事、帰るまでの経緯、そして朝起きてからの行動は全て証言してる」
「じゃあ、どうして空白の時間があるんだよ」

カンナが聞く。
こっちもぎりぎりの綱渡りだ。外したら破滅の未来が待っている。
愛莉も真剣に聞いてる。

「事実なんだよ。本当の空白の時間なんだ。誠は嘘はついてない」
「夢遊病みたいに勝手に足が運んでしまったって事?」

愛莉が言うと首を振った。

「それは誠にもわからない理由だ。カンナ、誠が前後不覚になるまで飲んだ事あるか?誠が途中で強烈な眠気に襲われるほど飲んだ事あるか?」

ちなみにさっきの話では特に急ピッチで飲んだとか一切なかった。

「ねーよ……そこらへんの限度はわきまえて飲んでた」
「だろ?」
「だから、それと誠君が女とホテルに行ったこととどうつながるわけ?」
「だから恵美さんにも賭けをしたんだよ。恵美さんの協力が必要だから」
「私の協力?そんなことできると思った?私はごめんよ。今回の件は神奈ちゃんの味方」

恵美さんは拒否する。

「カンナからお願いしてもらえないか?それでもだめなら僕は打つ手なしだ」

もう一枚カードはあるけど。

「……私だって誠を信じたい。でも事実は事実だろ?」
「カンナ、よく考えろ。空白の時間が事実を変えることだってある。誠を信じたいんだろ?」
「……何をお願いすればいいんだよ?」
「ちょっと神奈ちゃん!片桐君に乗せられたらダメ!それが片桐君の手口なんだから」

恵美さんが言う。

「私もイヤなんだよ。愛想が尽きてるはずなのにまだあいつを信じようとする心が残ってる。それを取り除けるなら完全に排除してみたい」

カンナが言う

「まずその下村さんの名前を教えて欲しい」
「下村有栖っていってた」
「その下村有栖の素性を洗って欲しいんだ」
「恵美……私からも頼む。調べてくれ」
「神奈ちゃんが言うなら仕方ないわね」

恵美さんは渋々承知してくれた。

「勘違いしないでよ。片桐君の言ってる事が正しいのか調べるだけだからね!私はまだ片桐君を疑ってる!」

電話をかけながら恵美さんが言う。次だ、もう一枚の手札を切ろう。

「亀梨君」
「俺ですか?」
「亀梨君にもお願いしたい事がある」
「俺で良ければなんでも」
「アーバニティ時代の顧客リストを使ってスティンガーは動いてる。そうだよね?」
「ええ、それは間違いないです」
「だめもとでスティンガーの顧客リスト調べてくれない?」
「それなら今すぐできます。アクセス権は残ってるのは前に騒動があった時に調べてあるから」

亀梨君はノートPCを取り出して操作をはじめた。
答えはすぐに出た。

「ビンゴです!私立大の1年だ。今年入ったんだな」

亀梨君の一言に皆がざわめく。

「まさか誠の奴スティンガーに狙われてた?」

カンナが聞く。

「言っとくけど渡辺班は関係ないよ。多分。来期からJリーグチームに入る期待の新人。その契約金も相応のもの。しかも既婚者。絶好のカモだったんだろ?」

恵美さんが電話してる。
恵美さんの電話が終ると恵美さんは言った。

「賭けは片桐君の勝ちよ。スティンガーのエースと言えばいいのかしら」

彼女たちのやり方は至って簡単。あらゆる合コンでカモを見つけては眠剤を飲ませてあたかも既成事実があったかのように見せつけて賠償金を脅し取ろうというもの。
彼等の新しいビジネスなんだろう。風前の灯火のスティンガーがとった新しい形態。

「でもスティンガーって全員検挙されたんじゃなかったの?」

愛莉が言う。

「多分末端までは届かなかったんだろう?新生したっていえばいいのかな?」

だからこそ金が容易く入る方法を取ってる。

「じゃあ、誠は私を裏切ったんじゃないんだな?私はあいつを信じていいんだな?」
「ああ、誠はカンナを裏切ったりなんかしてない」

神奈は恵美さんと愛莉に囲まれて泣いている。

「冬夜これからどうするんだ?」

渡辺君が聞く。
僕は険しい表情をする。

「それは相手の出方次第。既成事実を作られたのは間違いないから……それと」
「それと?」

僕は答えなかった。
誠の奴、馬鹿な真似をしなければいいけど。

(3)

俺は荷物をまとめていた。
俺なりにけじめをつけなきゃいけないと思う。
神奈に対する裏切り行為をしたことは間違いないんだ。
書置きと記入済みの離婚届を残す。
ついでに通帳と印鑑を。
神奈と挙式の費用にと貯めていたお金。
いつか広いうちに住もうな。
そんな事を考えていた夢も儚く消えた。
もう神奈に会う事もない。最後に指輪を外して置いた。

ありがとうな、神奈。
最後までお前を泣かせて済まない。
短い間だったけどお前に苦労かけっぱなしで情けない。
今回ばかりは俺は言い訳はしない。
口座のお金はとりあえずの慰謝料として使ってくれ。
足りない分は必ず渡すから。
本当にありがとう。
そしてごめん。
頼りない俺を支えてくれてありがとう。
良い人に巡り合えることを祈ってる 誠

俺は見慣れた部屋に別れを告げてあてもなく彷徨った。
これからどうすればいい?
当面はサッカー部の宿舎の空いてる部屋を使わせてもらえた。
部屋には家具もなく準備していた寝袋を使う。
ああ、そうだ。冬夜達にも迷惑かけたな。

皆迷惑かけた。ごめん。

誠は退出しました。

早い所新しい部屋探さないとな。
実家に帰るか?
そうも考えた。
だが千歳がいる。
今は渡辺班の皆に合わす顔が無い。
寝袋で震えていた。
心も体も冷え切っていた。

(4)

「愛莉ちゃんお誕生日おめでとう~」

6人で乾杯する。

「今年で愛莉ちゃんをお祝いするのも最後か~」
「う、うむ……」
「そんな事言わないでよ、ちゃんと遊びに来るから~」

遠坂家の3人は感傷に浸っている。

「冬夜分かっているんだろうな?」
「後はあんたにかかってるんだからね」

うちの親もなんか言ってる。
なんか言わないと駄目だろうな……。

「そうだ、2年後の誕生日にはお祝い出来ますよ」
「ほえ?」
「なにかあるの~?」
「うん?」

遠坂家の三人だけではなくうちの両親も僕に注目する。

「だって2年後の誕生日は愛莉と僕の結婚式だから」

シーンと静まり返る。
やっちゃったかな?

「冬夜君、本当!?私待ってるからね!」
「冬夜君~決心してくれてたのね」
「う、うむ……」

やっちゃったね。

「お前男に二言は無いからな!」
「変な気起こすんでないよ!」

うちの両親も乗ってきた。

「……片桐さん今夜は飲もう!」
「もちろんですとも!遠坂さん!冬夜!お前もつきあえ!」

そう言って僕は両親’sの宴に巻き込まれる羽目になった。
自業自得だけど。

「……娘のおむつを替えていたころが蘇るよ」
「パパさんその話冬夜君の前でしたら駄目っていったでしょ!」

愛莉の過去の暴露話も交えて盛り上がる両家。
日付が変わる頃には落ち着いて片桐家に帰ると二人お風呂に入って部屋でゆっくりする。
愛莉の機嫌はいい、多分お酒のせいじゃない。

「冬夜君先に寝ててもいいよ?」
「明日は1限無いんだろ?大丈夫だよ。愛莉待ってる。帳簿つけてるんだろ?」
「つけてないよ~」
「何やってるの?」
「お店廻ってるの」
「?」

愛莉のノートPCの画面を見てみる。
いつものネトゲの画面だ。
お気に入りの頭装備があるらしいからそれを探してるらしい。
愛莉と一緒に探す。
やっと見つけたらしい愛莉はそれを買うと装備する。

「やっぱり可愛い~」
「よかったな」
「これでお終い」

愛莉はログアウトするとノートPCを閉じる。

「で、なんで私待ってたの?」
「お嫁さんの誕生日にお嫁さん放って寝るほど薄情な旦那じゃないよ」
「わ~い」

愛莉を抱きかかえるとベッドに連れて行く。

「でも今夜は遅いし無理しなくてもいいよ?」
「大丈夫だよ」
「……うん」

その時僕のスマホが鳴った。

「うぅ……」

愛莉が不満の声を上げるが出ないわけには行かない電話に出る。

「ト、トーヤ!!」

カンナだ、なんか慌ててるどうしたんだろう?

「どうしたカンナ」
「誠が失踪した!」

しまった!先に誠に説明するべきだった。

「電話にかけても出ないしグループからも抜けてるし……部屋に離婚届と通帳と書置きと指輪が……」

あいつ思い詰めてたんだな。
先に説得するのは誠だったか!
僕の判断ミスだ。

「心配しないでいい!大学には行くはずだから。実家には連絡したのか?」
「ちぃちゃんに連絡したけど帰って来てないって」
「そうか……」
「なあ、私言い過ぎたかな?お前みたいにあいつの言い訳を分析してやるべきだったかな?」
「カンナは悪くない。大丈夫だ。落ち着け。明日桐谷君達に探してもらおう!」
「わ、わかった」
「今日はゆっくり休め。色々あってパニクってるだろうけど……」
「ああ、折角お楽しみの所すまない」
「気にするな。じゃあまた明日」
「ああ、また明日」

電話が切れた。

「誠君どうかしたの?」

愛莉が聞いてくる。

「あの馬鹿、家出したって……」
「え?」

さっきまでニコニコしていた愛莉の表情が一変する。
不安を感じているようだ。
自分も責めていたから罪悪感に苛まされているのだろうか?

「それは違うよ愛莉」
「え?」
「愛莉は悪くない。悪いのは誠だ。それは言い逃れのできない事実だろ?」
「そうだけど……。神奈なんて言ってたの?」
「酷く動揺してた」
「そうだよね」

僕は愛莉を抱くとベッドに入る。

「ちょっと冬夜君今それどころじゃないでしょ」
「カンナ言ってたんだ『お楽しみの所すまない』って。楽しまなかったって知ったらカンナ自分を責めるよ?」
「上手い事言ってるようだけど。冬夜君は明日神奈にあったら楽しみましたっていうわけ?」

そりゃちょっと言えないな。うん、僕でも無理。

「じゃあ、このまま寝るかい?」
「うぅ、また冬夜君の意地悪が始まった」

愛莉を熱く抱擁する。
愛莉は目を閉じてぬくもりを感じている。
愛莉が寝静まる頃僕も愛莉の髪を撫でながら思った。

何をしている誠。そんな責任の取り方じゃ誰も得しないぞ。

今誠はどこで何をしているのだろう?
何を思っているのだろう?
初めてのケースだけど冷静に対処しなければ。
だけど事態はさらにややこしい状態になるのだった。
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