姉妹チート

和希

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(1)

「あれ?結どこ行くの?」

 下校途中に俺だけ違う方へ向かうのを見た茉奈が呼び止めた。

「ああ、ちょっと用事があるから茜の家に行ってくる」
「用事ってなんだ?」
「大したことじゃない。少し手伝って欲しいことがあるから」
「結一人でも出来ない事ってあるのか?」

 比呂が言う。
 あるに決まってるだろ。

「だから、比呂に茉奈を頼むよ」

 何が起きるか分からないから。
 多分茉奈だけになる状況を狙っている。
 俺達が登下校する時間に誰かが見張っているのは気づいていた。
 じいじ達の話からすると多分まだ勝手に動いている連中の仕業だろう。
 この感じはアベルでもブリュンヒルデでもない。
 新しい能力者の犯行か。

「どんな用事かは教えてもらえないのか?」

 茉奈が知りたがっていた。
 あまり教えていいことじゃない。
 今教えなくても完成してから説明しておけばいいだろう。
 相手にこっちの手段を教えたらだめだとじいじも言っていた。
 下手に教えたら茉奈の態度に出てしまう。
 それで感づく奴もいるかもしれない。
 その辺は間抜けな連中みたいだから大丈夫だと思うけど、念には念を入れておこう。

「ごめん、今は言えない。ちゃんと出来上がったら教えるから」
「私一人にして大丈夫なのか?」

 仕方ない。俺は茉奈に耳打ちした。

「……俺達尾行されてる」
「え?」
「絶対に振り向くな」

 本当は教えたくないけどこのまま茉奈の機嫌を損ねるのは得策じゃない。
 茉奈にだけ状況を説明した。
 俺達は誰かに尾行されている。
 多分能力者だ。
 結莉や茉莉がいるけどやはり危険なのに変わりない。

「なのに私を一人にするの?」
「……前に渡したキーホルダー持ってるか?」
「うん、肌身離さず持ってろって言ったから」

 鞄につけてるらしい。

「安心しろ、何があろうと絶対に茉奈は守る」
「そばにいないのにか?」
「信じて欲しい」
「……結がそこまで言うなら分かったよ」
「じゃあ、また後で」

 比呂に茉奈を任せると俺は茜の家に急いだ。
 椿達はまだ帰ってないようだ。
 茜は俺を家にあげると部屋に案内した。
 お菓子とジュースを用意して茜が部屋に戻ってくると、茜に説明した。
 絵は描けるけどPCで描いたことがない。
 自分でやろうと思えば出来ると思うけど色々仕掛けもしておきたいから茜に直接頼むのが一番だと判断した。

「そんなに茉奈が大事なら茉奈を連れてくるとか方法があったでしょ」
「あ……」
「パパも言ってたけど一番安全なのは結の隣だよ。その隣にいることを許したのが茉奈なんでしょ?」

 だったら死ぬまで守りなさい。
 まだ早いかもしれないけど一生を賭すくらいの覚悟を見せなさい。

「実はもう茉奈には保険をかけてる」
「保険?」

 本人にもさっき伝えた。
 時間が無かったから詳細は伝えてない。
 それに切り札は先に見せたらいけないってじいじが言ってたから。

「なるほどね……で、原案はあるの?」

 茜が言うと鞄に入れておいたスケッチブックを見せた。

「ここまで描けてるなら自分で出来るんじゃないの?」
「少し細工をしてほしくて」

 それも自分でやろうと思えばできるけど調べてる時間が惜しかったと説明した。
 
「分かった。じゃあ、すぐ作るから待ってて」
「すぐ出来るのか?」
「ここまで準備してるんだったらちょろいもんだよ。ジュースでも飲んで待っておきなさい」

 そう言って茜は作業に取り掛かった。
 その間茜は話を始めた。

「あのさ、最近SHのグルチャ見てる?」
「あんまり見てない」
「ダメだよ。ちゃんと見ておかないと」

 そう言って小学校の修学旅行の時の話を始めた。
 正文が朱鳥と付き合い始めたのは比呂が言ってた。
 その時の話。
 人を好きになるのは何かしらその人に強い印象を与えているから。
 この人とならずっと一緒にいられる。
 この人になら頼っても大丈夫。
 この人なら私を守ってくれる。
 そんな風に感じる人を好きになる。

「でもそんなの本当にずっとそうなるのか分からないだろ?」
「結の言う通りだね。だから賭けなの」

 初恋がゴールまでたどり着くかどうかは分からない。
 でもまずはスタートを切ってみないと分からない。

「私もパパ達に言われてるから強制はしないけどさ……」

 今茉奈はしっかり俺だけを見てる。
 誰が見ても分かるくらいに俺だけを見ている。
 そんな事を考えているとグルチャが騒々しい。
 同時に冬華達も帰って来たみたいだ。

「結!何やってるの!?茉奈が大変だったんだよ!?」

 茉奈が?
 俺はスマホを見ていた。
 茉菜に向かってダンプが突っ込んできたらしい。
 ダンプには誰も乗っていなかった。
 やっぱり他の能力者が動いたか。
 茉奈は無事だったみたいだ。
 それも計算通り。
 その為にあれを渡したのだから。

「結、すぐに帰ってきなさい!私と一緒に茉奈の家に行きますよ!」

 愛莉が怒っている。

「帰った方が良い。その間に仕上げて愛莉の家に持っていくから」

 茜が言うと俺は茜の家を出て家に帰った。
 家に帰ると愛莉の表情が青ざめていた。

「あなた何してたの!?今すぐ茉奈の家に行きますよ!」
「って事は茉奈は無事なの?」
「ええ、不思議と動揺すらしてないみたい」

 なら慌てる事は無いだろうに。
 愛莉に連れられて茉奈の家に向かう。

「お前茉菜が危険な目にあう事を分かってて何してた!?」

 水奈が怒鳴る。

「だから比呂や菫もいたんだろ?」
「そういう問題じゃないだろ!」

 いい加減イライラしてきた。

「なんでいつも俺なんだよ!結莉や茉莉が一緒にいるならいいじゃないか!」
「お前いい加減にしろ!」

 そう言って水奈が俺を叩こうとした時茉奈が叫んだ。

「やめて!」

 水奈も神奈も愛莉も茉奈を見ていた。

「結を責めるのは間違っている。結は私をちゃんと守ってくれたの」
「え?」

 誰もが驚いていた。
 比呂達は様子を間近で見ていたんだからその理由を知っていたんだろう。
 茉奈は説明を始めた。

(2)

 結がいない。
 それだけで不安だった。
 でも結だって色々事情があるんだ。
 だから私は信じよう。
 そう言っていらだつ自分を落ち着かせていた。
 私の事なんて何も考えていないようでちゃんといつも私の事を考えていてくれる。
 私は結を信じるだけでいい。
 そう学が言っていた。
 水奈も同じような事を言っていた。

「母さんが言ってた。片桐家の男を捕まえようと思ったら最後まで信じる事。それが出来る女性だけが手に入れられるんだ」

 きっと今私は試されている。
 この状況でどれだけ結を信じることが出来るか?
 結は絶対に守ると誓ってくれた。
 だから信じよう。
 結だから大丈夫。

「お、おい。あのダンプおかしくないか?」

 比呂が指差すダンプは私達に向かって一直線に突っ込んでくる。
 考える前に体が動いていた。
 比呂達を近くの家の中に突き飛ばす。

「茉奈!危ない!」
「大丈夫!」

 狙いは私だって結から聞いていた。
 その為の対策もしていると結が言ったら。
 だったら信じてみよう。
 来るなら来い。

「茉奈!!」

 誠士郎が叫んだ時、私の目の前でダンプを片手で受け止める大男が現れた。

「ふん!」

 そう言って男は力を込めてダンプを後退させる。
 大男がこっちを見る。

「怪我無い?大丈夫。俺が守るから」

 男の顔を見てその太い眉毛を見て気づいた私は鞄につけていた結にもらったキーホルダーを見る。
 キーホルダーは無かった。
 これが結のお守り?

「あなたは誰?」

 私は男に聞いてみた。
 すると男は首を傾げていた。

「……そう言えば名前ももらっていないな」
「じゃあ、私がつけてあげる。あなたの名前はアキヒロ。よろしくね」
「……うん、なかなかいい名前だ。ありがとな。お嬢さん」
「で、アキヒロはどうしてここにいるんだ?」
「その前に片づけておきたい事があるから男の子達と一緒に下がっててくれ」

 そう言うと大男は消えてしまったダンプの向こう側を見る。

「主から聞いていたのとは違うな。意外と間抜けな能力者のようだな」
「そう思うか?」

 その青年は帽子をかぶっていた。
 
「力はあるみたいだけど。こういうのはどう?」

 青年はそう言うと持っていたバッグの中から複数のナイフを出した。
 それが私に向かって飛んでいく。
 でも私は怖くない。
 アキヒロがいるから大丈夫。
 アキヒロの側まで近づくとナイフが失速して落下した。
 結が言ってた”ステイシス”ってやつ?

「ナイフじゃだめか……。じゃあこれは?」

 空が突然暗くなった。
 頭上に落下してくる巨大な岩。
 アキヒロはこぶしを突き上げると力を籠める。
 岩は粉々に砕けた。

「なるほど、お前の能力は見切った」

 ナイフをバッグから取り出したように見せたのはブラフ。
 最初にダンプを突進させたのはお前の力じゃない。
 お前の能力は創造だ。
 大したことじゃない。
 アキヒロが展開するステイシスの中では無力。
 無駄だから諦めて帰れ。

「そう言われてただで帰ると思った?」
「帰った方がいいぞという意味の忠告だったんだがな」

 アキヒロはそう言うとにやりと笑った。
 右手を突き出すと手の甲を相手に見せて挑発する。
 するともう一人のバイク乗りの様な格好の男が出て来た。
 理由が分からないバイク乗りを見てアキヒロは説明した。

「緊急招集。そしてこれからもう一つの力を使う。茉奈が単独でいるのを狙うなんてふざけた真似は無駄だから諦めろ。それがお前達への主からの伝言だ」

 そう言うと2人とも即座にその場から消えた。
 比呂達は何が起きたか分かってないのだろう。

「説明は家でいいかな?外にいるのは危険だ」

 アキヒロはそう言って消えた。
 ランドセルを見るとアキヒロのぬいぐるみがぶら下がっている。
 そして家に帰るとアキヒロがぬいぐるみ状態で宙に浮いて説明した。
 あいつらの使う能力のエイリアスを見て結は考えたらしい。
 結がいない時誰が私を守る?
 そのヒントがエイリアス。
 だけど多分エイリアスは場所を把握できる状態でないと使えないはず。
 射程距離がどのくらいあるかわからないけど。
 だから思いついたのが手作りのぬいぐるみ。
 アキヒロに結の能力を付与した。
 私に危険がせまったら自動的に現れる水面に浮かび上がる泡のような存在。
 その能力は結の同等の物を使えるらしい。
 自身を何かの物体に変える事も出来るそうだ。
 だからぬいぐるみの形状から大男の体に姿を変える事が出来た。
 アキヒロの意思は結の意思とは関係ない。
 ただ私に危機が迫ったら排除する事だけを目的に作られたエイリアス。

「説明は以上だが、何か質問はある?」
「せめてその眉毛どうにかならないの?」
「む……そこは主の好みだから」

 まあ、無骨そうな感じは結に似ている。

「アキヒロから結にメッセージを伝える事は出来るの?」
「それは無理だ。その為の2作目を作っているみたいだが」
「いったいあと何体作る予定なの?」
「それも分からない。主の能力に制限はない。一つだけの制約があるだけだ」
「それは聞いてる」
「それなら話は以上だ」
「そっか、大体わかった。ありがとう」
「気を付けてくれ。あまり俺が出てくる事態にならない事を祈るよ」

 そう言ってぬいぐるみに戻っていた。
 すると家に結達が来たみたいだ。
 学や水奈の声が聞こえてくる。
 きっと結が責められているんだろう。
 だから私が止めに入った。

(3)

「……だから結はちゃんと私を守ってくれたんだ」

 茉奈の説明を聞いて神奈や水奈達は驚いていた。
 茉奈を狙ってるのは分かっていた。
 だから茉奈には敢えて囮になってもらった。
 その代わり絶対に茉奈を守る自信があった。
 今回の件で茉奈を力づくでどうかしようとは考えないだろ。
 考えたらただの馬鹿だからほっとけばいい。
 でもじいじは言っていた。

「最悪のケースを想定して動け」

 だから茉奈以外の相手を狙った時の方法を準備する時間を稼ぐ必要もある。
 その為にはやはり茉奈が急所だと一度だけでもいいから思わせておけばいい。
 茉奈以外の誰かに標的を変える可能性は分かってる。
 だから茜に相談した。
 茉奈にだけ尾行されてることは伝えておいた。
 危険は考えた。
 その為に茉奈にあれを携帯させて置いた。
 俺と同等の力を持つエイリアス。
 あれならどんな手段を使って来ようと茉奈を守り抜く自信があった。
 現にあれは隕石をも粉砕してみせた。

「……で、茉奈以外のSHを狙って来た場合の対処方法って言うのは何なんだ?」
「それを今言うわけにはいかない」

 理由は分かって欲しい。
 それにSHだって無力じゃない。
 亜優とかならともかく中学生とかなら海翔達がいる。
 だとしたら狙うなら小学生クラスだ。
 そこまで絞れたら大丈夫だと嘘を吐いた。
 茜に頼んだものが出来上がったらSHの誰を狙おうと関係ない。
 絶対に守り抜く自信があった。
 すると茉奈も言った。

「私も結を信じてた。でも誰にも言うなって言われたから言わなかっただけ」

 俺は一度茉菜が攫われた時に責任を感じていた。
 だから絶対に同じミスを冒さない。
 きっと何か考えているから一人で茜の家に行ったと思う。
 少し怖くても結を信じていたから大丈夫。
 
「お前結構度胸あるんだな」
「そのくらいの覚悟がないと結の恋人になんてなれない」

 水奈と茉奈が言う。

「俺の恋人になれない」

 茜の話を聞いていた俺は少し揺らいでいた。
 
「じゃあ、茉奈もだけど優菜たちも気をつけて。私達帰るから」

 後はじいじや空が相談する事だろうから。と、愛莉が言って俺と愛莉と家に帰る。
 すると茜が家に戻ってきていた。

「遅かったね。何かあった?」

 茜が言うと愛莉が説明していた。
 それを聞いた茜が頷いていた。

「それでこいつの出番なわけね」

 茜はそう言ってUSBメモリを取り出した。

「それは何?」

 愛莉が聞くから「結、ノートPC持ってきなさい。愛莉たちには教えておいても問題ないでしょ?」という。
 相手が動き出した以上もう誰かが狙われるのは間違いない。
 皆を不安にさせるくらいなら安心させる必要がある。
 この事を知っているのは茜と俺だけ。
 だから俺と茜は平気でいられる。
 だけど他の皆は常に怯えながら暮らすことになる。
 もうそういう段階に来ているなら隠している方が危険だ。
 皆に知ってもらって相手に気づかれてもそれはもう問題にならない。
 だってそれは「誰にも手を出すな」という警告に変わると茜が言う。
 茜のいう事ももっともだった。
 俺は部屋からノートPCを持ってきた。
 するとじいじもや父さんも帰ってきていた。
 二人には愛莉や母さんが説明してる。
 茜のUSBメモリを俺のノートPCにセットするとそれは動き出した。
 茉菜に渡したぬいぐるみを3DCGに変えたもの。
 眉毛はやっぱり太い。

「これは何?」

 愛莉が聞くと茜が「そう言えば名前まだ聞いてなかったね」と言った。

「デジユイ」

 それを聞いたら愛莉が頭を抱えていた。

「どうして冬夜さんの孫は皆こうなるわけなの」
「……で、これはどんな機能があるの?」
「ああそれは私が分かりやすく説明するよ」

 じいじが言うと茜が説明した。

「一言で言うと番犬」
「え?」

 愛莉には分からなったらしい。
 こいつは文字通り番犬。
 SHのネットワークの中を常に巡回している。
 SHのメンバーならまず誰かに知らせようとする。
 そんなメッセージを感知したらすぐにデジユイが向かう。
 ネットの中を行き来して現実世界に飛び出すことが出来るデジタルなエイリアス。
 移動時間はどこにいようとネットワークが繋がっていたら関係ない。
 実際にネットの回線を使って動いてるわけじゃないから回線の速度に関係なく一瞬で現れる。
 能力はアキヒロと一緒。
 緊急事態を知らせる事が出来なくても問題ない。
 こいつは常にそのSHのメンバーの様子を巡回して見張っている。
 だから誰がいつ狙われようと関係ない。
 その事を母さんや父さんがSHのグルチャを通じて皆に説明してる。

「それは一つ問題があるんだが?」

 誠が何かを言おうとしていた。

「……待て。とりあえずその問題を私に言ってみろ?」
「い、いや。瑛大だってきっと同じ事考えてるって!」
「……いいじゃないか。誠、今言えよ」

 年頃の男女だっているんだ。
 ってことはじいじも問題があったのだろうか?

「簡単だよ。中には夜を恋人と過ごす事だってあるだろ……いてぇ!」

 どうして誠が痛いことまでチャットで言うのかはじいじにも分からないらしい。

「こんな危険な時に馬鹿な事言うな!」
「そうは言ってもこの事件が片付くまでは禁欲って若い子には酷じゃないのか!?」

 次の子供をと考える夫婦だっているだろ。
 それの何が問題なんだろう?

「……それは確かにそうだな」

 神奈も悩んでいた。
 理由はなんとなく分かった。
 回答は出来る。

「……さっき言ったけどそれはエイリアスだから俺とは関係ない」
「どういうことだ?」

 誠が言うから説明した。
 エイリアスは俺の意思とは関係なしに目的遂行の為にだけ自分の意思で動く。
 デジユイが見た事までは俺は知らない。

「そうか、それなら安心して神奈と……いてぇ!」
「お前はいつになったらその欲望が無くなるんだ!」
「ああ、神奈。それなら僕が説明できる」
「なんだ?トーヤ」

 するとじいじは言った。

「生涯現役」

 ぽかっ

 愛莉に小突かれていた。

「冬夜さんはそれが言いたかっただけでしょ!」
「まあ、そうなんだけど」
「開き直らないでください」
「まあ、そのデジユイってのがある限り俺達は安全なのか?」

 瑛大が聞いたら空が答えていた。

「そのデジユイとやらが活躍しないといけないほどの危機だと自覚した方が良いと思う」

 まあ、空の言う通りなんだけど。

「そうだね。デジユイがある限り安全だという認識は捨てた方が良い」

 じいじが言っていた。
 俺はまだ甘い。

「複数の人間が同時に襲撃される可能性を考慮してないみたいだ」

 じいじに言われて気づいた。
 やっぱり俺もまだ甘いな。

「ただ、相手も結の能力を全部見たわけじゃないし、今回上手く対処したから慎重になるかもしれない」

 その時間で対策を考えようとじいじが言った。
 全部を俺に任せるのはさすがに父さんや母さんが不安だろうしと言っていた。
 
「でもさ、一つ気がかりな事があるんだけど?」
「天音どうしたの?」

 愛莉が天音に聞いていた。

「茉奈に持たせてるアキヒロってやつを複数作ればいいだけじゃないのか?」
「それはぬいぐるみを所持している者に限定してるから能力が持たせられるんだ」

 量産品にそこまでの性能を持たせることが出来るとは思えない。
 俺自身ある制約の下で能力を使っているんだから。

「それに結には付与って能力があるんだろ?それでみんなに能力持たせたら済む問題じゃないのか?」

 天音の質問に答える事が出来なかった。
 それをやったらばれてしまう。
 出来ればそれだけは教えたくない。
 すると空が答えた。

「結の能力は凄く強力。僕でも対抗できないくらいに強い能力を持っている」

 それだけの能力を使っているのだから何かしらのリスクを抱えている。
 それは気安く人に教えたらいけないはず。 
 出来るならとっくに茉奈に力を貸してるよ。
 そういう事が出来ない能力なんだろう。

「結莉もそう思う」

 漫画であったらしい、ある程度イメージ出来たり制限をつける事で能力を強化する方法。
 だけどそれは人に知られたくない。
 それを知った人間は自ずと態度に出る。
 そんな人間が相手に攫われて拷問されたら絶対にボロが出る。
 善明や大地みたいに訓練を受けているわけじゃないのだから。
 俺が最後の切り札なら俺の弱点を曝すようなことをして足を引っ張るのは得策じゃない。

「まあ、いいよ。その代わり翼や祈と一緒に色々動くぞ。やられっぱなしは絶対に嫌だからな」
「天音の言う通りだな。旦那は仕事に専念してもらってふざけた連中は私達で始末してやろう」
「去年は退屈だったからね。少しくらい暴れても文句言われないよね?善明」
「夫としては大人しくしてて欲しいんだけどね。……止めたら僕の命が無いんだ」

 美希が善明に聞くと善明はそう言っている。
 今度のキャンプの時にでも相談しよう。
 そう言って話が終わると夕食を食べてお風呂に入る。
 いつも通りの茉菜の定時連絡だ。
 茉奈に返事をしながら茜に言われたことを考えていた。
 そこまで想っているのなら茉奈のすべてを背負って生きてやれ。
 茜に言われたことを思い出していた。
 俺自身そのつもりだった。
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