姉妹チート

和希

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reloaded

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(1)

「なあ、椿」

 今日は卒業式。
 茜と前日から奮闘していた。

「椿、記念日なんだからお風呂に入りなさい!」
「今月のノルマは達成してるから必要ない!」
「そう言わずに折角のお祝いなんだから……」
「別に学校が変わるだけじゃん」
「洋服だって新しいの買ったんだから」
「私の趣味じゃない」
「椿のセンスに任せてたら私が愛莉に怒られるの!」

 ああ、服を選ぶ時も茜と揉めていたな。

「まだ寒いのにスカートなんて穿いてたら足冷えるよ!」

 下半身を冷やすのは良くないって言ったのも茜だよ!

「だからって3月なのにどうしてその格好になったの!?」

 北国の小学生でももう少しおしゃれするよ!
 大体どこで半纏なんて買って来たの!?

「ネットで」

 冬華達が温かいからいいと言っていたから買っておいた。
 パパは大体この手の話題には関わろうとしない。
 父親というのは娘のファッションに興味が無いのだろうか?
 まず私が興味が無いんだけど。
 で、茜は愛莉に相談して「元はといえば茜が原因でしょ!」と怒られている。
 
「そんな生活していたら彼氏が出来ませんよ」

 愛莉はそう言っていたけど、そうでもないらしい。
 目の前にいる男子、山本太一は私に珍しくまじめな顔で聞いていた。

「今日卒業式が終わったら話があるんだけど」

 これって多分確定だよね。
 
「別にいいけど、一つだけ聞いていい?」
「ああ、いいけど?」
「本当に私なの?」

 後でテンパってて間違えたなんて言われたら私でもさすがに傷つくよ?

「間違いない!椿に話があるんだ!」

 そんな大声で言わなくてもいいのに。
 昴がびっくりしてこっち見てる。

「分かった。じゃあ、あとでね」
「ああ……」

 そう言って太一は男子の群れに入って行った。
 その後に様子を見ていた綺羅達がやってくる。

「いよいよ椿も覚悟を決める時が来たみたいですね」
「なんで?」
「なんでって恋人出来たらさすがに今の生活はまずいんじゃないですか?」
「それは無いよ」

 だって今の私を見て好きになったんでしょ?
 だったら今のままでよくない?
 だけど綺羅が言う。

「本当にそうかしら?」

 風呂に入ってない体に抱き着かれても平気なのですか?
 いきなり抱き着いてくるような下心丸出しの馬鹿の顔には見えなかったけど。

「大和と同じような草食系なのかもしれないね」

 詩織は悪戯が好きだ。
 だからわざとスカートを穿いてその下に体育着のパンツを穿いている。

「いつ捲ってもいいよ?」

 そう言って挑発するけどしてくれた試しは一度もないらしい。
 それでも詩織は毎日着替えている。
 私は下着なんてそう汚れないし風呂入る時でいいかなと思ったけど、女性の体というのは色々厄介だからそうさせてくれなかった。
 正しくはそうしようと思ったけど茜が許してくれなかった。
 茜はさすがにまずいと思って愛莉や翼を連れてきて必死に説得していた。
 その間昴は結と遊んでいたけど。
 さすがに男子に聞かせられない話だから。
 いとこの松原冬華も香澄や梨々香も加わって説得されたらしい。
 潤子と千秋には気をつけろと忠告している。
 現に愛莉はすでに恵美と晶と相談していたらしい。
 晶はもうすでに悩んでいるらしい。
 こればっかりは旦那に相談というわけにはいかない。
 そして冬華の母親の冬莉や私の母親の茜に匹敵する性格の泉。
 晶が潤子を説得しようと思ったらまず潤子の母親の泉を説得する必要がある。

「人生尻みて一目ぼれする男子もいるから多分大丈夫だよ」

 泉がそう思っているから晶にとっては最大の悩みらしい。
 さっき話した半纏にトレーナーとジャージという組み合わせを発想したのは潤子の妹の千秋。
 そっちも矯正しないといけない。
 で、卒業式の後に茜に少し用事があると言って指定された場所に向かった。
 先に太一が来ていた。

「ごめん、待った?」
「いや、大丈夫」

 その割には険しい表情をしてるけど腹でも壊したのだろうか?

「で、話って何?」
「あ、ああ……」

 そう言って悩んでいる太一。
 なかなか言わないのに私もいら立ちを覚えて来た。

「何も無いなら行くよ」
「あ、ごめん……その……」
「太一。一つだけ私から言ってもいいかな?」
「まさか付き合ってる人いるとか?」
「いたとしてもまだ教えるつもりはない」

 そんな風にリスクを減らそうとする真似は許さない。

「あのさ、太一が私を呼びだした決意は認める」

 でもそれだけで満足していいの?
 何も伝えないつもり?
 いまさらビビってる?
 でも、もういまあさら引き返せない。
 元通りの仲には戻れない。
 ならやることは一つじゃないの?
 太一は勇気があるのは認める。
 だから頑張れ。
 私もちゃんと聞いてあげるから。
 そう言うと太一は覚悟を決めたようだ。

「ずっと好きだった。同じクラスになった頃から好きだった」

 元気な私を見ていて凄いと思ったらしい。
 その割には茜からハッキングスキル学んだりしてるけどね。
 いつか言わないといけない。
 でもまだ早すぎやしないか?
 振られたらどうしよう?
 やっぱりそんな不安があったらしい。
 両親にも相談したそうだ。
 すると母親が言ったらしい。

「太一は勝次に似て強い子。それは喧嘩が強いってだけじゃないの」
「他に何があるんだ?」
「いいか、男ってときはいざって時に覚悟を決めなきゃいけない」

 いざという時に尻まくって逃げるような臆病者になるな。
 腕っぷしが強いだけの男なんて大したことない。
 その時が来た時に一歩を踏み出せる度胸の持ち主を強い男というんだ。
 父親の勝次にそう言われたそうだ。

「ちゃんと言えてよかったね」
「ああ、もう大丈夫ありがとう」
「ちょっと待ってよ」
「どうした?」
「太一は馬鹿なの?」

 返事も聞かずに一人で納得して帰るわけ?

「だってさっき好きな人いるって……!?」

 本当に鈍い奴だな。
 風呂に入っておいてよかったのかもしれない。
 私は太一に抱き着いてキスをしていた。
 もちろん生れて初めてのキス。
 太一は驚いていた。
 私は太一から離れると笑顔を見せた。
 太一は今だにパニックに陥ってるようだ。

「つ、椿は好きな人が」
「いるよ?太一が好き」
「え?」
「今の太一かっこよかった。私も女子なんだね」

 好きって一言がこんなに心にしみるなんて初めて知った。

「そ、そうか……」
「ありがとうね。これからよろしくね」
「あ、ああ……。それは良いんだけど……」
「どうしたの?」
「いや、結花や珠希と違うんだなと思って」
「何が?」
「……言っても怒らない?」
「言ってみないと分からないでしょ?」
「髪の匂いがさ……違ったんだよな?」

 太一は髪の匂いフェチなのか?
 そういうわけじゃないらしい。
 結花や珠希は当たり前だけど髪を洗う時にシャンプーを使う。
 その残り香を香水の匂いだと誤解する年頃の男子だ。
 だからその匂いがしない私は香水使わない女子もいるんだなと勘違いしていた。
 ニンニクの匂いが染みついてるわけじゃないから問題ないだろう。
 話を済ませると茜達の下に戻って茜に太一の事を話した。

「茜はさ、パパとデートする時風呂入ってたの?」
「椿はまだ中学生でしょ?」

 そんなに体臭を嗅がれる事はまずない。
 いくつになっても体臭嗅いでくる彼氏は嫌だと思ったけど黙っていた。
 そんな状況になるような状態になったら香水でごまかせ。
 これが母親の意見だった。
 冬莉も同じだったのかな?
 家に帰って片桐家のグルチャで聞いてみた。

「茜のいう事も間違っては無いんだけど、匂いくらいでうだうだいう器の小さい彼氏なんていらないんじゃない?」
「なるほど……」

 天音や翼は何も言わない。
 ただ瞳子だけが違う意見を持っていた。

「折角の初めてでそんな印象持たれたら椿が嫌なんじゃないの?」

 付き合うってことは私も太一が好きになったって事でしょ?

「ああ、瞳子には話をしていなかったな」

 天音が話し出した。
 天音が女子高生だったころに大食いしている天音を馬鹿にした高校生を大地が逆に追い払ったらしい。
 彼氏って意外と彼女を守ってくれる存在なんだ。
 頼りになるから彼氏にするんじゃないのか?

「要するに別に生活変えなくても彼氏の気持ちは変わらないから信じてやれ」
「……そういう手抜きしてると彼氏だって幻滅するよ」

 翼がそう言った。

「翼だって善明と付き合いだしても寝起きの悪さは変わってないみたいだったじゃねーか!?」
「私は私なりにアラーム何個もセットしたりしてた。それに大地がいる癖に空の寝こみを襲ってたのは天音でしょ!」

 こう言う話になるとじいじも含めて男性陣は黙り込む。
 そして最後は愛莉が介入する。

「あなた達は母親でしょ!娘に何を教えてるのですか!?」
「別に椿は問題は起こしてないからいいんじゃないのか!?」
「……椿が母親になってあなた達の孫が女の子だったらどうするつもりなの?」
「別にいいんじゃない」
「うぅ……」

 晶にとって泉が頭痛の種と同じで、愛莉にとって茜と冬莉が頭痛の種だったようだ。
 前にお年玉をもらった時にじいじに言われた。

「ああ、見えて愛莉毎日悩んでるんだ。少しは言う事聞いてあげて」

 女性だから見た目を気にしないといけないというのは男女差別にならないのだろうか?
 キチ〇イみたいな評論家もその辺は何も言わないけど。
 ああ、でもパンプスが義務なのは男女差別だとか言ってたな。
 茜でも不思議に思ったらしい。
 仕事用のスーツにスニーカーでも履くつもりなのだろうか?

(2)

「やっと片付いたね」

 俺と友恵は日本へ帰国する飛行機でニュースを見ながら話していた。
 デウスエクスマキナの重鎮が殺害された。
 犯人はSHと名乗っている。
 当然情報操作をしただけだ。
 本来は俺達がやった。
 ガキの集団に怯える老人など用がない。
 だが厄介な事に決定権を持っているのはこの老害たち。
 俺達がやったと知ったらSHだけでなくデウスエクスマキナも相手にしなくてはならなくなる。
 だからその始末の手段に何年もかける事になってしまった。
 その間にFGとやらは瓦解したらしい。
 もちろんその受け皿はどこにもなく裏社会では混沌としているらしい。
 それに片桐冬夜の孫の雪もちょうどいい歳になった。
 孫を殺された時に冬夜がどんな反応をするか楽しみだ。

「でも油断は禁物」

 友恵がそう告げる。
 予想はしていた。
 片桐冬吾の子だから普通の子になるはずがない。
 そしてその通り片桐雪はとんでもない力を持っていた。
 その結と雪に対抗する力を準備するのにまた時間がかかった。
 やんちゃな奴が勝手に挨拶をしたようだが、まあそんなに問題ではないだろう。
 雪はまだ小1。
 そしてSHも世代交代を考える時期。
 多少の混乱はあるだろう。
 ねらい目としては最高だ。
 SHがFGと遊んでいる間にこっちの体制も立て直すことが出来た。
 久しぶりに地元の地を踏むと迎えが来ていた。

「言いつけ通りにしておいた」

 アベルはそう言って笑っている。

「油断するな。お前と接触するたびに強くなるだろう」

 次で殺すくらいの気持ちでいろ。
 
「大丈夫。いくつか計画は練っているから」
「いつやる気なの?」
「さすがに入学式でドンパチはしないよ」

 それに最初に狙うのは雪じゃない。
 多田家のガキも大して能力を持っているわけでもなさそうだ。

「だけど誠司郎に手を出せば雪は容赦はしない」

 雪をいたずらに怒らせるだけだ。

「分かってる。だから一撃でしとめるならまずは雪以外の人間だ」

 周りから潰してやるとアベルは言う。

「しかし重鎮は……誰がやったの?」
 
 アベルが質問するとにやりと笑った。

「ニュースを見てないのか?SHだよ」
「……そういう事にしておくよ」

 準備していた家に着くと長旅の疲れを癒す。
 さあ、始めようか。
 これからが地獄の始まりだ。
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