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恵みの没落
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(1)
「結、あの人?」
「みたいだな。」
茉奈が指差す帽子をかぶったコート姿の男がゆっくりと近づいてきた。
この場所を指定したのは意外にも奴の方だった。
「このスマホは”壊し屋”につながっているのかな?」
突然そんな電話がかかって来た。
間違いなく人形師のスマホからだった。
「君たちの歳だとあまり遅くには無理だね。……今から指定した時間に待ってる」
そう言って電話は切れた。
茉奈と2人でその場所に行くと男がやって来た。
この男の持つ能力はなんとなく察しがついた。
ただその事だけを確認したかった。
男は俺達を見ると地面から現れる7種類の人形。
今まで片付けて来たDOLLの物だった。
「やっぱりあの人形はお前が与えた物か?」
「ああ、そうだよ。察しがいいね」
やけに余裕のある男だな。
トランクケースを持っていることに気づいた。
その事に男も気づいたようだ。
「私も少し試すとしようか」
そう言うとすべての人形が俺達に襲い掛かってくる。
俺はその人形をすべて破壊した。
「なるほど、やはり壊し屋で間違いないようだね」
この能力では分が悪いと判断したみたいだ。
「結、なんか空気が変だよ」
茉奈でも気づいたらしい。
これは予想外だった。
だけど別に不思議じゃない。
自分たちだけが持ってるなんて勘違いしていたわけじゃないから。
だから動揺しない俺を不思議に思ったのは間違いないけど、男が優位だと思い込んでいるようだった。
にやりと笑ってトランクケースから道具を出す。
カラシニコフという名前は結構有名な小銃。
カミラ達が持ってたから別に驚きはしなかったけど茉奈は怯えて俺の上にしがみついてる。
「まあ、そういうことだ。あまり大人を舐めるなよ?クソガキ」
もう勝ったつもりで言うらしい。
説明すると男はステイシスの持ち主らしい。
それは空気の流れが変わったことから察した。
茉奈ですら気づいたみたいだから当然だ。
それがステイシスだとは分からなかったみたいだけど。
ただ自動小銃を向けられて怯えている茉奈。
「子供に銃を向けるわけがない。そんな勘違いをしていたか?」
怯える茉奈と対称的にすました顔でいる俺。
「勘違い?何の事?」
「あまり大人を舐めるなと言ったはずだが?」
そう言って足元をめがけて撃ってきた。
茉奈が悲鳴を上げて怯えている。
それを満足気に見ている男。
「今更命乞いをしても助けるつもりは無いよ。自業自得だよ。お嬢さん」
「最後に一つだけ聞いてもいいか?」
「お前はまだ余裕を残しているみたいだが、お前も知らないわけじゃないよな?」
男はステイシスを行使したと説明する。
だから俺がどんな能力を持っていようと関係ないと言った。
だが、構わず俺は男に一つ尋ねる。
「お前がマイスターで間違いないな?」
「ああ、そうだよ。全部私の作った人形だ」
「つまりお前で最後で間違いないな?」
「だからどうした?」
「いや、聞きたかっただけ」
「そうか。じゃあ、死ね」
そう言って男は銃を向ける。
「結!私達死ぬの?」
「茉奈は俺が守る」
「結は死ぬ気なの?」
不安そうな表情の茉奈に笑顔で答えた。
「そんなわけないだろ」
その後に銃が放たれる。
しかし無数の弾を受けたのは男自身だった。
男が倒れたのを確認して茉奈と2人で男に近づく。
「何が起こったのか分からないだろうから説明してやる」
反射させたわけじゃない。
もっと違う手だ。
茉奈は間違いなく俺達の方に向かっていた。
だけどどんな速さだろうと影が出来る。
そして影を支配するの能力がある。
弾自身の影を使って男の背後にある影に転送した。
当然背中に命中する。
ただそれだけの事がお前の死因だ。
「ば、馬鹿な……私はステイシスをかけたままだぞ!」
「そう言ってたな。そしてお前は俺がステイシスの中では能力を使えないと勘違いしていた」
他の人形とコンタクトした時に確実に仕留めていたから、お前に情報が入ってない事は確認した。
お前は思い違いをしていただけだ。
ステイシスはすべての能力を停滞させる能力。
片桐家の能力者はすべて持っている。
しかし俺のステイシスは少し違う。
自分の意図するエリアだけ能力を解放することが出来る。
そう、俺にだけは絶対にステイシスは通用しない。
支配者の領域と言うらしい。
ステイシスの中だから俺は能力を使えないただのガキ。
そう思い込んでしまったことがお前の敗因だ。
「一応感謝しておく。お前の能力は頂いたよ」
「なんだと?」
こいつの能力は人形を作り出す”マイスター”だけじゃない。
その作りだした人形を他のDOLLに付与する”エンチャント”だ。
それを確認したかっただけ。
じゃなきゃさっさと殺してる。
じいじも言っていたぞ?
切り札を先に見せるな。見せるならさらに奥の手を用意しろ。
DOLLはお前で最後なんだろ?
大人の割には子供にとんだ醜態をさらしたな。
正直残念だよ。
「……子供の割には辛辣なんだな」
「大人の癖に詰めが甘いだけだろ?」
「最後まで容赦なしか?」
「当たり前だ。わずかでも容赦した結果が今のお前だ」
もうこれ以上喋っている時間は無い。
夕飯に間に合わなかったらご飯抜きと言われてるんだ。
さっさと片付けるぞ。
そう言って俺は呪いの炎を出すと男を焼き尽くす。
「これで終わりなんだよね?」
「ああ……そうなんだけど……」
「何かあったの?」
「茉奈は怒ってないのか?」
「なんで?」
俺はちゃんと奥の手を用意していたことを茉奈に黙っていた。
茉奈が平気そうにしていたらさすがに怪しむだろうから。
相手に油断させるためにあえて茉奈には黙っておいた。
隠し事をしたから怒られると思っていた。
だけど茉奈は違うと言った。
「普通の中学生がさ、銃を向けられたら普通に怖いよ」
それが無いのは俺だけだ。
むしろ謝るのは茉奈の方だと言っていた。
「私も結が大丈夫だって言うなら大丈夫だと最後まで信じることが出来なかった。それが結の足を引っ張る事態にならなくてよかった」
怖いなら俺一人で行動させた方が良い。
でも茉奈は自ら俺に同行することを望んだ。
だから少なくとも足手まといになってはいけない。
そうやって自分の彼氏を最後まで信じていられる女子が片桐家の男子を恋人にする権利を得る事が出来る。
神奈にそう言われたらしい。
「もうとっくになってるだろ?」
「そうだったね」
茉奈の笑顔がとても優しく思えた。
「早く帰らないと晩飯抜きなんでしょ?」
「そうだな、送るよ」
「ありがとう」
「一つお願いがあるんだ」
「どうした?」
「誠に伝えて欲しい」
DOLLは全滅させたと。
「分かった。結がかっこよかったのも自慢する」
「そんなに大したことじゃないよ」
そんな話をしながら家に帰った。
あとは空達に任せたらいい。
俺はなんとか自分の役割を果たすことが出来た。
(2)
「空、どうするんだ?」
天音が聞いている。
事の発端はFGの切り札のDOLLを全て結が潰したことから始まった。
いよいよ切羽つまったFG。
そして結が持っていたスマホを使って伝えて来た。
週末の夜にお前一人で来い。頭同士で決着をつけよう。
「こんなの罠に決まってるだろ!」
天音の言う通りだ。
場所も廃ビルの中だった。
いくらでも伏兵が潜むことが出来る。
連絡を受けて実家に帰って来た僕達をのほほんと見守っている父さんと母さん。
光太や学からも「一人なんて絶対だめだ。どうせ総出で来るんだろ?こっちも頭数揃えて全部つぶそう」とメッセージが来ていた。
全員いるんだったらその廃ビルを空爆したらいい。という恵美さんの案もあった。
だけど僕は違う事を考えていた。
「さっきから何も言わないけど、空まさか一人で乗り込む気じゃないだろうな?」
天音が言う。
「……結は一人でDOLLを片付けた」
すでに王者の貫禄を持っている。
先手を相手に譲ってそれを潰して勝つ。
父さんでさえも結を倒す方法なんて思いつかないという。
当たり前だ。
ステイシスですら無効化する化け物がステイシスを自在に操る。
ただの能力者じゃ絶対に勝ち目がない。
「それが何か関係あるの?」
翼が聞いていた。
空には部下がいるんだから部下に任せたらいい。
翼も天音達と同じみたいだ。
「だけど相手は頭同士のサシでケリをつけようって言ってるんだろ?」
そこに仲間をぞろぞろ連れて行ったり、僕が行かなかったりしたら空の王としての威厳なんて無に帰すじゃないか。
べつにそれでもいいんだけど。
「腰抜け」
そう言われるのを嫌う主人公が余計な厄介事を持ちこむ映画があった。
そんな気分なのかもしれない。
「相手は銃をもってるんだよ。そんな真似絶対させない!」
翼は危険だからダメという。
だけど父さんは違うようだ。
「空の好きにさせたらいいじゃないか」
父親としてそれはどうなんだろうと思ったけど父さんは僕の意見に賛成だった。
「冬夜さん。空が危険な目にあってもいいのですか?」
「それは違うよ愛莉。相手が銃を持ち出す危険な相手なら空一人の方が安全なんだ」
喧嘩が強い程度の力なら翼達の言う通りだけど、銃を持っている相手に水奈達がいる方が危険だ。
空なら銃弾くらい弾くだろ。
「それにね、空もそろそろ動くべきだと父さんは思うよ」
どんなに有能な部下がいたとしても、どんなに部下の信頼を受けていたとしても、肝心な時に先頭に立てない指揮官について行く部下なんていない。
昔読んだ漫画でそうあったそうだ。
「これで最後になるなら空が決着をつけるべきだろう」
父さんがそう言った。
「でも相手の罠だったらどうするんだよ?」
天音が父さんに聞いていた。
「その保険くらいは空はとうに考えているよ」
「え?」
父さんが言うと天音達が僕を見ていた。
手は考えてある。
父さん達も似たような作戦を立てた事があるらしいから。
その作戦を翼達に説明する。
それを聞いた天音は大地を見ると大地が頷きながら善明に連絡する。
これが最後だ。
きっちり勝って終わらせるよ。
そうSHのグルチャに送ると皆盛り上がっていた。
(3)
「大地、そっちはどうだい?」
「空の予想通り。配置まで読んでいたみたいです」
まあ、優秀なサバゲーの指揮官でも思いつきそうな配置をしているからね。
持っている銃はガス銃なんて生易しい物じゃないけど。
空はその建物のつくりからして潜んでいそうなところを的確にあててさらにその裏をかくように僕達を配置した。
もちろん酒井家の兵隊なんかも配置している。
SASやSOCOM出身の傭兵で編成されている部隊。
暴力団なんて彼らにしてみたらただのチンピラだよ。
空はのうのうとFGのリーダーと対面しているから翼が指揮を務める事になった。
もちろん天音達も辺りを封鎖している。
天音も今回は慎重にせざるを得ない。
その為に天音に茉莉と菫の面倒を任せていた。
3人共揃って乱入する危険くらいは把握している。
まあ、望み通りここで終わりにしてやるつもりだからSHも総出で潰すつもりだ。
相手が約束を破った場合だけど。
「話始めたから流すね。菫、お願い」
「はーい」
翼がそう言うとスマホのボイチャが流れて来る。
相手の声が聞こえた。
「約束通り一人で来るとはね。さすがは空の王と言われているだけあるな」
「まあね、こっちも色々大変なんだ。それでどうやって決着つけるの?」
お前を倒せばいいのか?
もし相手が本気でそう思っているなら同情する余地もないよ。
君は空の何を見て来たんだい?
結や茉莉達が暴れるからわからなかったかもしれないけど、この人本気で都市一つくらい潰すよ?
しかしもっと馬鹿な選択をした。
もう死ぬしかないね、君。
相手が潜ませていたチンピラが一斉に空に銃を向ける。
しかし空は笑顔を崩さない。
「やっぱりそういうオチ?」
「自分の間抜けさ加減に驚いた?」
「それ本気で言ってるの?」
「どういう意味だ?」
「そうだな……銃を抜いたんだから命かけろよ」
空がそう言うと僕達がチンピラどもを始末する。
相手は慌てていた。
そんな相手を見て笑う空。
「じゃ、話を戻そうか?どうやって決着をつけるの?」
「お、俺とサシで勝負しろ。先に倒れた方が負けだ。お前が負けたら空の王の地位を頂く」
「いいよ、君が倒れたら?」
「この場でFGを解散する。でも俺に勝てると思うのか?俺はボクシングでインターハイに……」
「ボクシングね。分かった」
そう言うと空はすぐに動いた。
空の速さを捕らえられるのは僕や大地か天音と翼くらいだろ。
本当に馬鹿だ。
インターハイ出場程度で空に勝てると思ってるのが間違ってる。
種目がサッカーなら空は不利だったろうけど。
空は人の好さや優しい性格だからSHのリーダーをやってるわけじゃない。
文字通りSHの中で一番強いから王を名乗ってるんだ。
目に止まらない速さで相手に接近して思いっきりぶん殴る。
それがジャブなのかストレートなのかは知らないけどとりあえず殴った相手は派手に吹っ飛んでそして気絶した。
「意外とあっけなかったね。じゃあ、決まりだから守ってね」
そういうと空の周りを愚か者が囲む。
「ここでお前が死ねば関係ないだろ?」
空を殺せる相手なんて翼か結くらいだろう。
とりあえず馬鹿は一番やってはいけない事をした。
約束を破ったのは君たちが先なんだから後で文句を言っても知らないよ。
うずうずしていた天音達が名乗りを上げる。
「お前の言う通りだ、クソガキ。ここでお前らを皆殺しにしたら解散も何も関係ない!」
だから安心して死ね。
そう言って茉莉や菫と一緒に暴れ出す天音。
「因縁にケリをつける時が来たって奴だな!粋。ビビるなよ!」
「ここでビビって情けない姿を蘭香に見せたくないからさ」
「そうだな……自分で作ったFGに止めを刺させてもらうとするか」
遊と粋と喜一も混ざる。
なお警察には映画の撮影とちゃんと許可をもらっている。
本当にそれでいいのか警察。
いつからここが日本だと錯覚していた?なんて言い出さないだろうね。
30分もかからずに全員始末した。
空は喜一と勝次にFGのリーダーに合せる。
「喜べ、最後の止めを譲ってやる」
空が喜一達に言うけど喜一達は首を振った。
「これはSHとFGの戦いの終止符。空に譲るよ」
「んじゃ私でもいいよな!」
そう言って天音が横取りした。
FGの倒れてる人間は菫が片付ける。
「んじゃ、どっかで打ち上げしようぜ!」
「おうよ!今夜は徹夜で飲むぞ!!」
「水奈はいい加減にしろ!悠翔達をどうするつもりだ!?」
「学、それはおかしいぞ!受験勉強で徹夜は許しても遊ぶのはダメなんて理屈が通ってないぞ!」
天音が徹夜で勉強したことがあるのかどうかは翼達が知ってるけど、愛莉さんが「親に受験勉強してますアピールくらいしようと思わないのですか!?」と叱っていたそうだからお察しくださいだろう。
水奈も同様だ。
あの学力でどうやって高校に入れたのか不思議なくらいだ。
名前だけ書いとけば受かるレベルらしいけど。
最近愛莉さんは恵美さんや母さん、神奈さんと紅茶を飲みながら悩んでいるらしい。
もちろん孫娘の暴走で。
こうして延々と続いてきたFGとの抗争の話は幕を閉じた。
残ったFGの残党も関係ない。
「FGなんてこの世界に必要ない」
雪の意思でFGという物はこの世界から消失した。
まだ物騒なグループがいるけど、彼らが動き出すのはまだ当分先になるらしい。
「結、あの人?」
「みたいだな。」
茉奈が指差す帽子をかぶったコート姿の男がゆっくりと近づいてきた。
この場所を指定したのは意外にも奴の方だった。
「このスマホは”壊し屋”につながっているのかな?」
突然そんな電話がかかって来た。
間違いなく人形師のスマホからだった。
「君たちの歳だとあまり遅くには無理だね。……今から指定した時間に待ってる」
そう言って電話は切れた。
茉奈と2人でその場所に行くと男がやって来た。
この男の持つ能力はなんとなく察しがついた。
ただその事だけを確認したかった。
男は俺達を見ると地面から現れる7種類の人形。
今まで片付けて来たDOLLの物だった。
「やっぱりあの人形はお前が与えた物か?」
「ああ、そうだよ。察しがいいね」
やけに余裕のある男だな。
トランクケースを持っていることに気づいた。
その事に男も気づいたようだ。
「私も少し試すとしようか」
そう言うとすべての人形が俺達に襲い掛かってくる。
俺はその人形をすべて破壊した。
「なるほど、やはり壊し屋で間違いないようだね」
この能力では分が悪いと判断したみたいだ。
「結、なんか空気が変だよ」
茉奈でも気づいたらしい。
これは予想外だった。
だけど別に不思議じゃない。
自分たちだけが持ってるなんて勘違いしていたわけじゃないから。
だから動揺しない俺を不思議に思ったのは間違いないけど、男が優位だと思い込んでいるようだった。
にやりと笑ってトランクケースから道具を出す。
カラシニコフという名前は結構有名な小銃。
カミラ達が持ってたから別に驚きはしなかったけど茉奈は怯えて俺の上にしがみついてる。
「まあ、そういうことだ。あまり大人を舐めるなよ?クソガキ」
もう勝ったつもりで言うらしい。
説明すると男はステイシスの持ち主らしい。
それは空気の流れが変わったことから察した。
茉奈ですら気づいたみたいだから当然だ。
それがステイシスだとは分からなかったみたいだけど。
ただ自動小銃を向けられて怯えている茉奈。
「子供に銃を向けるわけがない。そんな勘違いをしていたか?」
怯える茉奈と対称的にすました顔でいる俺。
「勘違い?何の事?」
「あまり大人を舐めるなと言ったはずだが?」
そう言って足元をめがけて撃ってきた。
茉奈が悲鳴を上げて怯えている。
それを満足気に見ている男。
「今更命乞いをしても助けるつもりは無いよ。自業自得だよ。お嬢さん」
「最後に一つだけ聞いてもいいか?」
「お前はまだ余裕を残しているみたいだが、お前も知らないわけじゃないよな?」
男はステイシスを行使したと説明する。
だから俺がどんな能力を持っていようと関係ないと言った。
だが、構わず俺は男に一つ尋ねる。
「お前がマイスターで間違いないな?」
「ああ、そうだよ。全部私の作った人形だ」
「つまりお前で最後で間違いないな?」
「だからどうした?」
「いや、聞きたかっただけ」
「そうか。じゃあ、死ね」
そう言って男は銃を向ける。
「結!私達死ぬの?」
「茉奈は俺が守る」
「結は死ぬ気なの?」
不安そうな表情の茉奈に笑顔で答えた。
「そんなわけないだろ」
その後に銃が放たれる。
しかし無数の弾を受けたのは男自身だった。
男が倒れたのを確認して茉奈と2人で男に近づく。
「何が起こったのか分からないだろうから説明してやる」
反射させたわけじゃない。
もっと違う手だ。
茉奈は間違いなく俺達の方に向かっていた。
だけどどんな速さだろうと影が出来る。
そして影を支配するの能力がある。
弾自身の影を使って男の背後にある影に転送した。
当然背中に命中する。
ただそれだけの事がお前の死因だ。
「ば、馬鹿な……私はステイシスをかけたままだぞ!」
「そう言ってたな。そしてお前は俺がステイシスの中では能力を使えないと勘違いしていた」
他の人形とコンタクトした時に確実に仕留めていたから、お前に情報が入ってない事は確認した。
お前は思い違いをしていただけだ。
ステイシスはすべての能力を停滞させる能力。
片桐家の能力者はすべて持っている。
しかし俺のステイシスは少し違う。
自分の意図するエリアだけ能力を解放することが出来る。
そう、俺にだけは絶対にステイシスは通用しない。
支配者の領域と言うらしい。
ステイシスの中だから俺は能力を使えないただのガキ。
そう思い込んでしまったことがお前の敗因だ。
「一応感謝しておく。お前の能力は頂いたよ」
「なんだと?」
こいつの能力は人形を作り出す”マイスター”だけじゃない。
その作りだした人形を他のDOLLに付与する”エンチャント”だ。
それを確認したかっただけ。
じゃなきゃさっさと殺してる。
じいじも言っていたぞ?
切り札を先に見せるな。見せるならさらに奥の手を用意しろ。
DOLLはお前で最後なんだろ?
大人の割には子供にとんだ醜態をさらしたな。
正直残念だよ。
「……子供の割には辛辣なんだな」
「大人の癖に詰めが甘いだけだろ?」
「最後まで容赦なしか?」
「当たり前だ。わずかでも容赦した結果が今のお前だ」
もうこれ以上喋っている時間は無い。
夕飯に間に合わなかったらご飯抜きと言われてるんだ。
さっさと片付けるぞ。
そう言って俺は呪いの炎を出すと男を焼き尽くす。
「これで終わりなんだよね?」
「ああ……そうなんだけど……」
「何かあったの?」
「茉奈は怒ってないのか?」
「なんで?」
俺はちゃんと奥の手を用意していたことを茉奈に黙っていた。
茉奈が平気そうにしていたらさすがに怪しむだろうから。
相手に油断させるためにあえて茉奈には黙っておいた。
隠し事をしたから怒られると思っていた。
だけど茉奈は違うと言った。
「普通の中学生がさ、銃を向けられたら普通に怖いよ」
それが無いのは俺だけだ。
むしろ謝るのは茉奈の方だと言っていた。
「私も結が大丈夫だって言うなら大丈夫だと最後まで信じることが出来なかった。それが結の足を引っ張る事態にならなくてよかった」
怖いなら俺一人で行動させた方が良い。
でも茉奈は自ら俺に同行することを望んだ。
だから少なくとも足手まといになってはいけない。
そうやって自分の彼氏を最後まで信じていられる女子が片桐家の男子を恋人にする権利を得る事が出来る。
神奈にそう言われたらしい。
「もうとっくになってるだろ?」
「そうだったね」
茉奈の笑顔がとても優しく思えた。
「早く帰らないと晩飯抜きなんでしょ?」
「そうだな、送るよ」
「ありがとう」
「一つお願いがあるんだ」
「どうした?」
「誠に伝えて欲しい」
DOLLは全滅させたと。
「分かった。結がかっこよかったのも自慢する」
「そんなに大したことじゃないよ」
そんな話をしながら家に帰った。
あとは空達に任せたらいい。
俺はなんとか自分の役割を果たすことが出来た。
(2)
「空、どうするんだ?」
天音が聞いている。
事の発端はFGの切り札のDOLLを全て結が潰したことから始まった。
いよいよ切羽つまったFG。
そして結が持っていたスマホを使って伝えて来た。
週末の夜にお前一人で来い。頭同士で決着をつけよう。
「こんなの罠に決まってるだろ!」
天音の言う通りだ。
場所も廃ビルの中だった。
いくらでも伏兵が潜むことが出来る。
連絡を受けて実家に帰って来た僕達をのほほんと見守っている父さんと母さん。
光太や学からも「一人なんて絶対だめだ。どうせ総出で来るんだろ?こっちも頭数揃えて全部つぶそう」とメッセージが来ていた。
全員いるんだったらその廃ビルを空爆したらいい。という恵美さんの案もあった。
だけど僕は違う事を考えていた。
「さっきから何も言わないけど、空まさか一人で乗り込む気じゃないだろうな?」
天音が言う。
「……結は一人でDOLLを片付けた」
すでに王者の貫禄を持っている。
先手を相手に譲ってそれを潰して勝つ。
父さんでさえも結を倒す方法なんて思いつかないという。
当たり前だ。
ステイシスですら無効化する化け物がステイシスを自在に操る。
ただの能力者じゃ絶対に勝ち目がない。
「それが何か関係あるの?」
翼が聞いていた。
空には部下がいるんだから部下に任せたらいい。
翼も天音達と同じみたいだ。
「だけど相手は頭同士のサシでケリをつけようって言ってるんだろ?」
そこに仲間をぞろぞろ連れて行ったり、僕が行かなかったりしたら空の王としての威厳なんて無に帰すじゃないか。
べつにそれでもいいんだけど。
「腰抜け」
そう言われるのを嫌う主人公が余計な厄介事を持ちこむ映画があった。
そんな気分なのかもしれない。
「相手は銃をもってるんだよ。そんな真似絶対させない!」
翼は危険だからダメという。
だけど父さんは違うようだ。
「空の好きにさせたらいいじゃないか」
父親としてそれはどうなんだろうと思ったけど父さんは僕の意見に賛成だった。
「冬夜さん。空が危険な目にあってもいいのですか?」
「それは違うよ愛莉。相手が銃を持ち出す危険な相手なら空一人の方が安全なんだ」
喧嘩が強い程度の力なら翼達の言う通りだけど、銃を持っている相手に水奈達がいる方が危険だ。
空なら銃弾くらい弾くだろ。
「それにね、空もそろそろ動くべきだと父さんは思うよ」
どんなに有能な部下がいたとしても、どんなに部下の信頼を受けていたとしても、肝心な時に先頭に立てない指揮官について行く部下なんていない。
昔読んだ漫画でそうあったそうだ。
「これで最後になるなら空が決着をつけるべきだろう」
父さんがそう言った。
「でも相手の罠だったらどうするんだよ?」
天音が父さんに聞いていた。
「その保険くらいは空はとうに考えているよ」
「え?」
父さんが言うと天音達が僕を見ていた。
手は考えてある。
父さん達も似たような作戦を立てた事があるらしいから。
その作戦を翼達に説明する。
それを聞いた天音は大地を見ると大地が頷きながら善明に連絡する。
これが最後だ。
きっちり勝って終わらせるよ。
そうSHのグルチャに送ると皆盛り上がっていた。
(3)
「大地、そっちはどうだい?」
「空の予想通り。配置まで読んでいたみたいです」
まあ、優秀なサバゲーの指揮官でも思いつきそうな配置をしているからね。
持っている銃はガス銃なんて生易しい物じゃないけど。
空はその建物のつくりからして潜んでいそうなところを的確にあててさらにその裏をかくように僕達を配置した。
もちろん酒井家の兵隊なんかも配置している。
SASやSOCOM出身の傭兵で編成されている部隊。
暴力団なんて彼らにしてみたらただのチンピラだよ。
空はのうのうとFGのリーダーと対面しているから翼が指揮を務める事になった。
もちろん天音達も辺りを封鎖している。
天音も今回は慎重にせざるを得ない。
その為に天音に茉莉と菫の面倒を任せていた。
3人共揃って乱入する危険くらいは把握している。
まあ、望み通りここで終わりにしてやるつもりだからSHも総出で潰すつもりだ。
相手が約束を破った場合だけど。
「話始めたから流すね。菫、お願い」
「はーい」
翼がそう言うとスマホのボイチャが流れて来る。
相手の声が聞こえた。
「約束通り一人で来るとはね。さすがは空の王と言われているだけあるな」
「まあね、こっちも色々大変なんだ。それでどうやって決着つけるの?」
お前を倒せばいいのか?
もし相手が本気でそう思っているなら同情する余地もないよ。
君は空の何を見て来たんだい?
結や茉莉達が暴れるからわからなかったかもしれないけど、この人本気で都市一つくらい潰すよ?
しかしもっと馬鹿な選択をした。
もう死ぬしかないね、君。
相手が潜ませていたチンピラが一斉に空に銃を向ける。
しかし空は笑顔を崩さない。
「やっぱりそういうオチ?」
「自分の間抜けさ加減に驚いた?」
「それ本気で言ってるの?」
「どういう意味だ?」
「そうだな……銃を抜いたんだから命かけろよ」
空がそう言うと僕達がチンピラどもを始末する。
相手は慌てていた。
そんな相手を見て笑う空。
「じゃ、話を戻そうか?どうやって決着をつけるの?」
「お、俺とサシで勝負しろ。先に倒れた方が負けだ。お前が負けたら空の王の地位を頂く」
「いいよ、君が倒れたら?」
「この場でFGを解散する。でも俺に勝てると思うのか?俺はボクシングでインターハイに……」
「ボクシングね。分かった」
そう言うと空はすぐに動いた。
空の速さを捕らえられるのは僕や大地か天音と翼くらいだろ。
本当に馬鹿だ。
インターハイ出場程度で空に勝てると思ってるのが間違ってる。
種目がサッカーなら空は不利だったろうけど。
空は人の好さや優しい性格だからSHのリーダーをやってるわけじゃない。
文字通りSHの中で一番強いから王を名乗ってるんだ。
目に止まらない速さで相手に接近して思いっきりぶん殴る。
それがジャブなのかストレートなのかは知らないけどとりあえず殴った相手は派手に吹っ飛んでそして気絶した。
「意外とあっけなかったね。じゃあ、決まりだから守ってね」
そういうと空の周りを愚か者が囲む。
「ここでお前が死ねば関係ないだろ?」
空を殺せる相手なんて翼か結くらいだろう。
とりあえず馬鹿は一番やってはいけない事をした。
約束を破ったのは君たちが先なんだから後で文句を言っても知らないよ。
うずうずしていた天音達が名乗りを上げる。
「お前の言う通りだ、クソガキ。ここでお前らを皆殺しにしたら解散も何も関係ない!」
だから安心して死ね。
そう言って茉莉や菫と一緒に暴れ出す天音。
「因縁にケリをつける時が来たって奴だな!粋。ビビるなよ!」
「ここでビビって情けない姿を蘭香に見せたくないからさ」
「そうだな……自分で作ったFGに止めを刺させてもらうとするか」
遊と粋と喜一も混ざる。
なお警察には映画の撮影とちゃんと許可をもらっている。
本当にそれでいいのか警察。
いつからここが日本だと錯覚していた?なんて言い出さないだろうね。
30分もかからずに全員始末した。
空は喜一と勝次にFGのリーダーに合せる。
「喜べ、最後の止めを譲ってやる」
空が喜一達に言うけど喜一達は首を振った。
「これはSHとFGの戦いの終止符。空に譲るよ」
「んじゃ私でもいいよな!」
そう言って天音が横取りした。
FGの倒れてる人間は菫が片付ける。
「んじゃ、どっかで打ち上げしようぜ!」
「おうよ!今夜は徹夜で飲むぞ!!」
「水奈はいい加減にしろ!悠翔達をどうするつもりだ!?」
「学、それはおかしいぞ!受験勉強で徹夜は許しても遊ぶのはダメなんて理屈が通ってないぞ!」
天音が徹夜で勉強したことがあるのかどうかは翼達が知ってるけど、愛莉さんが「親に受験勉強してますアピールくらいしようと思わないのですか!?」と叱っていたそうだからお察しくださいだろう。
水奈も同様だ。
あの学力でどうやって高校に入れたのか不思議なくらいだ。
名前だけ書いとけば受かるレベルらしいけど。
最近愛莉さんは恵美さんや母さん、神奈さんと紅茶を飲みながら悩んでいるらしい。
もちろん孫娘の暴走で。
こうして延々と続いてきたFGとの抗争の話は幕を閉じた。
残ったFGの残党も関係ない。
「FGなんてこの世界に必要ない」
雪の意思でFGという物はこの世界から消失した。
まだ物騒なグループがいるけど、彼らが動き出すのはまだ当分先になるらしい。
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