姉妹チート

和希

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Kiss and Music

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(1)

「あ、雪」
「どうしたの?」
「今日学校終わったら雪の家に行ってもいいか?」

 あ、そっか。
 今日は3月14日。
 今年も用意してくれていたみたいだ。

「分かった。待ってる」

 そう言って一緒に家に帰ると愛莉に誠司郎が来ると伝えた。

「構いませんよ」

 部屋のドアは開けておくこと。
 言われた通りにしてるけど、愛莉たちも気遣ってか用がある時にしか来ないようになった。
 しばらくして誠司郎が来た。

「いつもすいません」
「いいのよ。家の方が誠君もいないだろうから」

 やっぱりばれてるんだな。
 どうも、誠司郎の家に行くと誠の視線が気持ち悪い。
 さすがに誠司郎に言えないから愛莉やじいじに相談した。

「お前のせいで誠司郎が振られたとか言い出したら絶対に許さないからな!」
「だ、大丈夫だ!雪は俺を警戒して誠司郎の部屋じゃ絶対に脱がないんだ!」
「それが普通の年頃の娘だとどれだけ娘を育てたら……あれ?」
「神奈。今なんかおかしなこと言ってなかった?」

 神奈とパオラは聞き逃さなかったらしい。
 疑問は二つあったので聞いたそうだ。

「どうして誠司郎の部屋での雪の姿を知っているんだ?」
「誠司郎から聞いたに決まってるだろ」
「あの、日本では彼女が部屋で裸だったって教えるんですか?」

 イタリアでなくてもそんな間抜けな彼氏はいないだろう。

「パオラ……こいつ未だに女子グルに出入りしてるのか?」

 神奈がそう判断したのは私が私の部屋でどんなことをしていたのか知りうるのは女子グル以外にあり得ないから。
 神奈もパオラから聞いていた。
 だから誠司郎にアドバイスしていたと聞いた。

「詳しくは言えないけどお前が責任とれると思ったなら自由にしろ」

 ただし事故が起きて「僕は知らなかった」なんて絶対に許さないからな。
 誠司郎は何のことか分からなかったらしくて私に相談してきたから「そこまでは求めてないから大丈夫」と安心させた。
 やっぱり分かってなかったけど。
 で、茜に確認したらまだ持ってることが判明した。
 それで私の事を見る時にいやらしい目で見ている理由が分かった。

「なるべく二人っきりになる時は家にしなさい」
 
 ママもそう言っていたからそうしていた。
 問題はどうして私が誠司郎の部屋にいる時の状況を知ってるのか?
 考えるまでもなかった。
 菫と茜が来て誠司郎の部屋を調べたら大量の盗聴器と隠しカメラが仕組まれていた。

「……何か言い訳があるなら聞いてやるぞ?」
「あの、誠司郎にはまだ何も教えてないんです」

 ちゃんとした知識もつけてないのに妙な知識を与えないで欲しい。
 パオラがそう言ったのはやっぱりSHの男子グルで妙なことを瑛大や誠が誠司郎に教えていたから。
 それが誠司郎が私と一緒にいる時にそわそわしている理由だった。

「試してみる?」
「ま、まだ早いって母さんが言ってたから」

 思いっきり慌てていた。
 とりあえず部屋に案内すると愛莉が用意していたお茶とお菓子を用意する。

「粗相をしてはいけませんよ」

 愛莉はそう言うだけだった。
 部屋に戻ると落ち着かない誠司郎がいた。
 いい加減慣れてもいいのに。

「そんなに挙動不審な方が余計に怪しいよ」
「何を見てたらいいのか分からなくてさ」
「下着を漁る変態じゃないって事くらいは知ってるよ」
「あ、えーとこれ……」

 話題を変えたいのか誠司郎は持ってきたものをテーブルの上に置いた。
 綺麗にラッピングされていた。

「ありがとう。開けてもいい?」
「うん」

 中身はマシュマロチョコとハンカチだった。
 ちょっと悪戯してやろうかな。

「マシュマロをお返しにする理由って知ってる?」
「え?」
「あなたが嫌いってことなんだよ」

 マシュマロの様にあなたへの愛情も溶けてしまうという意味。

「ご、ごめん!全然考えてなくてただネットでいいって書いてたから」
 
 慌てふためく誠司郎を見て笑ってちゃんと説明していた。

「……って言われてるのは最近の話だけ。本来は全く逆の意味なの」

 もらった気持ちを、やさしく包んで返すという意味。
 本命だけに渡す物。

「そっか」
「まさか他の女子にも渡した?」
「もらってもないよ」

 え?
 誠司郎は父親ににて美形だと思う。
 他の女子が放っておくわけがない。
 運動会の時のあれだろうか?
 そうじゃなかった。

「義理だったら受け取っていたけど本命だったから」

 それだと私がいるのに受け取るわけには行かないと思って断ったらしい。
 不器用なんだな。

「……今日はサッカー練習はあるの?」
「今日は休みにしてもらった」
「じゃあ……少し休んでく?」
「そのつもりで来た」

 頼むから体目当てで来たの?とか言わないでくれよと笑っている。
 そう言う余裕は出来たんだね。
 いつもの通りに抱き合うとキスをする。
 誠司郎が戸惑っていたのは私が舌を誠司郎の口に滑り込ませたから。
 頭がぼーっとしていく。
 誠司郎も同じだったみたいだ。
 誠司郎の私を抱きしめる力が強くなっていく。
 床に押し倒される前に私から誘ってみた。

「ベッド行こう?」
「……うん」

 ベッドに入るといつものように服を脱いで抱き合う。
 誠司郎が胸を触ると声が出そうになるのをこらえる。
 だけど今日はそれだけじゃなかった。
 誠司郎は下半身にも触れようとしてきた。
 これ以上は我慢できない。
 とっさに誠司郎の腕をつかんだ。

「だめっ!」

 そう言うと誠司郎も腕をひっこめた。

「ご、ごめん。夢中になって」
「いいの、誘ったのは私だし」
「じゃあ、どうしたの?」
「理由は二つ。あのままだと私が我慢できずに声を出しちゃう」

 そうしたら愛莉に聞こえてしまう。
 そうなったら二人きりにさせてもらえないかもしれない。

「もう一つは?」
「誠司郎はどこまで知ってるの」

 そこに触れて……それからどうするか知ってるの?

「雪は知ってるの?」
「知ってるから止めたの」

 ここで止めないとまずいと思ったから。

「まずいことだったんだね……ごめん」

 落ち込んでる誠司郎を思いっきり抱きしめた。

「随分進歩したと思う。でもこれから先はやっぱり早いよ」
「そうなんだ」
「今のままでも私は幸せだから」

 だから落ち込まないで。

「……もう少し時間あるよね?」
「うん」 
「もう少しだけこのままでいようか」
「ありがとう」
 
 そうして時間まで過ごして誠司郎は帰って行った。
 さっきはとっさに誠司郎を止めたけどこのまま止める自信がない。
 やっぱりママに相談するしかないか。
 夜、ママに相談があると言って部屋に呼ぶ。
 そして今日あったことを話した。
 怒られると思っていた。

「正直に話してくれてありがとう。でも雪の言う通りその先はまだ早いの」

 不衛生な指で触れて炎症を起こすかもしれないし、病気の原因になる。

「この話はママに任せてくれないかな?」
「やっぱり誠司郎と二人になるのはだめ?」
「2人で入れるようにパオラに相談するだけ」

 え?

「ここまで来たら雪の知識だけじゃ限界がある」

 誠司郎も頃合いだ。
 私を委ねるのだからそれなりの心構えがいるだろう。
 それを誠司郎に教えてやって欲しいとパオラに頼むらしい。

「ごめんなさい」
「ママもパパに同じようなことをしたことがあるの」

 パパも不思議そうにしていたらしい。
 ましてや誠司の子供だ。
 注意しておいた方が良い。
 これから体も心も成長していく時期。
 不安があったら女子グルじゃなくママに相談して欲しいとママが言った。

「大丈夫、冬吾さんには内緒にしておくから」
「うん」
 
 その晩誠司郎から電話があった。

「さっきは本当にごめん」
「もう大丈夫。ちゃんとパオラに説明受けてね」
「母さんもそうするって言ってた」
「誠司郎、忘れないで欲しい」

 確かに危険な行為。
 だけどそれでも求めてしまうほど大切な人なんだ。
 些細なことで嫌いになったりしない。
 私を信じて欲しい。

「分かったよ」

 そう言って電話を切るとベッドに入る。
 自然と自分の身体を触っていた。
 誠司郎の感触を思い出そうとしていた。

(2)

「海翔!受かっていたよ!」

 僕の家で地元大学の合否発表を見ていた。
 奇跡的にSH組は皆合格していた。
 すでに僕と優菜の家は恵美が建ててある。
 こんなにデカい家どうするんだろう?

「私が子供ばんばん産むから!」

 そんなにポンポン産んで育てられるのだろうか?

「海翔だからベビーシッター雇ってくれるんだろ?」

 自分でする気は全くないらしい。

「お前が優奈たちの面倒を見た結果がこれだ!どうするつもりだ!」
「優奈は海翔が相手なんだから問題ないだろ!」
「じゃあ、愛奈はどうするんだ!?」
「智也は学に似て家事が得意なんだから問題ない」
「智也に働かせて子供の面倒まで見せて愛奈は何をしているんだ?」
「そんなの決まってるじゃない」

 伊達に水奈を見て育ったわけじゃない。
 だから学は不安だった。
 そして不安は的中した。

「ゲームして遊んでる」
「み、水奈。智也が働いてるんだから愛奈も家の事しないとダメだろ?」
「水奈は主婦だって休む権利があるって茉奈に任せてたじゃない」
「この馬鹿娘は……」

 神奈が怒ってる。
 結莉は喜んで家事をやっていて、芳樹が逆に気遣ってるらしい。
 色々あるんだな。

「ま、しけた話はいいから今日は盛り上がろうぜ」

 愛菜がそう言ってる。
 今日は高校3年生の打ち上げのつもりだったけど、なぜかにいに達もいる。
 にいにも不思議だったようだ。

「だって高校生だけで飲ませてたら問題だろ?」

 茉莉がそう言っていた。
 だけどそうはならなかった。
 話を聞きつけた大人たちが慌てて居酒屋にやって来る。

「卒業取り消しになりたいのか!?お前らは!」

 学が必死に優奈達を止めていた。
 にいに達も止めていたので止めておいた。

「どうせ、新歓で飲ませてあげるから」

 結莉がそう言うので我慢した。
 もうすでに僕達は引っ越している。

「しっかりね」

 大地がそう言っていた。
 お風呂から上がると優奈はさっそく缶ビールを飲んでいた。
 だけど僕に気づくと缶ビールをテーブルに置いて床に正座する。

「どうしたの?」
「海翔は私で本当によかったの?」

 家事もまともにできない私でよかったの?

「良くなかったら一緒に暮らそうなんて言わないよ」

 いつも通り明るく振舞ってくれたらいいよ。
 らしくないよ。

「これからよろしくな」

 そう言って優奈は笑ってくれた。
 優奈でも不安になることはあるんだな。
 大丈夫だよ。
 優奈に立ちふさがる霧は薙ぎ払ってあげる。
 優奈に恥をかかせる輩はすべて地獄に叩き落としてやる。
 それが石原家の男の役割だって大地が言ってた。
 片桐家にも負けない彼女を守る力を石原家にだって持ってる。
 僕達もにいに達に負けないくらい幸せになろうよ。

(3)

「誠司郎、ちょっと来なさい」

 僕は母さんと神奈に呼び出されていた。
 父さんもいる。
 どうしたんだろう?
 雪の家でやってることが問題になったのだろうか?
 半分当たってた。

「愛莉から大体の事は聞いた」

 やっぱり。

「まだ早いとも思ったけど、もう誤魔化しておくのも危険だと思ってな」
「ごめん」
「そうじゃないんだ。誠司郎は男と女についてどこまで知ってる?」

 神奈が聞いてきた。
 雪の事を言えばいいのだろうか?

「そうじゃない、どうして女性が子供を産むのか知ってるか?」
「……知らない」
「これはパオラに説明してもらえ」
「え?」

 母さんが驚いていたけど、神奈は笑っている。

「それは母親の仕事だぞ」
「分かりました……誠司郎。誠司郎は母さんのお腹の中から産まれてきたの」
 
 どうやったらそうなるのか?
 どうしてそういう状態になるのか?
 女性の体の仕組みについて教えてもらった。
 じゃあ男性は?
 それは父さんが説明してくれた。
 雪は知っていたのか? 
 だからあの時止めたのか?
 急に恥ずかしくなった。
 そんな様子を父さん達は見ていた。

「お前も雪とそうなる日がそのうち来るよ」
「でも雪は……」
「知ってるよ。拒んだんだろ?」

 だから瞳子に相談したらしい。
 僕に嫌われないか?
 そんな不安を相談したらしい。
 そんなわけないのに。
 俺の様子を見て父さんは続けた。

「誠司郎。父さんは失敗したよ」

 え?
 SHでも書かれている過激な情報を鵜呑みにした。
 じいじの言うロマンを求めて過剰な趣味を彼女にぶつけた。
 中学生の時の女遊びが酷かった挙句、当時の彼女に振られた。
 やっぱりやめた方が良いって事?

「そうじゃないよ。冬吾はその点においては優秀だったんだ」

 雪の父さんが?

「瞳子の気持ちを上手く読んで上手に接していたよ」

 父さんの言いたい事が分かるか?

「最終的なリスクを負うのは女性だ。だけど男性にも同じくらい責任がある」

 そこで「僕には関係ない」なんて言ったら間違いなく殺されるぞ。
 その為に避妊というリスク回避をすることになる。
 女性だって馬鹿じゃない。
 そのくらいの対策をするのが母さんの国の女性らしい。
 日本では男性がそれをする。
 しない馬鹿もいるらしいけど。
 でも問題はそこじゃない。

「そんなリスクを負っても僕を求める雪の気持ちを上手く受け止めてやれ」

 決して馬鹿な行為を求めるな。
 雪がして欲しいことを受け止めてやればいい。
 そうすればきっと僕の要求も受け入れてくれるはずだから。
 ただ今はまだいろいろ感染症とかリスクがあるから自重しなさい。
 女性だって馬鹿じゃない。
 ただ抱きしめてやるだけでもいいんだ。
 体を抱くという意味じゃない。
 心を抱いてやるんだ。
 父さんの子供ならそれが出来るはずだから。

「雪の事……好きなんだろ?」
「うん」
「だったら雪の事大切にしてやれ」
「分かった」
「じゃあ、父さんからは以上だ。あ、もう一つ」

 孫はまだいらないからな。

 そう言われて部屋に戻ると雪と電話をしていた。

「そっか、バレちゃったか」
「うん、ごめんね」
「馬鹿ね。ちゃんと話聞いてたの?」
 
 それでもそういうことを僕としたいんだ。

「分かったよ」
「いいこと教えてあげる」

 今度雪の部屋のドアにカギをつけてくれるらしい。

「まだ孫はいらないよ」

 雪も冬吾に言われたらしい。

「また期待してもいいんだよね?」
「雪がいいなら」
「誠司郎はしたくないの?」
「決まってるだろ」
「本音を言ってもいい?」
「ああ……」

 雪の願いを一晩聞いていた。
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